解雇には正当な理由が必要!解雇できる条件をわかりやすく解説

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

 

会社から一方的に従業員を辞めさせる解雇は、非常にトラブルが多く、団体交渉・労働審判・裁判に発展することがあります。

なぜ、解雇は会社と従業員の間でトラブルになりやすいのでしょうか。

それは、解雇はどのような理由でもできるものではなく、法的に正当な理由がないとできず、会社側でこのことを理解しきれていないケースが多いからです。

そこで、本記事では、解雇できる条件を詳細に解説いたします。

具体的には、

  • 解雇理由について
  • 解雇の種類別の解雇理由
  • よくある解雇理由をランキング形式で概観
  • 解雇後に企業が気をつけるべきこと

などに触れています。

解雇理由とは

解雇理由とは、なぜ従業員を一方的に辞めさせるかという原因のことです。

従業員が会社を辞めさせられるということは、生活していくための収入源を断たれたり、仕事を通じて自己の強みを発揮することや人格的な成長の機会を奪うという、従業員にとって非常にダメージが大きいことです。

このような解雇という重大行為には、当然それを行う理由があるはずです。

 

解雇とは

解雇とは、会社(使用者)から従業員(労働者)に対する一方的な雇用契約の解消のことをいいます

いわゆる「クビ」が、解雇ということになります。

会社から一方的に行うものなので、解雇の要件として、従業員側の承諾は不要です。

他方、会社と従業員が話し合って、双方合意の上で従業員が辞めるのは、解雇ではなく「合意解約」です。

また、従業員が自らの申し出により会社を辞めることは、「辞職」といいます。

解雇された場合、その解雇が有効なものであれば、従業員はその会社での従業員としての地位を失うことになります。

【 解雇・合意解約・辞職の違い 】

内容 従業員の承諾
解雇 会社から従業員に対する一方的な雇用契約の解消 不要
合意解約 会社と従業員がお互い合意して雇用契約を解消 必要
辞職 従業員自らの申し出により雇用契約を解消 従業員が自ら申し出るものであるため、従業員の承諾は問題とならない

 

解雇の法的な根拠

民法上では、雇用の期間に定めがない場合には、各当事者はいつでも解約の申し込みができ、解約の申し込み後2週間が経過すれば雇用契約は終了するとされている(民法第627条1項)。

根拠条文

第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

引用元:民法 | e-Gov法令検索

この民法上の規定が、解雇ができる根拠ということになります。

ただし、解雇は、下記で解説するとおり、労働基準法や労働契約法の制限を受けることになります。

 

解雇は自由にできる?

解雇するために従業員の承諾が不要だとすれば、会社は自由に解雇できると考えてしまいがちです。

実際に、ドラマなどでは、社長は部下に「クビだ!」などと発言する場面をよく目にします。

しかし、日本では、法律上、解雇はよほどの事情がないと認められていません。

この「よほどの事情」のことを以下では「正当な解雇理由」と呼びます。

正当な解雇理由の重要性

以下の理由から、正当な解雇理由の存在はとても重要となります。

裁判に発展するリスク

正当な解雇理由がなく解雇すると、後日、解雇された従業員から裁判を起こされる可能性があります。

そして、正当な解雇理由がない場合、会社は敗訴します。

金銭的なリスク

会社が敗訴した場合、その従業員が復職するだけでなく、会社は解雇したときから復職するまでの給与相当額を支払わなければならないと考えられています。

しかも、その期間は一般的に長期間(注)に及びます。

注:労働裁判の場合、平均審理期間は15ヶ月以上にも及びます。

引用元:2020年|裁判所「地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情」

仮に、解雇してから裁判で判決が出るまでに2年間を要したとします。

その従業員の年収が500万円の場合、会社は従業員に対して、1000万円を支払うことになります。

また、従業員側にとっても、不当解雇は大きな経済的打撃となります。

仮に裁判で勝訴したとしても、審理期間中の収入減、弁護士費用の支払い等を考えなければなりません。

労力・精神的負担のリスク

裁判では、会社側・従業員側双方ともそれぞれの主張を裏付ける証拠資料を提出しなければなりません。

例えば、会社がその従業員を解雇した理由が「能力不足」だった場合、その能力不足の程度を示す証拠となります。

弁護士は、当事者の言い分を法的に構成し、主張する書面を作成してくれます。

また、どのような証拠が必要となるかを依頼者に指示してくれます。

しかし、実際に証拠資料を収集するのは基本的には依頼者自身となるでしょう。

また、訴訟の状況に応じて、弁護士との打ち合わせも必要となります。

さらに、証人尋問では、解雇された従業員、状況をよく知る担当者、会社代表者等が出廷して尋問されることとなります。

このような資料の収集、打ち合わせ、尋問等は依頼者本人にとって大きな労力と精神的な負担がかかることが懸念されます。

社会的な信用を失うリスク

裁判は公開されています。

そのため、敗訴すると、敗訴した当事者の信用が失われることが懸念されます。

例えば、会社であれば取引先への影響が懸念されます。

以上から、解雇は会社側・従業員側双方に大きな負担をもたらすリスクがあります。

したがって、解雇は慎重に判断しなければなりません。

しかし、解雇についての記事は一般的に難しく解説してあるため、素人の方にはわかりにくいのが現状です。

そこでここでは、解雇が認められる場合や紛争予防のポイントについて、労働問題に注力する弁護士がわかりやすく解説します。

また、実務に役立つトラブル防止のための書式も掲載しています。

最後まで読んでいただくことで、違法解雇を避けるための知識やリスクを負わないポイントを整理していただけるかと思います。

ぜひご参考にされてください。

 

 

