モラハラとは?職場における加害者の特徴や対処法を事例で解説
モラハラとは、精神的な暴力のことで、簡単に言えば言葉や態度による「嫌がらせ」です。
職場におけるモラハラは、被害者の心身に影響を及ぼすだけでなく、会社の経営的な損失等にもつながりかねない問題です。
ここでは、職場におけるモラハラに関して、その意味、被害者に及ぼす影響、加害者・被害者の特徴、具体例、対処法などについて解説していきます。
モラハラの実態を理解し、適切に対処するため、ぜひ参考になさってください。
モラハラとは?
モラハラの意味
モラハラとは、「モラル・ハラスメント(moral harassment)」の略称で、精神的な暴力のことです。
簡単に言えば、言葉や態度による「嫌がらせ」です。
モラハラの加害者は、言葉や態度などによって相手を否定したり、軽蔑したり、困惑させることを繰り返し、相手の精神状態を不安定にしていきます。
被害者は自尊心や働く自信をなくし、仕事を辞めざるを得なくなったり、心を破壊され、最悪の場合自殺に至ることもあります。
なお、英語では、moral harassmentという表現は一般に使われておらず、モラハラはいわゆる和製英語です。
英語では、mental harassment(精神的ハラスメント)などと表現されるのが通常です。
モラハラとパワハラの違い
職場におけるパワー・ハラスメント、いわゆる「パワハラ」とは、以下の3つの要素を含むものをいうとされています(労働施策総合推進法30条の2第1項)。
- ① 優越的な関係を背景とした言動であること
- ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
- ③ 労働者の就業環境が害されるものであること
根拠規定:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
わかりやすく言うと、職場内での優越的な関係を背景に行われる嫌がらせのことです。
モラハラとの違いをまとめると、次のようになります。
パワハラ | モラハラ | |
---|---|---|
行われる場所 | 職場内(業務を遂行する場所) | 職場に限らず、家庭、学校等どこでも起こり得る |
行う人 | 優越的な地位にある人※ | 事業主・上司・同僚・部下、配偶者、クラスメイト・教師など |
該当する行為 (身体的な攻撃も含まれるか) |
含まれる | 含まれない |
※典型的には事業主や上司ですが、キャリアの差など事実上の上下関係がある場合は同僚や部下からの行為もパワハラに該当し得ます。
上司からのモラハラはパワハラ
上記のように、モラハラとパワハラには違いがありますが、重なる部分も多いです。
事業主や上司、事実上の上下関係がある同僚等からのモラハラは、必然的に優越的な地位を背景に行われるものといえるでしょう。
そのため、上司等からのモラハラは、パワハラにも該当します。
パワハラについての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
職場でのモラハラ被害者の心理的・身体的影響
ストレスによる影響
モラハラを受けると、常に緊張状態となり、過剰なストレスにさらされます。
そして、イライラ感、倦怠感、無力感、不眠、食欲不振などが現れます。
症状が進行すると、抑うつ状態になります。
「自分には価値がない」「自分は社会に適合できない」などと思うようになり、考えがまとまらない、集中できない、気分が落ち込む、意欲が低下する、何事にも興味が持てない、無気力になる、将来に希望が持てないなどといった症状が生じるようになります。
このような症状により仕事上のミスも増え、それにより、ますます「自分はダメだ」という思いにとらわれて症状が悪化していく場合もあります。
さらに悪化すると、うつ病になり、最悪の場合、自殺に至ってしまうケースもあります。
また、モラハラを受けたことによって、モラハラが終わった後も心的外傷ストレスなどの重大な後遺症を残すこともあります。
仕事への影響
モラハラにより、上記のような症状が現れると、これまでどおりに仕事ができなくなるため、休職を余儀なくされることがあります。
また、復帰できないまま退職に至るケースもあります。
モラハラを受けると、「自分はダメな人間だ」という思いにとらわれるようになりますが、これは休職をしてモラハラ被害を受けなくなったとしても、簡単に解消できるものではありません。
そのため、働く自信を取り戻すことができず、復帰するのが難しくなります。
また、モラハラ被害は、その実態を上手く言語化して伝えるのが難しい側面があります。
そのため、会社の上層部にモラハラの問題を理解してもらえず、復帰後に安心して働ける環境を整えてもらうことができない場合もあります。
