パワハラ相談窓口とは?弁護士がわかりやすく解説

執筆者
弁護士 木曽賢也

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士


パワハラ相談窓口とは、会社でパワハラが起きた場合に、被害者の方がパワハラがあったこと等を相談できる、会社が設置している相談先のことをいいます。

現在、パワハラ相談窓口の設置は中小企業でも義務化されていますので、経営者の方も「知らなかった」では済まされなくなっています。

そこで、本記事では、労働問題を多く扱う弁護士が、パワハラ相談窓口についてわかりやすく解説していきます。

パワハラ相談窓口について詳しく知りたい方、設置方法などにお悩みの方はぜひご覧ください。

この記事でわかること

  • パワハラ相談窓口について
  • パワハラ相談窓口の設置方法
  • パワハラ相談対応の注意点

パワハラの相談窓口とは?

パワハラ相談窓口とは、会社でパワハラが起きた場合に、被害者の方がパワハラがあったこと等を相談できる、会社が設置している相談先のことをいいます。

パワハラ相談窓口は、会社の内部にあることもあれば、会社の外部に委託している場合もあります。

また、会社によっては、セクハラやマタハラの相談窓口と一体となってパワハラの相談窓口が設置されている場合もあります。

 

 

相談窓口の設置は法律上の義務なの?

パワハラ相談窓口の設置は、法律上、義務化されています。

パワハラ相談窓口の設置は、パワハラ防止法(正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)及び厚生労働省の指針において義務化されています。

パワハラ防止法30条の2第1項〜第3項

(雇用管理上の措置等)
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。

※第4項〜第6項は省略

引用:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律|e−Gov法令検索

パワハラ防止法第32条の2第3項を受けての厚生労働省の指針:抜粋

⑵ 相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、次の措置を講じなければならない。

イ 相談への対応のための窓口(以下「相談窓口」という。)をあらかじめ定め、労働者に周知すること。

引用元:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】|厚生労働省

 

相談窓口を設置しない場合の罰則は?

パワハラ防止法には、相談窓口を設置していない場合の刑事罰(罰金等)は定められていません。

もっとも、パワハラ防止法に違反している場合は、厚生労働大臣が事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができます。

また、厚生労働大臣の勧告を無視した場合は、企業名が公表されるリスクもあります。

パワハラ防止法33条

(助言、指導及び勧告並びに公表)

第三十三条 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができる。

2 厚生労働大臣は、第三十条の二第一項及び第二項(第三十条の五第二項及び第三十条の六第二項において準用する場合を含む。第三十五条及び第三十六条第一項において同じ。)の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

引用元:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律|e−Gov法令検索

 

 

相談窓口が必要な理由

パワハラ相談窓口が必要な理由は、単に上記で解説した法律上の義務だからというものだけではありません。

相談窓口は、会社がパワハラを早期に把握し、適切に対処し、被害者の救済に役立つという意味で必要性が高いものになります。

 

 

相談窓口はどのように設置すべき?

相談窓口は社内と社外の両方に設置するのが望ましい

パワハラの相談窓口は、一つにしなければならないという決まりはありません。

したがって、相談窓口を社内だけでなく、社外にも設置して万全な体制を整えておくことが望ましいです。

なお、社内と社外の両方に設置する場合、連携をどのようにするかなどは事前にしっかり決めておくべきでしょう。

 

社内の相談窓口のメリットとデメリット

【社内の相談窓口のメリット・デメリット】

メリット デメリット
社内の相談窓口
  • 被害者がアクセスしやすい
  • 社内の実情に詳しい
  • 費用がかからない
  • 対応が適切にできない可能性
  • 当事者によっては相談しにくい
  • 公平性が保ちにくい
  • プライバシーへの配慮が適切に行われない可能性がある
  • 相談窓口担当者の負担

 

メリット

①被害者がアクセスしやすい

相談窓口が社内にあると、被害者の方がすぐに相談できるということがメリットとして挙げられます。

 

②社内の実情に詳しい

社内の相談窓口の担当者は、社内の実情に詳しいため、状況の理解が早期にできるということも挙げられます。

パワハラの事実関係を理解する上では、社内の人間関係や仕事の内容等も関わってくることが多いため、そのような事情の理解度も社内の窓口担当者の方が早いといえるでしょう。

 

③費用がかからない

相談窓口を社内の担当者にする場合は、費用がその分かからないことが通常です。

 

