弁護士コラム

「勤務間インターバル制度」を労務問題に詳しい弁護士が解説

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

勤務間インターバル制度とは

雇用形態勤務間インターバル制度は、1日の最終的な勤務終了時間から翌日の始業時間までの間に、一定時間を確保することで、労働者の休息時間を確保しようとする制度です。

終業時間から始業時間までの間に一定時間を確保することで、仮に終業時間が深夜に及んだとしても、翌日の始業時間は、規定された一定時間を経過した後でないと設定できないことから、労働者に確実に休息期間を確保することができます。

したがって、勤務間インターバル制度の導入によって長時間労働を抑制することができます。

国内における勤務間インターバル制度の導入状況は、導入している企業が全体の2.2%であり(出典:過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業(平成27年度厚生労働省委託事業))、ほとんど国内の企業には浸透していない制度です。

しかし、政府は、勤務間インターバル制度に向けた取り組みに対して下記のような助成金を支給するなどの施策を打ち出しており、今後、長時間労働是正の一環として、制度の導入を推進しています。

具体的には、図表1の①又は②に該当する企業が規模の企業が、図表2の事柄を実施して、その他の条件を満たしていれば支給されることになります。

図表1

業種 ①資本または出資額 ②常時使用する労働者
小売業(飲食店含む) 5000万円以下 50人以下
サービス業 5000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

図表2

〇 就業規則・労使協定等の作成・変更
〇 労務管理担当者に対する研修
〇 労働者に対する研修、周知・啓発
〇 外部専門家によるコンサルティング
〇労務管理用ソフトウェア・機器の導入・更新
〇勤務間インターバル導入のための機器等の導入・更新

また、政府は、助成金の支給対象となる取組みについては、下記のような成果目標の達成を求めています。

図表20

〇制度を新規導入する場合
勤務間インターバルを導入していない事業場において、事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象とする、休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルに関する規定を就業規則等に定めること。

〇制度の適用範囲を拡大する場合
既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下であるものについて、対象となる労働者の範囲を拡大し、当該事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象とすることを就業規則等に規定すること。

〇インターバルの時間を延長する場合
既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場において、当該事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象として、当該休息時間数を2時間以上延長して休息時間数を9時間以上とすることを就業規則に規定すること。

現時点で、企業の取組として浸透しているとは言い難いですが、今後、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(以下、「労働時間等設定改善法」といいます。)の改正が予定されており、事業主に勤務間インターバル制度を導入することを努力義務として義務付ける条項が入れられる予定になっています。

 

 

導入にあたっての留意点

勤務間インターバル制度は、長時間労働を是正するための施策として有効ですが、導入にあたっては、以下の事柄について留意しなければなりません、

会社にマッチした制度設計

解説する弁護士勤務間インターバル制度を導入するにあたっては、そもそも導入することが適切か、導入するとしてもインターバル時間は何時間にするのか、対象とする労働者の範囲はどこまでか、適用除外の条項は設けるのか等の制度設計を検討しなければなりません。

インターバル時間を決定するにあたっては、従業員の労働時間や業務量の現状を把握した上で、どの程度のインターバル時間を確保するのか検討する必要があります。

政府においては勤務間インターバル制度を新規導入する場合には、9時間以上のインターバル時間を確保することを成果目標として設定しています。

 

実効性の確保

制度を導入しても厳格に運用しなければ、絵に描いた餅になってしまいますので、運用は厳格にする必要があります。

直接に影響を受ける従業員に対しては、制度の概要や実行する意味を十分に説明して理解してもらうことが必要です。したがって、会社において情報発信をし、説明会を開催するなどして十分に従業員に意識付けする必要があります。

また、勤務間インターバル制度を有効ならしめるためには、労働者の始業就業時刻を正確に把握することが必須です。

解説する弁護士時間管理の方法としては、タイムカードやパソコンのログでの管理、あるいはICカードを利用して一括してWEBで出退勤を管理するといった方法も考えられます。こうした方法で集計した出退勤時間を確認してインターバル時間が守られているかチェックすることが必要です。

違反している従業員がいれば、その従業員に対する注意・指導をしなければなりません。

 

導入後の検証

解説する弁護士導入後も一定期間経過した後に、制度の検証をすることも必要です。

インターバル時間の長さは適切であったか、業務上の支障はでていないか、適用除外の範囲は適切であるかなど、現場の意見を踏まえつつ検証し、必要があれば制度の再設計を実施しなくてはいけません。

就業規則の規定例

厚生労働省より、下記の勤務間インターバル制度の就業規則の規定例が公表されています。

① 休息時間と翌所定労働時間が重複する部分を労働とみなす場合

(勤務間インターバル)
第○条 いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす。

② 始業時刻を繰り下げる場合

(勤務間インターバル)
第○条 いかなる場合も、労働者ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、翌日の始業時間は、前項の休息時間の満了時刻まで繰り下げる。

③ 災害その他避けることができない場合に対応するため例外を設ける場合

①または②の第1項に次の規定を追加します。

ただし、災害その他避けることができない場合は、その限りではない。

 

 




  

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