懲戒解雇とは|要件・手続き・転職への影響【わかりやすく解説】
懲戒解雇とは
懲戒解雇(ちょうかいかいこ)とは、会社が従業員に対して行う、会社の秩序を乱すような行為について罰を与えるための解雇のことをいいます。
従業員が会社の秩序を乱す重大な規律違反や非違行為(非行)を行った場合に制裁として行われます。
会社が行う懲戒処分には、戒告(かいこく)・けん責(けんせき)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇(ゆしかいこ)、懲戒解雇などがありますが、この中でも懲戒解雇はもっとも重い処分となります。
懲戒解雇の根拠
懲戒解雇については、明確な法律上の根拠はありませんが、以下の2点から導き出せます。

一般的に、会社は秩序を作り、その秩序を維持させていくことができる権限があると考えられています。
最高裁判所の判例でも、戒告処分の事案ではありますが、懲戒処分について、以下のように述べています。
判例 国鉄札幌運転区事件〜最高裁昭和54年10月30日民集33巻6号647頁〜
【 事案の概要 】
労働組合の組合員が組合活動に際し、職員詰所備付けのロッカーに要求事項等を記入したビラを貼付する行為等に対して、会社が戒告処分とした事例
【 裁判所の判断の要旨 】
「企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであつて・・・これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と解するのが相当である」と判示しました。

労働契約法15条では、「懲戒」という言葉が使われており、会社が懲戒処分(懲戒解雇も含む)ができることを前提としているように読み取れることも懲戒解雇の法的根拠と言えるでしょう。
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
懲戒解雇の影響
解雇予告手当が支給されないことが多い
そもそも、解雇予告手当とは、会社が従業員を解雇する際、解雇予告を行う代わりに支払うお金のことです。
通常、会社が従業員を解雇する場合には、解雇をする30日前までに予告をするか、予告をしない場合には、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。
この解雇予告をしない場合の30日分以上の平均賃金が、解雇予告手当ということになります。
解雇予告手当について、くわしくはこちらをご覧ください。
そして、懲戒解雇については、労働基準監督署に「解雇予告除外認定許可」を申請し、許可を受けることで30日前までの解雇予告をせず、また、解雇予告手当を支払わずに、即時に解雇することが可能となります。
この点が普通解雇との違いになります。
解雇予告手当除外認定が受けられる場合には、以下のような場合があります。
- ① 極めて軽微なものを除いて、事業場内における窃盗、横領、傷害などの刑事犯に該当する行為があった場合等
- ② 賭博、風紀の乱れ等により職場規律を乱し、他の従業員に悪影響を及ぼす場合等
- ③ 経歴詐称(雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合や、雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合)
- ④ 他の事業場へ転職した場合
- ⑤ 2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤を促しても応じない場合
- ⑥ 出勤不良で、何度注意をしても改めない場合
もっとも、この除外認定の手続は、認定されるまでに時間を要することや、労働基準監督署から当該従業員への事情聴取が必要となること、認定されない結果となる可能性もあることからすれば、解雇予告をする、または、解雇予告手当を支払った上での懲戒解雇も選択肢として検討するべきであるといえます。
転職(再就職)できない可能性がある
懲戒解雇は、会社の秩序を乱す重大な規律違反や非行を行った場合に制裁として行われる懲戒処分の中でも、もっとも重い処分であるため、一般に、懲戒解雇の経歴があるということは、懲戒解雇に相当するほど悪質性の高い行為を行ったと推測され、警戒されてしまう可能性が高いといえます。
失業保険に影響する可能がある
懲戒解雇の場合でも失業保険は基本的にもらうことができます。
