パワハラ対応のポイントとは?【企業側弁護士が徹底解説】
- 「パワハラを予防するためにどうすればいいですか?」
- 「パワハラの被害者から相談されたときの対応を教えてください」
- 「パワハラ加害者を処分するときの注意点とは?」
デイライト法律事務所の労働事件チームには、このようなパワハラに関する企業や社労士からのご相談が多く寄せられています。
パワハラ問題は、通常の労働問題と異なり、被害者と加害者がいるため、慎重かつ適切な対応が重要となります。
パワハラへの対応のポイントや留意点について、企業側弁護士が詳しく解説しますので、参考にされてください。
目次
パワハラとは
パワハラとは、パワーハラスメントの略称です。
このパワーハラスメントは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」などと定義されています。
具体的には、労働者に対する嫌がらせ、いじめ、暴力、暴言、叱責、差別などの様々な類型があります。
会社は、社員に対して良好な職場環境を維持する義務(安全配慮義務、職場環境配慮義務)を負っています。
もしパワハラが発覚したときに適切な対策を講じなかった場合には、この良好な職場環境を維持する義務を果たさなかったとして、会社が損害賠償責任等を問われることもありますので、注意が必要です。
パワハラが発生した場合の会社の責任
民事上の責任
安全配慮義務違反
パワハラが発生すると、企業は労働者に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
企業は従業員と雇用契約を締結しています。
雇用契約上の付随義務として、企業は従業員に対して、安全配慮義務があると考えられています。
パワハラが発生すると、その安全配慮義務の違反の有無が問題となります。
そして、この義務に違反したと評価できる場合、企業はパワハラ被害者に対して、債務不履行責任として、損害を賠償する義務があります。
使用者責任
民法は、会社などの使用者に関して、被用者(労働者)が第三者に損害を与えた場合の賠償義務を規定しています(民法715条1項)。
これを使用者責任といいます。
第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
使用者責任は、事業性を要件としています。
パワハラは、セクハラの場合と異なり、加害行為が職場で行われることが多い傾向です。
したがって、事業性はほとんどの場合争点となりません。
もっとも、パワハラであっても、宴会の席や自宅など、職場外で行われる場合もあります。
このような場合、事業性の要件を満たさず使用者責任は発生しないようにも思えます。
しかし、裁判では、上司が部下にパワハラを行った場合、職場外であっても、事業性が肯定されるケースが多くあります。
したがって、リスクマネジメントの観点からは、職場外の行為であっても、事業性は認められる可能性があると考えた方がよいと思われます。
債務不履行も、使用者責任も、法律構成は異なりますが、金銭賠償をしなければならない点は同じです。
法律構成が異なるため、一方が否定されて、一方が肯定される可能性もあります。
そのため、実務上は、債務不履行責任と使用者責任の2つで責任追及されることが多い傾向です。
パワハラの刑事責任
パワハラは、上述したとおり、上司など職場における優位的な関係を背景とした言動であり、いじめ、暴力、叱責、差別など様々な類型があります。
したがって、パワハラ=犯罪というわけでありません。
しかし、パワハラの態様が悪質な場合、直接の加害者には犯罪が成立して刑事罰を受ける可能性があります。
パワハラ行為で犯罪が成立する事案として、典型的なものをご紹介します。
暴行罪
暴行とは、他人の身体に向けられた違法な有形力の行使をいいます。
パワハラ事案においては、上司が部下を叩く行為、物を投げつける行為などが挙げられます。
暴行罪の刑罰(法定刑)は、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料となっています。(刑法208条)。
傷害罪
暴行の結果、人が傷害を負った場合は傷害罪が成立します。
傷害とは、他人の身体の生理的機能を毀損することをいいます。したがって、例えば上司が部下を殴って怪我をさせた場合、傷害罪が成立します。
傷害罪の刑罰(法定刑)は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています(刑法204条)。
名誉毀損罪
名誉毀損罪が成立するのは、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」ときです。
なお、摘示した事実が真実か否かにかかわらず犯罪が成立することになっています。
しかし、例外として、「公共の利害に関する事実(公共性)に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ること(公益性)」であることに加え、その内容が「真実」であることが証明出来れば、名誉毀損罪で罰しないこととされています(刑法230条の2第1項)。
法定刑は、3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金とされています(刑法230条1項)。
行政処分
職場におけるパワハラ防止を会社に義務付ける法律が2019年5月に成立しました。