デメリット

①対応が適切にできない可能性

厚生労働省の指針では、会社の義務として、パワハラの相談があった場合は、適切に対応することが求められています。

引用元:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】|厚生労働省

もっとも、会社の担当者は、必ずしもパワハラに対する知識やどのように対応すれば良いかについて熟知しているわけではなく、事案に応じたきめ細やかな行動を期待することは困難です。

適切な対応がされなければ、被害者に二次被害を与えることにもなりかねません。

 

②当事者によっては相談しにくい

小規模な会社であれば、相談窓口の担当者とパワハラの加害者が近しい関係ということもあるでしょう。

そのような状況では、被害者は相談窓口の担当者にパワハラの相談がしにくいといえ、相談窓口の意味が薄れる可能性があります。

 

③公平性が保ちにくい

相談窓口は、公平性が担保されていなければなりません。

しかし、パワハラ相談窓口の担当者が、従前の関係性から、被害者もしくは加害者どちらかの肩を持つことも考えられます。

そうすると、その後の対応が不当にどちらかに不利になってしまう可能性があり、好ましくない結果になる可能性があります。

 

④プライバシーへの配慮が適切に行われない可能性がある

社内の人間であれば、「あの人にはこのことを言ってよいか」と安易に考えてしまうおそれがあり、結果的に噂が広まってしまう危険があります。

パワハラはセンシティブな内容であることも多く、噂が広まってしまえば、被害者や加害者のプライバシーを侵害してしまうことになります。

 

⑤相談窓口担当者の負担

相談窓口の担当者の多くは、通常の業務と兼務して相談窓口を担当することになります。

そうすると、実際にパワハラ相談があった場合は、その対応に追われて通常の業務に影響を与えることも考えられます。

調査に時間がかかる案件などは、その分担当者の負担が大きいといえます。

 

 

相談窓口の外部委託のメリットとデメリット

【外部委託の相談窓口のメリットとデメリット】

メリット デメリット
外部委託の相談窓口
  • 公平性を保つことができる
  • 専門家であれば被害者にとって安心感がある
  • 適切な対応が期待できる
  • 費用がかかる
  • 現場の状況の詳細がわからない場合がある

 

メリット

①公平性を保つことができる

外部相談窓口は、会社内部の人間と利害関係があることは少なく、事情聴取などで公平性を保つことができます。

 

②専門家であれば被害者にとって安心感がある

社外相談窓口の担当者が弁護士などの専門家であれば、被害者はセンシティブな内容でも話しやすいということもメリットとして挙げられます。

 

③適切な対応が期待できる

社外相談窓口の担当者が弁護士などの専門家であれば、知識が豊富なゆえに事案に応じた適切な対応が期待できます。

 

デメリット

①費用がかかる

外部に相談窓口を委託する場合には、会社として一定程度の費用を支出することになるかと思います。

 

②現場の状況の詳細がわからない場合がある

外部相談窓口の担当者は、常に会社の内部のことを把握していないことも多く、被害者が訴えている現場の状況の詳細をすぐには掴めない可能性があります。

 

外部委託先はパワハラにくわしい弁護士が望ましい

外部委託先として考えられるのは、弁護士、社労士(社会保険労務士)、営利企業などです。

以下、それぞれの特徴です。

特徴
弁護士 法律のプロであり、知識や事実認定力に長けており、適切な対応が期待できる
社労士 資格者であるため安心感はあるが、裁判例の理解や事実認定力は弁護士よりも劣る印象
営利企業 知識や能力などはその企業次第なので、委託するには一定のリスクがある

このように、外部委託先として最も望ましいのは、弁護士であるといえます。

なお、昨今は弁護士も専門特化の傾向にあるため、パワハラにくわしい弁護士を外部窓口に選定するのがベストです。

 

外部委託時の費用の相場

パワハラ相談窓口を外部に委託した場合の費用は、委託先によって大きく異なるため、委託先から見積もりを出してもらうようにしましょう。

参考までに、当事務所の場合、顧問契約を締結した企業については、無料で当事務所をパワハラ相談窓口として設置することが可能です。

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相談窓口の周知

相談窓口を設置した場合、相談窓口の存在を従業員の方に周知する必要があります。

相談窓口は、従業員の方がいつでも確認できるように掲載しておくのが良いです。

【周知の方法】

  • ポスターを掲示する
  • 社内サイトに掲載する
  • 社内報に掲載する

以下は、ハラスメント防止周知文書の中に相談窓口を掲載する例です。

ハラスメント防止周知文書

記載する事項としては、相談窓口の担当者の所属、氏名、電話番号やメールアドレスなどです。

相談対応時間なども記載して良いでしょう。

相談窓口を社外に設置する場合も、その社外の相談窓口の担当者の氏名、電話番号、メールアドレスなどを記載します。

 

