逆パワハラとは?認められる事例・対策・対処法を徹底解説

監修者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家


逆パワハラとは、部下から上司へのパワハラ行為を指します。

「上司から部下」というのが典型的な「パワハラ」であるという認識があるため、その反対の関係である「部下から上司」へのパワハラは「逆パワハラ」と呼ばれているのです。

このページでは、逆パワハラの定義、どういうときに逆パワハラが認められるのかや対処法などについて弁護士が解説いたします。

逆パワハラとは

逆パワハラとは、部下から上司へのパワハラ行為を指します。

パワハラは「パワーハラスメント」と略であり、通常は職場において上司から部下への嫌がらせを指します。

逆パワハラは、この「上司から部下」が「部下から上司」へと関係が逆転していることから名付けられたものです。

なお、パワーハラスメントは実は正式な英語ではなく、和製英語です。

日本のパワーハラスメントは、英語ではAbuse of Authority(権限の乱用)やWorkplace Bullying(職場でのいじめ)などと表現されます。

 

 

逆パワハラの成立要件

それでは逆パワハラはどのような場合に成立するのでしょうか。

いわゆる「パワハラ」とは、以下の3つの要素を含むものをいうとされています。

  1. ① 優越的な関係を背景とした言動であること
  2. ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
  3. ③ 労働者の就業環境が害されるものであること

参考:職場におけるハラスメントの防止のために|厚生労働省

パワハラは、優越的な関係を背景とした言動であるという要素があることから、上司から部下へ行われるものであると認識されている方も多いかもしれません。

しかし、先ほどの3つの要素を含む行為であるパワハラは、上司から部下へのものに限られません。

「①優越的な関係を背景とした言動」の具体的内容として、厚生労働省は、「当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの」としています。

たしかに、上記の典型的な例としては、上司が行為者、部下が言動を受ける者という関係があげられるでしょう。

しかし、たとえば、同僚や部下による言動であっても、その言動を行う者が、業務に必要な知識や経験を豊富に有しており、その者の協力を得なければ、業務を円滑に行うことが難しいという場合には、その同僚や部下が行為者となり、同僚や上司がその言動を受ける側となるという場合にも、優越的な関係を背景とした言動ということができます。

また、同僚や部下からの集団による行為である場合には、行為を受ける同僚や上司にとって、その行為に抵抗したり拒絶したりすることが困難である場合もあり、このような場合も優越的な関係を背景とした言動ということができます。

このように、パワハラ行為の要素となる優越的な関係というのは、「上司から部下」に限られるものではなく、「同僚や部下から同僚や上司」という場合も当てはまり得るものなのです。

そして、「上司から部下」というのが典型的な「パワハラ」であるという認識があるため、その反対の関係である「部下から上司」へのパワハラは「逆パワハラ」と呼ばれることがあります。

重要なことは、「逆パワハラ」もパワハラに違いないということです。

 

 

逆パワハラは職場で増加している?

逆パワハラの増加を示す信頼できる統計データはありません。

しかし、筆者の法律事務所は、企業の労働問題に注力する弁護士のみで構成される専門チームがあり、とても多くの労働問題に関するご相談をいただいています。

その中で、ここ数年ハラスメント被害やその対策に関する相談件数は増加していると感じています。

また、その相談の中には逆パワハラに関するものも含まれています。

特に多いのは、モンスター社員に対するご相談です。

具体的には以下のような相談が多いです。

  • 業務命令にしたがわない
  • 協調性がない
  • 勤怠不良
  • 暴力や暴言

被害に遭う上司には、直属の上司の場合もありますが、会社のトップである社長に対するものもあります。

このようなモンスター社員に対して企業は厳正に対応していく必要があります。

 

 

逆パワハラと認められる6つの類型と事例

パワハラに該当する具体的な行為の類型としては以下のようなものがあります。

いずれも、優越的な関係を背景としている場合に、パワハラとなります。

身体的な攻撃

暴行や傷害が該当します。

殴る、蹴るといった行為に限らず、物を投げつけるといった行為も、これに該当します。

 

精神的な攻撃

脅迫、名誉毀損、侮辱、暴言などがあげられます。

逆パワハラとして起こりやすいものとして、部下が上司の名誉を傷つけるような発言を行ったり、そのような噂を広めたりするなどの行為があげられます。

具体的には、上司が「セクハラをしている」、「パワハラをしている」、「金銭を横領、着服している」などと中傷し、それを広めるといった行為は逆パワハラに該当し得ます。

また、部下から上司という関係でも行われることが想定されるものとして、人前で侮辱する行為があります。

たとえば、人前で上司の能力や人格を否定する言動をすることは、逆パワハラに該当する可能性があります。

そのような内容のメールなどを、当該上司を含む複数の労働者に当てて送信することも逆パワハラに該当し得ます。

 