もっとも、通常の場合と比較して以下のような影響を受けます。
失業保険の基本手当について、離職の理由が「解雇」であれば、「特定受給資格者」となり、離職の日以前1年間に被保険者期間が6ヶ月以上あれば支給されます(雇用保険法23条2項、13条2項)。
しかし、解雇の中でも、重責解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇)にあたれば、離職の日以前2年間に被保険者期間が12ヶ月以上なければ支給されません(雇用保険法13条1項)。
懲戒解雇は、常に重責解雇にあたるわけではありませんが、多くの場合にこの重責解雇になると考えられます。
なお、重責解雇にあたる場合は、以下のように考えられています。
- ① 刑法各本条の規定に違反し、又は職務に関連する法令に違反して処罰を受けたことによって解雇された場合
- ② 故意又は重過失により事業所の設備又は器具を破壊したことによって解雇された場合
- ③ 故意又は重過失によって事業所の信用を失墜せしめ、又は損害を与えたことによって解雇された場合
- ④ 労働協約又は就業規則に違反する次の行為があったために解雇された場合
- 極めて軽微なものを除き、事業所内において窃盗、横領、傷害等刑事犯に該当する行為があった場合
- 賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす行為があった場合
- 長期間正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
- 出勤不良又は出欠常ならず、数回の注意を受けたが改めない場合
- ⑤ 事業所の機密を漏らしたことによって解雇された場合
- ⑥ 事業所の名をかたり、利益を得または得ようとしたことによって解雇された場合
- ⑦ 他人の名を詐称し、または虚偽の陳述をして就職をしたために解雇された場合
参考:「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇」として給付制限を行う場合の認定基準 | 厚生労働省
失業保険の基本手当をもらうためには、通常、7日間の待機期間がありますが(雇用保険法21条)、重責解雇の場合は、それに加え待機期間満了後1か月以上3か月以内の間で、公共職業安定所長の定める期間(雇用保険法33条1項)の給付制限があり、受給までに時間がかかることになります。
退職金をもらえないことが多い
懲戒解雇の場合、就業規則の退職金規程等に退職金を全額不支給または一部不支給と規定している会社も多くあります。
逆にいえば、こうした不支給の規定がなければ、いくら懲戒解雇であっても退職金規程のルールに従って退職金を支給する必要が出てきます。
これを機会に、自社の規定をチェックしてみてください。
他の解雇との違い
懲戒解雇とそれ以外の解雇等の違いをまとめると、以下のようになります。
【 懲戒解雇とそれ以外の解雇等の比較 】
どのような場合に行われるか | 解雇予告 or 解雇予告手当 | 退職金 | |
---|---|---|---|
懲戒解雇 | 非違行為 | 原則不要 | 不支給、減額になることが多い |
普通解雇 | 能力不足など | 必要 | 会社の規定により支給 |
諭旨解雇 | 非違行為 | 原則不要 | 会社の規定により支給 |
整理解雇 | 会社の経営上の理由 | 必要 | 会社の規定により支給 |
自主退職 | 従業員自らの申し出 | 解雇ではないので不要 | 会社の規定により支給 |
普通解雇との違い
普通解雇は、能力不足や従業員の心身の故障による労働能力喪失などの場合に行われる解雇です。
上記のとおり、懲戒解雇は制裁としての処分ですので、制裁に対応する非違行為が必要なのですが、普通解雇は必ずしも非違行為が必要というわけではありません。
解雇については、日本の裁判所は要件を厳しく判断していますが、実務上、懲戒解雇は普通解雇以上に厳しく判断される傾向にあります。
また、解雇予告または解雇予告手当については、普通解雇は必要ですが、懲戒解雇は原則不要となります(労働基準法20条1項但し書き)。
加えて、退職金についても、懲戒解雇は不支給や減額になることが多いのに対し、普通解雇は会社の規定によって支払われることがあります。
解雇予告手当について、詳しくはこちらをご覧ください。
普通解雇について、詳しくはこちらをご覧ください。
解雇の種類について、詳しくはこちらをご覧ください。
諭旨解雇との違い