このパワハラ関連法は、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法、育児・介護休業法など合計5つの法律を改正するもので、企業に対して、相談窓口の設置や発生後の再発防止策を求め、社員がパワハラをした場合の処分内容を就業規則に盛り込むほか、相談者のプライバシー保護の徹底も求める内容です。
このように、事業主にはパワハラの防止措置を講じる義務があります。
この義務に違反した場合、企業名の公表の可能性があります。
パワハラ対応の流れ
一口に「パワハラ」と言っても、その境界線を明確に定められるわけではありません。
上司として指導に熱が入りすぎたものかもしれませんし、部下が人一倍大げさに反応したのかもしれません。
こういった可能性も考えられますので、パワハラの相談や申告があれば、まずは実態調査を行って事実関係の把握に努める必要があります。
該当する上司や部下へのヒアリングの他に、現場を目撃した従業員へのヒアリング、上司と部下のメールのやりとり等についてチェックを行うべきです。
ヒアリングや調査を実施する場合は、「いつ」「だれが」「どこで」「何をしたのか」について記録するようにしましょう。
また、上司と部下との言い分が食違っている場合、メール等の客観的な資料の存在がとても重要となってきます。
パワハラが認められた場合には、パワハラを行った従業員に対しては懲戒処分を検討すべきです。
ただ、注意しなければならないのは、直ちに懲戒解雇を行うということはできないということです。
なぜなら、後に、懲戒解雇された従業員から「解雇権の濫用」等を理由に不当解雇だとして、訴訟等を提起された場合、裁判所からはパワハラを防ぐ措置を怠っていたと判断され、懲戒解雇が無効とされる可能性が高いためです。
パワハラの内容にもよりますが、まずは、譴責、出勤停止等の軽い処分等を過去の処分事例を考慮しつつ、就業規則に基づいて行うべきです。
パワハラを行った従業員を別の部署に異動することも一つの手段です。
また、その従業員が管理職であれば、マネジメントの役割を果たしていないという理由で降格することを検討してもいいでしょう。
事前に定められている就業規則にもよりますが、これらの処分は懲戒処分に該当しないため、懲戒処分と同時並行で行うことも可能です。
パワハラにあたる言葉
パワハラは、言葉だけではなく、「無視する」などの態度も該当する場合があります。
以下、パワハラにあたる可能性がある言動の一例について、ご紹介します。
- 「バカ」「グズ」「のろま」など屈辱的な言葉で叱責する。
- 「お前なんかいつでもクビにできる」と脅かす。
- 注意しながら書類等で頭を小突く。
- 部下のミスに対し、他の社員の前で、強い口調で叱責する。
- 挨拶をしても無視し、会話をしない。
- 飲み会に誘わない。
- 過重なノルマや一人では無理な仕事量を与える。
- 交際相手の有無を聞かれ、結婚を推奨する。
- 物を投げつけたり、ごみ箱を蹴りつけたりする。
その他、当事務所では、パワハラの可能性についてチェックが可能なリストをホームページ上に掲載しています。
パワハラのチェックリストについては、こちらをご覧ください。
パワハラの加害者の処分
指導を通り越してパワハラに該当する場合、当該行為を行った加害者に対する懲戒処分を検討しなければなりません。
しかし、懲戒処分は、労働者に対する不利益処分です。
そのため、懲戒処分の後、労働者の方から不当な処分であるなどと反論される可能性があります。
また、訴訟を提起されるリスクもあります。
そのため、加害者に対する懲戒処分については、慎重に進めていく必要があります。
ここでは、懲戒処分のポイントについて、解説します。
パワハラ行為を特定する
懲戒処分は、就業規則や労働契約が法的な根拠となります。
例えば、就業規則に「パワーハラスメント行為を行った場合に懲戒処分とする」などと規定されている場合、そのパワハラ行為に該当する事実を特定しなければなりません。
具体的な行為を特定せずに懲戒処分を行ってしまうと処分の有効性が問題となった場合に無効となる可能性があります。
また、被処分者に対する教育的効果も乏しく、マネジメント上も問題と思われます。
したがって、パワハラの日時、場所、加害者、被害者、具体的な内容、その結果等について、可能な限り特定すべきです。
例えば、「2019年9月11日午前10時ころ、会社事務室内において、AがBに対して本を投げつけ、これがBの頭部に当たって、全治1週間の外傷を負った行為」などです。
パワハラの証拠を集める
パワハラについて、加害者が事実関係を否定している場合に懲戒処分を行うと、裁判で訴えられる可能性が高いと思われます。
また、加害者が事実関係を口頭で認めていても、処分の内容に納得がいかない場合、後から事実関係を否定する可能性もあります。
そのため、パワハラについては、加害者が容疑を認めていても、認めていなくても、証拠を抑えておくことがポイントとなります。
パワハラの証拠としては、パワハラ発言の録音データ、防犯カメラの映像、怪我の写真、診断書などがあげられます。
特に、パワハラの様子を録音したデータやカメラ画像は、パワハラの言動そのもの証拠となるので、信用性が高いと考えられます。
しかし、このような信用性が高い証拠がないという事案も多くあります。
このような場合でも、諦めずに、証拠となり得る資料を集めておくことが重要です。
例えば、パワハラ被害者、目撃者、加害者等からの事情聴取書などが考えられます。