解雇の種類は4つ

解雇には、大きくわけて、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇(ちょうかいかいこ)、諭旨解雇(ゆしかいこ)があります。

それぞれの意味は下表のとおりです。

解雇の種類 意味
普通解雇 懲戒解雇、整理解雇、諭旨解雇以外の解雇のこと
整理解雇 会社の業績が悪化した際に人員削減のために行う場合など、会社の経営上の理由で労働契約を解消する場合の解雇のこと
懲戒解雇 従業員が会社の秩序を乱す重大な規律違反や非行を行った場合に制裁として行う解雇のこと
諭旨解雇 従業員に懲戒解雇に相当する事情がある場合に、それまでの従業員の功績や反省の程度などに鑑み、温情措置として、従業員に退職届の提出を求め、退職届を提出させたうえで、労働契約を解約するという懲戒処分のこと

解雇にはその種類ごとに法律上、厳しい要件があります。

そのため、以下では、解雇の種類ごとに要件や注意点を解説していきます。

 

 

正当な解雇理由とは?【解雇の種類別】

ここでは、解雇の種類ごとにどのような場合が上記の要件に該当して正当な解雇理由となるのかを解説します。

普通解雇

解雇の問題に関して、最も多くご相談が寄せられているのは普通解雇の事案です。

懲戒解雇のような悪質で重大な事案とまでは行かない場合、会社は解雇できるか否かの判断を迷うことが多いからです。

この普通解雇で会社からご相談が多い解雇理由は、①勤務態度・②勤怠不良・③他従業員とのトラブル・④協調性欠如・⑤能力不足の5つとなります。

解雇理由 具体例
勤務態度 経営陣や上司の指示や命令を全く聞かない、就業規則をはじめとする会社のルールに従わないといったルール違反のケース
勤怠不良 入社後にたびたび無断で遅刻や欠勤を繰り返したり、緊急性が高くない早退を繰り返したりするケース
他従業員とのトラブル 金銭の貸し借りに起因するトラブル、セクハラ、いじめ、パワハラ、モラハラ等の各種ハラスメント等が問題となるケース
協調性欠如 他の従業員と協力して業務を行わなければならないのに協力関係を築けず、従業員間でトラブルばかり起こして、コミュニケーションが取れないといったケース
能力不足 会社が期待している、当初想定していた能力を従業員が有しておらず、勤務成績がよくないというケース

 

正当な解雇理由とは?

解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つが必要です。

引用元:労働契約法 | e-Gov法令検索

この2つの要件は抽象的であり、具体的にどのような場合であれば「正当な解雇理由」となるかは判断が難しいかと思われます。

一般的なポイントとしては、次の3点になると考えます。

  1. Point1 就業規則に定める解雇事由に該当する
  2. Point2 就業規則の規定内容が合理的である
  3. Point3 解雇が相当であること

 

Point1 就業規則に定める解雇事由に該当する

解雇の法的な根拠として、まず、就業規則に解雇に関する規定がないと、基本的には解雇は難しいと考えられます。

したがって、解雇の適否を判断する場合、まず、就業規則の解雇に関する規定が整備されているかを確認されてください。

また、就業規則において重要なことは、策定するだけではなく、それを所轄の労基署に届け出ることと、労働者に周知することです。

特に、周知されていなければ、就業規則の効力は発生しないと考えられています(最判平15.10.10)。

そのため、就業規則の周知は非常に重要です。

 

Point2 就業規則の規定内容が合理的である

就業規則は単に作成していればよいというものではなく、その中身が重要です。

では、どのような規定であれば合理的といえるのでしょうか。

この判断は専門家でないと難しいと考えられますが、厚生労働省のモデル就業規則(下記)は参考になるかと思います。

(解雇)
第51条  労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。

  1. ① 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき
  2. ② 勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき
  3. ③ 業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷又は疾病が治らない場合であって、労働者が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(会社が打ち切り補償を支払ったときを含む)
  4. ④ 精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき
  5. ⑤ 試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格であると認められたとき
  6. ⑥ 第66条第2項に定める懲戒解雇事由に該当する事実が認められたとき
  7. ⑦ 事業の運営上又は天災事変その他これに準ずるやむを得ない事由により、事業の縮小又は部門の閉鎖等を行う必要が生じ、かつ他の職務への転換が困難なとき
  8. ⑧ その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき

引用元:厚生労働省|モデル就業規則

もっとも、就業規則の規定の合理性は、会社の業種・規模等によっても異なると考えられます。

モデル就業規則は、一般的なものであり、会社に適した内容を記載しているわけではありません。

実際に上記のモデル就業規則の規定例を見ると、かなり従業員よりに作成されていて、解雇できる場合が極めて限定されているように感じます。

したがって、これらを安易に使用すべきではありません。

あくまで参考程度にとどめ、詳しくは労働問題にくわしい弁護士に相談されることをお勧めいたします。

 

Point3 解雇が相当であること

解雇は、就業規則に基づいていて、かつ、その就業規則の内容が合理的であっても、無効と判断される場合があります。

しかし、どのような場合に相当性を欠くかは一概に言えません。

例えば、①勤務態度・②勤怠不良・③他従業員とのトラブル・④協調性欠如・⑤能力不足のそれぞれのケースごとに異なります。

そのため以下では、具体的な裁判例をもとに正当な解雇理由が認められるかを解説いたします。

 

勤務態度を理由に解雇できる?

