労働審判の費用とは?弁護士・裁判所・解決金等の相場を徹底解説!

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家


労働審判の費用とは?

労働審判の費用とは、通常、裁判所に支払う印紙代や切手代、弁護士に支払う報酬等の合計額を言います。

労働審判の相手方(通常は会社側)の場合、これに加えて解決金等も含まれることとなります。

労働審判とは?

労働審判とは、会社と従業員等とのトラブルについて、簡易迅速に解決するための手続きのことをいいます。

労働審判の内容・流れについて、くわしくはこちらを御覧ください。

 

労働審判にかかる費用とは?

労働審判に要する費用は、弁護士費用と実費にわかれます。

また、労働審判の相手方(通常は会社側)となる場合、多くの事案で、会社は解決金等の金銭を労働者側に支払うこととなります。

したがって、会社の場合、この解決金等も労働審判の費用に含まれることとなります。

 

 

労働審判の弁護士にかかる費用の相場

弁護士費用に相場はあるのか?

現在、弁護士費用は自由化されており、「この金額でなければならない」という決まりはありません。

実際に、各法律事務所は、独自に料金体系を決めています。

しかし、自由化される前の弁護士会が定めた旧報酬規程(以下「報酬基準」といいます。)を踏襲している法律事務所は多いと思われます。

そこで、この報酬基準の金額が一応の目安になるかと思われます。

では、報酬基準において、労働審判の弁護士費用はいくらと規定されているのでしょうか。

報酬基準は、労働審判のような事件について、下表のような基準を適用していました。

報酬の種類 弁護士報酬の額
着手金 事件の経済的利益の額が

  • 300万円以下の場合 8%
  • 300万円を超え3000万円以下の場合 5% + 9万円
  • 3000万円を超え3億円以下の場合 3% + 69万円
  • 3億円を超える場合 2% + 369万円

※着手金の最低額は10万円

報酬金 事件の経済的利益の額が

  • 300万円以下の場合 16%
  • 300万円を超え3000万円以下の場合 10% + 18万円
  • 3000万円を超え3億円以下の場合 6% + 138万円
  • 3億円を超える場合 4% + 738万円

引用元:(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬基準

 

 

上表の用語の意味は下記のとおりです。

着手金
依頼を受けるときに最初に受け取る金額
報酬金
事件終了時に出来だけに応じて受け取る金額
経済的利益の額
相手から獲得したり、減額した場合の依頼者の利益

 

弁護士費用のシミュレーション

イメージしやすいように具体例を用いて計算してみましょう。

具体例 労働者側

会社に対し、700万円の未払い残業代を請求し、500万円を獲得した場合

①着手金


700万円を請求しているので、上表の「300万円を超え3000万円以下の場合 5% + 9万円」を適用して計算
700万円 × 5% + 9万円 = 44万円

着手金 → 44万円

②報酬金


500万円を獲得したので、上表の「300万円を超え3000万円以下の場合 10% + 18万円」を適用して計算
500万円 × 10% + 18万円 = 68万円

報酬金 → 68万円

以上から、上記のケースでは、着手金44万円、報酬金68万円となります。

 

具体例 会社側

労働者から600万円の未払い残業代を請求されて、400万円に減額した場合

①着手金


600万円を請求されたので、上表の「300万円を超え3000万円以下の場合 5% + 9万円」を適用して計算
600万円 × 5% + 9万円 = 39万円

着手金 → 39万円

②報酬金


600万円を400万円に減額→差額の200万円を経済的利益と見た場合、「300万円以下の場合16%」を適用して計算
200万円 × 16% = 32万円

報酬金 → 32万円


以上から、上記のケースでは、着手金39万円、報酬金32万円となります。

上記はあくまで一例です。

労働者が請求する内容は、未払い残業代だけでなく、他に不当解雇の撤回などもあります。

このような場合、着手金や報酬金をどうするのかは依頼者と弁護士との契約内容によります。

弁護士費用が気になる方は、相談時に弁護士に見積書を発行してもらうようにお願いされると良いでしょう。

明瞭会計の法律事務所であれば、依頼を検討されている相談者に対しては、見積書を出してくれると思われます。

 

 

労働審判において、裁判所に支払う費用の相場

労働審判の実費の大部分は裁判所に支払う費用となります。

裁判所に支払う費用には、通常、印紙代と切手代(裁判所はこれを「郵券代」と呼びます。)があります。

裁判所に支払う費用
  • 印紙代
  • 切手代

切手代は、通常、数百円から高くても2000円程度となります。

印紙代は、訴額(請求する金額)によって異なります。

この印紙代を算出するための早見表があります。

この早見表を抜粋したものが下表です。

手数料額早見表(単位:円)※一部抜粋
訴額等 労働審判手続の申立て手数料 訴額等 労働審判手続の申立て手数料
100万 5,000 800万 21,000
120万 5,500 850万 22,000
140万 6,000 900万 23,000
160万 6,500 950万 24,000
180万 7,000 1,000万 25,000
200万 7,500 1,100万 26,200
220万 8,000 1,200万 27,400
240万 8,500 1,300万 28,600
260万 9,000 1,400万 29,800
280万 9,500 1,500万 31,000
300万 10,000 1,600万 32,200
320万 10,500 1,700万 33,400
340万 11,000 1,800万 34,600
360万 11,500 1,900万 35,800
380万 12,000 2,000万 37,000
400万 12,500 2,100万 38,200
420万 13,000 2,200万 39,400
440万 13,500 2,300万 40,600
460万 14,000 2,400万 41,800
480万 14,500 2,500万 43,000
500万 15,000 2,600万 44,200
550万 16,000 2,700万 45,400
600万 17,000 2,800万 46,600
650万 18,000 2,900万 47,800
700万 19,000 3,000万 49,000
750万 20,000

参考:手数料額早見表|裁判所

例えば、相手に300万円を請求する場合、印紙代は1万円となります。

また、2000万円を請求する場合、印紙代は3万7000円となります。

なお、上記以外にも、例えば、弁護士の裁判所までの交通費、コピー代等の諸費用も実費となり、通常は依頼者が負担することになります。

 

不当解雇の印紙代とは?

