ハラスメント防止法とは?弁護士がわかりやすく解説

執筆者
弁護士 重永尚亮

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士

保有資格 / 弁護士

近年様々な場面でハラスメントが問題視されている状況にあります。

この記事ではハラスメント問題に対して法律がどのような防止策を規定しているのかを解説いたします。

ハラスメント防止法とは?

ハラスメント防止法とは一つの法律を指すものではありません。

ハラスメントの防止を規定する様々な法律を総称してハラスメント防止法と呼んでいます

対象となるハラスメントの種類は以下のとおりです。

  • パワーハラスメント(パワハラ)
  • セクシャルハラスメント(セクハラ)
  • マタニティハラスメント(マタハラ)

 

ハラスメント関連の法令

ハラスメントの防止を規定する法律には以下のものが挙げられます。

  • 男女雇用機会均等法
  • 労働基準法
  • 育児・介護休業法
  • パワハラ防止法

 

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法では、事業主に対して職場でのセクシャルハラスメントを防止するための対策を講じなければならないとする規定が定められています

そして、セクハラを受けたことを相談した従業員を保護する規定も設けています。

根拠条文

男女雇用機会均等法11条

(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第11条
①事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
②事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

引用元:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律|e-Gov法令検索

企業が実施しなければならない具体的な措置の中身として代表的なものは以下の通りです。

事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
  • どのような行為がセクハラに当たるかを周知すること
  • セクハラを行ってはならないという方針を上司等の管理職に周知すること
  • セクハラをした上司等には厳正な対処をすることを就業規則に明記すること
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 相談窓口をあらかじめ定め、従業員に周知すること
  • 相談窓口担当者が、内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること
  • セクハラが現に生じている場合だけでなく、発生の恐れがある場合やセクハラに該当するか微妙であっても相談できることを周知すること
職場におけるセクハラへの事後の迅速かつ適切な対応
  • 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
  • 事実関係の確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を行うこと
  • 事実関係の確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと
  • 再発防止に向けた措置を講ずること
併せて講ずべき措置
  • 相談者、行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知すること
  • 事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度を利用したこと等を理由として、解雇その他不利益な取り扱いをされない旨を定め、従業員に周知すること
  • セクハラ被害を受けた人及び加害者のプライバシーを守るため、相談員の口外禁止を徹底すること

参考:職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!|厚生労働省

 

労働基準法

次に、労働基準法では、使用者に対してマタニティーハラスメントを防止するための規定が設けられています。

具体的には、妊産婦に対して体に過度な負荷がかからないように以下に挙げるような配慮をするように規定されています。

第六十四条の二 坑内業務の就業制限
  • 妊娠中の女性及び坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後一年を経過しない女性
    →坑内で行われるすべての業務で働かせることができない
第六十四条の三 危険有害業務の就業制限
  • 使用者は、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性(以下「妊産婦」という。)を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務その他妊産婦の妊娠、出産、哺ほ育等に有害な業務に就かせてはならない。
第六十五条 産前産後の休業
  • 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
  • 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
  • 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

引用元:労働基準法|e-Gov法令検索

 

育児・介護休業法

育児・介護休業法では、事業主に対して、マタニティーハラスメントを防止するための措置を取るように義務付ける規定があります。

具体的には、以下の措置が求められています。

  1. ① 子供の看護休暇を取れるようにすること
  2. ② 所定外時間・時間外労働・深夜業を制限すること
  3. ③ 短時間勤務ができるようにすること
  4. ④ 育児休業制度があることを従業員に周知し、制度を利用しやすい環境を整えること
  5. ⑤ 育児休業制度を使うことについて不利益な取り扱いをしないこと
  6. ⑥ 育児休業の取得状況を公表すること
  7. ⑦ 育児休業を取ることによって不利益な取り扱いをされた場合に相談窓口の設置

 

パワハラ防止法

パワハラ防止法は通称で、正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称:労働施策総合推進法)といいます。

パワハラが職場で発生した場合にはこの法律の対象となります。

パワハラに該当する類型は以下の6つがあります。

  1. ① 身体的な攻撃
  2. ② 精神的な攻撃
  3. ③ 人間関係からの切り離し
  4. ④ 過大な要求
  5. ⑤ 過小な要求
  6. ⑥ プライバシー侵害