人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

典型的には、パワハラ行為者が気に入らない労働者に対して、仕事から外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅で研修させたりすること(隔離、仲間外し)や、同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること(仲間外し、無視)が、パワハラに該当し得る例として考えられます。

逆パワハラとなり得る行為としては、上司からの業務に関する指示を無視する行為があげられます。

具体的には、上司からの業務に関する指示を度々無視したり、従わなかったりするといった行為や、集団で示し合わせて業務に関する指示を無視するなどの行為は、逆パワハラに該当する可能性があります。

 

過大な要求

業務上明らかに必要ではないことを行わせることや、遂行不可能なことを強制する、仕事を妨害するといった行為があげられます。

 

過小な要求

業務上必要がないのに、当該労働者の能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないことがあげられます。

 

私的なことに過度に立ち入ること

労働者の性的指向等や病歴といった個人情報について、当該労働者の承諾なく他の労働者に教えることなどがあげられます。

参考:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)

類型によっては、部下から上司という関係では、起こりにくいものもありますが、パワハラに該当する行為自体、上記の類型に限られるものではありませんから、職場における他の労働者からの言動で悩んでおられる方は、上記の例に該当しないものであったとしても、労働問題に詳しい弁護士相談窓口等に相談されることをおすすめします。

また、会社としても、上記の例に該当しない行為であるからといって、パワハラに該当しないと即断せず、労働者からの相談を真摯に聞き、場合によっては行為者等からも話を聞き、事実確認等を行うことが大切です。

判例 小田急レストランシステム事件(東京地判平成21年5月20日)

部下が、上司について、お金を横領している、職場からお金を盗んでいる、女性従業員に対し付きまとい行為をしているなどといった中傷を含むビラを作成するなどし、当該上司がそのビラの内容に関する責任を問われたことなどにより、うつ病を発症し自殺したという事案であり、裁判所は、うつ病の発症及び自殺が業務に起因することを認め、労災認定をしました。

参考:裁判例結果詳細 | 裁判所

判決の中に、「パワーハラスメント」という言葉は出てきませんが、部下が中傷ビラを会社の上層部あてに送付したり、家族への脅迫を疑わせる行動をしたことが、部下とのトラブルとして、当該上司に心理的負荷を与えたと判断しており、その他の事情と一体となって、その心理的負荷の強度は強いものであったと認定しています。

このように、部下の言動が、上司のうつ病の発症の原因となったり、自殺の原因となったりすることがあります。

したがって、部下との関係に悩む上司は、部下の言動がパワハラに該当する可能性があることを認識し、一人で抱え込まず、相談をすることが重要です。また、会社としては、逆パワハラ防止の対策を講じ、パワハラに悩む労働者が相談できる環境を整えることが大切です。

従業員がうつ病になった場合の会社の責任に関してはこちらをご覧ください。

 

 

逆パワハラが起こる原因

「逆パワハラ」が起こる原因として、上司による部下の適切な管理・指導が行いにくい状況となっているということがあげられます。

そのような状況となっている背景として、「パワハラ」に関する間違った認識が広まっていることが考えられます。

「パワハラ」は、上記でもご説明したとおり、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであるという、3つの要素をすべて含むものです。

「②業務上必要かつ相当な範囲を超えた」とあるように、「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導」である場合については、パワハラには該当しません。

しかし、世間では、ハラスメントであるかどうかは、受け手の主観で決まるといったような誤った認識が広まってしまっています。

こうした誤った認識により、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導まで、パワハラと評価されるのではないかといったおそれが生じ、また実際に部下からパワハラであると批判されるという事態が生じ、上司による部下の適切な管理・指導が難しくなるという状況が生まれることがあります。

また、上司による部下の適切な管理・指導が行いにくい状況となっている背景として、上司と部下という関係ではあるものの、上司よりも部下の方が業務に関する知識や経験を有しているという場合など、実際のパワーバランスとしては、部下の方が強いという状況となっている場合が生じていることがあります。

この場合、この部下が通常業務を回しているために、上司は、この部下に問題があっても、注意指導をすることが難しく、また、部下が上司を軽んずる事態が生じるなどすることにより、上司が部下を適切に管理・指導することが困難となるのです。

 

 

逆パワハラを防ぐために企業ができる対策

逆パワハラを防ぐために企業ができる対策

パワハラに対する誤った認識や、パワーバランスの逆転を背景に、上司による部下の適切な管理・指導が困難となり逆パワハラが起こりやすくなっている状況を改善し、逆パワハラを防止するために、企業が行うべき対策をご紹介します。

まず、2019年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」))の改正、2022年4月1日の「パワハラ防止法」の施行により、すべての会社においてパワハラ防止対策を講じることが義務となりました。

パワハラ防止対策として講じなければならない措置は、以下のとおりです。

  • 事業主の方針等の明確化及び周知・啓発
  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応
  • 併せて講ずべき措置

参考①:パワーハラスメント防止措置について|厚生労働省
参考②:厚生労働省告示第五号|厚生労働省

以下では、上記の措置を具体的にどのような形で行うかという点やその他具体的なパワハラ防止対策をご紹介します。

 

