【書式付き】是正勧告書とは?労基署対応と報告書の書き方

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者


是正勧告書とは、労働基準監督署が企業に対し、労働基準法などの法令違反が認められた場合に交付する書面です。

一定期間内に違反の是正を求める行政指導であり、法的強制力はありませんが、改善されない場合には書類送検などの重大なリスクを伴うこともあります。

是正勧告書とは

是正勧告書とは是正勧告書とは、労働基準監督署の調査(定期監督・申告監督・災害調査など)によって、事業場に労働基準法などの法令違反が確認された際に交付される書面です。

通常、労働基準監督官は是正勧告書を調査時に携帯しており、調査の結果、違反があると判断された場合、その場で「法条項等」、「違反事項」、「是正期日」などを記入し、事業場の担当者に交付することがあります。

その場で渡されない場合には、後日労働基準監督署に出頭を求められ、署内で交付されます。

交付時には、書面の受領欄に署名・押印が求められます。

 

是正勧告書と指導票の違い

労基署が交付する書類には、是正勧告書と似たものとして指導書があります。

是正勧告書と指導票の違いは、「労働法令の違反があるかどうか」です。

是正勧告書は、労働法令違反があることが判明した場合に交付されるものですが、指導書は、労働法令に対する違反とまではいえないものの、改善することが望ましい事項について、交付されます。

 

是正勧告書の例文

是 正 勧 告 書

令和○年○月○日

株式会社○○

代表取締役○○ 殿

○○労働基準監督署

労働基準監督官○○ 印

 

貴事業場における下記労働基準法、労働安全衛生法違反及び自動車運転者の労働時間等の改善のための基準違反については、それぞれ所定期日までに是正の上、遅滞なく報告するよう勧告します。

なお、法条項に係る法違反(罰則のないものを除く。)については、所定期日までに是正しない場合又は当該期日前であっても当該法違反を原因として労働災害が発生した場合には、事案の内容に応じ、送検手続をとることがあります。

また、「法条項」欄に□印を付した事項については、同種違反の繰り返しを防止するための点検責任者を事項ごとに指名し、確実に点検補修を行うよう措置し、当該措置を行った場合にはその旨を報告してください。

法条項等 違 反 事 項 是正期日
労働基準法第32条 時間外労働に関する協定の締結及び届出なく労働者に時間外労働を行わせていること。 ○・○・○

 

受領年月日、受領者 令和○年○月○日

○○   印

()枚のうち()枚目

 

 

是正勧告の法的効力

是正勧告の法的な効力については、労働基準監督官という行政機関の行政指導と捉えられています。

したがって、是正勧告はあくまで、行政処分ではなく、指導の範疇にあるとされており、是正勧告に対して、行政不服審査法や行政事件訴訟法により、不服申立てや取消訴訟を提起することはできません

そうすると、是正勧告は強制力をもたない指導にすぎないので、これに従わなくても問題ないとも考えられます。

しかしながら、是正勧告は、先ほどの是正勧告書のとおり、罰則付きの各種労働法令に違反している状態を改善しなければ、送検手続をとることもあります

送検手続とは刑事処分を行うかどうかについて、検察官に記録を送付するということです。したがって、是正勧告を無視して、違反を放置したままにすれば、最終的には刑事処分を受ける可能性もあります。

そのため、是正勧告は強制力をもたない行政指導であるとはいえ、事実上は、これに従わざるを得ないですし、実際にも適切にこれに対応するのが得策です。

したがって、早めに専門家である弁護士に相談すべき案件です。

 

 

労働基準監督署から是正勧告書が交付されるまでの流れ

労基署から是正勧告書が交付されるまでの流れとしては以下のとおりです。

労働基準監督署から是正勧告書が交付されるまでの流れ

 

①定期監督のための事業場抽出、相談、労災事故発生

まずは、臨検に入る企業が労基署にて決定されます。

労基署が臨検に入るきっかけとして、再監督を除けば、

  • 定期監督(労基署が計画に基づいて定期的に実施)
  • 労働者からの相談
  • 労災事故の発生

があります。

こうしたきっかけから臨検に入ることになります。

 

②労働基準監督署の立入調査(臨検)

次に、実際に労基署が臨検に入って、企業の調査を実施します。

36協定やタイムカード、有給休暇管理簿といった書類を確認したり、労災の現場を確認したりすることで、労働法令への違反がないかどうかを調査します。

 