これは、パワハラの関係者からパワハラ行為の内容等についての記録のメモです。
このような記録はパワハラの後に、人の記憶をもとに作成するものであり、虚偽が記載されている可能性もあるため証拠の信用性が問題となる場合もあります。
しかし、状況によっては、このような記録でも立証できる可能性があるため証拠として軽視できません。
当法律事務所は、ホームページにハラスメントの事情聴取書のサンプル等を掲載しています。
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妥当な処分を決定する
パワハラ行為を特定し、証拠を集めたら、懲戒処分の内容を決定します。
多くの企業には、懲戒処分には複数種類があります。例えば、譴責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇などです。
ポイントは当該行為に照らして重すぎず、また、軽すぎない、相当な処分を選択するということです。
例えば、パワハラが傷害罪を構成するような悪質な場合、譴責は基本的に軽すぎるでしょう。この場合、組織の秩序を守るという懲戒処分も目的を達することができませんし、また、再発防止につながるおそれがあります。
逆に、上司が部下を無視したといった行為のときに、懲戒解雇は基本的には行き過ぎでしょう。
この場合、不当解雇として訴訟提起されるなど、後々トラブルに発展する可能性もあります。
処分の妥当性については、労働問題に詳しい専門家などに相談すると、具体的な状況に応じて相場を提案してくれると思われます。
懲戒処分の種類が決まったらが、口頭ではなく、書面等で通知した方がよいでしょう。
口頭だと、後で言った言わないの争いになることがあります。
また、懲戒処分は不利益な行為ですので、厳正に書面にして交付した方が再発防止にもつながると思われます。
なお、当法律事務所は、ホームページに懲戒処分の書式のサンプル等を掲載しています。
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適正な手続を履践する
懲戒処分の法的な根拠は、就業規則にあります。
したがって、就業規則に懲戒処分を課す場合に懲罰委員会の設置を義務付けるような規定がある場合、その手続どおりに実施しなければなりません。
就業規則に手続について規定がなかったとしても、懲戒解雇などの重い処分を行う場合、加害者の言い分を聞き、弁明の機会を与えるなどの手続保障が必要と考えられます。
また、重い処分ではなかったとしても、マネジメントの観点からは、当事者の言い分をよく聞いて上げるべきだと思われます。
パワハラ対策は義務です!
上述したとおり、2019年の法改正によって企業はパワハラの相談窓口の設置、パワハラ発生後の再発防止策の策定、社員がパワハラをした場合の処分内容の就業規則への明記、相談者のプライバシー保護の徹底などが義務付けられています。
この改正法の施行は2020年6月1日(中小企業は2022年3月31日までは努力義務)です。
したがって、会社は、パワハラの防止措置を講じる義務があります。
当法律事務所は、ホームページにパワハラ防止の社内周知文書のサンプル等を掲載しています。
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パワハラを相談されたら
企業の方に是非お勧めしたいのは、御社内部ではなく、弁護士(法律事務所)をパワハラ等の相談窓口として定め、社員の方々に周知しておくという方法です。
この外部相談窓口について、くわしくはこちらをごらんください。
セクハラ・パワハラ関連の実務に役立つ書式集はこちらをご覧ください。
上記のとおり、パワハラの相談に応じ、適切に対応するのは企業の責務です。
しかし、中小企業の多くは、法務部などなく、パワハラなどの法的問題に対して、相談できる人材も体制の整っていないのが現状です。
そこで、企業の方に是非オススメしたいのは、弁護士(法律事務所)をパワハラ等の相談窓口として定め、社員の方々に周知しておくという方法です。
顧問契約を締結した法律事務所を外部の相談窓口とすることで、相談に応じるための体制を構築でき、かつ、専門家が対応するので、適切な解決が期待できます。
この外部相談窓口について、くわしくはこちらからどうぞ。
まとめ
以上、パワハラの対応について、詳しく解説しましたが、いかがだったでしょうか。
実際には、会社や部署ごとに環境が異なる状況でパワハラに該当するか否かを判断することは難しいでしょう。
また、パワハラだと判断できた場合でも、適切な処置を講じることができなければ、そのことに対する責任が問われてしまいます。
したがって、パワハラの相談や申告を受けた場合には、労働諸法に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
デイライトの労働事件チームは、企業側の労働事件に注力した弁護士や社労士で構成されるプロフェッショナル集団であり、全国の企業や社労士から多くの相談を受けております。
パワハラ等の労働問題について、お気軽にご相談ください。
ご相談の流れはこちらをご覧ください。
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パワハラの解決事例
デイライトの労働事件チームが解決したパワハラの事例の一部をご紹介します。
この事例についてはこちらから御覧ください。
その他の解決事例はこちらから御覧ください。