問題社員・モンスター社員にどう対応すればいい?【弁護士解説】
問題社員に対しては、注意や指導を行い、まずは改善を促すのが一般的です。
悪質な場合は懲戒処分や解雇も検討すべきですが、重い懲戒処分や解雇は無効となる可能性があるので、慎重に判断すべきです。
問題社員への対応のポイントや留意点について、企業側弁護士が詳しく解説しますので、参考にされてください。
目次
問題社員・モンスター社員とは
人材は競争力の源泉です。
したがって、多くの企業にとって社員は大切な財産です。
しかしながら、問題行動を引き起こす社員が存在するのも事実です。
また、いくら指導しても、同じような問題行動を繰り返したり、業務命令に従わない、いわゆる「モンスター社員」もいます。
このようなモンスター社員を放置しておくことは、他の社員に悪影響を及ぼします。悪貨は良貨を駆逐するといいます。問題社員対策を怠ると、組織が崩壊すると行っても過言ではありません。
問題社員と一口に言っても、様々なパターンがあります。
仕事を怠ける
このタイプの問題社員は、比較的に製造業、建設業等のブルーワーカーに多い傾向があります。
また、遅刻等が目立つ社員もこの類型に当てはまります。
このような社員が増えると、真面目に勤務している社員のモチベーションが下がるおそれがあります。
セクハラ・パワハラを繰り返す
このような問題社員は、ブルーワーカーだけではなく、むしろ、ホワイトカラーが多い大手企業に多く見られます。
この類型は、被害者が存在します。
また、その被害は深刻です。
そのため放置せずに早急に手を打つ必要があります。
セクハラ・パワハラ対策についてはこちらもごらんください。
素行が悪い、私生活に問題(ギャンブル、不倫など)
この類型は、勤務状況ではなく、プライベートに問題があるだけなので、会社に関係がないようにも思えます。
しかし、関係者(債権者や不倫の被害者など)が会社に連絡したりすることがあるため、悪影響を及ぼす可能性があります。
また、社員同士の不倫の場合は懲戒事由に該当する可能性もあるため、会社としての対応が必要となります。
協調性がない
このタイプは、比較的個人の能力が高く、仕事ができる社員にも見られます。
しかし、会社の業務はチームとしての成果が求められることが多いため、いくら個人的な能力が高くても、協調性がなければ結果として会社の生産性は下がってしまいます。
能力不足
ミスを連発する、仕事が遅すぎる、効率が悪い、仕事を取れないなどの社員をいいます。
このタイプは、本人には悪気はないため、仕方がない側面もあります。
しかし、放っておくと、優秀な社員のモチベーションが下がることが懸念されます。
問題社員・モンスター社員への対応方法
会社は、社員を採用した以上、多少問題があったとしても、活かせるように努力すべきです。
解雇は他に打つべき手がないとき、最終的な手段として検討すべきです。
まずは以下ようなの手法で、問題点を改善できないか、検討しましょう。
①業務指導の徹底
②問題行動に対しては注意処分
③程度によっては懲戒処分を課す
これらの手法のポイントについて、解説します。
①業務指導の徹底
問題社員への業務指導のポイント
業務指導とは、問題社員などの業務上の問題点に対して、指導することをいいます。
問題点を明確に、かつ、適切な伝え方でフィードバックしてあげることが大切です。
このようにして、問題点が改善されれば、会社にとっても、本人にとっても1番です。
業務指導は、通常口頭でなされています。
しかし、問題の程度が比較的大きい場合、後々のトラブル防止のため、書面で指導すべきです。
書面にする際は、次の点に気をつけましょう。
本人や関係者から事情を聴取して事実を確認しておく
必要最小限の事実を記載する
こうすることで、問題点の相違を無くすことが期待できます。
裁判になった場合に提出することを意識する
業務指導で問題が改善できればいいのですが、功を奏さない場合、解雇を検討せざるを得ないことがあります。
解雇すると、不当解雇として訴えられるリスクがあります。
裁判では、解雇事由について、使用者側が立証しなければなりません。
すなわち、裁判で問題社員の問題行動を主張しても、労働者側が否認することが多くあります。
この場合、問題行動を立証しなければ解雇無効と判断されます。そのため、解雇せざるを得なかった事実を証拠として残しておくと安心できます。
