業務災害とは?弁護士がわかりやすく解説


業務災害とは、従業員が会社の業務を原因として病気や怪我、又は死亡することをいいます。

会社の業務には至るところに危険が潜んでおり、業務災害は決して珍しいものではありませんが、労働災害や通勤災害との違いなど、意外とわからないことも多いのではないでしょうか。

この記事では、業務災害について、その定義、労働災害や通勤災害との違い、認められるための要件や具体例などについて弁護士が解説します。

業務災害とは?

業務災害とは、従業員が会社の業務を原因として病気や怪我をすることをいいます。

法律上は、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」と定義されています(労働者災害補償保険法7条1項1号)。

引用元:労働者災害補償保険法|e-Gov法令検索

工場のような作業現場で発生した事故による負傷など、典型的な例であれば問題なく業務災害と判断できますが、業務上のものといえるのか微妙な事例になってくると、業務災害に当たるかの判断も難しいものになってきます。

業務災害に当たるのかをさまざまな事例で的確に判断するためには、業務災害の定義を正確に理解しておく必要があります。

そこでまずは、業務災害と混同されがちな労働災害や通勤災害との違いについて解説します。

 

業務災害と労働災害との違いとは?

労災保険法では、従業員が業務災害や通勤災害により負傷した場合、保険給付が行われます。

所定の要件を満たせば、業務災害と通勤災害のいずれであっても労災保険法上の給付対象となることから、これらを合わせて「労働災害」と呼びます。

つまり労働災害という広い概念があり、その労働災害の一種として業務災害があるということができます。

労働災害(労災)についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。

 

業務災害と通勤災害の違いとは?

通勤災害とは、「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」と定義されています(労働者災害補償保険法7条1項3号)。

業務災害が「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」でしたので、違いとしては、負傷等が「通勤による」ものか「業務上の」ものかという点になります。

通勤の途中で事故にあって負傷したような場合は、業務災害ではなく通勤災害になります。

原因が業務によるものか通勤によるものかで業務災害と区別されますが、通勤災害も労働災害の一種であり労災給付の対象となります。

業務災害と労働災害、通勤災害の関係をまとめると、次のようになります。

業務災害と労働災害、通勤災害の関係図

通勤災害についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。

 

 

業務災害が認定される基準とは?


業務災害の定義は、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」でした。

たとえば、工場での作業中の事故で怪我をしたような場合には、典型的な業務災害に当たりますが、微妙な事例になってくると、上記の定義を正確に解釈しなければ、業務災害に該当するかが判断できなくなります。

そこでここでは、業務災害に当たるための要件をご紹介します。

負傷等が「業務上の」といえるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件を満たす必要があるとされています。

 

業務遂行性とは?

業務遂行性とは、従業員が会社の管理下ないし支配下にある状態をいうとされます。

労災の該当性は、最終的には事例ごとの個別判断となるため、考え方の解説ということでご理解いただければと思います。

業務遂行性が認められやすいケース

まず、事故が作業中に発生した場合、基本的に業務遂行性は認められます。

作業中断中の事故であっても、トイレや水分補給などの生理的行為に伴うものや、作業に伴う必要な準備や片付けについても、業務遂行性が認められると考えられています。

また、親睦のための宴会や運動会のような、一見業務外の行事等であっても、参加が事実上強制されているものについては、会社の管理下での事故であるとして、業務遂行性が肯定されます。

判例においても、研修生らの歓送迎会後に研修生をアパートまで送り工場に戻って業務を行うために車を運転している途中で発生した交通事故について、業務遂行性が認められています。

参考判例:最判平成28年7月8日|最高裁ホームページ

以上のほか、出張のための移動中や宿泊中などについても、業務上の都合で移動や宿泊をしていることから、業務遂行性が認められやすい傾向にあります。

業務遂行性が認められにくいケース

業務遂行性の有無は、会社の支配下・管理下にあるかによって判断されるため、休憩時間中の行為については、業務遂行性がないと判断されるのが原則です。

なぜなら、従業員は労働基準法上、休憩時間は会社の管理下から離れて自由に過ごすことができるとされているためです。

根拠条文
(休憩)
第三十四条
①・② (略)
③ 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

引用元:労働基準法|電子政府の総合窓口

ただし、休憩時間中であっても、実質的に会社の支配下にある場合や、職場設備の欠陥によって負傷したような場合には、業務遂行性が認められます。

 

業務起因性とは?

