請負や派遣でも安全配慮義務を負う必要はある?【弁護士解説】

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

企業は雇用する従業員について安全配慮義務を負っています(労働契約法5条)。

この安全配慮義務については、直接の雇用関係にない、下請会社で働く従業員や派遣労働者についても認められる可能性があります。

そのため、企業はこうした下請や派遣の従業員のマネジメントも適切に行う必要があります。

安全配慮義務とは

安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、従業員の生命や身体に危害が加えられないよう会社側が配慮しなければいけない義務のことをいいます。

安全配慮義務の内容(どのように配慮しなければいけないかなど)は、労働安全衛生法や裁判例などによって個別具体的に判断されます。

参考:労働安全衛生法|e-Gov法令検索

会社が安全配慮義務を怠ると、従業員から慰謝料などの損害賠償請求をされるおそれがあります。

 

 

請負や派遣の法律関係

建築業や製造業の分野では、下請けを利用するということが一般的に行われています。

とりわけ、建築業では、下請けを受けた企業からさらに下請けをするという孫請けもよく行われています。

造船所そうすると、元請企業の指揮する現場には、下請企業の従業員、孫請企業の従業員がいるといったことも起こりえます。

このとき、元請企業と下請企業の従業員には、直接の雇用契約は締結されていません。

元請け、下請けの関係と同じく、派遣会社の従業員も派遣先企業と直接雇用契約を結んでいるわけではありません。

このように、従業員の立場からすると雇用主はあくまで下請企業や派遣元企業なのです。

 

請負と派遣の違い

ここで、請負と派遣の違いについても解説いたします。

請負と派遣の違い

請負(民法632条〜)は、発注者と請負会社が請負契約を締結し、請負会社の従業員が請負会社の指揮命令の下、仕事の完成を目指すものになります。

参考:民法|e-Gov法令検索

これに対し、労働者派遣(労働者派遣法2条1号)は、派遣元と派遣先が労働者派遣契約を締結し、派遣元の従業員は派遣先の指揮命令の下、業務を行うものです。

参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索

つまり、従業員は、請負の場合は雇用主から指揮命令を受け、労働者派遣の場合は雇用主ではない派遣先から指揮命令を受けるという点に違いがあります。

 

 

請負や派遣の安全配慮義務の責任はどこまで?

このような法律関係を前提とすると、下請企業の従業員や派遣元企業の従業員には労働契約法5条で定められている安全配慮義務を負わないとも考えられます。

しかしながら、裁判実務ではそのように取り扱われてはいません。

この点、最高裁判所は、安全配慮義務について、広く「特別の社会的接触関係」にある当事者間における義務であると考えており(最三小判昭和50年2月25日)、現在もこの考え方を基本にしています。

実際、下請企業の従業員や派遣元企業の従業員は、元請企業や派遣先企業の指示、監督のもと作業を行うことになり、作業場所の指示だけでなく、設備や器具の提供を受けたりしています。

したがって、請負や派遣という形態をとっていても、元請企業や派遣先企業の管理が事実上及んでいるのが通常です。

そこで、請負や派遣の場合でも、企業は安全配慮義務を負うことになっているのです。

安全配慮義務と密接に関係する労災においても、製造業及び土木・建設業について、数次の請負が行われる場合でも、そこで生じた労働災害については、被災者が下請企業の雇用する従業員であっても、元請企業を使用者とみなすと定められています(労働基準法87条1項、労働基準法施行規則48条の2)。

 

裁判例

請負や派遣で安全配慮義務が問題となった裁判例としては、以下のようなものがあります。

判例① 元請企業と下請企業の従業員【三菱重工業事件:最一小判平成3年4月11日】

元請企業の下請企業従業員に対する安全配慮義務

この事案では、元請企業の造船所の下請工等として、この造船所の敷地内で、騒音を伴う船舶の建造作業等に従事していた従業員が、元請企業より耳栓の支給が遅れたり必ずしも十分に支給されなかった結果、騒音性難聴に罹患したとして、元請企業に安全配慮義務違反が認められました。


判例② 派遣先企業と派遣労働者【東京高判平成21年7月28日】

派遣先企業の派遣労働者に対する安全配慮義務

雇用されている派遣元企業から派遣されて派遣先企業の指導監督の下、深夜交代制でクリーンルーム内での半導体製造装置の検査業務に従事していた従業員が、過重な労働等による肉体的及び精神的負担によって罹患したうつ病により自殺したとして派遣元企業と派遣先企業に安全配慮義務違反が認められています。