業務指導書は、使用者が問題社員に対して指導してきたことを証明する重要な証拠資料となります。
そのため、裁判所に提出する可能性があることを踏まえて作成しましょう。
具体的には、業務指導書の記載内容自体から「問題・能力不足の内容や程度が特定できること」がポイントです。
また、書面の下部に、本人の署名をもらっておくと、「言った言わない」の不毛な争いがなくなるため、効果的です。
さらに、署名があると、指導内容自体が真実であったことを推認させる効果もあります。
業務指導書の書式のサンプルについては、こちらをごらんください。
その他、以下の点もポイントですので、参考にされてください。
相手の職務、地位、指導時の反応によって記載内容を変える
能力不足を指摘する場合、次の点を明確に記載する
使用者が求める労働能力の内容・程度
当該社員が上記に未到達であること(実際の能力)
指導の際に証拠を残す
指導記録表とは、業務指導等を行った場合に残す記録をいいます。
問題社員を解雇して、後々裁判等に発展した場合、会社側に有利な証拠となる可能性があります。
この指導記録表の作成のポイントは以下のとおりです。
行為態様・業務に与えた影響詳細に記載する ➡ 裁判の際、当時の具体的な状況がわかる
実際に業務指導や注意を行った上司等が記録する
作成者がさらにその上位者(人事部長や社長)に確認してもらう ➡ 社内手続きが適正であることを証明できる。
時系列にファイリングしておく
指導記録表の書式のサンプルについては、こちらをごらんください。
②問題行動に対しては注意処分
問題社員への注意ポイント
注意所は、指導しても改善が見られないとき、若しくは一定程度以上の問題行動を行った場合に作成し、交付します。
この注意処分のポイントは以下のとおりです。
今後も改善がないときは解雇も含めた人事上の対応をすることを明記する
業務指導書以上に裁判所に提出することを意識して作成する
注意書の書式のサンプルについては、こちらをごらんください。
③程度によっては懲戒処分を課す
問題社員への懲戒処分の注意点
セクハラ・パワハラや無断欠勤等の悪質な非違行為の場合、業務指導や注意ではなく、懲戒処分を課すことも検討しなければなりません。
ただし、この場合でも、懲戒解雇は非違行為が重大で、他に方法がない場合に限られます。
懲戒解雇は刑罰で言うところの死刑に該当するような極刑であり、よほどの事情がなければ困難です。
懲戒処分には、懲戒解雇の他に、譴責、戒告、停職、減給等の処分があります。非違行為の内容や状況に照らして、妥当な処分としなければなりません。
例えば、何度も懲戒処分を受けている社員がいて、まったく改善がみられない場合、解雇を検討することも可能となるでしょう。
なお、この懲戒処分については、前提として、就業規則上の根拠が必要となります。
そのため就業規則には、非違行為の具体的な場合と対応する懲戒処分の内容を明確にしておくことが必要です。
就業規則の見直しについてはこちらをごらんださい。
また、懲戒処分は、労働者に対する不利益処分ですので、手続が適正であることが必要です。
例えば、問題社員や目撃者、被害者等から言い分をヒアリングして、記録しておくことをお勧めしています。
事情聴取書のサンプルについてはこちらをごらんださい。
問題社員との面談時の注意点
相手は録音している可能性がある
現在、スマホは多くの従業員が保有しています。
スマホには、ボイスメモなどの録音機能がついているものが多く、面談のときに、経営者や人事労務担当者の発言を録音される可能性があります。
実際に、裁判では、「経営者などから暴言を受けた」などと主張して、証拠の録音データが提出されることが多々あります。
このような状況のため、相手方がいくら問題社員であっても、決して怒鳴ったりせず、冷静に面談すべきです。
客観的な事実を示す
問題社員に対して、指導や注意をする際、性格など主観的なことを非難することがあります。
例えば、「協調性がない」「性格が暗い」「威圧的な態度をとる」などの評価的な言葉です。
しかし、これでは相手に反省を促すどころか、反発や逆上させてしまい、トラブルになる可能性があります。
このような主観的な評価ではなく、客観的な事実を示すことがポイントです。
例えば、「・・・・・という指示を実行しなかった。」「会議において、提案が一度もない。」などの事実です。
このような事実は、評価ではないため、問題社員であっても、受け入れざるを得ないでしょう。
記録に残す