判例 ネギシ事件(東京高判H28.11.24)

Y社:製造業、従業員25名(パート含む)
X:H23入社 営業部門所属

 

従業員Xの問題行動


  • 検品部門の部長等に対し、「期日までに完納できなかったらどうするのか。どう責任を取るのか」「仕事のやり方が遅い」などと命令口調で怒鳴った。
  • けんか腰の声を聞くと動悸がするという持病のあったパート従業員に対し、作業手順を理解していないとして突然怒鳴った。以降、同従業員にストレス性の胃痛が生じるようになる。
  • 自分の質問に答えられなかったパート従業員を無視した。同従業員はストレスを感じて退社。
  • 休暇を取得する際に事前に休暇届を提出しなかった。
  • 自分宛ての電話以外は職場の電話に出ない。
  • 出勤時、ほとんどの従業員に挨拶をしなかった。

Y社の対応


  • H25以降、再三にわたってXに注意した。また、話し合いの機会をもち、言動が改まらない場合は辞めてもらうと話した。しかし、Xは言動を改めなかった。
  • H26.3 Xに検品部門のある3階に立ち入らないよう指示した。
  • しかし、しばらくするとXは3階に立ち入り、従業員を怒鳴った。
  • H26.9 Xを普通解雇

裁判所の判断 


【客観的合理性】
職場環境を著しく悪化させ、Y社の業務にも支障を与えたから就業規則所定の解雇事由に該当する。

【相当性】

  • Xを雇用し続ければY社の業務に重大な打撃を与えるというY社の判断も首肯できる。
  • Y社は小規模であるから、Xを配転することは事実上困難であって解雇に代わる有効な代替手段がない。
  • Y社が再三にわたって注意、警告してきたにもかかわらず、Xは反省して態度を改めることがなかった。

この事案は、勤務態度、他の従業員とのトラブル等が重なった事案ですが、裁判所は解雇を有効と判断しました。

1審では会社が敗訴したため、裁判所でも評価が分かれる難しい事案だったといえます。

この判例のポイントとしては、以下があげられます。

①業務への支障の程度を検討する

この事案は、勤務態度が悪いだけでなく、他の従業員を退職に追い込むなど、会社業務に支障を及ぼす程度に至っていました。

②配置転換や懲戒処分の有無を検討する

この事案は小規模会社であったため配転は事実上困難でした。

懲戒処分はなかったものの、会社は再三にわたって注意、警告をしており、会社は従業員に対し、改めるチャンスを与えていたといえます。

 

能力不足を理由に解雇できる?

判例 日本アイ・ビー・エム事件(東京地判H28.3.28)

事実経過


  • S62 Y社はXを新卒雇用(期間の定めなし)・Xは営業職
  • H1 Xはバンド6という職位(10段階の上から5番目)
  • H5 Xはシステムインテグレーション営業推進に異動
  • H18 Xは営業後方支援事務に異動し、ビットマネージャーという役職に就任
  • H24 Yは業績不良を理由にXを解雇

Xの業績:H18以降 


  • 他部門から、業務に対する多数のクレームを受ける(作業ミス、業務の緊急度を重視していないなど)
  • 他部門から5段階中最低評価を受ける
  • PIP(業務改善プログラム)の対象となる
  • 1ヶ月に26時間(1日当たり73分)の離席があった
  • 業務量が他のメンバーの2分の1以下であった
  • 新入社員レベルのネットワークに関する研修を受けたが、そのせいかを確認する試験で2回不合格となる(同じ部署でXのみ)
  • 通常業務に間違いが多かったため、単純業務従事する

他方でXに有利な事実として以下があった。 


  • 月間MVP賞や他部門からの感謝状を受けた
  • PIP目標を達成した

裁判所の判断


この事案で、裁判所は以下を理由に解雇を無効と判断しました。

  • H18以前は、バンド6に見合った業務ができていた。
  • H18以降も、複数の表彰、PIP目標達成などの業績改善に努力し、Y社も評価
  • データベースの起票作業などの単純業務には問題なし
  • 相対評価であるPBC評価が低評価であるとしても解雇の理由に足る業績不良とは言えない
  • 大卒後25年にわたって勤務を継続し、配置転換もされ、職種や勤務地の限定がなかった

この裁判例からすると、能力不足の場合のポイントとしては以下があげられます。

①業績評価の内容を検討する

長期雇用か否か:長期雇用の場合、過去の職務も考慮される。

絶対評価か相対評価か:相対評価の場合、評価内容がそのまま解雇理由とはならないことに注意する。

②従業員の意欲の有無を検討する

業務改善について、対象労働者自身の努力の有無に着目する。

③担当可能な他の業務の有無を検討する

職種の限定の有無:限定がなければ他の職務があるかを考慮する。

勤務地の限定の有無:限定がなければ転勤の可能性を考慮する。

④手続き

職種転換、降格、解雇の可能性をより具体的に伝えた上での業績改善の機会付与などの手段を講じたか否か等に注意する。

 

整理解雇

整理解雇において、裁判所がチェックする要件は、基本的には、以下の4つです。

  1. ① 人員削減の必要性があること
  2. ② 解雇回避努力を尽くしたこと
  3. ③ 人選の合理性があること
  4. ④ 労働者に対する説明・協議がなされていること

必ずしもこの4つの要件すべてを完璧にクリアしなければならないわけではありませんが、解雇の有効性判断の場面では、4つの要件を前提として検討すべきです。

以下、それぞれの要件ごとに具体例をご紹介しますので参考にされてみてください。

要件 具体例
人員削減の必要性
  • 売上減・コスト増などによって利益が著しく減少している
  • 複数の事業を行っている会社であれば、少なくとも対象の部門の財務状況が悪い、大幅な赤字になっている等
解雇回避努力
  • 希望による早期退職者を募集している
  • 経営陣の役員報酬を減額している
  • 会社の資産を売却してキャッシュフローを改善している等
人選の合理性
  • 人員削減のために誰を解雇するのかという基準を設けている
  • その基準に基づいた対象者の選定が行われている
  • 恣意的な人選がなされていないか等
労働者への説明・協議
  • 人員削減の必要性についての従業員説明会を開催している
  • 人員削減の必要性について社内文書などで周知している
  • 組合や従業員代表との協議を行っている

