無期転換申込権(労働契約法18条1項)について
無期転換申込権とは
無期転換申込権とは、一定の要件を満たした有期労働者に認められる権利です。
労働契約法 18条1項は、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の通算契約期間が5年を超える場合、労働者が使用者に対して当該有期労働契約満了日までに無期労働契約の締結の申込みをすれば、使用者はその労働者の申込みを承諾したものとみなすと規定しています。
つまり、これまでの契約期間が5年を超える有期労働者から使用者に対して、無期労働契約への転換の申出があった場合、無期労働契約が成立するということです。その場合に、使用者の意思は反映されません。法律上「みなす」とされていますから、仮に使用者がこれを拒んでも、無期労働契約が成立します。
要件
同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約が存在すること
無期転換申込権が発生する要件として、「同一の使用者」との間で2以上の有期労働契約が成立している必要があります。
この説明を聞くと、契約と契約の間に派遣という形をとって、使用者を変えておけば、通算契約期間が5年を超えず、無期転換申込権は発生しないと思われるかもしれません。しかし、無期転換申込権の発生を免れる意図で派遣の形態を偽装するなどして、労働契約の主体を形式的に変更したに過ぎないようなケースは、この規定を潜脱するものとして、通算契約期間の計算上「同一の使用者」と契約が成立しているものとして取り扱われてしまいます。
また、労働基準法14条により、有期労働契約の契約期間は原則として最長でも3年とされていますから、最初から契約期間を5年以上にして、「2以上の有期労働契約」の発生を免れることはできません。
通算契約期間が5年を超える有期労働者であること
この5年については、有期労働契約の濫用防止の観点と一方で有期労働契約が雇用調整としてこれまでも一定の機能を果たしているという観点から、審議の上決定されました。この規定については、施行後8年を経過した場合に再検討するということになっていますので、将来、変更が加えられる可能性はあります。
有期労働契約期間の満了日までに申込みをすること
無期転換申込権を労働者の方でいつでも行使することができるわけではありません。それでは、使用者の側も労務管理を行いえないからです。したがって、法律上は、無期転換申込権が発生することとなる有期労働契約の期間満了時までに申込みをすることを要求しています。使用者としては、満了日に突然申込みをされると非常に困るでしょうから、退職の届出などと同様に1か月ほど前に書面にて申込みを行わせるようにするのがよいと思います。
なお、この無期転換申込権を労働者が事前に放棄することを認めると、使用者が事実上権利放棄を強要することになるとして、このような労働者の意思は、公序良俗違反として無効になる可能性が高いです。したがって、無期転換申込権が発生する契約の締結以前にあらかじめ無期転換申込権を労働者に放棄させることはできません。
効果
無期転換申込権の効果として、申込権を行使した有期労働者と使用者の間に期間の定めのない労働契約が成立します。
無期転換後の労働条件ですが、労働契約期間の点を除き、別段の定め(労働協約や就業規則、労使間の個別の合意)がなされていない限り、それまでの労働条件と同一の条件となります。ですから、賃金等もそれまでの契約が引き継がれることになります。
無期に変更された後に、当該労働者を解雇する際には、労働契約法16条に規定する解雇権濫用法理の適用があるとされていますので、使用者は注意が必要です。つまり、無期転換申込権の行使により、期間の定めがない労働契約となりますから、解雇についても正社員と同様の規制が及ぶということです。
注意点等
この改正については、施行日である平成25年4月1日以後の日を契約期間の初日とする有期労働契約について適用するとされました。したがって、それよりも前の契約は通算契約期間に算入されず、実際に労働契約法18条によって有期労働契約者が無期労働契約に変更することができるようになるのは、今から早くて5年後ということになります。
しかしながら、今回の改正では無期転換申込権に関する規定と同時に、これまで実務上認められていた有期労働契約者の雇止めについての法理が法律上明文化されました。したがって、使用者がまだ5年も先の話だからと安易に考え、それに基づいて更新を不用意に続けていると、有期労働契約者との契約を終了させることができないことになり、最終的には労働者に無期転換申込権を行使されるという結果になる危険性があります。
ですので、使用者としても今後、有期労働契約者の契約更新について、慎重に検討する必要があるでしょう。また、現在の有期労働契約者との契約を見直すことも考えなければなりません。
労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号)
無期転換申込権(労働契約法18条1項)
2
雇止め法理の法定化(労働契約法19条)
3
不合理な条件の禁止(労働契約法20条)

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士
所属 / 福岡県弁護士会
保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者
専門領域 / 法人分野:労務問題、外国人雇用トラブル、景品表示法問題 注力業種:小売業関連 個人分野:交通事故問題
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所のパートナー弁護士であり、北九州オフィスの所長を務める。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行っている。労働問題以外には、商標や景表法をめぐる問題や顧客のクレーム対応に積極的に取り組んでいる。