上記の客観的な事実は、評価が入り込むことはありませんが、問題社員の中には、そもそもそのような事実がなかったなどと開き直るケースもあります。
仮に、このような対応を取られると、言った言わないの争いとなります。
そのようなトラブルを避けるために、問題社員の言動や対応のうち、特に重要なものについては、できるだけ記録に残すなどして証拠化しておくことがポイントとなります。
最新の裁判例に学ぶ問題社員の対応のポイント
ここでは、問題社員対応について、最新の裁判例を踏まえて、ポイントをご説明します。
能力不足型:日本アイ・ビー・エム事件(東京地判H28.3.28)
当事者
Y社:Xを新卒雇用した会社
X:S62入社 営業部門所属
事実経過の概要
- S62 Y社はXを新卒雇用(期間の定めなし)・Xは営業職
- H1 Xはバンド6という職位(10段階の上から5番目)
- H5 Xはシステムインテグレーション営業推進に異動
- H18 Xは営業後方支援事務に異動し、ビットマネージャーという役職に就任
- H24 Yは業績不良を理由にXを解雇
Xの業績
H18以降
- 他部門から、業務に対する多数のクレームを受ける(作業ミス、業務の緊急度を重視していないなど)
- 他部門から5段階中最低評価を受ける
- PIP(業務改善プログラム)の対象となる
- 1ヶ月に26時間(1日当たり73分)の離席があった
- 業務量が他のメンバーの2分の1以下であった
- 新入社員レベルのネットワークに関する研修を受けたが、そのせいかを確認する試験で2回不合格となる(同じ部署でXのみ)
- 通常業務に間違いが多かったため、単純業務従事する
他方で
- 月間MVP賞や他部門からの感謝状を受けた
- PIP目標を達成した
結論と判決理由の概要
解雇無効
- H18以前は、バンド6に見合った業務ができていた
- H18以降も、複数の表彰、PIP目標達成などの業績改善に努力し、Y社も評価
- データベースの起票作業などの単純業務には問題なし
- 相対評価であるPBC評価が低評価であるとしても解雇の理由に足る業績不良とは言えな
- 大卒後25年にわたって勤務を継続し、配置転換もされ、職種や勤務地の限定がなかった
裁判例から学ぶ問題社員対応のポイント
- 長期雇用か否か :長期雇用の場合、過去の職務も考慮される傾向
- 絶対評価か相対評価か:相対評価の場合、評価内容がそのまま解雇理由とはならない
担当可能な他の業務
- 職種の限定の有無 :限定がなければ他の職務があるかを考慮する
- 勤務地の限定の有無:限定がなければ転勤の可能性を考慮する
手続きについて
- 職種転換、降格、解雇の可能性をより具体的に伝えた上での業績改善の機会付与などの手段を講じたか否かを考慮する
協調性欠如型:ネギシ事件(東京高判H28.11.24)
当事者
Y社:製造業、従業員25名(パート含む。)
X:H23入社 営業部門所属
Xの言動等
- 検品部門の部長等に対し、「期日までに完納できなかったらどうするのか。どう責任を取るのか」「仕事のやり方が遅い」などと命令口調で怒鳴った
- けんか腰の声を聞くと動悸がするという持病のあったパート従業員に対し、作業手順を理解していないとして突然怒鳴った
以降、同従業員にストレス性の胃痛が生じるようになる - 自分の質問に答えられなかったパート従業員を無視した
どう従業員はストレスを感じて退社 - 休暇を取得する際に事前に休暇届を提出しなかった
- 自分宛ての電話以外は職場の電話に出ない
- 出勤時、ほとんどの従業員に挨拶をしなかった
Y社の対応
- H25以降、再三にわたってXを注意した
また、話し合いの機会をもち、言動が改まらない場合は辞めてもらうと話した
しかし、Xは言動を改めなかった - H26.3 Xに検品部門のある3階に立ち入らないよう指示した
しかし、しばらくするとXは3階に立ち入り、従業員を怒鳴った - H26.9 Xを普通解雇
結論と判決理由の概要
解雇有効(1審は無効)
- 職場環境を著しく悪化させ、Y社の業務にも支障を与えたから就業規則所定の解雇事由に該当する
- Xを雇用し続ければY社の業務に重大な打撃を与えるというY社の判断も首肯できる
- Y社は小規模であるから、Xを配転することは事実上困難であって解雇に代わる有効な代替手段がない
- Y社が再三にわたって注意、警告してきたにもかかわらず、Xをは反省して態度を改めることがなかった
