懲戒解雇とは|要件・手続き・転職への影響【わかりやすく解説】

監修者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

所属 / 福岡県弁護士会

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

懲戒解雇とは

懲戒解雇は、使用者が労働者に対して行う懲戒処分の一種です。

労働者が会社の秩序を乱す重大な規律違反や非行を行った場合に制裁として行われます。

会社が行う懲戒処分には、戒告(かいこく)・けん責(けんせき)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇(ゆしかいこ)、懲戒解雇などがありますが、この中でも懲戒解雇はもっとも重い処分となります。

 

 

普通解雇との違い

同じ解雇でも懲戒解雇と普通解雇とでは、性質が違っています。

上記のとおり、懲戒解雇は制裁としての処分ですので、制裁に対応する非違行為が必要なのです。

解雇については、日本の裁判所は要件を厳しく判断していますが、実務上、懲戒解雇は普通解雇以上に厳しく判断される傾向にあります。

主な違いを表にまとめます。

懲戒解雇 普通解雇
解雇理由 非違行為 能力不足など
解雇予告 or 解雇予告手当 原則不要 必要
退職金 不支給、減額になることが多い 自己都合退職と同様の場合もある

普通解雇について詳しくはこちらも参考にしてください。

 

 

どのようなことをしたら懲戒解雇になる?

懲戒解雇となる可能性がある行い

懲戒処分は、労働者の不正・不当な行為に対して、制裁として行われるものであり、その行為の不正・不当の程度に見合った懲戒処分を選択することになります。

懲戒解雇は、上記のとおり、懲戒処分の中でも、もっとも重い処分ですから、懲戒解雇を選択することができるのは、労働者の行為が、企業秩序を乱し、職場規律に違反する重大な行為である場合となります。

問題行為の程度が軽微であるのに、いきなり懲戒解雇を選択すれば、その懲戒解雇は、行為に対して重すぎる処分として無効と判断される可能性があります。

懲戒解雇となり得る具体的な問題行為としては、会社資金の横領や窃盗、重度のセクハラ・パワハラ、会社の名誉・信用を毀損する行為、重大な経歴詐称、長期の無断欠勤などがあります。

また、過去に同様の行為を行って懲戒処分を受けているにもかかわらず、同様の行為を繰り返した場合、最終的に懲戒解雇処分となる可能性があります。

主なもの

  • 窃盗、横領などの業務に関する犯罪行為
  • 従業員への強制性交、強制わいせつ、盗撮(セクハラ)や傷害(パワハラ)
  • プライベートでの飲酒運転、強盗などの犯罪行為
  • 重大な経歴詐称(免許、資格が必要な仕事でその免許、資格があるかのように装い、ないことを隠していた)

※こうした行為の全てで懲戒解雇が有効となるわけではありません。例えば、窃盗でも会社で備品として買った新品のボールペン1本を家に持ち帰ったといったケースでは、窃盗といえたとしても被害が軽微のため、懲戒解雇は重たすぎるとなる可能性があります。

 

過去の事例

判例

職場の後輩が職場外でした酒気帯び運転による人身事故につき、この後輩に飲酒をすすめ同乗するなどして、事故を誘発させたタクシー運転手の行為について、就業規則の「酒気をおびて自動車を運転したとき」に直接該当するものではないが、違反の類型および程度において同等であるとして、就業規則の規定を準用し懲戒解雇を有効とした事例があります。

参考判例:最判昭和53年11月30日|最高裁ホームページ

 

 

懲戒解雇の要件

懲戒解雇は普通解雇と異なり、制裁措置になるため、普通解雇以上に厳しい要件が実務上要求されています。

就業規則に懲戒解雇を行うことができると記載されていること

懲戒処分は、労働者にとって不利益の大きいものであるため、あらかじめ雇用契約書や就業規則に、会社が行うことのできる懲戒処分の種別を定め、また、どのような場合に懲戒処分となるかを具体的に明示しておかなければなりません。

中小企業で人数の少ない会社の場合、就業規則がないということもありますが、そのような会社では従業員が横領したとしても、あらかじめ懲戒解雇について定めたルールが会社にないため、懲戒解雇はできない、行ったとしても無効になるということになります。

もっとも、この場合でも普通解雇は可能と考える余地があるため、懲戒解雇ではなく、普通解雇で進めていくことになります。

したがって、懲戒解雇については、就業規則を整備してあらかじめ形式面を十分に整えておくことが必要になります。

 

