従業員の過失で労災補償が減額される?過失相殺のルールを解説
従業員に過失があったとしても、労災保険の給付は原則として減額されません。
労災保険制度は、労働者保護を目的とした「無過失補償制度」であり、一定の例外を除いて、労働者のミスや不注意があっても、給付額に影響はありません。
ただし、ここで注意すべきは、労災保険とは別に企業が損害賠償責任を問われる場合です。
このときに問題となるのが「過失相殺」です。従業員にも一定の過失があると認められた場合、企業側が支払う賠償金から、その割合に応じて減額できる可能性があります。
この過失相殺は企業側から主張されることが多く、認められれば、賠償金の額が大きく減るケースもあります。
本記事では、過去の裁判例をもとに、どんな場合に過失相殺が認められるのかを具体的に解説します。
過失相殺が認められた過去の裁判例
<浦和地判平成8年3月22日>
1階屋根工事に従事していた大工が、約3メートル下の地上に墜落して重傷を負った事案において、「A(労働者)は、・・・・右作業に従事することが極めて危険であることを十分認識しており、また、外回りの足場がないまま右作業に従事する必要はなかったものと考えられるから、外回りの足場その他墜落を防止するための設備が設置されるまで右作業に従事するのを控えるべきであったというべきである」と判示して、労働者に8割の過失を認めました。
<大阪高判平成6年4月28日>
ゴミ処理プラントで灰出し作業に従事していた労働者が、鉄棒で灰だまりを突き崩そうとしたところ、突然、水素ガス爆発により吹き飛ばされ、約7メートル下の地面に落下して脊椎損傷などの重症を負った事案において、高所作業の場合に命綱を付けるべき旨を記載した運転要領書を交付し、プラントにも命綱を備え付けていたという事実認定を前提として、「A(労働者)命綱を付けておれば、これほど重大な結果が生ずることもなかったものであって、Aの過失が相俟ってこのような結果に至ったということができる」と判示して、労働者に6割の過失を認めました。
<東京地判平成8年2月13日>
清涼飲料水を買主方に運搬した運転手が、買主の設置管理する簡易リフトに搭乗して運搬中に、リフトのワイヤーが切れてリフトごと落下して、頚椎捻挫などの傷害を負った事案において労働者は、倉庫係の者の指示があったとはいえ、「人の搭乗が禁止されている荷物運搬用の本件リフトに搭乗した結果、本件事故に遭ったものであるから、この点に過失があり」と判示して、労働者に3割の過失を認めました。
まとめ
このように、過失相殺が認められるかどうか、またその割合は、労災事故の具体的な状況によって大きく異なります。
中には、従業員に過失があるように見えても、過失相殺が認められないケースも存在します。
そのため、過失相殺の可否やその影響について少しでも不安や疑問がある場合は、労働問題に精通した弁護士へ早めにご相談されることをおすすめします。