諭旨解雇とは、会社が従業員に退職届もしくは辞表の提出を勧告し、従業員にそれらの書面を提出させた上で解雇する処分のことをいいます。
諭旨解雇も懲戒解雇と同様、懲戒処分の一種ですが、懲戒解雇よりも軽い処分に位置付けられます。
諭旨解雇も懲戒処分の一種なので、懲戒解雇と同様、非違行為に対して行われるものです。
仮に諭旨解雇で従業員が退職届等を提出しなかった場合には、懲戒解雇を検討する場合が多いかと思います。
諭旨解雇と懲戒解雇の違いは、主に退職金支給についてです。
諭旨解雇の場合は、会社の規定にもよりますが、通常の自己都合退職と同様に支給されることが多いです。
諭旨解雇について、詳しくはこちらをご覧ください。
整理解雇との違い
整理解雇とは、会社の業績が悪化して人員削減のために行う場合などの会社の経営上の理由で従業員を解雇することをいいます。
懲戒解雇の場合は従業員に非がある場合に行われるのに対し、整理解雇の場合は従業員に非がない場合に行われるという違いがあります。
なお、整理解雇は普通解雇の一種として捉えられています。
整理解雇は、普通解雇の一種なので、解雇予告や解雇予告手当が必要になります。
加えて、退職金支給についても、整理解雇は会社の規定によっては通常通り支給される可能性があります。
整理解雇について、詳しくはこちらをご覧ください。
自主退職との違い
自主退職は、その名のとおり、従業員が自ら会社に対して退職の申し出をするものになります。
懲戒解雇は会社から従業員に対して行われるものに対し、自主退職は従業員から会社に対して雇用契約の解約の申し入れをするという点に違いがあります。
また、退職金支給についても、自主退職は通常通り支払われることになります。
懲戒解雇の要件・理由
懲戒解雇の要件
懲戒解雇は普通解雇と異なり、制裁措置になるため、普通解雇以上に厳しい要件が実務上要求されています。

懲戒処分は、労働者にとって不利益の大きいものであるため、あらかじめ雇用契約書や就業規則に、会社が行うことのできる懲戒処分の種別を定め、また、どのような場合に懲戒処分となるかを具体的に明示しておかなければなりません。
中小企業で人数の少ない会社の場合、就業規則がないということもありますが、そのような会社では従業員が横領したとしても、あらかじめ懲戒解雇について定めたルールが会社にないため、懲戒解雇はできない、行ったとしても無効になるということになります。
もっとも、この場合でも普通解雇は可能と考える余地があるため、懲戒解雇ではなく、普通解雇で進めていくことになります。
したがって、懲戒解雇については、就業規則を整備してあらかじめ形式面を十分に整えておくことが必要になります。

仮に、就業規則に懲戒解雇についてのルールが定めてあったとしても、具体的に問題となっている労働者の行為が就業規則に記載されている懲戒解雇を行うことができる事由に該当する必要があります。
ここで注意しなければならないのは、同一の行為について、すでに他の懲戒処分(戒告(文書・口頭による注意)、けん責(始末書の提出等)、出勤停止、降格、減給など)を行った場合には、その同一の行為を理由に懲戒解雇することはできないということです。
同じ行為で二度処分することは二重処罰になるからです。
そのため、過去に同じ行為について、懲戒処分をしていないかについて確認しておく必要があります。

問題となっている労働者の行為に対して、懲戒解雇という処分が客観的に見て重すぎる場合には、懲戒解雇が無効となります。
引用元:労働契約法|電子政府の窓口

懲戒処分を行う場合、労働者本人の言い分を聞く機会を設ける必要があります。
どんなに労働者の行為が悪質なものであっても、この機会を設けておかなければ、懲戒解雇が無効と判断される可能性があります。
一定の期間(事案に応じますが、1〜2週間程度が一つ目安になるかと思います。)、従業員側に時間を与え、その間に言い分がなければ言い分なしとして処分に進んでいくことになります。
注意点は、機会を与えたことを証拠に残しておくことです。
口頭で行うと言った、言わないの話になりますので、くれぐれも避けましょう。
懲戒解雇の理由ランキング
懲戒解雇の理由にはいくつかありますが、ここではよくある理由をランキング形式でご紹介いたします。
※当ランキングは、全国的な統計の数値ではなく、あくまで当事務所に多い相談を順位化しています。
第1位 会社での犯罪行為
会社の金銭を預かっている従業員が横領する、会社の所有している物を盗む(窃盗)など、場合によっては刑事罰を受けるような犯罪行為は、懲戒解雇の理由の代表例となります。
