労働基準監督署とは?相談のメリットやデメリットを解説
労働基準監督署とは、会社に対する監督や労災保険の給付等を行う厚生労働省の第一線機関です。
労働問題でお悩みの方は、どこかに相談したいと考えていらっしゃるかと思います。
そんなとき、労働基準監督署が選択肢の一つとなります。
ここでは最初に労働基準監督署の意味、組織の構成を解説します。
また、相談するメリットやデメリット、相談についてのよくあるご質問について、ご紹介していきます。
ぜひ参考になさってください。
労働基準監督機関
労働基準監督機関の基本的使命
憲法は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定しています(憲法第27条第2項)。
これを受けて、労働基準法(労基法)、労働安全衛生法、最低賃金法などの法律が制定され、使用者に対して、さまざまな義務を課しています。
国は、このような労働関係法令の実効性を確保するため、企業等がこれらの法令をきちんと守っているかをチェックし、違反がある場合は企業等に法令を守ってもらうための適切な措置をとらなければなりません。
労働基準監督機関の組織と事務
この機能を担うため、労働基準監督機関として、厚生労働省(本省)のほかに、各都道府県に厚生労働省の下部機関として都道府県労働局が置かれ、さらに都道府県労働局の下部機関として当該労働局管内に労働基準監督署が置かれています。
厚生労働省(本省)
厚生労働省の所掌事務は多岐にわたりますが(設置法4条)、労働基準監督行政に関する事務は下図のとおりです。
厚生労働省の事務
・労働基準法など労働条件の最低基準の定立
・法令の適用に当たって労働局、監督署からの随時の疑義照会に対する回答等
・労働基準監督官の権限行使の全国統一的な運用を確保するための労働局への指導(監察)
・都道府県を超える広域事案の指導調整
・全国一斉の監督指導(名ばかり管理職問題についての一斉監督など)の指示
・労働基準監督官制度(試験 採用 研修など)の運用
都道府県労働局
都道府県労働局は、厚生労働省の指揮監督を受け、厚生労働省の所掌事務の一部を分掌します(設置法21条)。
具体的な事務については、下図のとおりです(厚生労働省組織規則第790条)。
都道府県労働局の主な事務
・監督署に対する年間監督計画の作成方針の指示と作成された計画が適切かどうかの審査
・監督計画に沿って監督が行われているか、使用停止命令など事業活動への影響の大きい処分が適切に行われているかの確認・指導(監察)
・署の管轄を越える広域事案の指揮
・重大・悪質な労働基準関係法令違反の事案の処理方針の指示、地方検察庁との連携
労働基準監督署
労働基準監督署は、都道府県労働局の指揮監督を受け、当該労働局の所掌事務の一部を分掌します(設置法22条)。
具体的な事務については、下図のとおりです(厚生労働省組織規則第790条)。
労基署の所掌事務
①労働契約、賃金の支払、最低賃金、労働時間、休息、災害補償その他の労働条件に関すること。
②労働能率の増進に関すること。
③児童の使用の禁止に関すること。
④産業安全(鉱山における保安を除く。)に関すること。
⑤労働衛生に関すること(労働者についてのじん肺管理区分の決定に関することを含み、鉱山における通気及び災害時の救護に関することを除く。)。
⑥労働基準監督官が司法警察員として行う職務に関すること。
⑦政府が管掌する労働者災害補償保険事業に関すること。
⑧労働者の保護に関すること。
⑨家内労働者の福祉の増進に関すること。
⑩前各号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき労働基準監督署に属させられた事務に関すること。
労働基準監督署
労働基準監督署とは
労働基準監督署とは、労働基準法その他の労働関係法令に基づき、事業場に対する監督及び労災保険の給付等を行う厚生労働省の第一線機関です。
労働基準監督署は全国に321署と4つの支署があります。
通常は略称として、労基署、労基、監督署などと呼ばれています。
労基署の内部組織
労基署の内部組織は、労働基準法などの関係法令に関する各種届出の受付や、相談対応、監督指導を行う「方面」(監督課)、機械や設備の設置に係る届出の審査や、職場の安全や健康の確保に関する技術的な指導を行う「安全衛生課」、仕事に関する負傷などに対する労災保険給付などを行う「労災課」、会計処理などを行う「業務課」から構成されています(署の規模などによって構成が異なる場合があります)。
方面(監督課)の主な業務
①申告・相談の受付
法定労働条件に関する相談や、勤務先が労働基準法などに違反している事実について行政指導を求める申告を受け付けます。
②臨検監督(監督指導)
労働基準法などの法律に基づいて、定期的に、あるいは働く人からの申告などを契機として、事業場(工場や事務所など)に立ち入り、機械・設備や帳簿などを調査して関係労働者の労働条件について確認を行います。
その結果、法違反が認められた場合には事業主などに対しその是正を指導します。また、危険性の高い機械・設備などについては、その場で使用停止などを命ずる行政処分を行います。
③司法警察事務
事業主などが、度重なる指導にもかかわらず是正を行わない場合など、重大・悪質な事案については、労働基準法などの違反事件として取調べ等の任意捜査や捜索・差押え、逮捕などの強制捜査を行い、検察庁に送検します。
安全衛生課の主な業務
安全衛生課は、労働安全衛生法などに基づき、働く人の安全と健康を確保するための措置が講じられるよう事業場への指導などを行っています。
具体的には、クレーンなどの機械の検査や建築工事に関する計画届の審査を行うほか、事業場に立ち入り、職場での健康診断の実施状況や有害な化学物質の取扱いに関する措置(マスクの着用など)の確認などを行っています。
労災課の主な業務