そうすると、復帰が難しくなったり、一時的に復帰しても再びモラハラの被害を受けたりして、結局退職に追い込まれる可能性があります。
さらに、モラハラ被害を受けた会社を退職した後も、モラハラの影響は長期に渡って影響し続ける場合もあります。
例えば、退職後、「他の職場に行っても、また同じようなことになるのではないか」といった警戒心や不安から、なかなか就職活動をすることができず、仕事に就けなくなってしまうこともあります。
このように、モラハラ被害は、長期に渡り様々な面で影響を及ぼし得る、深刻なものといえます。
職場のモラハラの加害者と被害者の特徴
モラハラの加害者の特徴
職場でモラハラをする人の特徴について、詳しくはこちらをご覧ください。
モラハラの被害者の特徴
モラハラが生じやすい職場環境というのもあります。
例えば、過重労働を強いられストレスが生じやすい環境や、コミュニケーションが希薄な環境、社員同士の競争が激しい(切磋琢磨するのではなく蹴落とし合うような)環境などでは、モラハラは生じやすくなります。
加害者の特徴を持つ人がこのような環境に身を置くと、他人をおとしめることで自分の優越性を維持しようとして、自分よりも評価が高い人などをターゲットにモラハラを行うようになる可能性があります。
モラハラの具体例
職場におけるモラハラの具体例
相手を孤立させる言動
- 必要な情報を共有しない
- 無視をする
- 直接の会話を拒否し、伝達はメモやメール等のみで行う
- 会議などに出席させない
- チームに入れない
- 飲み会などに誘わない
仕事に関連して相手を傷つける言動
- 仕事に必要な情報を与えない
- 仕事に必要な道具(パソコン、電話など)を取り上げる・使えなくする
- 必要な電話を取り次がない
- 仕事のあら探しをする
- わざと失敗するように仕向ける
- 些細なミスを大袈裟に叱責する
- 相手の意見にことごとく反対する
- 相手の仕事を必要以上に批判する、非難する
- 実現不可能な目標を設定し、目標達成を強要する
- わざと必要のない仕事をさせる
相手の人格を否定するような言動
- 「バカ」「クズ」などと侮辱する
- ミスについて、仕事ではなく「お前はダメだ」と人格を攻撃する
- 「お前はおかしい」「被害妄想だ」など精神に問題があるようなことを言う
- 大袈裟にため息をついて見せる
- 軽蔑的な態度をとる
- 上司、同僚、部下の信頼を失わせるようなことを言う
- 私生活に干渉する
- 身体的な特徴や障害をからかったり、その真似をしたりする
- 出自や国籍をからかう
- 信仰している宗教、政治的信条、性的指向などを批判する
- 職場内に悪いうわさを流す
モラハラに該当する行為には、次のような特徴があります。
モラハラに該当する行為の特徴
- 良い仕事をするためではなく、相手を傷つけることを目的としている
(加害者が意識しているかはともかく、悪意がある) - 相手に屈辱を与えたり、相手の尊厳を踏みにじるような行為である
- 執拗に繰り返される
(衝動的なものではない)
仕事をする上では、上司が部下に厳しく注意をしたり、相手の意見を批判したりすることもありますが、仕事上必要な正当な行為であればモラハラには該当しません。
一見してモラハラとの区別がつきにくい場合もありますが、上記のような特徴の有無が見分ける際の一つの目安となるでしょう。
夫(妻)からのモラハラの具体例
- 「お前には価値がない」「誰のおかげで生活できると思っている」「稼ぎが悪い」などといった暴言を吐く
- 無視をしたり、あからさまに不機嫌な態度をとる
- 家事の不行き届きや相手の細かいミスなどについて、執拗に責め立てる
- 相手の体調や気持ちに構わずセックスを強要する
- 監視・束縛をする(スマホを勝手にチェックする、外出を妨害するなど)
- 生活費を渡さない
家庭内でのモラハラについて、詳しくはこちらをご覧ください。
彼氏(彼女)からのモラハラの具体例
- LINE等のSNSで即レスがないと怒る
- 「別れるなら死ぬ」などと脅す
- 自分の予定・都合を優先させたがる
- いつもおごらせる
- 高価なプレゼントを強要する
- 相手の体調や気持ちに構わずセックスを強要する
彼氏からのモラハラについて、詳しくはこちらをご覧ください。
職場におけるモラハラへの対処法
会社側の対処法
社内でのモラハラは、職場全体の雰囲気の悪化による生産性の低下や、被害者の休職・退職による業務の停滞、被害者からの損害賠償請求、これらによる経営的な損失等につながります。
現在、ハラスメントに関して、セクハラ、マタハラ、パワハラについては、事業主に相談体制の構築や防止措置の整備が義務づけられていますが、モラハラを含めその他のハラスメントについては、このような義務化はされていません。
しかし、上記のような弊害を防ぐためには、モラハラを含めハラスメント全般についての対策を講じるべきといえます。