従業員の行為が、懲戒解雇を行うことができると規定されている事由に当たること

仮に、就業規則に懲戒解雇についてのルールが定めてあったとしても、具体的に問題となっている労働者の行為が就業規則に記載されている懲戒解雇を行うことができる事由に該当する必要があります。

ここで注意しなければならないのは、同一の行為について、すでに他の懲戒処分(戒告(文書・口頭による注意)、けん責(始末書の提出等)、出勤停止、降格、減給など)を行った場合には、その同一の行為を理由に懲戒解雇することはできないということです。

同じ行為で二度処分することは二重処罰になるからです。

そのため、過去に同じ行為について、懲戒処分をしていないかについて確認しておく必要があります。

 

懲戒解雇が労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であること(労働契約法15条)。

問題となっている労働者の行為に対して、懲戒解雇という処分が客観的に見て重すぎる場合には、懲戒解雇が無効となります。

引用元:労働契約法|電子政府の窓口

 

懲戒処分に先立ち、労働者に弁明の機会を与えること

懲戒処分を行う場合、労働者本人の言い分を聞く機会を設ける必要があります。

どんなに労働者の行為が悪質なものであっても、この機会を設けておかなければ、懲戒解雇が無効と判断される可能性があります。

一定の期間(事案に応じますが、1〜2週間程度が一つ目安になるかと思います。)、従業員側に時間を与え、その間に言い分がなければ言い分なしとして処分に進んでいくことになります。

注意点は、機会を与えたことを証拠に残しておくことです。

口頭で行うと言った、言わないの話になりますので、くれぐれも避けましょう。

合わせて読みたい
懲戒解雇通知書

 

 

懲戒解雇された場合に給料はもらえる?

懲戒解雇となった場合でも、給料(賃金)は、従業員の地位にあった間に行った労働の対価として支払われるものですから、使用者は労働者に対し、労働の対価として、給料を支払う義務があります。

そのため、懲戒解雇をするまでに相当する給料は、懲戒解雇をしても支払わなくてよいということにはなりません。

損害賠償請求権と賃金請求権との相殺について

懲戒解雇となっても、労働者が使用者に対して、従業員の地位にあった間の労働の対価としての賃金請求権を有している一方で、業務上の横領などの行為を理由に懲戒解雇となった場合など、使用者は労働者に対し、損害賠償請求権を有することがあります。

このとき、使用者としては、未払の給与と相殺をしたいと考えることもあるかと思われます。

会社が「横領や窃盗をしているのだから給与と相殺するのは当然」というように考えるのも無理はありません。

しかし、労働基準法では、賃金の全額払いの原則が定められており、原則として使用者が一方的に賃金から控除することは許されていません。

労働基準法24条1項本文

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

引用元:労働基準法|電子政府の窓口

したがって、原則として、未払の給与と相殺することはできず、未払の給与については、労働者に全額支払う必要がありますので、注意が必要です。

もっとも、労働者が、相殺について自由な意思に基づいて同意していることが明確な場合には、労働基準法違反とはならないと考えられています。

つまり、労働者側から「給料と相殺してください」ということで会社が相殺処理することはできるということです。

ただし、労働者が自由な意思に基づいて同意しているかについては、厳格かつ慎重に判断されますので、会社としては、長時間拘束したり、無理やり相殺に応じさせるようなことがないようにしなければなりません。

相殺に当たって、同意書にサインをしてもらうという方法も効果的ですが、その際はその場でサインしないと帰らせないといった行為がないように気をつける必要があります。

 

 

懲戒解雇されると退職金はもらえない?

懲戒解雇の場合、就業規則の退職金規程等に退職金を全額不支給または一部不支給と規定している会社も多くあります。

逆にいえば、こうした不支給の規定がなければ、いくら懲戒解雇であっても退職金規程のルールに従って退職金を支給する必要が出てきます

これを機会に、自社の規定をチェックしてみてください。

 

 

懲戒解雇の手続きの流れ

懲戒解雇の手続きの流れ

問題行為の調査

労働者を懲戒解雇する場合、まずは、その理由となる問題行為について、十分に調査し、証拠の収集を行う必要があります。

調査や証拠の収集が十分でないと、後に労働者が、懲戒解雇が不当であるとして、その有効性を争った場合に、懲戒解雇が無効であると判断される可能性があります。

たとえば、無断欠勤など、労働者が問題行為を行っていることが明らかであると考えられるような場合であっても、懲戒解雇という処分を行う前に、関係者への聞き取り調査や証拠収集を十分に行っておくことが重要です。