③労働法令違反の確認

②の臨検を通じて、労働法令に違反する事項がないかどうか、ある場合、どの部分が違反しているのかを労基署がチェックします。

 

④是正勧告書の交付による指導

労働法令違反が確認された場合には、労基署が是正勧告書を作成して、企業に交付されます。

臨検に入る労働基準監督官は、是正勧告書の書式を常に持っているため、臨検の結果、労働法令違反が確認された場合には、その場で作成して交付されることも多くあります

 

 

是正勧告書が交付された後の会社の対応

是正報告書の提出

是正勧告書が交付された会社としては、是正報告書を提出しなければなりません。

是正勧告書には、いつまでに是正しなければならないかの期限が明記されています

そのため、その期限までに、

  1. ① 違反と指摘された事項の改善
  2. ② その改善内容を是正報告書に記載
  3. ③ 是正勧告書の提出

を行うことになります。

 

調査・指導終了または再調査

是正報告書を提出すると、労基署がその内容を確認して、事案に応じて

  1. ① 報告書の提出をもって調査や指導を終了する
  2. ② 再調査

に分かれます。

再調査の場合には、是正報告書に記載している事項がきちんと実際にも改善されているかどうかを確認することになります。

 

 

是正報告書の書き方とテンプレート

是正報告書のテンプレートは以下になります。

是 正 報 告 書

 

○○労働基準監督署長 殿

令和○年○月○日

○○(株)

代表取締役○○  印

 

令和○年○月○日貴署より指摘された労働基準法、労働安全衛生法等の違反事項又は指導事項につき、下記のとおり是正いたしましたので、本書をもってご報告いたします。

 

法違反条項 是正内容 是正年月日
労働基準法89条 新たに正社員就業規則、パートタイマー就業規則を制定し、該当労働者へその内容を説明、告知するとともに、貴署へ届出を行った。 令和○年○月○日
労働基準法32条 従業員代表者との間で時間外・休日労働に対する協定届を締結し、貴署へ同届を提出した。 令和○年○月○日
 

 

 

 

以上

 

是正報告書は、以下の手順で作成します。

 

①指摘された法違反条項を記載

労基署から交付された是正勧告書に記載されている違反している労働法令を記載します。

 

②是正内容を記載

この部分には、企業として是正勧告書を受けて、改善を行った内容を具体的に記載します。

就業規則を作成しなければならないのに、まだ作成できていないという場合には、「就業規則を作成して、労働者に説明・周知し、労基署に届出を行いました。」という記載をします。

なお、今後順次改善予定の場合には、改善予定の具体的な内容を記載することになります。

 

③是生年月日を記載

実際に②で記載した是正内容を実施した日を記載します。

この手順で作成した是正報告書を労基署に期限までに提出することになります。

 

 

是正勧告の対象になりやすい行為|よくある違反事例

企業が労基署から指摘され、是正勧告の対象になりやすい行為は主に以下のとおりです。

 

①賃金

賃金に関する部分で是正勧告の対象になりやすいのは、主に以下の事項です。

  • 最低賃金を下回った給料を支払っている
  • 控除が認められない項目の天引きがある
  • サービス残業がある
  • 深夜や残業代の割増しがされていない

 

②就業規則等

就業規則など書面に関する事項で指摘されやすいのは、主に以下の事項です。

  • 事業場に10名以上いるにも関わらず就業規則を作成していない
  • 作成した就業規則を労働者に周知できていない
  • 労働条件通知書や雇用契約書が労働者に交付されていない

 

③時間外労働

時間外労働については、以下の点が是正勧告の対象になりやすいです。

  • 36協定がそもそも締結されていない
  • 36協定は締結されているが、締結されている以上の残業がある
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36協定とは?

