有期雇用労働者特別措置法について

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

労働条件通知書のイメージ画像平成26年3月、有期雇用労働者特別措置法(正式には「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法案」)の案が閣議決定され、今国会に提出されました。

この法案は、国家戦略特別区域法の規定等を踏まえ、有期の業務に就く高度専門的知識を有する有期雇用労働者等について、労働契約法に基づく無期転換申込権発生までの期間に関する特例を設けるものです。

改正法案が成立すれば、平成27年4月1日に施行される予定です。

この法案を理解するには、まず、労働契約法の無期転換申込権を把握しておかなければなりません。

無期転換申込権については、当事務所のコラムにも掲載しておりますが、概要としては、これまでの契約期間が5年を超える有期労働者から使用者に対して、無期労働契約への転換の申出があった場合、無期労働契約が成立するというものです。

(さらにわかりやすく言えば、「契約社員が5年を超えて働いていた場合、その社員からの申し出があると、正社員となってしまう」という内容です。)。

無期転換申込権について、詳しくはこちらからどうぞ

今回の改正法案は、上記の無期転換申込権の例外を創出するものであり、会社実務に与える影響が大きいと考えられるのでご紹介いたします。

 

無期転換ルールの特例の対象となる労働者

弁護士イメージ画像改正案では、次の二つのいずれかに該当する労働者が特例の対象となります。

①一定の期間内に完了する業務に従事する高収入かつ高度な専門的知識、技術または経験を有する有期契約労働者

※対象者の範囲や年収などの具体的な要件については、法案成立後改めて労働政策審議会において検討されることとなりますが、弁護士、公認会計士、デザイナー、博士号取得者等となる見込みです。また、年収は約1000万円となる見込みです。

定年後に同一の事業主またはこの事業主と一体となって高齢者の雇用の機会を確保する事業主(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律における「特殊関係事業主」)に引き続いて雇用される高齢者

 

 

特例の具体的な内容

①の労働者(高度専門労働者)について

企業内の期間限定プロジェクトが完了するまでの期間は無期転換申込権が発生しないこととなります(ただし、上限は10年です。)。

②の労働者(高齢者)について

定年後に同一事業主または特殊関係事業主に引き続いて雇用されている期間は、通算契約期間に算入しないこととなります。

 

 

法案が作られた背景

リストラのイメージ画像この法案は、平成25年4月に施行された無期転換申込権によって生じる弊害を無くすためのものです。

まず、①の労働者(高度専門労働者)については、安倍政権のもとで推進されている、国家戦略特区と密接に関連しています。例えば、平成32年に開催予定の東京オリンピックでは、プロジェクトが5年を超えることが見込まれています。このプロジェクトでは、終期が決まっているため、雇用を保障することができません。事業主としては無期転換権を行使されると余剰人員が生じる等の問題が発生してしまいます。そこで、5年間が経過する前(例えば、平成31年)に、雇い止めを行う場合、それまでに蓄積された知識、ノウハウを持った人材を失ってしまうためにプロジェクトの進行に悪影響を及ぼしかねません。そこで、高度な専門的知識、技術または経験を有する有期契約労働者を対象として、無期転換申込権を行使できなくするとしたのです。ただし、行使できない期間は10年が上限となります。

次に、②の労働者(高齢者)については、平成25年4月から施行されている高齢者雇用安定法と関連しています。

すなわち、高齢者雇用安定法は、高齢化社会を迎え、国が企業に対し、65歳まで労働者が就業できる環境を半強制的に課す法律です。例えば、60歳で定年を迎えた労働者を65歳まで嘱託社員などの名称で再雇用した場合、5年間雇用したことになります。この場合、労働者から無期転換申込権を行使されると65歳で雇用関係を終了させることができず、労働者が労務を提供できれば無期限で雇用関係を継続させなければならなくなってしまいます。こういった自体が起こらないように②の労働者が法案の対象とされています。

 

 

特例の対象となる事業主

解説する弁護士のイメージイラスト要綱案によれば、この特例を受けるためには、次の段階を踏むこととなりそうです。

計画作成と申請

まず、事業主は、対象労働者の特性に応じた適切な雇用管理に関する計画を作成し、厚生労働大臣に計画書を提出して申請します。

対象労働者に応じた適切な雇用管理について、

①の労働者(高度専門労働者)に関しては、次の事項を記載します。
・特定有期業務の内容並びに開始及び完了の日
・能力の維持向上を自主的に図るための教育訓練を受けるための有給休暇(労基法上のものとは別であることに注意)の付与に関する措置

②の労働者(高齢者)に関しては、その配置、職務及び職場環境に関する配慮等の雇用管理の措置の内容等を記載しなければなりません。

 

厚生労働大臣の認定

厚生労働大臣は、基本方針(対象労働者に応じた適切な雇用管理に関する事項等)を定め、その基本指針に沿った対応が取られると認められれば事業主を認定します。

※この基本指針については、今後、高度専門労働者、高齢者それぞれについて趣旨に即した多様な事項が例示される予定です。

 

有期労働契約の締結

事業主が対象労働者と有期労働契約を締結、更新するときは、無期転換申込権発生までの期間等の労働条件を明示しなければなりません。また、②の労働者(高度専門労働者)については、特例の対象となる業務を明示しなければなりません。

以上のように、今回の法案が成立すると、会社にとっては特例を受けるための計画書の作成等、対応が必要となってきます。

当事務所では、今回の改正に対応すべく、平成26年6月に社会保険労務士や企業を対象としてセミナーを開催する予定です。

日時等の詳細は未定ですが、セミナー情報については、当事務所ホームページに掲載する予定ですので、ご確認ください。

当事務所のセミナー情報についてはこちらからどうぞ

 

 





  

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