第2位 ハラスメント(セクハラ・パワハラ等)
ハラスメントも状況によっては懲戒事由となり得ます。
- 異性の体を不必要に触る
- 無理やり性交渉をする
セクハラについて、詳しくはこちらをご覧ください。
- 部下の失敗に対して必要以上に怒鳴りつける
- 部下に対して暴行をする
パワハラ対応について、詳しくはこちらをご覧ください。
第3位 会社の業務命令に従わない
会社が必要とする業務を頼んでも、従業員がそれを拒否し続ける場合も、ケースによっては懲戒解雇になり得ます。
第4位 勤務態度が悪い
従業員の勤務態度が悪い場合、通常は普通解雇等を検討することになりますが、会社の秩序を相当程度乱すような悪質なケースでは、懲戒解雇の理由になり得ます。
-
- 無断遅刻・無断欠勤(長期間にわたって行われる場合や回数が多い場合)
- 不要な離席を繰り返して必要な業務を行わない
- 他の従業員よりも圧倒的に勤務成績が悪いにもかかわらず、全く改善をしようと努力しない
第5位 私生活上の問題行動
従業員はプライベートで何をしようが基本的には自由ですが、会社と密接に関わる私生活上の問題行動は、場合によっては懲戒解雇となり得ます。
会社と密接に関わる私生活上の問題行動の例は、以下のとおりです。
- 職業運転手(タクシードライバー、トラックドライバー等)にもかかわらず、プライベートで飲酒運転をして逮捕される
- 社内で不倫し、会社の秩序が乱れた場合
第6位 無許可の副業
就業規則等で無許可の副業を禁止しているにもかかわらず、これに違反し副業した場合に懲戒解雇されることがあり得ます。
もっとも、無許可の副業につき懲戒解雇が有効となる場合は、副業先で長時間労働をして本業の会社の業務に支障が出る場合など、ある程度限定的になると考えられています。
懲戒解雇の手続きの流れ

従業員を懲戒解雇する場合、まずは、その理由となる問題行為について、十分に調査し、証拠の収集を行う必要があります。
調査や証拠の収集が十分でないと、後に従業員が、懲戒解雇が不当であるとして、その有効性を争った場合に、懲戒解雇が無効であると判断される可能性があります。
たとえば、無断欠勤など、従業員が問題行為を行っていることが明らかであると考えられるような場合であっても、懲戒解雇という処分を行う前に、関係者への聞き取り調査や証拠収集を十分に行っておくことが重要です。
無断欠勤に関していえば、日々の指導記録(メールや書面で記録)を残しておかなければ、「休むと上司に連絡を入れていた」などと後から主張されることもあり得ます。

懲戒解雇の要件で記載した通り、懲戒解雇は、就業規則に懲戒解雇を行うことができるとの記載がなければ、行うことができません。
したがって、まず、就業規則に懲戒解雇を行うことができるという規定が存在するか確認する必要があります。
そして、次に、問題行為が就業規則に記載されている「懲戒解雇を行うことができる事由」に該当するかどうかを検討することになります。
聞き取り調査や収集した証拠をもとに検討し、問題となっている従業員の行為が就業規則記載の「懲戒解雇を行うことができる事由」に該当すると判断した場合は、次の手続に進むことになります。

懲戒解雇に先立って、従業員に弁明の機会を与えることが必要です。
懲戒解雇の要件でご説明した通り、これを行わない場合には、懲戒解雇が無効と判断される可能性がありますので、注意が必要です。
裁判所は解雇に関して、手続面の審査は厳しめにみている傾向がありますし、弁明の機会を与えていないという事実は裁判所が懲戒解雇を無効にする理由として言及しやすい項目です。
したがって、弁明の機会を与えたことを示すために、書面を交付するのがよいでしょう。
なお、弁明の機会を与えれば足りるため、弁明の機会を与えたにもかかわらず、従業員が言い分を出さないというケースでは懲戒解雇を進めることは可能です。

弁明の機会を付与した上で、懲戒解雇を行うことを決定した場合には、使用者は懲戒解雇通知書を作成します。
懲戒解雇通知書には、「問題となる行為」を特定するとともに、「その行為が、就業規則のどの条項に該当する行為であるか」を明記するようにします。
ここで注意すべきなのは、会社がその時点で認識している懲戒解雇事由に該当する行為については、すべて記載しておく必要があるということです。
なぜなら、懲戒理由の後付けはできないからです。
懲戒解雇の後、従業員が懲戒解雇の無効を主張することがあります。
