ハラスメントの主張を行う看護師の退職を実現した病院の事例

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家


※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

依頼者

  1. 業種:E病院(クリニック)
  2. 従業員数:10名程度
  3. 解決までの期間:1ヶ月
項目 従業員側の請求 弁護士介入による結果 減額利益
退職 退職しない 退職
慰謝料 300万円 60万円 240万円

 

事案の概要

病院Eクリニックは、医師1名、看護師等の職員10名の病院でした。

Eクリニックは、従業員(看護師)が退職することに伴い、看護師の求人を掲載しました。

Aは50代で、看護師の経験年数は長かったため、EクリニックはAの看護師としての知識や技術は問題ないと判断し、試用期間を3ヶ月として採用しました。

ところが、Aは入職してすぐに他の看護師と口論を繰り返す等の問題行動が見られるようになりました。

あまりにもトラブルが多かったので、院長はAと面談し、口論についてAを注意し、今後は口論を行わないよう指導しました。

しかし、その後もAは他の看護師(B)に暴言を吐いたりしました。

そして、Bは、Eを退職したいと言い出しました。

Bは、ベテランの看護師で、Eクリニックでの経験も長く、院長は頼りにしていました。

そこで、院長は、Bを遺留しましたが、Bの退職の意思は固く、Eクリニックを辞めていきました。

困った院長は、Aと面談して、退職を勧めました。

Aは、院長に考えると言って、自宅に帰りました。

その数日後、弁護士名で、Eクリニックに内容証明郵便が届きました。

内容証明郵便には、AさんがEクリニックから解雇されたこと、また、従業員や院長からパワハラを受けていたことなどが記載されていました。

そして、弁護士は、Eクリニックに対して、解雇を撤回することと、慰謝料として300万円を請求してきました。

院長は、今後の対応について、当事務所に相談に訪れました。

 

 

弁護士の関わり

医者当事務所の弁護士は、Eクリニックから対応について、依頼を受けました。

そして、すぐに相手方弁護士に回答書を送付しました。

回答書には、Eクリニックは、「Aに対して行ったのは、退職勧奨であって、解雇はしていないこと」「パワハラの事実は存在しないこと」を記載しました。

その上で、当事務所の弁護士は、相手方弁護士と面談し、Aの口論などのトラブルや、Aのせいで他の従業員が退職したことなどを伝えて、Aの合意退職と引き換えに、一定の金銭を給付する方向での円満解決を提示しました。

Aはすぐには示談には応じませんでした。

しかし、その後も粘り強く交渉を行い、Aに60万円の金銭を支払うことを条件に、退職に応じるという内容で、示談が成立しました。

 

 

補足

退職勧奨とは

本件でEクリニックはAさんに対して、退職を勧めています。

これは退職勧奨と呼ばれるもので、「解雇」とは異なります。

すなわち、解雇は、使用者から労働者に対して、一方的に雇用契約の解除を通知するものです。

これに対し、退職勧奨は、相手方に退職を促すだけであり、雇用契約を解除するものではありません。

そして、この退職勧奨は、基本的には適法と考えられています。

退職勧奨について、詳しくはこちらのページをご覧ください。

 

なぜ試用期間中の解雇をしなかったのか?

解説する弁護士本事例を読まれている方の中には、Aが使用期間中であったのなら、なぜ解雇しなかったのかと疑問を持たれる方もいらっしゃるかと思います。

試用期間について、解雇が自由に認められると考えている方は多くいます。

しかし、実際には、試用期間であっても、解雇はよほどの事情がないと認められません。

すなわち、試用期間といえども、解雇は、客観的に合理的な事情と社会通念上の相当性という要件を満たすことが必要となります。

試用期間中の解雇について、詳しくはこちらのページをご覧ください。

 

解雇の解決金の相場について

本事案では、解決金として、60万円での合意となりました。

この額を提案した理由は、以下のような諸事情があったからです。

 

パワハラは存在しなかった
Aは、パワハラを受けたと主張していましたが、これは虚偽であって、実際にはパワハラは存在しませんでした。
そのため、仮に、裁判になったとしても、Eクリニックや院長が慰謝料を支払うことはないと考えられました。

 

Aの退職を望んでいたこと
Aは他の従業員と口論を繰り返すなどのトラブルメーカーでした。
そのため、Eクリニックとしても、早く退職してほしいと願っていました。

 

Aの給与から解決金を算出
Aの給与は月額20万円程度でした。
パワハラは存在しなかったものの、EクリニックとしてもAに退職して欲しかったので、Aの給与の3ヶ月分程度が妥当と判断し、60万円を提示しました。

 

問題社員の入社を防止するコツ

本件では、Aさんは、看護師としての経験は長く、履歴書を見ると、これまでいくつも病院を転々としていたことがわかりました。

また、在籍期間も半年から1年程度と、とても短かいという状況でした。

問題社員の場合、このように職を転々としていることが多い傾向にあります。

したがって、採用面接等においては、離職理由について、よく確認することがポイントとなります。

ただし、採用面接のやり方がまずいと違法となる可能性があるので注意が必要です。

採用面接については、こちらのページをご覧ください。

 

 

まとめ

以上、病院の退職問題の事例について、解説しましたが、いかがだったでしょうか?

問題社員は、他の一生懸命働いてくれている社員にとっても害悪となり、使用者としては早急な対策が必要となります。

しかし、解雇事由がないのに無理に解雇してしまうなど、対応を誤ると裁判になりかねません。

裁判では、解決まで長年月を要し、従業員にも多大な労力がかかるため、専門家に意見を聞くなどして、慎重な対応が重要となります。

そのため、労働問題の解決については、労働問題に精通した弁護士へ相談されることをお勧めいたします。

デイライト法律事務所には、企業の労働問題を専門に扱う労働事件チームがあり、企業をサポートしています。

まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。

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執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会

保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件  

実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。



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