サービス残業への企業の対処方法とは?【弁護士が解説】
サービス残業とは
サービス残業とは、労働基準法で定められた残業代を支払わずに従業員に残業をさせることをいいます。
従業員から未払残業代の請求を受けた場合、基本的には全額を支払う必要があります。
ただし、未払い残業代(賃金請求権)には時効があるため、時効経過分の賃金については消滅時効を主張できます。
時効による制限
賃金請求権の消滅時効は、以前は2年でしたが、法改正により、2020年4月1日以降に支払期日(給与日)が到来する賃金については5年となりました。
ただし、経過措置として、当分の間は3年間とされています。
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によって消滅する。
(経過措置)
第百十五条の二 この法律の規定に基づき命令を制定し、又は改廃するときは、その命令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。
引用元:労働基準法|電子政府の窓口
なお、「当分の間」がいつまでかは不確定ですが、施行後5年後に見直しを検討することになっているため、2025年4月以降は5年となる可能性があります。
残業代を請求された場合
残業代を請求された場合、会社には高額な請求となることが予想されます。
たとえば、毎月20日出勤する時間給2000円の労働者が毎日3時間のサービス残業を3年間行っていた場合
上記の例で20人の従業員が会社に対して一斉に請求した場合、
となります。
※遅延損害金及び遅延利息は含んでおりません。
このように、サービス残業問題は、会社が倒産しかねない大きな問題です。
なお、上記は、法定外時間外労働のケースであり、深夜や休日残業代の法定の賃金割増率は下表のとおりです。
種類 | 支払う条件 | 割増率 |
---|---|---|
時間外(残業手当) | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき | 25% |
時間外労働が1ヶ月60時間を超えたとき | 50% | |
休日 | 法定休日(週1日)に勤務させたとき | 35% |
深夜 | 22時から5時までの間に勤務させたとき | 25% |
労基署からの是正勧告
また、使用者がサービス残業の実態を知りながら措置を講じなかった場合、労働基準法に違法する行為として労働基準監督署(労基署)から是正勧告を言い渡されます。
是正勧告とは、違法な勤務実態の是正を求める労基署からの警告書です。
この警告を無視して措置を講じなかった場合、労基法違反の疑いで検察庁へ書類送検される可能性があります。
最悪の場合、労基法違反で法人や代表者が罰せられる可能性もあります。
この賃金不払残業に対する是正勧告を軽視したために、上場企業が数億円~数十億円を支払ったケースもあります。
サービス残業への対処
サービス残業の問題に対して、使用者はどのような対応をとるべきなのでしょうか。
残業対策には、労働時間そのものの削減と残業代の抑制の2種類の方法が考えられます。
労働時間の削減
①残業を許可制にする
業務上必要な残業に対して残業代を支払うのは当然ですが、使用者としては、残業代を目的とした不必要な残業をしている社員の存在も気になるのではないでしょうか。
このような場合は、使用者の許可がなければ残業ができないようにすることが有効だと思われます。
具体的には以下のような手続きを行います。
-
- ① 残業が必要だと考えた場合、所定の用紙に残業時間・業務の内容等を記入して直属の上司に申請させる。
- この時点で、明らかに不必要と思われる残業については、残業許可を出さない。
- ② 残業後、時間外勤務時間数を記入した用紙を上司に提出させ、本当に必要な残業であったのかを上司が判断し、承認を行う。
この手続を定着させる上で重要なことは、残業は上司の許可がなければできないというルールを社内で周知・徹底し、申請なしの残業を黙認しないことです。
以上の手続を的確に運用すれば、本当に必要な残業だけを従業員が行うようになるので、労働時間そのものの抑制、ならびにサービス残業の抑制に大きな効果が期待できます。
また、副次的効果として、正規の勤務時間における業務効率の向上も期待できます。
②ノー残業デーを設ける
1週間のうち1日(例えば毎週水曜日)をノー残業デーとして、残業を一切認めない日を作ることも有効です。
労働時間の抑制や、副次的効果として正規の勤務時間における業務効率向上といった効果も期待できます。
③個々の業務に集中させる時間帯を設ける
一定時間は、私語や電話、不要なオフィス内の歩き回りを一切禁止する「がんばるタイム」を設けることも効果的であると思われます。
取引先にも理解を求め、その時間帯の来客や電話などはなるべく遠慮してもらうなどして、この時間帯は徹底して個々の業務に集中させます。
正規の勤務時間における業務効率向上といった効果も期待できます。
残業代を抑制する
残業代そのものを直接抑制する方法としては、以下のようなものが考えられます。
変形労働時間制の導入
変形労働時間制とは、労働時間を月単位や年単位で調整することで清算する労働制度です。
この変形労働時間制には、1か月単位、1年単位、1週間単位のものがあります。
残業代を月額賃金の中に含ませる(固定残業制)
固定残業制とは、定額で支払う賃金の中に、残業代を含めて支払うという制度です。
固定残業制には、基本給に残業代を含めるケースと、特定の手当に残業代を含めるケースがあります。
事業場外のみなし労働時間制の導入
これは、従業員が事業場外で業務に従事している場合で、労働時間を算定しにくいときに所定労働時間だけ労働したものとみなす制度です。
事業場外のみなし労働時間制の導入のポイントについて、詳しくはこちらのページをご覧ください。
在宅勤務によるみなし労働時間制の導入
在宅勤務とは、狭く限定すると、会社と雇用関係にある従業員が会社に出社せず、自宅で情報通信機器を活用して働く勤務形態をいいます。
また、広義では、自宅に近い地域にある小規模なオフィスで業務に勤務する、「サテライトオフィス勤務」や、スマホ・PC・タブレット等を利用して、柔軟に選択した場所で勤務する、「モバイルワーク」も在宅勤務に含まれます。
裁量労働制の導入
裁量労働制とは、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者について、遂行の手段・時間配分の決定等を労働者の裁量に委ね、労働時間については「みなし労働時間」を定めて労働時間を算定する制度です。
裁量労働制には、専門業務型と企画業務型の2種類があります。
裁量労働制の導入のポイントについて、詳しくはこちらのページをご覧ください。
振替休日の利用
振替休日とは、従業員に休日に働いてもらう代わりに、所定労働日を休日に変更する制度です。
振替休日の導入のポイントについて、詳しくはこちらのページをご覧ください。
いずれの方法も、従業員にとって不利益になりかねないため、導入にあたっては一定の要件が定められおり、然るべき手続きを踏む必要があります。
ただし、残業代の抑制という観点からはいずれも有効な手段ですので、労働法に詳しい弁護士と相談しながら、導入を検討していただければと思います。

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会
保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。

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