パワハラ上司の特徴とは?会社の対応を弁護士が解説

執筆者
弁護士 花田情

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士

保有資格 / 弁護士


パワハラの種類としては、①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害という6つの行為類型が考えられ、パワハラ上司は総じて、自身の言動がパワハラにあたることを認識していないというケースが多いです。

ここでは、パワハラ上司の特徴についてご紹介したうえで、被害者の方の対応や、会社がとるべき対応について、分かりやすく説明いたします。

パワハラの定義

パワハラの定義は、以下のとおりです。

職場のパワハラ(パワーハラスメント)とは、同じ職場で働く者に対して、「①職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、②業務の適正な範囲を超えて、③精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。

パワハラであるといえるためには、①~③の要素すべてを満たす必要があり、いずれか一つでも欠けていればパワハラにあたりません。

参考:パワーハラスメントの定義について|厚生労働省

 

 

パワハラ上司の特徴

パワハラの種類としては、6つの行為類型が挙げられます。

以下では、パワハラの種類ごとに、パワハラ上司の特徴をご紹介します。

①身体的な攻撃

具体例

  • 指導に熱が入り、手が出る(頭を小突く、肩を叩く、胸ぐらを掴むなど)。
  • 繰り返しミスをする部下に対し、ヘルメットの上から叩く等の体罰を与える。

殴る、蹴る、叩くといった行為は、上司としては激励の意味で行ったとしても、部下の側で「暴力を振るわれた」と感じ、身体的苦痛を覚えた場合、「身体的な攻撃」としてパワハラにあたります。

もっとも、「身体的な攻撃」がパワハラにあたることは浸透しており、減少傾向にあります。

 

②精神的な攻撃

具体例

  • 大勢の前で「役立たず」等人格を否定するような発言をして叱責する。
  • 大勢を宛先に入れたメールで暴言を吐く。
  • 他の従業員の面前で、横領行為の犯人扱いをする。
  • ため息をつく、ものを机に叩きつけるなど威圧的な態度をとる。

業務上必要な範囲で注意・指導することは当然認められますが、注意・指導の場所、方法、内容、回数等によって、パワハラにあたります。

パワハラの類型としては、最も多いです。

 

③人間関係からの切り離し

具体例

  • 上司が気に食わない部下に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅で研修させたりする。
  • 上司の意に沿わない部下に対して、退職に追い込むために配転命令を発令し、他の従業員を扇動して退職勧奨する。
  • ある部下のみを意図的に会議やプロジェクトから外す。

「人間関係からの切り離し」とは、相手を孤立させ、職場から追い出そうとするときによく出てくる類型です。

暴言、適切な指導を行わない等の「精神的な攻撃」との複合事案も多くみられます。

 

④過大な要求

具体例

  • 上司が部下に対して、長期間にわたり、部下が経験したことのない過酷な環境下で、勤務に直接関係のない作業を命ずる。
  • 販売目標未達成の罰として、研修会でコスチュームの着用を強要する。
  • 新卒採用者に対し、必要な指導・教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する。

長期にわたり過大な業務やノルマを強制したり、遂行不可能な業務を押し付けたりする行為は、「過大な要求」としてパワハラにあたります。

本人の能力や業務状況を見極められず、業務負担が増大したことが問題となるケースがあります。

 

⑤過小な要求

具体例

  • 管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な軽作業などの業務に就かせる。
  • 内部通報した社員を新入職員と同じ職務に配置転換させる。

「過小な要求」とは、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えない類型です。

④とは反対に、本人の能力や業務状況を見極められず、適切な業務配分を行えなかった結果、本人が能力を発揮できないことにより、不満が募るケースがあります。

 

⑥個の侵害

具体例

  • パートナーや配偶者など、プライベートのことを執拗に聞く。
  • しつこく飲み会に誘う。
  • 職場の飲み会を欠席するという部下に対して、理由を詳しく聞く。

「個の侵害」とは、部下の私的なことに過度に立ち入ったり、プライベートな情報を、本人の了承を得ずに他の人に伝えたりすることです。

この類型は、行為者側でパワハラに当たるということに気付いていない場合が多いです。

行為者としては、何気なくやっていたり、むしろ気を遣ってやっていたとしても、受け手が精神的に苦痛を感じていればパワハラにあたるため、注意が必要です。

 

パワハラ上司は精神病?

なぜパワハラをする上司がいるのでしょうか。

パワハラをする上司の中には、精神病を患っている人もいるかもしれません。

もっとも、パワハラの原因として多いのが、コミュニケーション不足です。

「令和2年職場のパワハラに関する実態調査報告書」でも50%以上の人が、パワハラが起きる理由に「コミュニケーション不足」を挙げています。

参考:令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書|厚生労働省

パワハラの原因として他には、ハラスメントをしている本人に自覚がないということも挙げられます。

上司からすれば、自身が過去に、同じようなやり方を受け、それを乗り越え成長していった経験があるからこそ、それこそが正攻法だという認識をし、部下のために同じような方法をとるというようなケースも考えられます。

 

 

被害者の方の対処法

パワハラ上司への仕返しは違法?

