安全配慮義務違反の時効はいつまで?【弁護士による解説】

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

所属 / 福岡県弁護士会

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求は、使用者に対して債務不履行責任(労働契約に基づく契約不履行)を追及するものです。

この責任を追及する場合、時効は10年(2020年4月1日からは5年間)になります。

時効の起算点は、民法166条第1項により「権利を行使することができる時から」となります。

 

安全配慮義務違反の根拠

工事現場安全配慮義務については、労働契約法に規定されています。

具体的には、5条で「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定めています。

安全配慮義務違反は、この労働契約法5条に違反することになります。

この場合、企業は安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を従業員から受ける可能性があります。

この損害賠償請求の根拠は、法律上債務不履行責任と考えられています。

すなわち、企業は従業員との労働契約に基づいて、安全配慮義務という債務を負っており、違反があるということは、この債務を履行していない(不履行)であるということになります。

安全配慮義務違反による損害賠償請求を巡っては、不法行為(民法709条)による請求も考えられなくはないのですが、不法行為の場合、現在の民法では時効期間が3年間と短いため、基本的には債務不履行責任を根拠として請求を構成するのが一般的です。

 

 

債務不履行と時効

時間経過安全配慮義務違反について、従業員がいつまでも無制限に企業に対して請求をできるかというとそうではありません。

貸金や売買代金といった他の請求と同じように、時効があります。

この点、先ほどの安全配慮義務違反の根拠から、時効は、債務不履行責任の期間のルールが適用されます。

具体的には、権利を行使することができるときから10年間です(民法166条1項)。

この期間を過ぎると、従業員側が請求をしてきても、企業側は時効により権利が消滅していると主張することができます。

「権利を行使することができるとき」というのは、簡単にいえば請求が可能なときからという意味です。

当然、事案によってこの時期は異なってきます。

具体例

令和2年3月1日、A建設現場にて労働者が作業中、上から落下してきた鉄骨に当たって死亡しました。

A建設現場では、一応ヘルメットを支給していましたが、ヘルメットの不着用が常態化しており、現場の指揮監督者もそれを黙認していました。

このような具体例では、ヘルメットの不着用を注意、指導していなかった企業に安全配慮義務違反が認められる可能性がありますが、時効の起算点は労災事故の発生した令和2年3月1日からとなり、そこから10年後の令和12年2月末までに請求しなければ、時効が完成し、請求ができなくなるリスクがでてきます。

他方で、患者によって病状進行の有無、程度、速度が多様である事例等(例:じん肺)では、いつから「権利を行使することができる」といえるかの判断が難しくなります。

「労災事故のあった日」が特定できない、あるいは、特定することが極めて困難だからです。

この点について、最高裁では、最判平成6年2月22日において、石炭鉱山で就労してじん肺症に罹患した従業員またはその遺族らが安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をした事案で、消滅時効の起算点を「最終の行政上の決定を受けた時から進行する」と判断しました。

このように、どこから10年間なのかは事案によって異なってきますが、10年間という期間については企業としても押さえておく必要があります。

したがって、退職してからしばらく経過して、元従業員が安全配慮義務違反による損害賠償を請求してくるということも起こり得るのです。

 

 

民法改正と安全配慮義務違反の時効の影響

改正民法が2020年4月1日から施行されますが、今回の改正では債務不履行の時効についても大きくルールが変わります。

そのため、2020年3月31日までのものは、先ほどのとおり10年間なのですが、4月1日からは、5年間になります。

具体的には、安全配慮義務違反によって、従業員の身体や生命に損害が生じた場合、権利を行使することができることを知った時から5年以内であり、かつ、権利を行使することができるときから20年以内に請求しなければ、時効が成立するというルールが適用されます。

したがって、基本的には、労災事故などが発生して5年間というのが新たな時効になります。

先ほどの事例が令和2年4月3日に発生したとすると、令和7年4月2日までに請求をしなければ、時効が完成するということになります。

このように、今後実務には大きな影響が出る可能性があります。

 

 

まとめ

ここまで、安全配慮義務違反と時効の問題について解説してきました。

民法改正により時効の期間は短くなりますが、それでも5年間という期間、請求期間があることになります。

企業としては、そもそも安全配慮義務違反にならないよう日頃から労務管理を行っておく必要がありますが、任意労災保険に加入するなどしてリスク管理をしておくことが大切です。

ご相談の流れはこちらをご覧ください。

 

 

   
執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

所属 / 福岡県弁護士会

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

専門領域 / 法人分野:労務問題、外国人雇用トラブル、景品表示法問題 注力業種:小売業関連 個人分野:交通事故問題  

実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所のパートナー弁護士であり、北九州オフィスの所長を務める。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行っている。労働問題以外には、商標や景表法をめぐる問題や顧客のクレーム対応に積極的に取り組んでいる。




  

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