 

懲戒解雇

懲戒解雇についても、普通解雇の場合と同様に一般的なポイントは、次の3点になります。

  1. Point1 就業規則に定める解雇事由に該当する
  2. Point2 就業規則の規定内容が合理的である
  3. Point3 解雇が相当であること

ただし、懲戒解雇の場合、正当な解雇理由となるのは、悪質で重大な影響を及ぼすような場合です。

では、どのような場合であれば「悪質で重大」といえるのでしょうか。

厚生労働省のモデル就業規則の懲戒解雇事由は下記のように規定されています。

(懲戒の事由)
第68条
(略)
2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。(略)

  1. ① 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
  2. ② 正当な理由なく無断欠勤が◯日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。
  3. ③ 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、◯回にわたって注意を受けても改めなかったとき。
  4. ④ 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
  5. ⑤ 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
  6. ⑥ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。
  7. ⑦ 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
  8. ⑧ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
  9. ⑨ 第12条、第13条、第14条、第15条に違反し、その情状が悪質と認められるとき。
  10. ⑩ 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。
  11. ⑪ 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。
  12. ⑫ 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。
  13. ⑬ 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
  14. ⑭ その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。

引用元:厚生労働省|モデル就業規則

上記のように、モデル就業規則は懲戒解雇できる場合を普通解雇の場合よりも限定的に規定しています。

例えば、普通解雇で問題となる①勤務態度、②勤怠不良、③従業員とのトラブル、④協調性欠如、⑤能力不足のうち、④や⑤については基本的には懲戒解雇は難しいと考えられます。

また、①、②及び③についても、悪質で重大なもの等に限定されると考えます。

そして、就業規則の懲戒解雇の規定に該当した場合でも、裁判所は懲戒解雇の正当な理由がないと判断する可能性があります。

そのため、基本的には懲戒解雇のハードルは高く、正当な理由が認められる可能性は高くないということを念頭におくべきでしょう。

懲戒解雇が認められた事案として、下記の参考判例をご紹介します。

判例 NTT東日本事件(東京地判H23.3.25)

事実経過


  • X S57.4 Y社に入社
  • XはY社に対し、H16.4〜H19.9までの42ヶ月間に、約171万円の旅費を申請して受領した。旅費は日報に基づいて申請されるべきものであったが、Xの申請と日報の記載には食い違いがあった。
  • H19.10 Y社はXの旅費申請を過大請求と判断し、Xに対し、日報に基づくものに修正して再申請するように命令した。
  • H19.12 XはY社に対し、正規の旅費は約80万円であり、差額の91万円を返納すると修正して再申請した。
  • H20.5 Y社はXを懲戒解雇した。

裁判所の判断のポイント 


職場における横領・背任行為等の不正問題は、刑法犯に該当し得る背信性の高い行為であり、企業は懲戒解雇を含む厳罰を視野に処分を検討すべき

不正行為の内容、悪質性の程度、金額の大小、私的流用の中身などを考慮

本件は90万円程度の旅費の不正使用で懲戒解雇を認めた

判例を踏まえたポイント

この事案は、横領・背任等の犯罪が成立するレベルの悪質な非違行為であったため懲戒解雇が認められました。

このような事案の場合、懲戒解雇も認められると考えられます。

しかし、不正請求等の事案の場合、実務上、会社は労働者の不正請求を立証できるよう証拠を収集できるかが問題となります。

そして、立証可能か否かの判断は専門家でなければ難しいと思われます。

そのため、不正請求の事案では、できるだけ問題社員対応に精通した弁護士に事前に相談されることをお勧めいたします。

 

諭旨解雇

諭旨解雇は、温情的に懲戒解雇を軽くした処分です。

したがって、正当な理由としては、まず、懲戒処分相当の事案であることが必要となります。

また、就業規則に懲戒処分として諭旨解雇を行うことができることが記載されていることが必要です。

例えば、次のような条項例となります。

従業員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。
ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第⚫条に定める普通解雇とすることがある。

 

 

不当解雇にならないか確認すべきこと【要件・注意点】

普通解雇

普通解雇が認められるためには、①解雇予告と②労働契約法の規制をクリアしなければなりません。

以下、この2つについて解説します。

①解雇予告について〜手続上の要件〜

普通解雇では、原則として、解雇をする30日前までに、労働者に対し、解雇を予告する必要があります(労働基準法第20条)。

引用元:労働基準法|e-Gov法令検索

解雇予告がされてから30日が経過するまでは解雇が成立しないことになっていますので、解雇予告は普通解雇を行うための手続上の要件といえます。

なお、即日解雇をしたいという場合には、30日分以上の平均賃金を支払うことで(解雇予告手当といいます。)、即日解雇も可能です。

手続上の要件
  • 30日前の予告
  • 又は30日分以上の平均賃金の支払い

 

②労働契約法の規制〜実質的な要件〜

労働契約法は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています(労働契約法第16条)

引用元:労働契約法 | e-Gov法令検索

この条文から分かるとおり、解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が要件として必要になっています。

