安全配慮義務とは|法律・違反ケース・対応策をわかりやすく解説

執筆者
弁護士 木曽賢也

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

労働問題で「安全配慮義務」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思います。

しかし、安全配慮義務という言葉自体は抽象的でわかりにくいと思います。

会社に安全配慮義務違反が認められれば、会社は債務不履行責任(民法415条1項)を負い、従業員に対して金銭的な賠償をしなければなりません。

本記事では、安全配慮義務とは何かということについて、具体例を挙げながら解説いたします。

安全配慮義務について詳しく知られたい方は是非最後まで本記事をご覧になってください。

安全配慮義務とは

安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、従業員が就労するにあたり、会社側が従業員の生命や健康を危険から保護するよう配慮すべき義務をいいます。

 

安全配慮義務は法律でどう定められている?

安全配慮義務の法的根拠については、労働契約法5条に定められています。

根拠条文
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

引用:労働契約法|e-Gov法令検索

元々は、安全配慮義務は判例で認められた考え方でしたが、現在ではこの労働契約法5条が安全配慮義務の法的根拠になっています。

 

安全配慮義務の責任者

安全配慮義務の責任者は、従業員の雇用主である法人個人事業主です。

管理職(部長・課長・工場長など)も、法人に代わって安全配慮義務を負う責任者になり得ます。

また、派遣先の法人も派遣労働者に対して安全配慮義務を負っていると考えられています。

 

安全配慮義務の対象

会社は、基本的に全ての従業員(正社員、パート・アルバイト、契約社員、嘱託社員等)に対して安全配慮義務を負っています。

また、元請会社は、下請会社の従業員にも安全配慮義務を負うこともあります。

 

安全配慮義務の罰則

安全配慮義務違反の場合の罰則としては、以下のようなものが挙げられます。

安全配慮義務違反をした場合の罰則

 

労働安全衛生法上の罰則

労働安全衛生法には、安全配慮義務の具体的な根拠になり得る条文がいくつもありますが、その条文に違反した場合には、その内容に応じた拘禁刑や罰金が設けられています(労働安全衛生法116条、117条、119条、120条)。

参考:労働安全衛生法|e-Gov法令検索

 

刑事上の罰則

安全配慮義務違反により、人を死傷させた場合には、業務上過失致死傷罪(刑法211条)が問われるケースもあります。

参考:刑法|e-Gov法令検索

 

行政上の罰則

行政上の罰則として、労働基準監督署から是正勧告、行政指導、作業の停止処分(労働安全衛生法98条、99条)などがあります。

参考:労働安全衛生法|e-Gov法令検索

 

 

安全配慮義務の具体例

物的施設(設備)の管理を十全に行う義務

物的施設(設備)の管理を十全に行う義務としては、

  • 安全装置(例:転落防止用ネット、手すり等)を施す義務
  • 機械等の整備点検を十分に行う義務
  • 防犯設備を施す義務

などが考えられます。

  • 人的組織(設備)の管理を十全に行う義務
  • ある事項に関する安全教育を十分に行う義務
  • 労働者の不安全行為に対する適切な注意・指導を行う義務
  • 労働者の労働時間(過重労働になっていないか等)を把握する義務
  • 有資格者や安全監視員を配置する義務

などが考えられます。

 

 

安全配慮義務違反となるケース

安全配慮義務違反となるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

安全配慮義務違反となるケース
  • 安全教育が実施されていない
  • 長時間労働を強いている
  • ハラスメントを放置している
  • 転落防止措置をしていない

 

安全教育が実施されていない

安全教育が何ら実施されていない場合には、安全配慮義務違反になり得ます。

例えば、ケガをする危険性がある機械の使用方法や注意事項をしっかり説明されていない場合に従業員がケガをしてしまった時などが該当します。

 

長時間労働を強いている

何ヶ月間もの間、長時間労働を強いて、従業員がメンタル不調などに陥った際には、会社側の安全配慮義務違反が問われてしまうことがあります。

特に、過労死ライン(残業について1ヶ月100時間以上、または2〜6ヶ月の平均が80時間を超えるとき)場合には、容易に安全配慮義務違反が認められると考えられます。

 

ハラスメントを放置している

セクハラやパワハラの事実を認識しながら、会社側として加害者側への注意指導や、配置転換などの防止措置を行わなかった場合には、安全配慮義務違反となる可能性があります。

 

転落防止措置をしていない

高所にもかかわらず、安全帯の着用や防網などの転落防止措置を施していない場合には、安全配慮義務違反となりやすいです。

 

 

安全配慮義務とメンタル対応|企業に求められる配慮とは?

