労働審判のポイントと対策【弁護士が徹底解説】
目次
労働審判とは
労働審判は、裁判官(労働審判官)1人と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2人で組織された労働審判委員会が、個別労働紛争を、原則として3回以内の期日で審理し、適宜調停を試み、調停による解決に至らない場合には、事案の実情に即した柔軟な解決を図るための労働審判を行うという紛争解決手続です。
特徴としては次があげられます。
労働審判の流れ
労働審判は、迅速な解決を目指すものであるため、原則として3回以内の期日で審理が終結されます(ただし、福岡では2回で終結するケースも多い)。
第1回目は、申立てから40日以内に指定されます(基則13条)。
第2、3回目については規定はないものの、福岡地裁の運用では、第1回目から1週間ないし2週間程度の日数を置いて第2回目を入れ、第2回目から1週間程度の日程を置いて第3回目を入れます。
1時間半から2時間程度第1回目で争点や証拠の整理が行われます。
福岡地裁では、ほとんどの事件で、第1回目で主張や証拠が出揃い、裁判所(労働審判委員会)の心証が得られ、調停案(和解案)が提示される。
1回目から1週間から2週間後
30分から1時間程度 ⇒ 調停成立
1回目で提示された調停案(和解案)について、双方が検討結果を報告する。
複雑な事案では、第1回目で提出できなかった証拠などを提出する。
2回目から約1週間後
30分程度 ⇒ 調停成立
調停案(和解案)についての検討結果を聞く。
事実審理することはほとんどない。
労働審判(通常訴訟でいう「判決」)
2週間以内に異議を申し立てないと労働審判が確定
労働審判が確定すると、裁判上の和解と同じ効力(強制執行が可能)が発生
このように、労働審判は、通常裁判が半年や1年かかることと比べると、日程が非常にタイトです。
そして、ほとんどの事件では、第1回目で主張や証拠が出揃い、裁判所(労働審判委員会)の心証が得られ、調停案(和解案)が提示されることになります。
したがって有利に進めるためには、第1回目が勝負といえます。
そして、会社側にとっては、迅速に対応することが極めて重要であることを意味します。
他の事件と異なり、労働事件は、会社側に立証責任があるものが多いといえます(例えば地位確認の場合の解雇理由の存在)。
したがって、単に期日に出頭するのではなく、事前に会社の主張をきちんと文書(答弁書)にまとめ、その証拠を十分揃えて裁判所に送付すべきです。
このような準備を1か月ほどの期間で行わなければならいのですから、会社側の負担は非常に大きいといえます。
もし、労働審判を申し立てられた場合、一刻も早く、労働審判手続に精通した弁護士に相談しましょう。
労働審判における解決事例はこちらをご覧ください。
柔軟な審判が可能
裁判での判決は白か黒かの判断しかありません。
例えば、解雇無効を訴えた従業員も「本当は復職ではなく、解決金をもらいたい」と思っていても、その意向に沿った判決は得られません。
あくまでも解雇が無効か有効かの判断が行われます。
こうしたケースでは、解決金として、金銭の支払を命じる審判が出される場合もあります。
このように当事者の実情に応じた審判によって、訴訟よりも柔軟な解決が図られます。
出頭義務がある
都道府県労働委員会が扱うあっせん制度は、行政サービスのため出頭義務はありません。
そのため相手方が出頭しないと何も進まないという問題がありました。
労働審判では出頭が強制され、拒否した場合は罰金が科されます。
非公開
訴訟と異なり、手続は非公開で行われます。
労働審判への対策
労働審判において、適切な結果を得るためには、労働法令に関する専門知識に加え、労働審判を熟知する必要があります。
ここでは、会社が労働審判で勝つために必要と思われるポイントについて、段階別に解説いたします。
なお、以下の記載は、会社が「相手方」(裁判で言う「被告」の立場)となる場合を想定しています。
会社が申立人(裁判で言う「原告」の立場)となることも理論的にはありますが、実務上、ほとんどが相手方となるからです。
弁護士への相談段階のポイント
労働審判期日呼出状により、第1回期日に出頭可能かどうか、日程を確認します。
呼出状には、裁判所からの「照会書」(照会内容は、代理人弁護士の有無、氏名、第1回期日出頭の可否等。)が同封されています。
これについては、内容を早期に確認して、指定された提出期限に遅れず提出すべきです(提出期限は答弁書よりも早い期日が指定されている。)。
迅速性の要請に鑑み、日程調整が可能であれば、できる限り出頭を確保するべきです。
しかし、どうしても調整がつかない場合は、裁判所に具体的理由を示した上で、期日変更の申立を行うこととなります。

また、弁護士不在の間に代表者らが不適切な発言を行う可能性もあることから、弁護士が事件を受けている状況で、第1回期日に欠席するという事態は避けるべきです。
当初から、第2回期日まで、あるいは第3回期日までも指定されている場合があります。
申立段階で第何回までの期日を指定するかについては、福岡地裁本庁でも係による相違があるようです。
弁護士へ事件を依頼した後のポイント
受任後、事実関係の調査を行って答弁書を提出する準備を行います。
提出期限は絶対に遵守すべきです。
答弁書では、申立書記載の事実に対する単なる認否にとどまらず、答弁を理由づける具体的な事実、予想される争点、当該争点に関連する重要な事実、予想される争点ごとの証拠、当事考間においてされた交渉、その他の申し立てに至る経緯の概要を記載します(規則16条1項)。