これらの要件は、個別の事案に応じて判断されています。

そのため、どのような事情があれば解雇が認められるのかを明確に線引きすることは難しいですが、一般的に、以下の3つの要素が重要になると思われます。

就業規則に定める解雇事由(かいこじゆう)に該当する

基本的に、解雇は、就業規則上の根拠が必要と考えられます(労働基準法第89条)。

参考:労働基準法|e-Gov法令検索

その上で、解雇したいと考えている従業員が就業規則の記載(解雇事由)に該当することが必要になります。

例えば、ある従業員が3日間無断で欠勤したとします。

その会社の就業規則には解雇できる場合として「7日以上の無断欠勤」と規定されていると仮定します。

この場合、「7日以上の無断欠勤」に該当しないため、「客観的合理性」がないと判断される可能性が高いと考えられます。

就業規則の規定内容が合理的である

就業規則は、一定の法定の要件が必要ですが、基本的には会社の裁量で自由に作成できます。

では、会社は不合理な内容の就業規則を作成できるのでしょうか。

例えば、ある会社が解雇できる場合として「1回の遅刻」と規定したとします。

遅刻程度のことであれば、誰にでも起こりうることです。

また、遅刻をそこまで厳しく罰する必要はないでしょう。

そのため、このような就業規則は基本的には、「客観的合理性」を欠くものと考えられます。

解雇が相当であること

就業規則に規定されている解雇理由に該当して、かつ、当該規定は合理的であったとしても、裁判所が解雇は相当でないと判断すると、解雇無効となる場合があります。

例えば、先ほどの例で、ある従業員が7日間以上無断で欠勤したとします。

その会社の就業規則には解雇できる場合として「7日以上の無断欠勤」と規定されていると仮定します。

その会社は、当該従業員に連絡を取らずに、就業規則の規定に該当したという理由で、解雇したとします。

この場合、就業規則に規定されている解雇理由に該当し、かつ、当該規定はそれ自体合理的であると考えられます。

しかし、このケースでは、会社は、まず、従業員に連絡して「なぜ出勤しないのか」を確認すべきとも思われます。

もしかしたら、その従業員には、出勤できない何らかの事情があったのかもしれません。

そのため、このようなケースでは、「社会通念上の相当性」を欠くと判断される可能性があります。

 

解雇が法律で禁止されている場合

普通解雇の要件の一番肝心なポイントは上記のとおりです。

ただし、普通解雇の要件をクリアしたとしても、以下に該当する場合、解雇が法律上禁止されているため注意してください。

  • 従業員の国籍、信条、社会的身分を理由とすること(労基法第3条)
  • 業務上の理由による傷病による休業期間中及びその後30日間(労基法第19条)
    ※但し、使用者が、労働基準法第81条の規定によって打切補償を支払う場合、又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合で行政官庁の認定を受けた場合は、解雇することが出来る)
  • 産前産後の休業期間中及びその後30日間(労基法第19条)(但し、産前休業をしないで、就労している場合は解雇することが出来る。また、産後8週間経過前でも就労開始後30日を経過すれば、解雇することが出来る)
  • 労働基準監督署等行政機関へ内部告発したことを理由とすること(労基法第104条、労働安全衛生法97条)
  • 解雇について女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをすること(男女雇用機会均等法第8条1項)
  • 女性従業員が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをすること(男女雇用機会均等法第8条2項)
  • 女性従業員が結婚、妊娠、出産したこと等を理由とすること(男女雇用機会均等法第8条3項)
  • 介護休業を申出、あるいは取得したことを理由とすること(育児・介護休業法第16条)
  • 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことを理由とすること(労働組合法第7条)
  • 労働者が個別労使紛争に関し、行政機関に対し、援助やあっせんを求めたことを理由とすること(個別労働紛争解決促進法第4条3項)
  • 労使協定の過半数代表者になること、なろうとしたこと、正当な活動をしたことを理由とすること(労働基準法施行規則第6条の2)
  • 企画業務型裁量労働制の労使委員会の労働者委員になること、なろうとしたこと、正当な活動をしたことを理由とすること(労働基準法施行規則第24条の2の4)
  • 企画業務型裁量労働制の対象業務に就けることについて同意しないこと(労働基準法第38条の4)
  • 労働者派遣の一般派遣業務の派遣可能期間決定の際の意見聴取等の労働者の過半数代表になること、なろうとしたこと、正当な活動をしたことを理由とすること(労働者派遣法施行規則第33条の4)
  • 公益通報を理由とすること(公益通報者保護法第3条)

 

整理解雇

整理解雇は、上記で説明したように、会社の業績悪化などによる解雇で、一般的にはリストラとも呼ばれています。

整理解雇は、労働者個人に非がありません。

そのため、整理解雇に対して、裁判所は厳しくチェックする方向です。

裁判所がチェックする要件は、基本的には、以下の4つです。

  1. ① 人員削減の必要性があること
  2. ② 解雇回避努力を尽くしたこと
  3. ③ 人選の合理性があること
  4. ④ 労働者に対する説明・協議がなされていること

この4要件の内容は下表のとおりです。

要件 説明
人員削減の必要性 会社の経営状況が悪化してリストラの必要性があること
解雇回避努力 解雇を回避するために会社側は具体的な措置を講じるよう努力しなければならない。
人選の合理性 対象者の中で、誰を解雇するのかという点についても合理的に説明できなければならない。
労働者への説明・協議 労働者に対し、何の説明もなく、いきなりリストラをすることは、労働者に不意打ちとなるため、事前に解雇までの間に、人員削減の必要性と内容(時期、規模、方法など)などについて、誠実に説明を行い、協議していることが必要

 

懲戒解雇

懲戒解雇は、普通解雇の場合と同様に、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要となります。

しかし、普通解雇と比べて、より重大な解雇理由であることが必要となります。

例えば、会社のお金を横領した、などの極めて悪質な事案が考えられます。

また、懲戒解雇の場合、手続きの適法性を厳しくチェックされます。

すなわち、刑法に準じて罪刑法定主義、弁明の機会の付与、不遡及の原則、平等扱いの原則、相当性の原則などの要件を満たすことが必要となるので注意が必要です。

要件 説明
罪刑法定主義 懲戒解雇は就業規則上に懲戒解雇事由が定められ、その事由に該当する具体的な事実が必要
不遡及の原則 懲戒の根拠規定は、それが設けられる以前の事例には遡及的に適用することは出来ない
一事不再理の原則 同一の事案に対し、2回以上の懲戒処分を行うことは出来ない
平等扱いの原則 懲戒は同種の非違行為に対しては、懲戒処分は同等でなければならない。
相当性の原則 懲戒処分は、非違行為の程度に照らして相当なものでなければならない