こうしたパワハラが会社内で発生しないように、発生した場合にどのような対応をすべきかについて、会社として取るべき措置は以下の4つが定められています。

事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
  • どのような行為がパワハラに当たるかを周知すること
  • パワハラを行ってはならないという方針を上司等の管理職に周知すること
  • パワハラをした上司等には厳正な対処をすることを就業規則に明記すること
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 相談窓口をあらかじめ定め、従業員に周知すること
  • 相談窓口担当者が、内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること
  • パワハラが現に生じている場合だけでなく、発生の恐れがある場合やパワハラに該当するか微妙であっても相談できることを周知すること
職場におけるパワハラへの事後の迅速かつ適切な対応
  • 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
  • 事実関係の確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を行うこと
  • 事実関係の確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと
  • 再発防止に向けた措置を講ずること
併せて講ずべき措置
  • 相談者、行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知すること
  • 事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度を利用したこと等を理由として、解雇その他不利益な取り扱いをされない旨を定め、従業員に周知すること

引用元:職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!|厚生労働省

 

会社が実施しなければならない4つの対策

ここまで解説した法律を踏まえて、会社が実施すべき対策には以下の4つが挙げられます。

  1. ① 事業主の方針の明確化とその周知・啓発
  2. ② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備
  3. ③ 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
  4. ④ 上記①〜③に併せて講ずべき措置

 

①事業主の方針の明確化とその周知・啓発

ハラスメント問題は、実際にしている本人はハラスメントとは思わずに無自覚な言動によって生じてしまう場合もあります

そのため、まずはどのような行為がハラスメントとされているのかを会社の経営者はもちろん、管理職、従業員が正しく理解しておく必要があります。

そして、ハラスメント問題が起きた場合、会社がどのような処分を考えているのかを予め示しておくことが有効です。

具体的には、「私たちの会社はハラスメント問題が起きた場合に調査の上、厳正なる処分を行います。」と周知するだけでも従業員の認識を変えることができます。

このように会社の方針を明確化し、この方針を従業員がきちんと理解できている状態とすることがハラスメント問題発生予防につながるといえるでしょう。

 

②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備

会社としてきちんとハラスメント問題を予防しようとしても、ハラスメントは人間関係を原因とするもので、色々な考え方を持った人が集まって一緒に仕事をしている関係上、どうしてもハラスメント問題の発生を避けられないこともあります。

そこで、もしハラスメント問題が発生してしまった場合には、会社が問題発生に気づけるようにしなければなりません。

具体的な対処方法としては、相談窓口の設置あるいは通報制度を設けて対処するという方法です。

注意点として、相談窓口や通報を行ったことによって相談者、通報者に不利益になることがないようにする必要があります。

具体的には、相談者のプライバシーに配慮し、相談したことによりかえって職場環境が悪化するということがないようにしなければなりません。

事業主としては相談窓口や通報窓口を設置するに当たって、この点をはっきりと従業員に示しておく必要があります。

 

③職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

職場でハラスメント問題が発生した場合には、問題が大きくなる前に迅速かつ適切に対応する必要があります。

ハラスメント問題が発覚した場合は、迅速に当事者と目撃者等の話を聞く機会を設けて事実関係を確認しましょう。

 

④上記①〜③に併せて講ずべき措置

上記①〜③以外の措置として考えられるものとしては、パワハラ問題の当事者のプライバシーを保護することです。

今後パワハラ問題の当事者が会社に残って働き続ける場合には、周りの従業との関係性から問題が起こった事実が過度に広がらないように注意をする必要があります。

例えば、相談者や加害者のプライバシーを守るために、相談窓口の担当者に研修を行う等です。

会社に義務付けられた措置の詳細については下記のページをご覧ください。

 

 