メンタル関連で安全配慮義務違反とならないためには、以下のような対策が必要です。

メンタル関連で企業に求められる配慮とは

ストレスチェック制度の運用

常時50人以上が雇用されている事業所では、ストレスチェックの実施が義務付けられています(労働安全衛生法66条の10)。

参考:労働安全衛生法|e-Gov法令検索

参考:労働安全衛生法|e-Gov法令検索

義務付けられているストレスチェックを怠った場合には、安全配慮義務違反になり得ますので、実施していない会社は今すぐ対策すべきです。

 

定期的な面談等で早期発見

定期的に面談などを行って、心身に異常がないか確認することも必要です。

従業員からメンタル不調の訴えがあったり、様子がおかしい場合には、産業医や病院への受診を勧めましょう。

 

休職の検討

療養が必要な従業員には、休職してリフレッシュしてもらうことも検討してください。

休職は、就業規則に規程があればその内容に従って、休職命令を出すかどうか検討します。

 

 

安全配慮義務違反にならないために企業が取るべき対策

安全配慮義務違反にならないために企業が取るべき対策

健康診断の実施

会社は雇い入れ時や1年に1回、健康診断を受けさせる義務があります。

健康診断の結果を確認し、従業員の身体的な異常を早期に発見することによって、安全配慮を実行する契機となり得ます。

 

安全衛生の規程を整備する

就業規則上の安全衛生に関する規程をきちんと作成し、運用することも重要な対策の1つです。

この安全衛生に関する就業規則等が決め手となって、最終的に会社が安全配慮義務違反とならないケースもあり得ますので、決して軽視できないものです。

 

各種研修を行う

安全教育に関する研修、ハラスメント研修、メンタルヘルス研修などの各種研修を行い、管理者や従業員に安全配慮に関する理解を深めてもらうことも重要です。

 

労働問題に詳しい弁護士に相談する

安全配慮義務違反とならない対策を考える上で、労働安全衛生法(労働安全衛生規則も含む)や裁判例の理解は不可欠といえます。

しかし、会社にとって、これらの法律や裁判例を理解しようと思っても、非常に時間がかかり、非効率です。

そのため、専門家である弁護士に相談して、対策に関するアドバイスをもらうことが最も良いと思います。

なお、労働問題に詳しい弁護士に相談すると、具体的なアドバイスを受けることが期待できるといえます。

 

 

安全配慮義務の当事務所の解決事例

当事務所の労働事件チームが解決した安全配慮義務に関する解決事例の一部をご紹介します。

 

安全配慮義務違反の損害賠償請求で大幅な減額に成功した事例

製造業S社では、工場内で車両作業中に事故が起こり、従業員が死亡しました。

会社は、ご遺族の方々に対して誠心誠意謝罪するとともに、保険金2000万円を遺族に支払うなど誠実に対応しましたが、後に遺族側弁護士から8000万円の損害賠償請求が届きました。

S社は早期解決を望み1600万円の提案をするも受け入れられず、交渉継続が困難となり、当事務所へ依頼されました。

S社の依頼を受けた弁護士は事故現場を確認し、車両の位置や被災者のヘルメット未着用などから過失の可能性を指摘しました。

また、慰謝料請求額が裁判基準を上回る点にも異議を唱え、交渉を継続しました。

最終的に訴訟に至らず、当初提示額に100万円を加えた1700万円を分割払いとする内容で示談が成立しました。

その他の解決事例は以下のページよりご覧ください。

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労働問題の解決事例

 

 

まとめ

安全配慮義務はどの規模の会社にも関わるとても身近な問題です。

もっとも、執筆者は、安全配慮義務の内容の深い理解や対策の運用について、適切と評価できる会社は少ないと感じています。

安全配慮義務違反による賠償責任を負わないようにするためにも、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

デイライト法律事務所は、安全配慮義務に関するご相談を承っておりますので、是非一度ご相談ください。

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