具体的な対策内容としては、義務化されているパワハラ対策に準じたものとなるでしょう。
これを踏まえ、以下では、ハラスメント対策について簡単に解説していきます。
パワハラ対策について、詳しくはこちらをご覧ください。
ハラスメントの予防措置
会社としての方針(ハラスメントの内容(具体例)・あってはならない旨の方針・行為者への厳正な対処方針・内容)を明確にし、就業規則の整備や、ハラスメント防止規程を策定します。
ハラスメントについての会社の方針について、周知文書やポスターを作成して社内に掲示する、全社員に対して研修・講習を実施するなどの方法で周知・啓発します。
パワハラなど、対策が義務化されているハラスメントのみでなく、あらゆるハラスメントを許さない、厳しい態度で臨むという会社の姿勢を明示し、理解してもらうことが重要です。
ハラスメントの原因・背景となる要因の解消
先ほども述べたとおり、過重労働などによりストレスが生じやすかったり、コミュニケーション不足に陥っているような職場環境では、ハラスメントも起こりやすくなります。
そのため、働きやすく、風通しの良い職場環境を整えることも重要になります。
具体的には、長時間労働の是正、定期的な面談等の実施、ストレスチェックやハラスメントに関するアンケートの実施による現状把握や改善を図ることなどが考えられます。
ハラスメントの相談窓口の設置
相談窓口をあらかじめ定め、社員に周知します。
相談窓口は、会社の内部(人事部、総務部など)に置く場合と、外部(法律事務所、社会保険労務士事務所など)に置く場合、あるいはその両者に置く場合があります。
パワハラ相談窓口などと一本化し、あらゆるハラスメントに対応できるような体制を整備しておくのが望ましいでしょう。
ハラスメントが起こった後の対応
被害者から相談窓口に相談があった場合は、被害者、加害者、(被害者と加害者の主張に不一致がある場合)第三者それぞれにヒアリングを行い事実関係を確認します。
ハラスメントの事実確認ができた場合は、速やかに被害者と加害者の関係改善に向けての援助、配置転換、メンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講じます。
ハラスメントの事実確認ができた場合は、加害者に対して必要な懲戒その他の措置を講じます。
改めてハラスメントについての方針等を周知し、研修・講習等を実施します。
被害者の対処法
被害者の対処法としては、大きく次の2つがあります。
- モラハラをやめさせる・受けないようにする
- モラハラによって受けた被害を回復する
1は、会社に相談し、措置(加害者への処分や配置転換など)を講じてもらうことにより、モラハラをやめさせたり、モラハラを受けないように環境改善してもらうことが中心となります。
2は、会社や加害者に法的責任を追及し、慰謝料や治療費等を支払ってもらうといった、お金による解決が基本となります。
具体的には、次のような方法をとることになります。
上司に相談する
部下や同僚からモラハラを受けている場合、まずは直属の上司に相談することが考えられます。
上司からモラハラを受けている場合は、その上司よりも地位が上の人に相談することが考えられます。
相談先の上司等がきちんと対応してくれる人であれば、会社の問題として適切な措置をとってくれるでしょう。
一方、相談先の上司がモラハラを黙認している場合や、「パワハラではない」などといった理由でハラスメントとして深刻に受け止めてくれない場合は、解決にはつながらないでしょう。
その場合は、自身で直接ハラスメント相談窓口に相談するようにしましょう。
ハラスメント相談窓口に相談する
上司等に相談できない場合は、会社が設置しているハラスメント相談窓口に相談するようにしましょう。
モラハラに関する相談窓口の設置は事業主に義務づけられてはいませんが、パワハラに関する相談窓口(設置義務あり)と一元化して、あらゆるハラスメントの相談窓口を設けている会社も増えています。
相談により、モラハラの事実が認められた場合、通常であれば、配置転換などによる加害者との引き離し、加害者への処分など、適切な対応をとってもらうことができます。
他方、モラハラの実態を理解してもらえなかったり、パワハラではないからといった理由で取り合ってもらえなかったりすると、解決できない可能性もあります。
また、顔見知りの社員が相談担当である場合など、社内窓口には相談しにくいケースもあるでしょう。
そのような場合は、社外の相談機関を利用することが考えられます。
社外の窓口に相談する
社内の相談窓口に取り合ってもらえなかった場合や、社内には相談しにくい場合は、社外の窓口に相談することが考えられます。
社外の窓口としては、各都道府県の労働局内などに設置されている「総合労働相談コーナー」や、労働関係に詳しい労働者側の弁護士などがあります。
詳しくは後ほど解説いたします。
会社や加害者に法的責任を追及する