業務起因性とは、災害が「業務に内在している危険が現実化したものと認められること」をいいます。

難しい言い回しに見えるかもしれませんが、業務自体が本質的に抱える危険性によって生じた災害であれば業務起因性が認められるということです。

業務起因性が認められない事例としては、地震などの自然災害によるものや、犯罪行為のような外部的要因によるものが挙げられます。

これらはたとえ災害や犯罪が業務中に起こったものであっても、業務それ自体の危険によって生じたものとはいえないため、業務起因性が否定されるのです。

ただし、自然災害や犯罪行為によるものであっても、たとえば台風の最中に屋外での作業を命じられた場合や、不審者に対応することを業務とする警備員のように、業務自体に特に災害や犯罪行為に接近する性質があるときは、業務起因性が認められることもあります。

実際にこれらの基準を満たすかどうか、すなわち労災に該当するかの判断は事例ごとの個別判断となります。

労災の認定基準についての詳細は、こちらをご覧ください。

業務上の疾病の取扱い

業務災害は「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」ですので、業務を原因として生じたものであれば、疾病も業務災害にあたり得ます。

ただし怪我と異なり、病気の場合は本人の不摂生などの生活習慣が原因の可能性も考えられるため、それが業務に起因して発症したのかの因果関係が必ずしもはっきりしない場合があるという問題があります。

そこで労働基準法施行規則では、別表第1の2において、特定の業務に従事したり、化学物質を取り扱ったりする業務において、医学的に関連があると思われる特定の疾病を発症したときには、原則として業務起因性を認めるものとして定められています。

たとえば、紫外線にさらされる業務による皮膚疾患や、粉じんの飛散する場所での業務に当たる従業員が発症した呼吸器疾患といったようなものが、かなり詳細に規定されています。

この表は、「因果関係がはっきりしない」という理由で従業員が救済されないという事態を避けるために、医学的にみて典型的な疾病を類型化したものです。

ですので、業務災害に該当する疾病をこの表に挙げられたものに限定するという趣旨ではありません。

別表の11号には「その他業務に起因することの明らかな疾病」が定められており、業務との関連性が証明されるのであれば、あらゆる疾病が業務災害として認められます。

 

 

業務災害の具体例

業務災害は、業務遂行性と業務起因性をともに満たした場合に認められるものです。

言い換えると、業務遂行性か業務起因性のいずれかを満たさないのであれば、業務災害にはならないということです。

理屈としては以上のようになりますが、実際にどのようなケースであれば業務災害と認められるのかは、実際の事例を見た方が分かりやすいかもしれません。

そこでここでは、業務災害に該当するかについて判断が示された事例をご紹介します。

実際に業務災害と認められるかはあくまで個別の判断になりますので、類似の事例であっても必ずしも同じ結論になるとは限りませんが、参考にしていただければと思います。

業務災害となる例
  • 業務外の行事という位置づけだが、上司から参加を命じられるなど実質的に強制参加のもの
  • 運搬作業中に生じた事故
  • 作業時間中炊事場へ水を飲みに行く途中で生じた負傷
  • 作業終了後、作業用具を返却するために事務所に戻る途中の事故
  • 仕事の進め方を巡って同僚と口論となり暴行を受けた場合
業務災害にならない例
  • 純粋な業務外の行事で自由参加のもの
  • 運搬作業中に知人に自動車を運転させて生じた事故
  • 手待ち時間中に自己の昼食の調理に包丁を用いて負傷
  • 作業終了後、体の汚れを落とすためプールに飛び込んだ際に負傷
  • 業務と無関係な私的な怨恨により暴行を受けた場合

 

 

業務災害の手続の流れ

業務災害により従業員が負傷した場合、労災の認定を受ければ、労災給付の対象となります。

業務災害が発生してから労災を申請し、給付を受けるまでの手続きの流れは、次のとおりです。

業務災害の手続の流れ

①労働災害の発生

業務災害が発生すると、負傷した従業員は治療を受ける必要がありますが、通常の怪我と異なり、労災の手続きを進める必要があることを同時に意識しなければなりません。

 

②従業員が業務災害について会社へ報告

業務災害が発生した場合、速やかに会社に報告します。

労災の申請は会社の方で代行することも多いですし、従業員自身が申請する場合も、会社による証明が必要となりますので、いずれにしても会社の協力は必須です。

 

③労災申請の必要書類を整える

労災の申請をするための必要書類を整えます。

労災の補償には、療養補償給付や休業補償給付などさまざまな種類があることをご紹介しましたが、労災を申請する際は、それぞれの給付に応じた所定の様式によって申請する必要があります。

また、給付によっては、申請書のほかに別途添付資料を求められることもあります。

申請書の様式については、厚生労働省のホームページのほか、当事務所のホームページからもダウンロードしていただけますので、詳しくはこちらをご覧ください。

 

④労働基準監督署へ労災の申請

労災の申請は、申請書を労働基準監督署へ提出して行います。

提出するのは、会社の所在地を管轄する労働基準監督署です。

労基署の管轄は、厚生労働省のホームページで確認できます。

参考:厚生労働省ホームページ

 