このとき、たとえば、「懲戒解雇の理由となった問題行為Aのほかに、当該懲戒解雇の理由とはしていなかったけど、懲戒解雇事由に該当する問題行為Bもあるから、当該懲戒解雇は有効である」と反論することは基本的にはできません。
判例
使用者が、従業員が休暇を請求したことやその応接態度等を理由として懲戒解雇をし、従業員がこれを争った事例において、使用者が裁判で、「上記理由による懲戒解雇が無効であるとしても、当該従業員が採用時に履歴書に虚偽事実を記載した(年齢を詐称した)ことを懲戒解雇の理由に追加する」との主張をした際、最高裁は、「使用者が従業員に対して行う懲戒は、従業員の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為(問題行為)との関係において判断されるべきものである。
したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為(問題行為)は特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできない」との考え方を示し、本件懲戒解雇当時、使用者が、従業員の年齢詐称の事実を認識していなかったのであるから、「年齢詐称をもって本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることはできない」としています。
引用判例:裁判所
すなわち、原則として、使用者が懲戒解雇①をした際に理由としなかった従業員の問題行為Bを懲戒解雇①の理由とすることはできないため、仮に懲戒解雇①の有効性が争われて、もとの問題行為Aに基づく懲戒解雇①が無効となった場合、問題行為Bを理由に、懲戒解雇①を有効にすることはできず、問題行為Bについて懲戒解雇②を行うことができる可能性がある、または普通解雇を行うことができる可能性があるにすぎないということになります。
したがって、懲戒解雇①が無効と判断された場合、新たに有効な解雇がなされるまでの間は、当該従業員は、当該会社の従業員の地位にあることになりますから、使用者は、賃金の支払請求に応じなければならないこととなります。
懲戒解雇通知書のひな形については、こちらをご覧ください。

使用者は、問題行為を行った当該従業員に対し、作成しておいた懲戒解雇通知書を交付し、懲戒解雇を伝えます。
作成しておいた懲戒解雇通知書は事前にコピーを取っておきましょう。
また、当該従業員から、解雇通知書を受け取ったことを示す署名をもらうようにしましょう。
当該従業員に直接、懲戒解雇を言い渡せない場合には、懲戒解雇通知書を、従業員の自宅に内容証明郵便や特定記録郵便で送付し、本人に交付したことが証拠として残るようにしておきます。

懲戒解雇後には、従業員が失業保険を受給できるようにするための離職票の発行など、各種の手続きを行うことになります。
必要となる手続きには、以下のようなものがあります。
- ① 離職票の発行申請など、失業保険を受給できるようにするための手続き
- ② 社会保険からの脱退に関する手続き
- ③ 源泉徴収票の交付
- ④ 住民税の特別徴収を止める手続き
- ⑤ 従業員から請求があった場合には、解雇理由証明書の交付
先ほど解説したとおり、懲戒解雇の場合、懲戒解雇通知書に懲戒解雇の原因となった事実と就業規則の該当条項を記載しますが、別途解雇理由証明書の交付を要求されることがあります。
この場合に、どの程度の記載をするかどうかは慎重に検討しなければなりません。
労働問題を数多く取り扱う弁護士に相談するのがよいでしょう。
会社が懲戒解雇するときのポイント
懲戒解雇はよほどの事情がなければできない
上記で見てきたとおり、懲戒解雇は簡単にはできるものではありません。
会社の方は、まずこの事実から目を背けることをしてはなりません。
「この従業員は何となく悪いし、秩序が乱れるから懲戒解雇!」のような安易な考えは持たないようにしましょう。
懲戒解雇相当かを的確に判断する
従業員が一定の非違行為を行ったとしても、本当に懲戒解雇を選択すべきかは要検討です。
行為の内容によっては、懲戒解雇以外の懲戒処分(戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇など)が妥当な場合もあります。
戒告について、詳しくはこちらをご覧ください。
けん責について、詳しくはこちらをご覧ください。
減給について、詳しくはこちらをご覧ください。
出勤停止について、詳しくはこちらをご覧ください。