 

パワハラを受けた方が、パワハラ上司へ仕返しをしたくなる気持ちは分かりますが、以下のような仕返しは違法となる可能性が高いため、NGです。

業務上のデータを消去

業務上のデータを消去するという行為は、絶対にやめましょう。

故意にコンピューター内のデータを消した場合、刑法243条の2「電子計算機損壊等業務妨害罪」に該当して、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられることになります。

加えて、業務に必要なデータを消去したことで不利益なことが発生すれば、損害賠償を請求される可能性もあります。

 

上司の噂を吹聴する、SNSへ書き込む

上司のプライベートな事情を会社内で吹聴する、SNSへ書き込むなどといった行為もやめましょう。

原則として、具体的事実を公然と摘示することにより、ある人の社会的評価を低下させた場合、その事実が本当かどうかに関わらず、「名誉毀損罪」に該当して、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処せられることになります。

加えて、慰謝料を請求される可能性もあります。

あまりに過度な対応をすると、あなた自身が逆パワハラとして会社内で問題になることもあり得ます。

 

慎重な対応を促す

パワハラ被害者が以上のような仕返しをした場合、違法となる可能性が高いため、問題のない形で慎重な対応をしていくことが求められます。

そこで、被害者側としては以下のような対処法が考えられます。

同僚・上司に相談する

パワハラ被害者にとって、身近な存在である同僚・上司に相談するということが考えられます。

もっとも、同僚・上司に相談したからといって、詳細な調査や対応をしてもらえないこともあり、具体的な解決に至るとは限りません。

さらには、悩みを打ち明けたことで同僚や上司に噂を広められてしまうと、二次被害を受けることにもなりかねませんので、相談相手は見極めなければなりません。

 

会社に相談してパワハラ防止の措置を取ってもらう

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(いわゆる「パワハラ防止法」)により、大企業では2020年6月から、中小企業でも2022年4月から、パワハラ防止措置が義務化されました。

これに基づき、厚生労働省の指針では、企業に対して、次の3つの措置を義務付けています。

  • パワハラについての方針を明確にして従業員に周知・啓発する
  • パワハラの相談に対応するための体制の整備
  • パワハラの相談を受けたら迅速かつ適切に対応する

このように、会社にはハラスメント相談窓口の設置が義務づけられ、パワハラの相談を受けたら迅速かつ適切に対応することが義務づけられているため、会社にはハラスメント相談窓口があることが多く、ハラスメント相談窓口へ相談することで会社が対応してくれるでしょう。

仮に、社内にハラスメント相談窓口がない場合は、人事部や内部通報窓口へ相談するといった方法が考えられます。

 

労働局(雇用環境・均等部(室))、労働基準監督署(総合労働相談センター)へ相談する

様々な労働問題の相談にのってくれる行政機関が労働基準監督署や労働局です。

パワハラ問題の個別相談にも応じてもらえます。

労働基準監督署や労働局で相談した場合、会社に対し、関連する法律や制度の説明が行われることがあります。

また、被害の内容によっては、企業に対し助言や指導が行われます。

助言・指導で会社の改善が見られない場合には、当事者同士での解決を仲介してくれる「あっせん」の対象になることもあります。

 

法的措置をとる

行政指導・あっせんには法的な拘束力がなく、会社やパワハラ加害者に開き直られてしまうと、問題の根本的な解決は困難です。

そのような場合には、加害者や会社へ損害賠償請求をするというのが考えられます。

慰謝料のほか、病院へ通っている場合は治療費、休職した場合は休業損害等を請求できる可能性があります。

会社や行政機関へ相談しても解決しない場合には、労働者側専門弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。なお、弊所は会社側でのパワハラ防止などの労働問題に注力している事務所です。

また、職場での発言については、言った、言わないの争いになる可能性もあるため、可能であれば録音するなどの証拠化することも検討する必要があります。

 

 

会社が取るべき対応

パワハラで会社が取るべき対応

パワハラにくわしい弁護士へ相談する

先にご説明したように、パワハラ防止法によって、大企業・中小企業を問わず、パワハラ防止措置が義務化されています。

会社がパワハラ防止対策を十分に行っていない場合は、会社が民事の賠償責任を追及される可能性がありますので、その意味でもパワハラ防止策を講じなければなりません。

そのため、まずは、企業のルールを定めている就業規則に、ハラスメントをどのように処分するかという点を定める服務規定や懲戒規定を整備することが必要になります。

パワハラ被害が起こる前に、まずは自社でとられている対応が適切か、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

 

事実関係の調査

会社が、被害者からパワハラ被害の相談を受けた場合には、まずパワハラの有無について事実関係の調査を行う必要があります。

具体的には、以下の調査を行います。

  1. ① 被害者からのヒアリング
  2. ② 加害者からのヒアリング
  3. ③ 目撃者や関係者がいる場合には、その目撃者や関係者からのヒアリング

事実関係の調査を終えると、調査結果をもとにパワハラの有無について判断し、調査報告書を作成します。

 