無断欠勤に関していえば、日々の指導記録(メールや書面で記録)を残しておかなければ、「休むと上司に連絡を入れていた」などと後から主張されることもあり得ます。

 

就業規則を確認し、懲戒解雇事由に該当するかを検討する

懲戒解雇の要件で記載した通り、懲戒解雇は、就業規則に懲戒解雇を行うことができるとの記載がなければ、行うことができません。

したがって、まず、就業規則に懲戒解雇を行うことができるという規定が存在するか確認する必要があります。

そして、次に、問題行為が就業規則に記載されている「懲戒解雇を行うことができる事由」に該当するかどうかを検討することになります。

聞き取り調査や収集した証拠をもとに検討し、問題となっている労働者の行為が就業規則記載の「懲戒解雇を行うことができる事由」に該当すると判断した場合は、次の手続に進むことになります。

 

弁明の機会の付与

懲戒解雇に先立って、労働者に弁明の機会を与えることが必要です。

懲戒解雇の要件でご説明した通り、これを行わない場合には、懲戒解雇が無効と判断される可能性がありますので、注意が必要です。

裁判所は解雇に関して、手続面の審査は厳しめにみている傾向がありますし、弁明の機会を与えていないという事実は裁判所が懲戒解雇を無効にする理由として言及しやすい項目です。

したがって、弁明の機会を与えたことを示すために、書面を交付するのがよいでしょう。

なお、弁明の機会を与えれば足りるため、弁明の機会を与えたにもかかわらず、労働者が言い分を出さないというケースでは懲戒解雇を進めることは可能です。

 

懲戒解雇通知書の作成

弁明の機会を付与した上で、懲戒解雇を行うことを決定した場合には、使用者は懲戒解雇通知書を作成します。

懲戒解雇通知書には、「問題となる行為」を特定するとともに、「その行為が、就業規則のどの条項に該当する行為であるか」を明記するようにします。

ここで注意すべきなのは、会社がその時点で認識している懲戒解雇事由に該当する行為については、すべて記載しておく必要があるということです。

なぜなら、懲戒理由の後付けはできないからです。

懲戒解雇の後、労働者が懲戒解雇の無効を主張することがあります。

このとき、たとえば、「懲戒解雇の理由となった問題行為Aのほかに、当該懲戒解雇の理由とはしていなかったけど、懲戒解雇事由に該当する問題行為Bもあるから、当該懲戒解雇は有効である」と反論することは基本的にはできません。

判例

使用者が、労働者が休暇を請求したことやその応接態度等を理由として懲戒解雇をし、労働者がこれを争った事例において、使用者が裁判で、「上記理由による懲戒解雇が無効であるとしても、当該労働者が採用時に履歴書に虚偽事実を記載した(年齢を詐称した)ことを懲戒解雇の理由に追加する」との主張をした際、最高裁は、「使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為(問題行為)との関係において判断されるべきものである。

したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為(問題行為)は特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできない」との考え方を示し、本件懲戒解雇当時、使用者が、労働者の年齢詐称の事実を認識していなかったのであるから、「年齢詐称をもって本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることはできない」としています。

引用判例:裁判所

参考:労働判例百選 第9版|有斐閣

すなわち、原則として、使用者が懲戒解雇①をした際に理由としなかった労働者の問題行為Bを懲戒解雇①の理由とすることはできないため、仮に懲戒解雇①の有効性が争われて、もとの問題行為Aに基づく懲戒解雇①が無効となった場合、問題行為Bを理由に、懲戒解雇①を有効にすることはできず、問題行為Bについて懲戒解雇②を行うことができる可能性がある、または普通解雇を行うことができる可能性があるにすぎないということになります。

したがって、懲戒解雇①が無効と判断された場合、新たに有効な解雇がなされるまでの間は、当該労働者は、当該会社の従業員の地位にあることになりますから、使用者は、賃金の支払請求に応じなければならないこととなります。

懲戒解雇通知書のひな形については、こちらをご覧ください。

合わせて読みたい
懲戒解雇通知書

 

懲戒解雇の通知

使用者は、問題行為を行った当該労働者に対し、作成しておいた懲戒解雇通知書を交付し、懲戒解雇を伝えます。

作成しておいた懲戒解雇通知書は事前にコピーを取っておきましょう。

また、当該労働者から、解雇通知書を受け取ったことを示す署名をもらうようにしましょう。

当該労働者に直接、懲戒解雇を言い渡せない場合には、懲戒解雇通知書を、労働者の自宅に内容証明郵便や特定記録郵便で送付し、本人に交付したことが証拠として残るようにしておきます。