また、場合によっては、従業員の任意の退職を促す退職勧奨(たいしょくかんしょう)という対応もあり得るかと思います。
退職勧奨について、詳しくはこちらをご覧ください。
懲戒解雇が相当かどうかは、慎重に判断してください。
証拠資料を集める
繰り返し述べていますが、懲戒解雇の有効性は裁判所で厳しく判断されるため、会社側が裁判で負けることが多い印象です。
懲戒解雇が有効となるためには、事実関係などをしっかりと立証できる証拠が必要となります。
証拠は、できるだけ客観的な証拠が好ましいです。
懲戒解雇を基礎付ける証拠の例は、以下のとおりです。
- 書面(雇用契約書、就業規則、業務日報、人事評価書、指導記録、解雇理由証明書等)
- メール
- 録音
- 他の従業員の証言
会社が懲戒解雇をする場合は、これらの証拠を集めて、裏付けを取ってから判断するようにしてください。
手続きを厳守する
会社によっては、就業規則で懲戒解雇をする場合に細かく手続きを定めている場合があります。
手続きの例としては、弁明の機会の付与や、賞罰委員会で検討するなどです。
これらの手続きが就業規則上用意されているにも関わらず、手続きを無視して懲戒解雇した場合には、懲戒解雇が無効なものになる可能性が高いので十分注意しましょう。
労働問題に強い弁護士のサポートを受ける
懲戒解雇をする前に、労働問題に強い弁護士のサポートを受けるようにしましょう。
懲戒解雇の理由を立証するに足りる証拠はあるかどうかの精査、懲戒解雇が有効になりそうかどうかの見通しは、やはり専門家のアドバイスなしには判断は難しいでしょう。
事案によっては、懲戒解雇を行ってから弁護士に相談するのでは手遅れのケースもあります。
労働問題は弁護士に相談すべき必要性について、詳しくはこちらをご覧ください。
懲戒解雇された従業員のポイント
解雇理由証明書・退職証明書をもらう
解雇理由証明書とは、労働基準法第22条2項に定められた、会社が解雇の理由を記載した書面のことをいいます。
解雇理由証明書は、解雇予告された日から退職日までに従業員が請求しなければ発行されません。
また、退職証明書とは、労働基準法第22条1項に定められた、解雇などで従業員が退職する場合に解雇の理由等が記載された書面のことをいいます。
退職証明書は退職した後(即時解雇も含む)に従業員が会社に対して発行の請求をするのに対し、解雇理由証明書は、上記のとおり、解雇予告された日から退職日までに従業員が発行を請求するというところに違いがあります。
注意が必要なのは、解雇理由証明書も退職証明書も、従業員が請求しない事項は会社は書いてはならないルールになっているので(労働基準法22条3項)、しっかりと会社に全ての解雇理由を書いてもらうよう請求するようにした方が無難です。
【 解雇理由証明書と退職証明書の違い 】
内容 | どのような場合に書いてもらえるか | 発行の請求時期 | |
---|---|---|---|
解雇理由証明書 | 解雇の理由 | 解雇の場合のみ | 解雇予告された日から退職日までに従業員が請求 |
退職証明書 | 退職の理由(解雇理由も含む)、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金 | 解雇を含む退職全般 | 解雇を含む退職全般退職日以降に従業員が請求 |
この解雇理由証明書や退職証明書をもらうことによって、従業員が懲戒解雇された理由がわかり、懲戒解雇を争う場合の証拠となり得ます。
解雇理由証明書について、詳しくはこちらをご覧ください。
履歴書に記載すべきか
履歴書に職歴を記載する場合、単に「退社」や「退職」と記載することができます。
履歴書に賞罰欄がある場合でも、ここにいう「罰」とは、刑法犯(確定した有罪判決)のことを指すため、刑法犯に該当しない懲戒解雇は記載義務があるわけではありません。
例えば、過去に窃盗等をして有罪となり、懲戒解雇となった場合には、賞罰欄に窃盗で有罪になったことについては記載する必要があります。
このように、懲戒解雇について必ずしも履歴書に記載しなければならないものではありませんが、例えば面接などにおいて、退職理由を聞かれた場合には、従業員は会社に対し、真実を述べる必要があります。
ここで、嘘をついて採用されると、後に、経歴詐称として解雇されてしまう可能性もありますので、十分注意が必要です。
退職理由について聞かれた場合には、懲戒解雇をされた事実を隠さず、経緯や反省を伝えるなどするのがよいでしょう。
懲戒解雇は履歴書に記載しなかったらバレる?