被害者に配慮した対応をする

プライバシーへの配慮

被害者の名前や被害状況が外部に漏れると、二次被害を受けることにもなりかねません。

そこで、被害者が相談窓口を利用する際の規定の中に、「相談者のプライバシーは守られること」「相談したことによって不利益な取扱いを受けることはないこと」を盛り込むのはもちろんですが、相談時にも改めてプライバシーには十分配慮することを伝えることで、相談者に安心感を与えてあげましょう。

 

被害者の意向を確認する

ハラスメントの相談者には、まずは相談時点で、何があったのか、これからどうしていきたいのか、会社に何を求めるのか、意向を確認しましょう。

もし、相談者が「あまり大ごとにしたくない」「上司からの報復が怖いので調査しないでほしい」と述べた場合はどうでしょうか。

この場合、本人の意向を蔑ろにできない一方で、仮に会社がパワハラの被害申告を放置した場合、パワハラの言動が繰り返され、被害がさらに深刻化してしまった場合、企業は事案を放置したことの責任を問われかねません。

そこで、事案によりますが、会社としては被害者を説得した上で、調査をすべきでしょう。

パワハラは往々にして繰り返されるもので、相談者だけでなく、第2の被害者、第3の被害者を産まないためにも、会社としてはきちんと調査をしたうえで、パワハラの事実が認定できるならば再発防止に努めなければなりません。

 

被害者に対する適正な配慮の措置の実施

パワハラの事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うことが求められます。

厚生労働省のパワハラ防止指針では、以下の対応が例示されています。

  • 被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助
  • 被害者と行為者を引き離すための配置転換
  • 行為者の謝罪
  • 被害者の労働条件上の不利益の回復
  • 管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応

被害者に対する適正な配慮の措置には、取組例のほか、職場におけるハラスメントにより休業を余儀なくされた場合等であってその労働者が希望するときには、本人の状態に応じ、原職又は原職相当職への復帰ができるよう積極的な支援を行うことも含まれます。

参考:パワハラ防止指針|厚生労働省

 

上司に非があるときは厳正な処分を行う

一方で、パワハラの事実が確認できた場合においては、速やかに行為者に対する措置を適正に行うことが求められます。

厚生労働省のパワハラ防止指針では、以下の対応が例示されています。

  • 行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずる
  • 被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助
  • 被害者と行為者を引き離すための配置転換
  • 被害者への謝罪

会社は、パワハラ行為の加害者に対し、会社内で責任をとらせるべく、懲戒処分を行うことができます。

例えば、懲戒解雇、普通解雇、降格、出勤停止、減給、譴責、戒告等があります。

具体的にどのような懲戒処分が相当かについては、パワハラの内容がどのようなものかによって検討しなければなりません。

ひどい事案であれば、戒告にとどまらず、減給や出勤停止、懲戒解雇もあり得ます。

 

再発防止を徹底する

パワハラ防止法に基づき厚生労働省の指針では、企業に対して、次の3つの措置を義務付けています。

  • パワハラについての方針を明確にして従業員に周知・啓発する
  • パワハラの相談に対応するための体制の整備
  • パワハラの相談を受けたら迅速かつ適切に対応する

パワハラ防止法に罰則の規定はありませんが、厚生労働大臣が必要があると認めた場合は、助言、指導または勧告の対象になります(労働施策総合推進法第33条第1項)。

また、勧告に従わなかった場合、企業名が公表される可能性があります(労働施策総合推進法第33条第2項)。

その意味でも、会社としては再発防止策を徹底しなければなりません。

 

 

まとめ

以上、パワハラ上司の特徴、被害者の方の対処法、会社がとるべき対応を解説いたしました。

被害者としては、パワハラに関して、「パワハラかどうか判断しにくい」、「パワハラだと訴えてしまうと会社に居づらくなる」、「会社に言ったがまともに動いてくれない」といった様々な悩みを抱えた方がいらっしゃると思います。

しかし、ご自身がさらに苦しくならないよう、早めに動くことが重要です。

会社としては、パワハラ防止法の要請に従い、パワハラについての方針を明確にして従業員に周知・啓発するとともに、実際にパワハラが生じた場合には、会社として手順を踏み、適切な対応をとることが重要です。

自社のパワハラ対策についてご不安な方、パワハラが発覚した場合の対応についてお困りの方は、弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか。

デイライト法律事務所の企業法務部には、パワハラも含めて労働問題に精通した弁護士で構成される労働事件チームがあり、労働問題でお困りの企業の皆様を強力にサポートしています。

企業のご相談は初回無料でご相談いただけます。防止対策や実際にパワハラが発生した場合の対応もアドバイスさせていただきます。

当事務所はZOOMやスカイプを活用して、全国に対応を行っておりますので、まずは一度ぜひご相談ください。

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