 

パワハラ相談対応の注意点

以下は、パワハラ相談窓口の担当者や会社の人事向けに、パワハラの申告があった場合の対応の注意点について解説します。

パワハラ相談対応の注意点

事実関係を確認する

まずは、被害者から事実関係を丁寧に聞き取りをします。

聴取の際は、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、どのように)を意識して聞き取りをし、聞き取った内容を記録に残しましょう。

なお、事情聴取の際は、以下のサイトの「ハラスメント事情聴取書」が参考になるかと思います。

被害者の事情聴取では、長時間にならないようにするなど、被害者の体調には十分配慮しましょう。

 

加害者の言い分も確認する

被害者の話だけを鵜呑み(うのみ)にするのではなく、加害者の言い分も確認します。

加害者からの聴取の際は、悪者扱いして話を聞くのではなく、あくまで中立の立場で接するように心掛けましょう。

 

客観的な証拠も吟味する

双方の当事者の聴取だけでなく、客観的な証拠も収集し、内容を細かく検討しましょう。

客観的な証拠の例としては、録音、動画、文書、メール、社内のチャット、SNS、被害者の診断書などです。

事情聴取が済んでいる場合は、それぞれの主張と客観的証拠の内容が整合するか確認していきます。

関係者にも事情聴取することも検討

客観的な証拠が少ない事案では、関係者にも事情聴取することも検討しましょう。

関係者とは、目撃者や被害者や加害者の上司などが考えられます。

ただし、プライバイシーへの配慮のため、事前に被害者や加害者から、関係者への事情聴取の同意を得るようにしてください。

 

加害者に非があれば厳正な処分を行う

全ての調査が終了し、加害者が行ったパワハラの事実が認定でき、加害者に非があるといえる場合は、厳正な処分を行うべきです。

処分として考えられるのは、注意指導、配置転換、懲戒処分などです。

どのような処分を行うかは、加害者の行為の悪質性や被害者の被害の度合いなど、様々な要素を考慮して決定します。

注意すべきなのは、パワハラ=懲戒解雇など、安易に重い処分にすることは避けましょう。

事案に見合った処分ではない場合、後ほど裁判所で無効な処分と判断されるリスクがあります。

 

聴取内容は口外しない

パワハラ相談窓口の担当者は、被害者や加害者などから聴取した内容を、社内や社外の人間に口外しないように注意してください。

特に、パワハラは話題性があり、すぐに噂が広まってしまいます。

被害者の方は、パワハラ相談窓口に担当者を信頼して相談したはずであり、噂が広まっていることに気づいた場合は、さらに被害者の心身を傷つけることになりかねません。

そのため、パワハラ相談窓口の担当者は、自覚と責任を持って口外しないようにしてください。

 

パワハラに詳しい弁護士に相談する

パワハラは日常用語ではありますが、多くの法律問題が絡むので、対応に苦労されると思います。

間違った対応をする前に、早めにパワハラに詳しい弁護士に相談し、アドバイスを受けるようにしましょう。

なお、弁護士への相談のタイミングは、例えば、

  • 被害者からパワハラ相談窓口に相談があったとき
  • 事実関係の確認が終わったとき
  • パワハラの全ての調査が終わったとき
  • 加害者への処分をどうするか迷っているとき

などが考えられます。

 

 

まとめ

  • パワハラ相談窓口とは、会社でパワハラが起きた場合に、被害者の方がパワハラがあったこと等を相談できる、会社が設置している相談先のことをいう。
  • パワハラ相談窓口の設置は、パワハラ防止法上及び厚生労働省の指針で義務化されている。
  • パワハラ相談窓口は、社内と社外の両方に設置するのが望ましい。
  • パワハラ相談窓口の外部委託先としては、パワハラにくわしい弁護士が最も望ましい。

パワハラ相談窓口を適切に設置しなければ、会社と従業員双方にとって意味のないものになってしまいます。

繰り返しにはなりますが、パワハラ相談窓口でお悩みの方は専門家である弁護士に相談するのが望ましいです。

当事務所は、パワハラ問題を含む労働問題に特化した労働事件チームがあります。

ご相談については、各種オンライン(GoogleMeet、Zoom、FaceTime、LINE、Skype)で行うことも可能で、全国的に対応しております。

ぜひ一度、当事務所にお問い合わせください。

 

 




  

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