 

解雇予告除外認定について

懲戒解雇に該当する場合は、労働基準監督署長に「解雇予告除外認定許可」を申請し、許可を受けることで1か月の解雇予告をせず(予告手当も払わずに)に即時に解雇することができます。

 

諭旨解雇

懲戒解雇では、退職金を全額不支給としたり、減額して支給する(退職金規程にその旨の記載が必要)会社が多いです。

これに対して、諭旨解雇の場合、自己都合退職の場合と同等または一部の退職金が支給されるのが通例です。

したがって、諭旨解雇は、温情的に懲戒解雇を軽くした処分といえます。

諭旨解雇については、次の3つの要件が必要となります。

要件 説明
就業規則の規定 就業規則に懲戒処分として諭旨解雇を行うことができることが記載されていることが必要
就業規則の諭旨解雇事由に該当 就業規則上、諭旨解雇を行うことができると規定されている事由に該当する事情があることが必要
弁明の機会 諭旨解雇に先立ち、労働者に弁明の機会を与えることも懲戒解雇の場合と同様に必要

 

 

解雇理由のランキング

ここでは、よく問題となる解雇理由について、ランキング形式で見ていきたいと思います。

※当ランキングは、全国的な統計の数値ではなく、あくまで当事務所に多い相談を順位化しています。

懲戒解雇のケース

懲戒解雇のケースで、会社から相談の多い懲戒解雇の理由は、以下のとおりです。

第1位 金銭の不正

金銭の不正とは、会社の金銭を横領する、会社に対して不正な請求(経費の水増し請求等)をする、会社の物品を盗む(窃盗)など、従業員が不当な理由により会社に経済的な損失を与えることをいいます。

金銭の不正は、従業員の刑事上の問題(逮捕・勾留・刑事裁判で処罰を受ける等)にもなり得るものになります。

金銭の不正については、そもそも従業員がそのような行為をしたことを立証できるかどうかがポイントになってきます。

立証とは、従業員が金銭の不正をしていないと主張してきた場合に、客観的な証拠(何らかの資料、防犯カメラ、録音など)や他の従業員等の目撃証言により、従業員が金銭の不正をしていたと確定させられることをいいます。

立証ができれば、事案にもよりますが、懲戒解雇として認められる可能性が高くなります

 

第2位 ハラスメント

ハラスメントも多い相談の1つです。

ハラスメントには、

  • 異性に対するセクハラ
  • 上司の部下に対するパワハラ
  • 妊婦に対するマタハラ

などがあります。

ハラスメントは、強制わいせつや暴行・脅迫等の犯罪が成立するレベルでないと、懲戒解雇はできないことがほとんどです

セクハラの処分について、詳しくはこちらをご覧ください。

パワハラ対応について、詳しくはこちらをご覧ください。

マタハラについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

第3位 業務命令に従わない

会社から命じられた業務命令に従業員が従わない場合などに懲戒解雇がされるケースもあります。

例えば、会社から「〜の業務をやってくれ」と頼んでも、その従業員が拒否することです。

残業や休日出勤の命令に従わない場合も業務命令違反となります。

これらの業務命令に従わない場合の懲戒解雇については、その業務命令が雇用契約の範囲外のものであったり、従業員が従わないやむを得ない事情がある場合には、懲戒解雇は認められない可能性が高いです。

 

第4位 勤務態度不良

勤務態度不良は、無断欠勤、遅刻が多い、不要な離席が多いなど、従業員の勤務態度に問題がある場合です。

これらの勤務態度は、どちらかというと下記の普通解雇で問題になることが多いですが、悪質で、何度注意しても同じことを繰り返し、会社の秩序が乱れた場合などは、懲戒解雇として認められる可能性があります。

 

第5位 私生活上の犯罪行為

私生活上の犯罪行為とは、会社とは関係のないところで犯罪行為をすることです。

例えば、飲酒運転、万引き(窃盗)などです。

私生活上の犯罪行為は、ほとんどの場合で懲戒解雇をすることはできません。

例外的に、会社と密接に関わるような事柄での犯罪行為であった場合、懲戒解雇が認められる可能性があります。

 

上記のランキングについて、まとめると以下のようになります。

【 懲戒解雇理由のランキング 】

解雇理由 具体例 特徴
第1位 会社の不正
  • 会社の金銭を横領
  • 会社に対する不正請求
  • 会社の備品を窃盗
  • 他の従業員の私物を窃盗等
立証が難しい傾向
立証できれば懲戒解雇の可能性がある
第2位 ハラスメント
  • 異性に対するセクハラ
  • 上司の部下に対するパワハラ
  • 妊婦に対するマタハラ等
強制わいせつ、暴行、脅迫等の犯罪成立レベルのものであれば懲戒解雇の可能性がある
第3位 業務命令に従わない
  • ある一定の業務を頼んでもやらない
  • 残業や休日出勤の命令に従わない等
その業務命令が雇用契約の範囲外のものであったり、従業員が従わないやむを得ない事情がある場合には、懲戒解雇は認められない可能性が高い
第4位 勤務態度不良
  • 無断欠勤
  • 遅刻が多い
  • 不要な離席が多い等
悪質で、何度注意しても同じことを繰り返し、会社の秩序が乱れた場合などは、懲戒解雇として認められる可能性がある
第5位 私生活上の犯罪行為
  • 飲酒運転
  • 万引き(窃盗)等
基本的には懲戒解雇は認められないが、例外的に会社と密接に関わるような事柄での犯罪行為であった場合、懲戒解雇が認められる可能性がある
合わせて読みたい
懲戒解雇の要件