 

④有給休暇

有給休暇の項目では、以下の事項が指摘されやすい点です。

  • 要件を満たした従業員に有給休暇を与えていない
  • 付与した有給休暇の使用を認めていない
  • 年に5日以上取得させなければいけない従業員に5日以上使用させていない

 

⑤労働関係書類

労働関係書類では、賃金台帳や労働者名簿、労働時間管理に関する書類を作成していない、保存していないという点が違反として指摘されやすい項目です。

 

⑥健康診断

健康診断の項目では、採用時の健康診断や1年に1回の定期健康診断を従業員に受けさせていないという点が是正勧告の対象となりやすい項目です。

 

 

是正勧告書を無視・放置した場合のリスク

是正勧告書を無視・放置した場合のリスクはどのようなものがあるでしょうか。

 

企業名の公表

是正勧告はあくまで行政指導ですので、ただちに法的効果が生じるものではありません。

しかしながら、労働法令に違反している状態であることは事実ですので、そのまま放置していれば、労基署は企業に改善の姿勢が見られない、労働法令の違反に対して真摯な対応をしないと判断し、悪質な事案だとして、企業名の公表がされるリスクがあります。

企業名が公表されると、労働基準監督署のホームページなどで違反の内容、企業名を掲載されますので、会社の信用が低下することになります。

 

送検

また、是正勧告書を無視・放置した場合には、労働法令違反の状態が継続することになります。

そのため、労基署としても「指導をしても改善されないのであれば」と送検されるリスクが高まります。

送検されると刑事事件として手続が進み、罰金などの刑罰が科せられる可能性があります。

このように、是正勧告書を無視・放置するのはリスクが高い行為ですので、早急に対応することが必要です。

 

 

是正勧告に対して会社が備えておくべきこと

是正勧告に対して会社が備えておくべきこと

是正勧告に対しては、労働法令違反がないように、日頃から労務マネジメントを行っておくことが大切です。

 

労務監査(内部チェック)を定期的に行う

先ほど紹介した是正勧告の対象になりやすい点などについて、企業内で内部チェックを定期的に実施して問題点がないかを確認しておくことが効果的です。

 

就業規則や労働条件通知書の内容・運用を見直す

仮に、労務監査の結果、問題点が見つかった場合、実際の労働実態とルールが合っていない可能性があるため、就業規則を見直したり、労働条件通知書の内容を見直して修正することも考えられる対策です。

 

コンプライアンス研修・教育を実施する

いくらルールをしっかり定めていたとしてもそれを現場の従業員や管理者が理解し、実践しなければ、是正勧告の対象となるような労働法令違反が発生してしまいます。

そのため、コンプライアンスの重要性を従業員に理解してもらうため、コンプライアンス研修や教育を実施することも会社ができる対応の一つです。

 

是正報告書に再発防止策を書くだけでなく、実際に反映させる

是正勧告が労基署から出された場合には、先ほど解説したとおり、是正報告書を作成しなければなりません。

このときに、報告書はきちんと体裁を整えるために作成しているものの、そこに書かれている内容は実現されず、また違反の状態となるということがあります。

こうしたことがないように、是正報告書に再発防止策を単に書くだけでなく、実際にも実行して運用することが必要です。

 

弁護士に依頼して体制を整える

是正勧告に備えるためには、弁護士に依頼して、顧問弁護士として日頃から労務管理の相談ができるように体制を整えることも有益です。

顧問弁護士に、労働契約書などの書面のチェックや日々発生する労働問題についてのアドバイスをもらうことで、労働法令の遵守に努めることが大切です。

 

 

是正勧告についてよくある質問

労基署に通報して、その結果是正勧告が出されたら会社に通報したことがバレますか?

労働者が自分の会社のことを労基署に通報して、臨検に入り、その結果是正勧告が出されることがあります。
このとき、労働者が労基署に自分が通報したことを隠しておいてほしいと要望を出すことは可能です。

しかしながら、例えばパワハラなどの事案は、通報した労働者が受けた内容に関するものであれば、調査を進める場合、「誰のことか」というのは当然明らかになってきます。

そのため、臨検やその後の是正勧告の結果、労働者が通報したことについて、会社にバレる可能性はあるでしょう。

 

 

まとめ

ここまで、是正勧告書について解説してきました。

是正勧告書は、労働法令違反が認められた場合に労基署から交付される書面で、この書面自体は行政指導の位置付けですが、無視や放置をすると、違法状態がそのままとなってしまうため、刑事事件として送検されるリスクなどがあります。

したがって、是正勧告書には誠実に対応することが必要です。

是正勧告書を受け取った場合には、早めに弁護士に相談して、是正報告書の作成に向けた改善を実施することが大切です。

デイライトでは、労働問題に強い弁護士が顧問弁護士として、企業の皆様の労働相談、是正勧告書のチェックなどのサポートを実施しています。お悩みの方はお早めにご相談ください。

 

 


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