従業員に健康診断を受診させていない場合労基署は指摘しますか?


労災・安衛法についてよくある相談Q&A

質問 経営者従業員に健康診断を受けさせていませんでしたが何か問題はありますか?労基署は何か指摘してきますか?

 

Answer

弁護士本村安宏使用者は、労働者に定期的に健康診断を受けさせなければなりません

受けさせていなかった場合には、法律上は50万円以下の罰金に処せられることとなっており、労基署も事案によっては送検することも考えられます

 

健康診断の種類と罰則

健康診断 イメージ労働安全衛生法は、使用者に対して、自ら雇用する労働者に健康診断を実施しなければならないと規定しています(同法66条)。

この健康診断には、定期的に行うこととされている一般健康診断(同条1項)と有害業務に従事する労働者に対する特殊健康診断(同条2項)ないし歯科検診(同条3項)があります(下図参照)。

一般健康診断には、労働者を雇い入れる際に行わなければならないもの(安衛法規則43条)と年1回行わなければならないもの(同規則44条)があります。なお、深夜業などの特定業務従事者は年2回の健康診断が必要です(同規則45条)。

健康診断を行わなければならない労働者(対象者)は、ストレスチェックの場合と同じく、期間の定めのない無期契約労働者、有期契約でも1年以上雇用することがみこまれる労働者及び更新により1年以上雇用されている労働者で、事業場の所定労働時間の4分の3以上の労働時間である者です。

また、これらの健康診断については、労働安全衛生法上、使用者に義務づけられたものであることから、健康診断にかかる費用については、使用者が負担しなければなりません。

さらに、実施した健康診断の結果については、遅滞なく労働者に通知しなければならず(同法66条の6、同規則51条の4)、その結果を使用者は5年間保存しなければなりません(同法66条の3、同規則51条)。雇入時の保存様式は下図のとおりです。

ここまで説明した健康診断の実施や結果の本人通知については、事業場の規模を問わず、すべての使用者に課された義務ですが、常時50人以上使用する事業者は、定期健康診断の結果を下図の書式で労基署に書面により報告しなければなりません(同規則52条)。

そして、労働安全衛生法は、労働者に健康診断を受診させていない使用者に対して、50万円以下の罰金を科しています(安衛法120条1項)。

健康診断の種類と検査項目

一般健康診断

健康診断・雇入時の健康診断

・定期健康診断

・特定業務従事者の健康診断

・海外派遣労働者の健康診断

・結核健康診断

・自発的健康診断

・給食実施者の検便

 

特殊健康診断

健康診断 イメージ・有機溶剤健康診断

・鉛健康診断

・四アルキル鉛健康診断

・特定化学物質健康診断

・高圧作業健康診断

・電離放射線健康診断

・石綿健康診断

・歯科健康診断

・じん肺健康診断

 

健康診断個人票(雇入時)

定期健康診断報告書

 

労働者の健康診断受診義務

前項で説明したとおり、使用者には健康診断を実施する義務を課していますが、他方で、労働安全衛生法は労働者に対しても、使用者の実施する健康診断を受診する義務を課しています(同法66条5項)。

この義務違反に対して、罰則はありませんが、使用者は健康診断を受診しない労働者に対して、就業規則に基づいて懲戒処分を行うことはできます

ただし、労働安全衛生法は労働者に対し、原則として医師選択の自由を与えていますすなわち、同法66条5項但書で、労働者が使用者の指定する者以外の医師による健康診断を受け、その結果を提出することを認めています。

したがって、労働者がかかりつけの医師など、主治医による健康診断を希望した場合には、使用者としては合理的な理由がない限り、この申出に応じなければなりません。

【判例】愛知県教育委員会事件(最一小判平成13年4月26日労判804号15頁)

教師(事案の概要)

中学校の教諭に対して、教育委員会が学校で開催する定期健康診断において、結核の有無を確認するためにエックス線検査を受診するよう指示したものの、同教諭がこれを拒否し続けたため、校長がエックス線検査を受診するよう命令した行為が問題となった事例

(判旨)

最高裁は、教諭が労働安全衛生法66条5項や結核予防法(当該法令は2007年に廃止されている。)により、エックス線検査を受診する義務を負っていることを述べた上で、学校保険法上も定期健康診断(特に結核の有無に対する検査)は、「教職員の健康が保健上及び教育上、児童、生徒等に対し大きな影響を与えることにかんがみて実施すべきものとされている」として、これを受けるように校長が命令した行為は適法と判断している。

 

 

労基署の調査のポイント

解説する弁護士健康診断の受診については、上述のとおり、事業規模を問わず、使用者に課された罰則つきの義務です。

そして、健康診断の受診は、労働者の健康に深く関わるもので、近年は過労死の問題も社会問題となっています。

したがって、労災事故が発生した場合に、健康診断を受診させていなかった事実が判明した場合には、送検される可能性が高くなるでしょう

実際に、業務中に心疾患で死亡した労働者に定期健康診断を受けさせていなかったとして、送検されたケースがあり、注意が必要です(【送検事例】石巻労働基準監督署平成28年1月)。

 

 


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