第1審は、Xの言動についての代表者や従業員の供述の信用性を否定したが、控訴審は肯定した。
裁判例から学ぶ問題社員対応のポイント
- 人間関係不和にとどまらず、他の従業員を退職に追い込むなど、会社業務支障を及ぼす程度に至っている
- 本件は小規模会社であったため配転は事実上困難
- 懲戒処分はなかったが、再三にわたって注意、警告してきた ➡ 懲戒処分はないが、会社は改めるチャンスを与えていた
- 1審で敗訴した理由:供述の信用性が否定 ➡ 裁判では客観証拠以外は証拠とならないことを念頭に置くべき
金銭の不正請求事案:NTT東日本事件(東京地判H23.3.25)
当事者
Y社:NTT東日本
X:営業担当社員
事実経過の概要
- X S57.4 Y社に入社
- X 東京中央エリアの法人に対しる営業を行っていた。地下鉄等を利用した顧客を訪問
- X Y社に対し、H16.4〜H19.9までの42ヶ月間に、約171万円の旅費を申請して受領した
旅費は日報に基づいて申請されるべきものであったが、Xの申請と日報の記載には食い違いがあった - H19.10 Y社はXの旅費申請を過大請求と判断し、Xに対し、日報に基づくものに修正して再申請するように命令
- H19.12 XはY社に対し、正規の旅費は約80万円であり、差額の91万円を返納すると修正して再申請した
- H20.3 X始末書を提出「お客様との飲食代、工事立会いの際作業員への差し入れ、タクシー代」等の営業上の費用を、後日旅費として申請する方法で、約15万円の不正請求をしたこと、そのほかに実際には支出していない旅費約75万円の過大請求をしたことを認めた
始末書の記載内容「過誤請求により生じた交通費は(略)私事に流用してしまいました、これは、あるまじき行為であり業務遂行上の基本認識の欠如からきており、私の不徳のいたすところで弁解の余地もありません」 - H20.5 Y社はXを懲戒解雇
結論と判決理由の概要
懲戒解雇有効
- Xの主張:私的流用を行っていない
顧客訪問の際、営業に必要なファイルを携行しており、これが非常に分厚く、重いものであったことから、1日に複数の顧客を訪問する場合は、その都度、各顧客と会社とを往復する必要があり、これにより高額の旅費を要した
⇐裁判所:始末書の記載からXの主張を認めず - Xの主張:始末書で記載した正規の旅費約80万円については、日報のデータもそろっていない中、Xの旅費が高すぎるという決めつけに基づいて書かされた数字であり根拠がない
⇐裁判所:たしかに、推測に基づくものであるが、Y社は、通常の活動をしていれば旅費の月額は多くとも2万円には達しなかったはずであるという観点から上記再請求金額を認定しており、この判断過程は合理的である Xは弁明の機会がなかったと主張
⇐裁判所:Xは始末書や再請求の内訳の作成過程を通じて、私的流用の有無、営業上の費用の額やその内訳について弁明の機会を付与されていた
裁判例から学ぶ問題社員対応のポイント
- 職場における横領・背任行為等金銭不正問題は、刑法犯に該当し得る背信性の高い行為であり、企業は懲戒解雇を含む厳罰を視野に処分を検討すべき
- 不正行為の内容、悪質性の程度、金額の大小、私的流用の中身などを考慮
- 本件は90万円程度の旅費の不正使用で懲戒解雇を認めた
- 罪刑法定主義、弁明の機会の付与、不遡及の原則、一事不再理、平等扱いの原則、相当性の原則
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まとめ
以上、問題社員・モンスター社員への対応方法について、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?
上記はあくまで一般的なポイントであり、問題行動や会社が置かれた状況で、とるべき方法は異なります。
問題社員への対応については、労働問題に詳しい弁護士へご相談されることをお勧めしています。
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弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会
保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。

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