 

正社員の普通解雇のケース

正社員の普通解雇で、会社から相談の多い普通解雇の理由は、以下のとおりです。

第1位 能力不足

能力不足による解雇とは、期待された仕事の成果を出せない、与えられた仕事の適性がない等の理由によって解雇することです。

能力不足による解雇が有効かどうかは、以下の内容等を総合考慮して判断されます。

  1. ① 雇用契約上、どの程度の仕事のレベルが求められるか
  2. ② どの程度成果が出せていないのか(他の従業員との比較も含めて)
  3. ③ 指導して改善する余地があるか
  4. ④ 担当可能な他の業務がないか

 

第2位 業務命令に従わない

これは、懲戒解雇のところで解説した内容がそのままあてはまりますが、普通解雇でもよく問題になります。

 

第3位 勤務態度不良

こちらについても、懲戒解雇のところで解説した内容がそのままあてはまります。

 

第4位 従業員の病気等

従業員が仕事とは関係のないところでの病気(これを私傷病といいます)等で与えられた仕事ができなくなった場合による解雇も、解雇理由としてよく聞きます。

例えば、家庭内の問題でうつ病を発症し、会社で仕事ができなくなった場合などです。

従業員の病気等の普通解雇が有効かどうかは、以下の事項等を総合考慮して判断されます。

  1. ① 病気等の程度や性質
  2. ② 病気等が仕事に与える影響(医師の判断なども考慮)
  3. ③ 回復の見込みがあるか

 

第5位 協調性の欠如

協調性の欠如とは、他の従業員とよくトラブルになることや、他の従業員に挨拶をしないなどの場合です。

協調性の欠如は、直ちにそれだけで普通解雇が有効となるのはむしろ稀な印象です。

協調性の欠如が、普通解雇として有効となるかどうかは、以下の事項等を総合考慮して判断されます。

  1. ① どの程度協調性が欠如して、それが会社の業務に多大な影響を与えているかどうか
  2. ② 注意や指導が行われているか
  3. ③ 配置転換等の方法により対応できたか

協調性の欠如による解雇について、詳しくはこちらをご覧ください。

上記のランキング について、まとめると以下のようになります。

【 普通解雇理由のランキング 】

解雇理由 具体例 特徴
第1位 能力不足
  • 期待された仕事の成果を出せない
  • 与えられた仕事の適性がない
普通解雇の有効性は、①雇用契約上、どの程度の仕事のレベルが求められるか、②どの程度成果が出せていないのか(他の従業員との比較も含めて)、③指導して改善する余地があるか、④担当可能な他の業務がないか等を総合考慮して判断
第2位 業務命令に従わない
  • ある一定の業務を頼んでもやらない
  • 残業や休日出勤の命令に従わない等
その業務命令が雇用契約の範囲外のものであったり、従業員が従わないやむを得ない事情がある場合には、普通解雇は認められない可能性が高い
第3位 勤務態度不良
  • 無断欠勤
  • 遅刻が多い
  • 不要な離席が多い等
悪質で、何度注意しても同じことを繰り返し、会社の秩序が乱れた場合などは、普通解雇として認められる可能性がある
第4位 従業員の病気等
  • 家庭内の問題でのうつ病
  • 交通事故による怪我
普通解雇の有効性は、①病気等の程度や性質、②病気等が仕事に与える影響(医師の判断なども考慮)、③回復の見込みがあるか等を総合考慮して判断
第5位 協調性の欠如
  • 他の従業員とよくトラブルになる
  • 他の従業員に挨拶をしない
普通解雇の有効性は、①どの程度協調性が欠如して、それが会社の業務に多大な影響を与えているかどうか、②注意や指導が行われているか、③配置転換等の方法により対応できたか等を総合考慮して判断

※解雇の判断はケース・バイ・ケースであり、パターン化しても一概には言えません。あくまで参考程度にとどめて専門家の助言を得るようにされてください。

普通解雇について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

パート、アルバイト解雇のケース

パートやアルバイトの解雇のケースでは、雇い止めという形でのトラブルが多いです。

雇い止めとは、雇用契約の期間が決まっている労働者の雇用契約を更新せずに、期間満了で終了することです。

本来、期間を定めて雇用契約を締結しているため、期間が満了したのであれば雇用契約を終了することができるのが原則です。

しかし、一定期間雇用を継続したにも関わらず、突然、契約を更新されないとなれば、労働者は働き口を失うことになり、生活ができなくなる可能性があります。

こうした状況を踏まえて、一定の条件を満たす場合には、雇止めは無効とされ労働者との雇用契約を終了することができないこととなっています。

パートやアルバイトの雇い止めの正当な理由の有無と判断のポイントについては、次のページで詳しく解説しています。

 

 

解雇理由証明書とは

解雇理由証明書とは、従業員からの求めに応じて、会社が解雇の理由を記載した書面のことをいいます。

解雇理由証明書については、労働基準法第22条2項に規定されています。

根拠条文

第二十二条② 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。

引用元:労働基準法|e-Gov法令検索

ここで、解雇理由については、具体的に示す必要があり、就業規則のある条項に該当することを理由に解雇した場合は、就業規則の当該条項の内容と当該条項に該当するに至った事実関係を記載する必要があります

 

解雇理由証明書はどのような場合に必要?