会社や加害者に法的責任を追及する方法としては、主に次の3つがあります。
モラハラによって権利や利益が侵害された場合は、会社や加害者に対し、慰謝料、治療費、仕事ができなくなったことによる損害の賠償などを請求することができます。
これらは、話し合い(交渉)によって解決できる場合もありますが、モラハラの事実などについて争いがある場合、最終的には会社や加害者を訴えて裁判で決着をつける必要があります。
裁判で決着をつける場合、こちらの請求を認めてもらうためには、モラハラの事実などを証拠によって裏付ける(立証する)必要があります。
モラハラの証拠としては、加害者の発言の録音や、加害者からのメール、目撃者の証言、モラハラの内容を書き留めた日記メモ、診断書やカルテなどがあります。
したがって、これらの証拠を集めておくことが重要なポイントとなります。
侮辱する、罵倒するなど「作為」によるモラハラや、土下座をさせるなど行為を強要するタイプのモラハラに対しては、「仮処分」という手続きにより、そのような行為をやめる(差し止める)よう求めることが考えられます。
モラハラの態様が酷い場合は、加害者の行為について犯罪(侮辱罪、脅迫罪、名誉毀損罪、強要罪など)が成立する可能性もあります。
そのような場合は、加害者を刑事告訴することが考えられます。
モラハラは、無視や必要な情報を共有しないといった「不作為」や、遠回しに嫌みを言うなどわかりにくい方法で行われることも多いです。
そのため、証拠集めが難しかったり、差し止めや刑事告訴の条件を満たさなかったりするケースも少なくありません。
したがって、法的責任の追及を検討する場合、まずは労働問題に詳しい労働者側の弁護士に相談し、状況に応じた適切な手段についてアドバイスを受けることをおすすめいたします。
モラハラの相談窓口
会社の相談窓口
ハラスメント対策には、弁護士を活用することが望ましいといえます。
先ほども述べたように、企業はハラスメント対策を講じる必要があります。
弁護士にはハラスメント防止規程の策定や、社員向けの研修などを依頼することもでき、これによって企業の負担を軽減しつつ、充実したハラスメント防止措置を講じることができます。
また、弁護士(法律事務所)をハラスメントの相談窓口と定め、社員の方々に周知しておく方法もおすすめです。
相談窓口を弁護士とすることで、人事部などの労力を軽減できる上、社員にとっても相談しやすい環境を整備することができます。
また、専門の弁護士が相談を受け付けることにより、内容や状況に応じた適切な対応も可能になります。
被害者の(元)社員から損害賠償請求されるなど、紛争に発展した場合にも、弁護士であれば代理人として交渉から訴訟まで幅広く対応することができます。
従業員の相談窓口
総合労働相談コーナー
各都道府県の労働局内などに設置されており、専門の相談員に無料で相談することができます。
また、必要な場合は、労働局長の助言・指導や、紛争調整委員会によるあっせんをお願いすることもできます。
参考:個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)|厚生労働省
これらは、あくまでも相談者・会社間での自主的な解決を行政が手助けするものであり、会社に対して環境改善等を強制するものではありません(法的拘束力はありません)。
しかし、無料で利用できることや、事案によっては簡易・迅速な解決の可能性があることはメリットといえるでしょう。
労働問題に詳しい労働者側の弁護士
法律的にどのような対処方法があるかに関しては、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、法律相談から、慰謝料の請求、モラハラ行為の差し止め、刑事責任の追及まで、幅広く対応することができます。
なお、労働専門弁護士は、会社側と労働者(従業員)側に専門が分かれていることが多いので、労働者側の弁護士に相談することが重要です。
まとめ
以上、職場におけるモラハラに関して、その意味、被害者に及ぼす影響、加害者・被害者の特徴、具体例、対処法などについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。
職場におけるモラハラは、被害者にとっても、会社にとっても大きな影響を及ぼします。
お困りの場合は、弁護士などの専門家に早期に相談し、適切な方法で対処するようにしてください。
当事務所には、モラハラも含め労働問題に精通した弁護士で構成された労働事件チームがあり、労働問題でお困りの企業の皆様を強力にサポートしています。
LINE、Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。
モラハラ等の労働問題についてお困りの場合は、当事務所の労働事件チームまでお気軽にご相談ください。