何が証拠となるかは、事案により異なりますが、多くの事件に共通するものとして、就業規則(賃金規定等含む)、雇用契約書、給与明細などがあげられます。
なお、解雇事件では、解雇通知書、解雇理由書、「退職時等通知書」等、残業代請求事件では、タイムカード、労働条件通知書、三六協定などがあげられます。
答弁書(主張書面)、証拠(書証)は5部提出する運用となっています(相手方1名の場合。正本1、副本1、写し3。)。

合理的な理由なく内容の重複した陳述書を大量に提出することは、控えるべきでしょう。
事実関係の内容をよく知っていて説明できる者を優先させましょう。
争点が複数の場合は、複数人数が出頭することもあり得ます。
また、決定権限(社長など)を持つ者が出頭することが望ましいといえます。
相手方の見解を求められた場合の準備、事実経過についての質問に対し、適確に回答できるように準備すべきです。
第1回期日のポイント
第1回期日には、予想される争点について直接の説明ができる人物を、少なくとも一人は同行すべきでしょう。
また、労働審判においては、第1回期日において調停のための協議が行われることが多いので、中小企業の場合には、代表者に出席してもらう方が望ましいです。

直接出頭ができない場合、決定権限を有する者に、携帯電話等で随時連絡が取れる体制を取っておくべきです
第1回期日において、申立人によるプレゼンテーションに続き、相手方としての見解を口頭で述べることが要請されることがあります(時間は5分程度)。
その場合、答弁書の内容をそのまま朗読しても、時間だけかかって効果的でないので、これを適宜要約し、申立人のプレゼンテーションの中で摘示された事実が不正確であれば、その旨指摘する必要があります。
また、審判委員会からの質問が始まると、当事者は受け身になるので、必ずしも自分で言いたいことを充分に言い尽くせない、という不満が残る虞があります。
それを解消して当事者の納得を得て解決するため、本人が特に言いたいことを強調しておくことが有用です。


したがって、事実関係に関する質問については、同行した担当者に直接答えてもらい、代理人は、担当者が質問を誤解していたり、緊張等によって不正確な回答をしたりしたような場合や、担当者には答えにくい質問や、和解金額に関する質問についてのみ介入するよう努めるべきです。


第1回期日に調停案が出されることは多いです。
具体的な案は、初めて出されるため、その場で即答せず、一旦席を外して、よく使用者代表者と協議して、回答するとよいでしょう。
第1回期日後のポイント
調停案に応じるかどうかについて、代表者などの決定権者と検討する必要があります。
この場合、早期解決のメリット、費用や時間の節約、敗訴リスク回避などの要素を踏まえて検討するとよいでしょう。
事案によりますが、筆者の経験上、第1回から第2回までの期間は2週間程度が多いようです。

しかし、労働審判は第1回目が勝負です。
特段の事情がなければ、第1回目までに提出しておくべきでしょう。
なお、第1回の後に提出する主張書面は、通常、補充書面というタイトルを付けます。
第2回期日・第3回期日のポイント
第2回期日以降は、事実関係の補充的確認がなされるほかは、基本的に調停のための協議が行われます。
したがって、会社として最大限譲れるのはどこまでかを、事前に詰めておくことが望ましいでしょう。
また、第1回期日と同様、急な提案にも対応できるよう、判断権限を有する者との連絡は確保しておくべきです。

第3回期日が開かれる場合、当事者から調停案に対する結論を聞き、調停不成立の場合に審判が言い渡されるのみで、10~30分程度で終了することが多いでしょう。

労働審判後のポイント
調停が成立しない場合、審判が言い渡されます。
これに対し、適法な異議申立がない場合、審判は裁判上の和解と同一の効力を持ちます(法21条4項)。

異議申し立ては、審判から2週間以内となります(法21条1項)。
異議申立後の本訴について支部への回付を希望する場合は、その旨の上申書を添付します。

審判は失効します(法21条1項3項)。
労働審判の申立時に、係属していた地裁に訴訟提起したものとみなされます(法22条1項2項)。
従来の主張・立証の検討。何を削り、何を加えるべきかを検討します。
異議申立後に、申立人から出された「訴訟に代わる準備書面」に対し、認否・反論を行なうこととなります。
労働審判のまとめ
以上、労働審判について、手続きの流れや、各段階における会社の対応のポイントを詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?
労働審判は、第1回が勝負であり、比較的短期間のうちに、会社としてできるすべての主張と証拠の提出を行うべきです。
このような準備は、労働審判に精通した弁護士でなければ、十分行うことが難しいと思われます。
そのため、労働審判については、労働問題に精通した弁護士へ相談されることをお勧めいたします。
デイライト法律事務所には、企業の労働問題を専門に扱う労働事件チームがあり、企業をサポートしています。
まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。
ご相談の流れはこちらをご覧ください。

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会
保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。