⑤労働基準監督署による調査

申請を受けた労基署は、申請が労災保険給付の対象となるかの調査を行います。

調査は提出された書類による書面審査に加えて、必要に応じ追加の資料提出や聞き取りを求められることもあります。

 

⑥支給・不支給の決定通知

調査を終えて結論が出ると、支給又は不支給の結果が申請者(従業員)に通知されます。

不支給決定が出た場合は、不服申し立ての手続きによって決定を争うことができます。

 

⑦支給の場合は補償金が支払われる

一方、支給決定が出た場合は、申請書に記載した金融機関に所定の給付額が振り込まれて支給されます。

労災申請の流れについての詳しい解説は、こちらをご覧ください。

 

 

業務災害の場合の労災保険で補償される内容

業務災害は「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」ですので、労災の認定を受けられた場合、これらに対して補償が受けられます。

労災における代表的な補償の概要は、次のとおりです。

 

負傷、疾病

負傷と疾病に対して給付されるのは、療養補償給付です。

療養補償給付とは、簡単に言えば怪我や病気の治療費の給付のことです。

労災病院や労災指定医療機関であれば、現物給付として費用負担なく医療サービスが受けられますし、それ以外の医療機関を受診した場合でも、後日費用が還付されます。

また、病気や怪我を治療するだけでなく、これを原因として休職するなど休業損害が発生した場合には、休業補償給付を受けることができます。

 

障害

治療を受けたにもかかわらず、症状の改善が一定以上見込めなくなった場合、すなわち後遺症が残ってしまった場合には、障害補償給付が受けられることがあります。

障害補償給付の対象となる場合、障害の重さに応じた等級に基づいて給付を受けることができます。

 

死亡

不幸にして従業員が亡くなってしまった場合、その配偶者や子等の親族には、遺族補償給付が支給されます。

遺族補償給付は、遺族補償年金又は遺族補償一時金の形で支給されます。

またこの他、葬儀に関する費用として、葬祭料の補償もあります。

労災の給付内容の詳細については、こちらをご覧ください。

 

 

業務災害のポイント

業務災害に当たるかの判断は難しい

業務災害に当たるかは、業務遂行性と業務起因性があるかによって判断されるとご説明しました。

判断のポイントはこの2点だけであるため、いっけん非常にシンプルに見えるのですが、業務遂行性と業務起因性を満たすかの判断自体が、極めて専門的で難しいものとなっています。

業務関連の事故は、誰でも労災と判断がつくような典型的なものばかりでなく、業務との関連が認められるのか、ボーダーラインに近いような微妙な事例も多く発生します。

実際、同じような事例であっても、事案の細部が少し異なるだけで、一方が労災となりもう一方は労災とならないといったことも稀ではありません。

業務災害に該当するかを正確に判断するためには、専門的な知識や経験が求められるのです。

 

業務災害にくわしい弁護士に相談する

業務災害が発生した際には、業務災害にくわしい弁護士に相談することも重要です。

上記のように、業務災害に当たるかの判断は専門的な知識と経験を有する専門家でなければ難しいものです。

業務災害にくわしい弁護士であれば、法的な知識はもちろんのこと、これまでの対応事例の蓄積を有することから、業務災害に当たるか否かを高い精度で判断することができます。

また、早期に弁護士に相談しておけば、その後従業員との間でトラブルが起こったような場合にも、切れ目のないサポートでスムーズに対処することが可能となります。

初動を誤ったばかりに事務の手数が増えて対応に追われるといったことを避けるためにも、業務災害が発生した場合には早期に弁護士の助言を得ることが重要といえるでしょう。

 

 

まとめ

この記事では業務災害について、定義や労働災害・通勤災害との違い、認められるための要件、具体例や注意点などを解説してきました。

最後にもう一度、記事の要点を整理します。

  • 業務災害とは、従業員が会社の業務を原因として病気や怪我をすることをいう。
  • 業務中の事故が業務災害であるのに対し、通勤途上での事故は通勤災害になる。両者を合わせて労働災害と呼ぶ。
  • 業務災害と認められるための要件は、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つである。
  • 業務遂行性とは、災害が業務中に発生したことをいい、業務起因性とは、災害が業務に内在する危険によって生じたものであることを意味する。
  • 業務災害に該当するかは判断が微妙な事例も多く、正確な判断には労災についての専門性や豊富な経験が求められる。
  • 業務災害にくわしい弁護士に相談することで、申請だけでなくその後の対応まで含めた一貫したサポートが受けられる。

当事務所では、労災問題を多く取り扱う人身傷害部の弁護士が相談から受任後の事件処理を行っています。

また、電話相談、オンライン相談(LINE、ZOOM、Meetなど)により、全国対応が可能ですので、お気軽にご相談下さい。

 

 

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