労働審判で解雇の無効と未払残業代を請求されて解決した事例

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

解決までの期間:約3か月

弁護士に依頼した結果

項目 労働者側の請求額 弁護士介入による結果 減額利益
損害額 600万円 150万円 450万円

 

事案の概要

A社は、経営状況が悪化したこともあり、人事考課で成績が不良な従業員を解雇することとしました。

解雇にあたっては、法律上必要な予告期間(1か月前)に従業員に通知したうえで解雇をしました。

しかし、解雇からしばらくして、A社宛に裁判所から書類が届きました。

A社が中身を確認したところ、解雇した従業員からの申立てで、解雇の無効と未払残業代など約600万円の支払いを求めて、労働審判を提起したというものでした。

そして、初回の期日がすでに指定されており、約1か月後ということでした。

裁判所から書類が届いて驚いたA社の担当者の方が、どう対応すべきかわからなかったため、デイライト法律事務所の弁護士に相談に来られました。

 

弁護士の関わり

まず、弁護士は労働審判の申立書を確認して、従業員側の要求事項と主張を確認し、A社の方に解雇に至る経過を伺いました。

A社の解雇は経営不振を理由としたものでしたので、これを裏付ける決算書などの会計書類の準備を依頼し、労働審判の期日に先立って、解雇がやむを得なかったことの主張を具体的な事実や証拠をもとに弁護士が答弁書を作成しました。

また、未払残業代については、A社は、毎月一定額の手当を基本給とは別に支払っていました。

この手当がいわゆる固定残業代として支払われていたものであることを主張し、従業員が請求する残業代は不当であると回答しました。

以上の準備を行った上で、労働審判期日を迎えました。

第1回の期日では、争点となっている解雇に関する事情と残業代について、元従業員の労働時間と手当の性質に関する事情が労働審判委員より確認されました。

その上で、双方の意向を踏まえ、和解に向けて労働審判委員会の指揮の下、交渉をしていきました。

その結果、手当に残業代が含まれているという会社側の主張が認められ、第2回の審判期日において、解雇と未払残業代の問題を含めて解決金約150万円を支払うという和解が成立しました。

当初の従業員側の請求が600万円ですので、4分の1まで減額することができました。

 

補足

▪️解雇について

従業員から解雇の無効を主張された場合、会社側は手続面(予告期間や予告手当)の遵守だけでなく、労働契約法16条の解雇権濫用法理に関して、解雇に合理的な理由があること、解雇が社会通念上相当であることの2点を主張していく必要があります。

終身雇用制度が少しずつ崩れてきているとはいえ、まだまだ日本の裁判実務では、従業員の解雇の有効・無効は厳格にチェックしているというのが実情です。

経営悪化を理由とする解雇は、整理解雇と呼ばれ、以下の4つの要件を満たす必要があるとされています。

1 人員削減の必要性
2 整理解雇の必要性
3 被解雇者選定の妥当性
4 手続の妥当性

1の人員削減の必要性は、そもそも経営悪化を理由にリストラをしなければならない状況なのかという問題です。

そして、2の整理解雇の必要性は、配転など、事業部署を変更する形で従業員を残すことができないのか、希望退職などを先に募っているかという点を考慮します。

その上で、選定された従業員が妥当なものなのかという点が判断されます(3の要件)。

仮に裁判で解雇が無効となった場合には、原則として解雇から判決までの期間(通常は裁判になれば1年以上かかります。)の賃金を会社側は支払わなければならなくなるので、会社側は常にそのリスクを考えておく必要があります。

例えば、年収が500万円の社員に対する解雇が1年後に無効とされると、勤務していないにもかかわらず、500万円を元従業員に支払わなければならなくなるのです。

▪️固定残業手当について

一定の残業が生じる企業においては、残業代の趣旨で定額の手当を支給しているところがあります。こうした残業に対する定額の手当を固定残業手当といいます。

固定残業手当については、いくら企業が残業代の趣旨で手当を支給していても、一定の要件を満たさなければ、残業手当として認定してもらうことができません。

この要件というのが、明瞭区分性と呼ばれるものです。

すなわち、定額の残業手当が何時間分の残業に対するものであるかが明確に従業員側に示されていることが必要です。

また、手当の額が割増賃金によって計算された残業代を下回るものであってはならず、仮に支給されている手当以上の残業があった場合には、その差額部分の支払も毎月行っておかなければなりません。

このように、安易に固定残業手当を採用すると、かえって企業にとってマイナスになるため、慎重に制度設計をする必要があります。

今回のケースでも、仮に判決で解雇が無効とされれば、500万円ではすまない額となるリスクがA社にはありました。

ですので、解雇と未払残業代あわせて和解での早期解決ができた今回のケースはA社にとって有利なものであったと思います。

 

 





  

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