上記のとおり、懲戒解雇をされた事実は履歴書に書かなくても良いですが、以下の場合で新しい会社にバレる可能性があります。
上記で解説したとおり、面接で退職理由を聞かれた際には、基本的に真実を述べなければいけないので、そのタイミングで会社にバレる可能性があります。
もっとも、面接で退職理由を聞かれなかった場合には、従業員側の方から積極的に過去の懲戒解雇の事実を会社に伝える必要はありません(東京地裁平成24年1月27日判例)。
判例 学校法人尚美学園事件〜東京地裁平成24年1月27日労判1047号5頁〜
【 事案の概要 】
大学の教授である原告が、以前の勤務先においてパワーハラスメント及びセクシュアルハラスメントを行ったとして問題にされたことを被告に告知しなかったことなどを理由に普通解雇された事案
【 裁判所の判断の要旨 】
「本件のように,告知すれば採用されないことなどが予測される事項について,告知を求められたり,質問されたりしなくとも,雇用契約締結過程における信義則上の義務として,自発的に告知する法的義務があるとまでみることはできない」として、従業員側が不利益な事実を積極的に告知しなければならない義務は否定されました。
会社によっては、入社時等に離職票の提出を求められるところがあります。
離職票ー2には、「離職理由」という欄があり、懲戒解雇の場合、多くのケースでこの離職理由欄の「重責解雇」にチェックが付けられます。
会社がこの離職票を見れば、懲戒解雇かどうかある程度わかることになります。
退職証明書も、会社によっては提出を求められることがあります。
退職証明書についても、上記で解説したとおり、退職の理由などが書かれていることがあります。
会社がこの退職証明書を見れば、懲戒解雇があったことを把握することになります。
労働問題に強い従業側の弁護士に相談する
会社が行った懲戒解雇に何らかの疑問を持った方は、労働問題に強い従業員側の弁護士にご相談されることをお勧めします。
例えば、
- そもそも懲戒解雇の理由となっている事実を行っていない
- 懲戒解雇された理由が会社の就業規則に書かれていない
- 懲戒解雇されるにあたって就業規則では弁明の機会が与える必要があると記載されているのに、実際には弁明の機会が与えられなかった
等があった場合には、懲戒解雇が無効となる可能性があるので、弁護士にご相談された方がよいでしょう。
まとめ
- 懲戒解雇(ちょうかいかいこ)とは、会社が従業員に対して行う、会社の秩序を乱すような行為について罰を与えるための解雇のこと
- 懲戒解雇は、解雇予告手当、転職、失業保険、退職金に影響を与える可能性がある
- 懲戒解雇の理由には、会社での犯罪行為、ハラスメント、会社の業務命令に従わない、勤務態度が悪い、私生活上の問題行動、無許可の副業などがある
- 懲戒解雇の手続きの流れは、①問題行為の調査→②懲戒解雇事由に該当するか検討→③弁明の機会の付与→④懲戒解雇通知書の作成→⑤懲戒解雇の通知→⑥各種手続を行うというもの