 

各種手続を行う

懲戒解雇後には、労働者が失業保険を受給できるようにするための離職票の発行など、各種の手続きを行うことになります。

必要となる手続きには、以下のようなものがあります。

  1. ① 離職票の発行申請など、失業保険を受給できるようにするための手続き
  2. ② 社会保険からの脱退に関する手続き
  3. ③ 源泉徴収票の交付
  4. ④ 住民税の特別徴収を止める手続き
  5. ⑤ 労働者から請求があった場合には、解雇理由証明書の交付

先ほど解説したとおり、懲戒解雇の場合、懲戒解雇通知書に懲戒解雇の原因となった事実と就業規則の該当条項を記載しますが、別途解雇理由証明書の交付を要求されることがあります。

この場合に、どの程度の記載をするかどうかは慎重に検討しなければなりません。

労働問題を数多く取り扱う弁護士に相談するのがよいでしょう。

 

 

懲戒解雇と解雇予告手当

解雇予告手当とは

通常、会社が労働者を解雇する場合には、解雇をする30日前までに予告をするか、予告をしない場合には、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。

解雇予告手当について、くわしくはこちらをご覧ください。

 

懲戒解雇における解雇予告手当について

懲戒解雇については、労働基準監督署に「解雇予告除外認定許可」を申請し、許可を受けることで30日前までの解雇予告をせず、また、解雇予告手当を支払わずに、即時に解雇することが可能となります。

この点が普通解雇との違いになります。

解雇予告手当除外認定が受けられる場合には、以下のような場合があります。

  1. ① 極めて軽微なものを除いて、事業場内における窃盗、横領、傷害などの刑事犯に該当する行為があった場合等
  2. ② 賭博、風紀の乱れ等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合等
  3. ③ 経歴詐称(雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合や、雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合)
  4. ④ 他の事業場へ転職した場合
  5. ⑤ 2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤を促しても応じない場合
  6. ⑥ 出勤不良で、何度注意をしても改めない場合

もっとも、この除外認定の手続は、認定されるまでに時間を要することや、労働基準監督署から当該労働者への事情聴取が必要となること認定されない結果となる可能性もあることからすれば、解雇予告をする、または、解雇予告手当を支払った上での懲戒解雇も選択肢として検討するべきであるといえます。

 

 

懲戒解雇による転職への影響

転職にどのような影響がある?

懲戒解雇は、会社の秩序を乱す重大な規律違反や非行を行った場合に制裁として行われる懲戒処分の中でも、もっとも重い処分であるため、一般に、懲戒解雇の経歴があるということは、懲戒解雇に相当するほど悪質性の高い行為を行ったと推測され、警戒されてしまう可能性が高いといえます。

 

履歴書に記載すべきか

履歴書に職歴を記載する場合、単に「退社」や「退職」と記載することができます。

履歴書に賞罰欄がある場合でも、ここにいう「罰」とは、刑法犯(確定した有罪判決)のことを指すため、刑法犯に該当しない懲戒解雇は記載義務があるわけではありません。

例えば、過去に窃盗等をして有罪となり、懲戒解雇となった場合には、賞罰欄に窃盗で有罪になったことについては記載する必要があります。

このように、懲戒解雇について履歴書に記載しなければならないものではありませんが、例えば面接などにおいて、退職理由を聞かれた場合には、労働者は使用者に対し、真実を述べる必要があります。

ここで、嘘をついて採用されると、後に、経歴詐称として解雇されてしまう可能性もありますので、十分注意が必要です。

退職理由について聞かれた場合には、懲戒解雇をされた事実を隠さず、経緯や反省を伝えるなどするのがよいでしょう。

 

 

まとめ

以上のとおり、懲戒解雇は、労働者にとって不利益の大きい重大な処分ですから、懲戒解雇が有効となる要件も厳しいものとなっています。

実際に、懲戒解雇の有効性が争われるケースも多くあります。

使用者としては、労働者の問題行為を把握し、懲戒解雇を行いたいと考えた場合には、関係者への聞取りなどの調査をしっかり行い、証拠を集め、懲戒解雇に相当する事案であるのかを慎重に検討し、適切な手続きを経て、懲戒解雇を行うべきといえます。

懲戒解雇を行うことができるか判断に悩まれた場合や、懲戒解雇をしたものの、労働者から懲戒解雇が無効であると争われている場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。

 


  





  

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