不当解雇の撤回を求める場合、印紙代の計算においては訴額を160万円と見なされます。

したがって、上記の早見表に当てはめて、印紙代は6500円となります(民事訴訟費用等に関する法律4条2項)。

引用元:民事訴訟費用等に関する法律 | e-Gov法令検索

 

未払い残業代と不当解雇を求める場合の印紙代は?

では、会社に未払い残業代300万円と不当解雇の撤回を求める場合の労働審判の印紙代はいくらになるのでしょうか。

この場合、300万円(未払い残業代の訴額)に160万円(不当解雇の訴額相当額)を合計するという扱いではなく、金額の多い方の訴額をもとに算出します。

したがって、上記の例では300万円の訴額と考えて、印紙代は1万円となります。

 

将来賃金を求めるときは注意

不当解雇の場合、労働者側の弁護士は通常、解雇が無効である前提で将来賃金を求めます。

例えば、2022年3月に解雇された従業員(月額給与30万円)について、不当解雇の撤回を同月、労働審判で申し立てる場合、労働者側の弁護士は解雇されていなかったら得ることができるであろう2022年4月以降の賃金も合わせて請求します。

この場合、裁判所からは3ヶ月分の賃金相当額である90万円を訴額として印紙代を求めると思います(東京地裁の運用)。

この3ヶ月の根拠は労働審判の平均審理期間のようです。

ただし、裁判所によって運用が異なる可能性もあります。また、印紙代の計算は面倒と思われますので、算出にあたっては労働法専門の弁護士に任せることをお勧めいたします。

 

 

労働審判の解決金とは?

労働審判の解決金というのは、和解(調停)の際に、相手方(通常会社側)が申立人(通常労働者側)に対して支払う金銭のことをいいます。

労働審判では、通常、「未払い残業代として◯◯円を支払え。」などの文言を申立書に記載し、「解決金を支払え。」という文言は記載しません。

解決金は、申立人の権利として要求するものではなく、和解の際に双方が譲歩して、一定額を支払う代わりに円満解決をするための金銭です。

したがって、申立書には記載しないのです。

しかし、労働審判は、その大部分が和解によって終了しています。

したがって、解決金の額がいくらになるかは労働者側、会社側双方にとって非常に重要となります。

解決金の金額は、労働者側と会社側の交渉等によって決まるため、もちろん、法律上の決まりはありません。

また、算出方法が定めてあるわけでもありません。

しかし、一般には下記のような要素が解決金の額に影響してくると考えられます。

  • 裁判所(労働審判委員会)からの和解案の内容
  • 審判や判決が出た場合に労働者側が獲得するであろう金額
  • 和解による早期解決の希望の程度
  • 義務者(会社側)の財力

 

 

労働審判の費用についてよくあるご質問

労働審判の費用は誰が負担する?

基本的には下表のとおりとなります。

弁護士費用 弁護士費用は依頼者が支払うことになります。通常、自分の弁護士費用を相手に請求することはできません。
実費 多くの場合、各当事者がそれぞれの実費を負担することになります。
解決金 支払う側:通常は会社側

 

労働審判を自分でできるか?

法律上、労働審判を弁護士に依頼する義務はありません。

したがって、理屈上は自分だけでも可能です。

しかし、労働審判は、原則として3回以内の期日で終了するため、申立ての段階から十分な準備をして、的確な申立書を作成し、かつ、裏付けとなる証拠を集めて提出しなければなりません。

そのため、法律の専門家である弁護士に依頼する方が望ましいと考えます。

 

労働審判で費用倒れになることがある?

労働審判の経済的利益が少なく、かつ、弁護士費用等が高額になった場合は費用倒れの可能性もあります。

そのため、できるだけ労働問題に詳しい弁護士に相談し、結果についての見通しや弁護士報酬の見積もりをもらっておかれることをお勧めいたします。

 

パワハラ事案の労働審判の費用とは?

パワハラの場合、通常、労働者から会社に対して、慰謝料等の損害賠償を請求します。請求する金額は状況によってことなるため一概には言えません。

しかし、特に深刻な健康被害等が出ていない場合、通常は100万円から300万円程度を請求することが多いという印象です。

仮に会社に対し、300万円の損害賠償を請求し、100万円を獲得した場合、上記の報酬基準に当てはめれば、弁護士費用は、着手金24万円、報酬金10万円となります。

 

 

まとめ

以上、労働審判の費用について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。

労働審判では、弁護士費用が実費が必要となります。

また、会社側はこれに加えて、解決金等を支払う可能性があります。

このページでは、具体例を踏まえて、それぞれの金額を算出しましたが、労働審判の請求内容は様々であり、一概には言えません。

また、弁護士の報酬は自由化されているため法律事務所によっても異なります。

そのため、あくまで参考程度にとどめて、具体的な金額については弁護士にご相談されてください。

この記事が労働問題で苦しむ方々のお役に立てれば幸いです。

 

 

   
執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会

保有資格 / 弁護士・税理士・MBA

専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件  

実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。




  

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