解雇理由証明書は、解雇予告をした日から退職日までの間に従業員から発行を要求された場合に作成が必要となるものです。

逆に言うと、従業員から発行を要求されなければ、作成は不要です

また、予告期間を置かない即日解雇の場合や退職後の解雇の理由の証明を求められた場合は、解雇理由書ではなく、退職証明書(労働基準法第22条1項)の作成が必要になります。

 

解雇理由は書面で通知すべき?

解雇理由について、上記の解雇理由証明書を求められた場合、口頭ではなく書面で通知しなければなりません。

解雇理由証明書の発行は義務?

解雇理由証明書については、従業員から求められた場合、会社は発行することが義務付けられています

仮に、会社が従業員の要求を無視して解雇理由証明書を発行しなかった場合、事業主は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法第120条1号)。

引用元:労働基準法|e-Gov法令検索

なお、当事務所では解雇理由証明書のサンプル・雛形をホームページ上に公開しており、無料で閲覧・ダウンロードが可能です。

ぜひ、ご参考にされてください。

 

 

解雇後に企業が気をつけるべきこと

冒頭で解説したとおり、解雇はそのリスク(裁判に発展するリスク、金銭的なリスク、労力・精神的負担のリスク、社会的な信用を失うリスク)を覚悟しなければなりません。

解雇後、元従業員が納得していなかったとしても、いきなり裁判となることは稀です。

すなわち、元従業員が争う場合、正式裁判ではなく、交渉(協議)による解決、又は労働審判が申し立てるケースが多いです。

そして、交渉による解決、労働審判で解決できない場合に正式裁判へと移行します。

まずは交渉を行い、次に労働審判を申立て、最後に裁判へ移行する場合もあります。

 

以下、それぞれの状況ごとの注意点を解説します。

 

交渉の場合

交渉の場合、基本的には従業員本人からの申し入れ、代理人弁護士からの申し入れか、又は、ユニオン(合同労組)からの申し入れのいずれかによって開始されることが多いです。

パターンごとに交渉の開始方法をまとめると下表のようになります。

交渉のパターン 交渉の開始方法
従業員本人 電話、メール、手紙、口頭など
代理人弁護士 文書(内容証明郵便など)
ユニオン(合同労組) 文書(団体交渉申入書など)

いずれの場合でも、交渉で最も重要なポイントは、「仮に裁判で戦った場合に会社が勝てるか」という見通しを立てることです。

もし、勝訴の確率が高いようであれば、強気の交渉ができます。

反対に、勝てる見込みが低ければ、相手の要求(例えば解決金を高くする)などにも応じることを積極的に検討すべきです。

適切な見通しを立てるためには、労働法令についての専門知識と豊富な経験が必要となります。

したがって、できるだけ早い段階で、労働問題に精通した弁護士へご相談されることをお勧めいたします。

特に、相手に弁護士、又は、ユニオン(合同労組)がついている場合、相談だけではなく、対応についてご依頼されることも検討しましょう。

弁護士やユニオンは専門知識を持っているだけでなく、交渉に慣れています。

したがって、できるだけ会社側専門の弁護士に対応について、具体的な助言をもらわれた方がよいでしょう。

 

労働審判を申し立てられた場合

労働審判とは、会社と従業員等とのトラブルについて、簡易迅速に解決するための手続きのことをいいます。

労働審判では、通常の裁判と異なり、第1回目が勝負となります。

すなわち、短期間で会社の主張を法的に構成し、かつ、それを裏付ける証拠資料を収集しなければなりません。

そのため、中小企業はもちろん、法務部がある大企業であっても、労働審判に熟知した専門家に依頼されることをお勧めいたします。

また、労働事件では、弁護士の立場が会社側と労働者側で分かれる傾向にあります。

そのため、できるだけ会社側を専門とする弁護士にご相談されると良いでしょう。

 

裁判を起こされた場合

裁判を起こされた場合でも、和解による早期解決が可能です。

ただし、和解すべきか否かは状況によります。

すなわち、会社が勝訴する確率が高いのであれば、急いで和解をする必要性はありません。

反対に、会社が負ける可能性が高いのであれば、長期間裁判を継続するよりも早期解決の方が望ましいと考えられます。

しかし、勝訴の確率を適切に判断するためには、労働裁判の豊富な経験が必要となります。

したがって、労働問題に詳しい弁護士へ相談されると良いでしょう。

 

 

まとめ

  • 解雇には、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇、諭旨解雇の4つの種類がある
  • 解雇をするには、解雇予告等の手続上の要件と、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」という実質的な要件が必要
  • 解雇理由には、懲戒解雇であれば、金銭の不正、ハラスメント等の理由がよくあり、普通解雇の場合は能力不足、業務命令に従わない等の理由がよくある

以上、解雇の正当理由について、企業・労働者が確認すべきことを詳しく解説しましたが、いかがだったでしょうか。

解雇には4つの種類があり、それぞれで要件、注意点及び正当な解雇理由が異なります。

基本的には解雇は簡単ではなく、正当な理由があることの立証責任は会社側にあります。

また、裁判となった場合、金銭的なリスク、労力・精神的負担のリスク、社会的な信用を失うリスクを覚悟しなければなりません。

そのため、解雇については慎重に判断すべきです。

しかし、解雇の法規制や裁判例に詳しくなければ適切な判断は難しいかと思われます。

したがって、解雇については労働問題に精通した弁護士へのご相談をお勧めいたします。

この記事が解雇問題で苦慮されている企業・従業員の方にお役に立てれば幸いです。

当事務所は、Zoomなどのオンライン相談も活用していますので全国対応も可能です。

労働問題に注力した弁護士がご相談対応いたしますので、まずはお気軽にご相談ください。

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