最低賃金法とは?違反のリスクや労基署が指摘するケースを詳しく解説

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者


最低賃金法とは、すべての従業員に最低限の賃金を保障するための法律です。

この法律に違反すると、企業は労働基準監督署(労基署)から是正指導(法律違反の改善を求める行政からの指導)を受けたり、罰金などのペナルティが科される可能性があります。

本記事では、最低賃金法の概要から、労働基準監督署(労基署)が違反を指摘する具体的なケースまで、労働問題に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。

最低賃金法とは?

最低賃金法とは

 

労働基準法との関係と違反が多い理由

最低賃金については、労働基準法第28条に次のような定めがあります。

「賃金の最低基準に関しては、最低賃金法の定めるところによる。」

つまり、最低賃金の具体的なルールは、最低賃金法(昭和34年法律第137号)に従って決められています。

参考:労働基準法・第二十八条 (最低賃金)|e-GOV

最低賃金制度は、労働者の生活の安定や働く環境の質を高めるために、なくてはならない法律です。

しかし、実際にはこの法律に違反する事例が少なくありません。

とくに多いのが、外国人労働者(外国人技能実習生など)に対して最低賃金を下回る給与しか支払っていなかったというケースです。

このような場合、労働基準監督署(労基署)が調査に入り、企業に対して是正指導や勧告を行うことがあります。

 

 

労働基準法に基づく最低賃金には2種類ある

最低賃金(時間額)は各都道府県ごとに、①地域別最低賃金と、②特定(産業別)最低賃金とが設けられています(時間額)。

 

① 地域別最低賃金

都道府県ごとに定められる最低賃金です。最低賃金法第9条に基づき、地域における労働者の生計費、賃金、通常の事業の賃金支払能力を考慮して決定されます。

なお、令和6年度地域別最低賃金改定状況(時間額)は、下図のとおりです。

北海道 1010 滋賀 1017
青森 953 京都 1058
岩手 952 大阪 1114
宮城 973 兵庫 1052
秋田 951 奈良 986
山形 955 和歌山 980
福島 955 鳥取 957
茨城 1005 島根 962
栃木 1004 岡山 982
群馬 985 広島 1020
埼玉 1078 山口 979
千葉 1076 徳島 980
東京 1163 香川 970
神奈川 1162 愛媛 956
新潟 985 高知 952
富山 998 福岡 992
石川 984 佐賀 956
福井 984 長崎 953
山梨 988 熊本 952
長野 998 大分 954
岐阜 1001 宮崎 952
静岡 1034 鹿児島 953
愛知 1077 沖縄 952
三重 1023 全国加重平均額 1055

参考:地域別最低賃金の全国一覧|厚生労働省

 

② 特定最低賃金

特定最低賃金とは、特定の地域内にある特定の産業で働く基幹労働者(職場の中核となる従業員)とその使用者に適用される最低賃金です。

18歳未満や65歳以上の労働者、雇い入れ直後で技能習得中の労働者などは、原則として対象外です。

特定最低賃金は、製造業や出版業などの業種で設定されることがあり、関係する労使の申出に基づき、最低賃金審議会の審査を経て決定されます(最低賃金法第15条)。

参考:最低賃金法|e-GOV

 

両方適用される場合はどちらが優先される?

最低賃金について上記2種類のものがあるため、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が存在することもあります。

こうした場合、使用者はより高いほうの最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。まとめると下図のとおりとなります。

 

 

最低賃金が減額される特例とは?(第7条)

上記最低賃金については、最低賃金法第7条に減額特例制度が規定されています。

すなわち、

① 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者

② 試の使用期間中の者

③ 基礎的な技能及び知識を習得させるための認定職業訓練を受ける者

④ 軽易な業務に従事するもの

⑤ 断続的労働に従事する者

については、使用者が、所管労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に申請し、その許可を受けたときは、その者について減額された最低賃金が適用されます。

その結果、減額特例対象の労働者については、その減額賃金を支払うことで足ります。

最低賃金の減額の特例許可申請書については、厚生労働省のホームページから取得することが可能です。

 

 

最低賃金法に違反するとどうなる?罰則や契労基署の対応

使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならず(最賃法第4条第1項)、最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で、最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効となります(同条第2項)。

この場合、当該無効部分については、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(同条第2項)。

また、使用者が地域別最低賃金の定めに違反した場合、50万円以下の罰金に処せられます(最賃法第40条)。

 

最低賃金違反に関する労基署の対応

労基署は最低賃金違反について、重点的に監督指導しており、平成29年度の「地方労働行政運営方針」にも、最低賃金額の周知徹底が盛り込まれています。

 

 

最低賃金額以上かどうかの確認方法

定められた賃金額を期間あたりの(平均)所定労働時間で除した金額に換算して、当該賃金が最低賃金額以上かどうかを確認します(最賃則第2条第1項)。

具体的には、日給制、週給制、月給制について下図の方法で計算されます。

なお、時間給制の場合は、当該時間給が最低賃金額(時間額)以上かどうかにより確認します。

 

最低賃金の確認方法

① 日給制

日給 ÷ 1日の所定労働時間数

例:日給8,000円 ÷ 8時間 = 時給1,000円

※日によって所定労働時間数が異なる場合は、1週間における1日の平均所定労働時間数で割る。

 

② 週給制

週給 ÷ 週における所定労働時間数

例:週給40,000円 ÷ 40時間 = 時給1,000円

※週によって所定労働時間が異なる場合は、4週間における1週の平均所定労働時間数で割る。

 

③ 月給制

月給 ÷ 月における所定労働時間数

例:月給200,000円 ÷ 160時間 = 時給1,250円

※月によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1か月の平均所定労働時間数で割る。

 

 

最低賃金に関する留意点

最低賃金に関して、その他、以下の各点に注意が必要です。

 

地域別最低賃金の対象者

地域別最低賃金は、当該都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます。

そのため、パートタイマー、アルバイト、派遣労働者、日雇い労働者、外国人労働者等、雇用形態や国籍を問いません。

そのため、外国人労働者と地域別最低賃金を下回る金額で労働契約を締結し、当該金額しか支払っていない場合、最低賃金法に違反する可能性があります。

最低賃金制度の適用単位

最低賃金制度は、企業単位ではなく、事業単位で適用されます。そして、事業とは、工場、鉱山、事務所、店舗等の如く、一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいうと解されています(昭和22年9月13日 発基第17号)。

また、1つの事業であるか否かは主として場所的概念によって決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として1個の事業とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業とすると解されています。

つまり、どの地域別最低賃金が適用されるかは、どの場所で勤務しているかによります。例えば、会社の本社が東京、支店が福岡県にあり、ある労働者が福岡支店で勤務している場合は、福岡県の地域別最低賃金が適用されます。

 

 

労基署との関係

使用者が労働者に対して、きちんと最低賃金を支払っているかどうかを監督するのは、労働基準監督署長および労働基準監督官です(最賃法第31条)。

労働基準監督官は、使用者の事業場への立入り、帳簿書類その他の物件を検査し、又は関係者に質問することができます(同法第32条第1項)。

また、労働基準監督官は、最低賃金法違反について、司法警察員の職務を行います(最賃法第33条)。

最低賃金等の賃金問題について、現在トラブルになっている場合は労働問題に精通した弁護士によるサポートが必要です。

当事務所では労基署への対応もしておりますので、お悩みの方は是非ご相談ください。

 

 


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