労災課は、労働者災害補償保険法に基づき、働く人の、業務上または通勤による負傷などに対して、被災者や遺族の請求により、関係者からの聴き取り・実地調査・医学的意見の収集などの必要な調査を行った上で、事業主から徴収した労災保険料をもとに、保険給付を行っています。
業務課の主な業務
業務課は、労基署全体の庶務、経理等を担当しています。ここには主に労働事務官が配置されています。
職員構成
労働基準監督署は、①労働基準監督官、②労働技官、③労働事務官という3種類の職員で構成されています。これを3官制度といいます。
労働基準監督官は、事業場の監督、法令違反の強制捜査、送検等の業務を行っています。監督官は全国に3200名ほどいます。
政府は、大手広告代理店電通の過労自殺問題を受け、違法な長時間労働を厳しく取り締まるために監督官を増員する方針を固めています。
労働技官は、事業場の災害調査、ボイラー検査等の技術的業務を行っています。
労働事務官は、一般事務、会計・経理事務、労災保険事務等の業務を行っています。
労基署について、詳しくは労働問題に詳しい弁護士へご相談ください。
当事務所の労働弁護士は、使用者側専門であり、企業を強力にサポートしています。
まずはお気軽にご相談ください。
労働基準監督署のメリット・デメリット
労働基準監督署に相談するメリットとデメリットをまとめると次のようになります。
メリット | デメリット |
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労働基準監督署に相談するメリット
無料で相談できる
労働基準監督署は営利企業ではなく行政組織です。
したがって、労働問題に関する相談が無料でできます。
労働基準監督署に相談するデメリット
相談できる内容が限られている
上で解説したとおり、労働基準監督署は法律を根拠として活動しており、職務内容は法律で定められています。
労働問題には様々なものがありますが、「相談できるもの」と「相談できないもの」があるので注意が必要です。
相談できる内容の例 | 相談できない内容の例 |
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法律の専門家ではない
上で解説したように、労働基準監督署には労働基準監督官などの専門職がいますが、この方々は司法試験を通過した、法曹(弁護士、裁判官、検察官)ではありません。
労働法令についてある程度の基本知識は習得されていると思われますが、法律の専門家ではないため、争点についてミスリードの可能性が懸念されます。
例えば、残業代請求が認められるか否かについて、本来認められる可能性が高いのに「認められない」と回答するなどです。
労働問題を適切に判断するには、専門的な知識と経験が必要です。
そのため、複雑な事案については、労働問題にくわしい弁護士へ相談なさったほうが良いでしょう。
相談者の代理人ではない
労働基準監督署は、行政組織であり、中立的な立場にあります。
すなわち、依頼者の利益のために動いてくれる弁護士とは異なります。
例えば、依頼者に代わって会社に対して未払い残業代を請求し、状況を逐一報告し、依頼者に有利な条件で示談交渉をまとめてくれることはありません。
労働基準監督署は、未払い残業代について、法令違反があればその点を会社に指摘し、結果として残業代が支払われることはありますが、相談者の代理人とは根本的に異なるので注意しましょう。
会社で働きにくくなる
労働基準監督署から会社に連絡が入ると、結果として働きにくくなる可能性があります。
「匿名」を希望すれば、通報したことが会社に知られないこともあるかもしれませんが、ケースによっては特定される可能性があるので注意しましょう。
労働基準監督署の相談窓口
労働基準監督署は、全国に所在しています。
ご自宅のそばの労働基準監督署については、こちらから調べることが可能です。
労働基準監督署に関するQ&A
労働基準監督署に相談する意味はない?
労働基準監督署に相談する目的や内容によっては意味がないケースもあります。
上で解説したように、労働基準監督署の相談にはメリット・デメリットがあります。
トラブル解決の選択肢の一つとして、検討する価値があるでしょう。
例えば、「会社の違法行為を正したい」などの想いがあれば、労働基準監督署に通報し、会社に是正を促してもらうという点で、十分意味があるでしょう。
労働基準監督署を動かすにはどうすればいい?
労働基準監督署に相談したけどまったく動いてくれない、というケースは多く見受けられます。
まずは現状について確認するため担当の方に連絡を取るべきですが、状況によっては労働問題にくわしい弁護士(労働者側)に相談するなどの他の方法も検討しましょう。
労働基準監督署にタレコミしたらどうなる?
会社に労働法令に関する違反がある場合、労働基準監督署から会社に対して事実関係の調査が入ると予想されます。
そして、是正勧告がなされたり、悪質な法令違反がある場合は逮捕や送検される可能性もあります。
まとめ
以上、労働基準監督署の意味、組織構成、相談するメリットやデメリットについて、くわしく解説しましたが、いかがだったでしょうか。
労働基準監督署は、無料で相談できるため、労働トラブルの解決の選択肢として検討対象となります。
しかし、相談できる内容が限られている、中立的な組織である、などの理由により、問題が解決できない可能性もあります。
そのような場合は、労働問題にお悩みの従業員の方々は、労働者側の労働問題を扱う弁護士に相談なさることをお勧めいたします。
なお、当事務所は主として企業側の弁護士となります。
法律事務所の中には、労働問題を扱わない事務所や、労働問題を扱っていても企業のみ、労働者のみなどの限定がなされている場合があるのでご確認の上、相談なさってください。
この記事が、労働問題にお悩みの方にとってお役に立てれば幸いです。