ハラスメントを防止する5つのポイント

①社内規程を整備する

社内においてハラスメントを防止するためのルールを整備することは再発防止の観点から重要となってきます。

もっとも、いざルールを作ろうと思い至ったとしても、どのようなルールを整備すべきかを迷われている会社も多いかと思います。

また、試しに社内ルールを作ったとしてもこれで通用するかといった悩みもあるかと思います。

その際はハラスメント問題に詳しい弁護士にご相談いただくことで適切な社内規定を作成してもらったり、会社で作成した規定をチェックしてもらうことができます。

具体的には、就業規則でハラスメントをした場合に、どのような処分になる可能性があるのかを明確にし、懲戒規定の整備をアドバイスしてもらいましょう。

 

②経営トップから方針を伝える

経営トップの意識はそのまま会社全体の共通意識となる傾向にあります。

そうすると、経営トップがハラスメント問題を重要視する姿勢を見せることで会社全体のハラスメントに対する問題意識改革に繋がります。

そこで、経営トップの方針を伝える方法の一つとしてハラスメント防止周知文を職場に掲示することが有効です。

弊所では、ハラスメント防止周知文の雛形を作成しておりますので、ぜひご参考にしていただければと思います。

 

③社内研修を実施する

従業員の中には、なんとなくハラスメントが問題となることは理解していたとしても具体的にどのような場合にハラスメントに該当するかまでははっきりと認識できていない方が一定数存在します。

そのような従業員に対して具体的にどのような場合にハラスメントと認定されるかを知る機会を提供することはハラスメント問題の発生防止にとても効果的です。

そこで、ハラスメント問題を正しく理解するためにも、社内研修を実施することが効果的です。

社内研修を実施する場合には、どのような従業員を対象に行うのか(管理者なのか、一般従業員なのか)、講義形式にするのか、グループディスカッションを行うのかといった実施方法も検討しましょう。

また、研修にあたっては、ハラスメント問題に詳しい弁護士にご依頼いただくことで、具体的な裁判例なども交えてハラスメントについての理解を深めることができるでしょう。

 

④法律事務所を外部相談窓口として設置する

ハラスメント問題を社内のみで解決を図ることはとても困難を伴います。

例えば、社内で窓口を設置するとしてもハラスメント問題に精通している従業員を教育することは人材確保と時間の面でコストがかかります。

そこで、ハラスメント問題に詳しい法律事務所を外部相談窓口として設置することをお勧めします。

外部相談窓口の設置の詳細については以下のページをご覧ください。

 

⑤ハラスメントにくわしい弁護士へ相談する

会社の規模に応じてハラスメント問題が会社に与える影響は異なってきます。

会社の状況に応じた対策を検討する必要があります

例えば、ハラスメントが起こった場合に、人数が多い会社であれば部署替えなども検討できますが、少人数の会社では現実的ではありません。

また、実際に起こった行為を事実認定して、どのような処分を実施するべきかについて、会社は難しい判断を迫られます。

このように、ハラスメントの問題は会社だけでは対応が難しいので、弁護士に相談することで、会社の規模に応じた対応や処分についてアドバイスを受けながら対処することが大切です。

そのことが以後のハラスメントを防止することにもつながってくるのです。

ポイントは「信賞必罰」です。

 

 

まとめ

冒頭にも記載した通り、ハラスメント問題への問題意識は日に日に強まってきています。

ハラスメント問題は会社内部の1個人の問題では済まされない会社全体の問題です。

例えば、大企業がハラスメント問題を引き起こしたということが世間に知れ渡れば、会社のブランドイメージに傷がつき業績にまで影響を与えることにもなりかねません。

このように、ハラスメント問題は会社の生き死にに関わってくる問題なのです。

ハラスメント問題に対して真摯に取り組むことは従業員の心身を守るだけでなく、トラブルがないことで従業員の生産効率が上がるという意味で会社を守ることにもなります。

そこで、各種ハラスメントを防止する法律に従った措置をきちんと講じておく必要があります。

具体的にどのような措置を講じれば良いのか迷われた際は、ハラスメント問題に詳しい弁護士に相談することを強くお勧めいたします。

デイライト法律事務所の企業法務部には、ハラスメントの問題に精通した弁護士で構成される労働事件チームがあり、ハラスメントに関してお困りの企業の皆様を強力にサポートしています。

企業のご相談は初回無料でご相談いただけます。

当事務所はZOOMやスカイプを活用して、全国に対応を行っておりますので、まずは一度ぜひご相談ください。

 

 




  

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