就業規則の整備等

①のとおり、会社は、パワハラについてどのような対応をしていくのかという点について明確にし、従業員に周知する必要があります。

そこで、具体的には、会社のルールを定めている就業規則において、パワハラに対して、どのような対応をするか、すなわちパワハラを行った労働者をどのように処分するかという点を定める服務規定や懲戒規定を整備することが必要となります。

また、パワハラを行ってはならないというメッセージを社内報や社内サイト等に掲載し、労働者に周知するという方法も考えられます。

 

相談窓口の設置

②の措置を実施するため、具体的には、相談窓口を設置することが求められます。

相談窓口は、社内に設置するだけでなく、外部に設置する方法もあります。

社内の相談窓口は、労働者にとって相談しづらいという場合もあるため、外部窓口を活用することも検討されるとよいでしょう。

また、相談窓口を設置するにとどまらず、設置していることを労働者に広く周知することも重要です。

なお、労働問題に注力する法律事務所の中には、相談窓口の対応方法をわかりやすく説明したり、外部相談窓口を引き受けてくれたりするところもあります。

相談窓口についてはそのような事務所に相談されると良いでしょう。

 

社内研修の実施

逆パワハラが起こる背景に、パワハラに関する誤った認識が広まっていることがあります。

パワハラ・逆パワハラを防止するためには、労働者に対して、パワハラについての社内研修を実施し、正しい認識をもってもらうことが重要です。

社内研修は、ハラスメント問題に精通した弁護士を外部講師として招いて実施するなどすると、効果的に行うことができるでしょう。

パワハラ防止法が定める会社が講ずるべきパワハラ防止対策について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

逆パワハラにはどう対処したら良い?

部下から逆パワハラを受けた場合

相談窓口へ相談する

部下から逆パワハラを受けた場合には、会社において設置されている相談窓口に相談するということが考えられます。

自身で、逆パワハラに該当するかどうかを判断するのは困難であり、相談をしていいものか迷われることもあるかもしれません。

しかし、そのような逆パワハラに該当するかどうかわからないという場合であっても、相談をして何ら問題ありません。

なお、上記のとおり、会社はパワハラ等の相談体制を構築することが義務化されていますが、未だ相談窓口が設置されていない会社は数多く存在します。

もし、会社に相談窓口が設置されていない場合は、上司や経営者の方に相談されると良いでしょう。

中小企業の場合は経営者ご自身が逆パワハラの被害を受けているという状況も想定されます。そのような場合は、労働問題に詳しい弁護士へ相談されると良いでしょう。

 

証拠を残す

部下の言動が逆パワハラに該当する疑いがある場合には、当該部下の言動を証拠化しておくことが重要です。

たとえば、メール等で中傷を受けたような場合には、当該メールを保存しておきましょう。

そのような証拠が残らないような言動の場合には、業務日誌に記録する、日記やメモに記録しておくということも考えられます。

たとえば、部下が業務に関する指示を度々無視する、従わないといった行動を取っている場合、いつ、だれに、どのような業務を指示し、どのように無視をされた(従わなかった)かを継続的に記録しておくといったことが考えられます。

もっとも、どのような証拠が有効となるかは具体的な状況によって異なります。

そのため、パワハラ問題については、早い段階で、労働問題に詳しい弁護士へのご相談をお勧めいたします。

 

企業としての対処法

逆パワハラを受けている労働者からの相談を受けるなどして、逆パワハラが発生している疑いがある場合、会社としては、以下の対処を行っていくことになります。

  • 1
    逆パワハラ行為を特定する
  • 2
    逆パワハラの証拠を集める
  • 3
    逆パワハラの行為者に対し、妥当な処分を行う

 

具体的にどのように対処を行っていくべきかについて、詳しくは以下の解説をご覧ください。

 

 

まとめ

以上のように、職場におけるパワハラは、上司から部下へのものに限られず、部下の言動が上司へのパワハラとなることがあります。

世間では、パワハラに対して敏感になってきていますが、上司から部下へのパワハラに比べ、部下の言動が上司へのパワハラとなるということへの認識はまだまだ薄いのではないでしょうか。

また、パワハラに関しては、ほかにも、受け手の主観によって決まるといった誤った認識が広まっているということもあります。

パワハラを防止し、すべての労働者が、安心してそれぞれの能力を発揮することができる職場としていくためには、まず、パワハラに関して正しい認識をもつことが重要といえるでしょう。

会社としては、法律で義務化されたパワハラ防止対策を適切に講じつつ、労働者にパワハラに関する正しい認識をもってもらうよう社内研修などを通して働きかけ、実際にパワハラが起こった際には、適切に対処することが求められます。

労働者に対する社内研修をどのように行うべきかということや、パワハラが起こった際の対応などに悩まれた場合には、パワハラ問題に精通した弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

 




  

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