判例③ 親会社と子会社労働者【長野地判昭和61年6月27日】

親会社の子会社労働者に対する安全配慮義務

請負や派遣と似た関係にあるものとして親子関係にある会社が考えられます。こうした親子会社に関して、この裁判例では、石綿製品の製造作業に従事していた従業員がじん肺(石綿肺)に罹患したことについて、事実上、親会社から労務提供の場所、設備、器具類の提供を受け、かつ親会社から直接指導監督を受けて、子会社が組織的、外形的に親会社の一部門のような密接な関係を有していた等として、親会社に安全配慮義務違反が認められています。

 

 

請負や派遣にも安全配慮義務が適用される理由

このような法律関係を前提とすると、下請企業の従業員や派遣元企業の従業員には労働契約法5条で定められている安全配慮義務を負わないとも考えられます。

しかしながら、裁判実務ではそのように取り扱われてはいません。

この点、最高裁判所は、安全配慮義務について、広く「特別の社会的接触関係」にある当事者間における義務であると考えており(最三小判昭和50年2月25日)、現在もこの考え方を基本にしています。

参考裁判例:最三小判昭和50年2月25日|最高裁ホームページ

実際、下請企業の従業員や派遣元企業の従業員は、元請企業や派遣先企業の指示、監督の下作業を行うことになり、作業場所の指示だけでなく、設備や器具の提供を受けたりしています。

したがって、請負や派遣という形態をとっていても、元請企業や派遣先企業の管理が事実上及んでいるのが通常です。

そこで、請負や派遣の場合でも、企業は安全配慮義務を負うことになっているのです。

安全配慮義務と密接に関係する労災においても、製造業及び土木・建設業について、数次の請負が行われる場合でも、そこで生じた労働災害については、被災者が下請企業の雇用する従業員であっても、元請企業を使用者とみなすと定められています(労働基準法87条1項、労働基準法施行規則48条の2)。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

参考:労働基準法施行規則|e-Gov法令検索

 

下請企業・派遣先の安全配慮義務

下請企業や派遣先の安全配慮義務の例としては以下のようなものが挙げられます。

 

下請企業

  • 安全教育の実施
  • 安全用具(安全帯やヘルメット)の着用を義務付ける
  • 健康状態の確認
  • 労働時間管理

 

 

派遣先

  • 機械に不備がないか等の点検
  • 作業主任者の選任(労働安全衛生法14条)

 

参考:労働安全衛生法|e-Gov法令検索

 

元請企業・派遣元の安全配慮義務

元請企業や派遣元の安全配慮義務の例としては以下のようなものが挙げられます。

 

元請企業

  • 下請企業に対しての労働安全衛生法関係の違反是正の指導
  • 転落防止措置などの危険対策の実施

 

派遣元

  • 安全教育の実施
  • 安全用具(安全帯やヘルメット)の着用を義務付ける
  • 健康診断を実施する
  • 派遣先でハラスメントがあった旨の申告を受けた場合に適切な対応をすること

 

 

派遣労働者の安全衛生管理とは?

派遣労働者の安全衛生管理とは、派遣労働者が安全に働けるよう、派遣先と派遣元でそれぞれ役割分担や連携をして安全の管理を行うことをいいます。

派遣労働者の場合、雇用関係にあるのは派遣元と派遣労働者なので、労働安全衛生法上の義務は派遣元しか負わないようにも思えます。

しかし、労働者派遣法45条では、労働安全衛生法の一部の規定が派遣先の会社にも適用されることを規定しています。

このように、労働者派遣法45条は、派遣労働者の安全衛生管理の考え方を明確に示した条文といえます。

参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索

 

 

まとめ

このように、直接の雇用関係にない請負や派遣に関しても、労災が発生すれば、元請企業や派遣先企業が労災保険の対応をしなければなりませんし、管理が不十分であれば安全配慮義務違反を問われるリスクがあります。

安全配慮義務違反を問われると、労災保険では補償されていない慰謝料といった損害賠償の請求を受けることになってしまい、企業に与える影響も大きくなります。

したがって、元請企業や派遣先企業については、従業員が「下請けだから」、「派遣社員だから」といってマネジメントをおろそかにせず、自社従業員と同じように指示や監督を行っていくことが大切です。

もっとも、どのような場合に安全配慮義務違反となるかは専門的知識が必要であり、対策は容易ではありません。

請負や派遣に関する安全配慮義務については、労働問題に詳しい弁護士に相談し、アドバイスを受けて適切に対応するようにしましょう。

 

 




  

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