働き方改革とは?具体例でわかりやすく解説
働き方改革とは、日本の労働環境を改善し、多様な働き方を実現するための政策です。
働き方改革は、長時間労働の是正、非正規雇用労働者の処遇改善、労働生産性の向上などを目指す、包括的な取り組みです。
働き方改革が進むことによって、それぞれの事情に応じた柔軟な働き方が可能になります。
働き方改革を効果的に進めていくためには、その内容や目的を正しく理解しておくことがとても重要です。
この記事では、働き方改革について、その意味や目的、具体的な変更点、企業の取り組み事例などを弁護士が解説します。
これから働き方改革に取り組む方や、今後の働き方を考えるすべての方にとって、ぜひ知っておいていただきたいポイントをまとめていますので、参考になさってください。
目次
働き方改革とは?
働き方改革とは、日本の労働環境を改善し、多様な働き方を実現するための政策です。
少子高齢化による労働力人口の減少や、長時間労働による健康被害、非正規雇用の増加による格差拡大など、日本の労働市場には多くの課題が山積しています。
これらの課題を解決するため、近年、さまざまな制度見直しや法改正がつづいています。
そのような取り組みを総称したものが、「働き方改革」です。
働き方改革の意味
働き方改革とは、一言でいえば「労働環境の改善と多様な働き方の実現」を目指す取り組みです。
働き方改革の本質的な意味は、単なる労働時間の短縮や有給休暇の取得促進にとどまりません。
それは、日本社会の「働き方」そのものを見直し、労働者一人ひとりにとって働きやすい環境を整えることにあります。
具体的には、長時間労働の是正、非正規雇用労働者の処遇改善、柔軟な働き方の促進、労働生産性の向上などが含まれます。
これらの取り組みを通じて、労働者の健康確保やワーク・ライフ・バランスを実現するとともに、企業の生産性向上と日本経済の成長へとつなげることが期待されています。
働き方改革の目的と背景
働き方改革の主な目的は、日本の労働市場が抱える構造的な問題を解決し、持続可能な社会と経済の発展を実現することです。
その背景には、深刻な少子高齢化による労働人口の減少や、長時間労働による健康被害といった問題があります。
さらに、非正規雇用労働者の増加による格差拡大も見過ごせない課題です。
現在の日本では、非正規雇用労働者が全労働者の約4割弱を占めており、その多くは正規雇用労働者と比べて、賃金や待遇面で不利な状況に置かれています。
これらの課題を解決するために、政府は2017年3月に「働き方改革実行計画」を策定し、具体的な施策の方向性を示しました。
この計画では、長時間労働の是正、非正規雇用の処遇改善、柔軟な働き方の促進などの分野について、具体的な改革の方向性が示されています。
働き方改革の目的は、これらの課題を総合的に解決し、誰もが自分らしく働ける社会を実現することにあります。
働き方改革はいつから?
働き方改革は、2018年6月に「働き方改革関連法」(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が成立し、2019年4月から順次施行されています。
この法律は、労働基準法や労働契約法、労働安全衛生法など、労働関連の主要な法律を一括して改正するものであり、働き方改革の法的基盤といえます。
改革の内容は、段階的に施行されていっています。
2019年4月には、年次有給休暇の確実な取得や、労働時間の客観的な把握などが義務化されました。
同じく、2019年4月には、大企業における時間外労働の上限規制が施行されています(中小企業は2020年4月から適用)。
さらに、2020年4月には、同一労働同一賃金の原則が大企業に適用されました(中小企業は2021年4月から適用)。
2024年4月からは、建設業や医師など一部の業種・職種についても、時間外労働の上限規制が適用開始されています。
このように、働き方改革は、法改正を通じて段階的に実施されており、日本の労働環境を徐々に変えつつあります。
ただし、働き方改革は法改正だけでなく、企業文化や個人の意識の変革も必要とする、長期的な取り組みであることを忘れてはなりません。
今後は、すでに施行されている内容の定着を図りつつ、よりよい労働環境をさらに模索していく段階に進んでいくと思われます。
働き方改革の3つの柱
働き方改革は、3つの重要な柱から構成されています。
これらは、互いに補完し合いながら、日本の労働環境の抜本的な改革を目指しています。
3つの柱の概要をつかんでおくことで、働き方改革が目指す方向性をより深く理解することができます。
以下、それぞれの柱について詳しく解説します。
①長時間労働の是正
働き方改革の第一の柱は、長時間労働の是正です。
日本は、世界でも有数の長時間労働大国として知られています。
このような状況を改善するため、働き方改革では、時間外労働の上限規制が導入されました。
具体的には、原則として月45時間、年360時間を上限とし、特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(複数月平均80時間以内)と定められました。
この規制は、労働基準法36条に基づく協定(いわゆる「36協定」)の見直しを通じて実施されています。
長時間労働の是正は、労働者の健康確保やワーク・ライフ・バランスの実現、そして生産性向上にもつながる重要な取り組みです。
残業の上限についての解説は、以下のページをご覧ください。
②非正規雇用の処遇改善
第二の柱は、非正規雇用の処遇改善です。
日本では、全労働者の約4割弱を非正規雇用労働者が占めています。
その多くは、正規雇用労働者と比べて、賃金や待遇面で不利な状況に置かれています。
この格差を是正するために、働き方改革では、「同一労働同一賃金」の原則が導入されました。
これは、正規・非正規という雇用形態の違いによる不合理な待遇差を禁止するものです。
同一労働同一賃金の実現により、非正規雇用労働者の処遇が改善されれば、働く意欲や能力発揮が促進されます。
ひいては、企業全体の生産性向上にもつながることも期待されています。
③多様で柔軟な働き方の実現
第三の柱は、多様で柔軟な働き方の実現です。
これは、テレワークやフレックスタイム制度の普及、副業・兼業の促進、高齢者の就労促進など、多様な働き方を可能にするための環境整備を指します。
特に、2020年以降のコロナ禍では、テレワークの導入が急速に進み、働く場所や時間の柔軟性が高まりました。
多様で柔軟な働き方は、労働者一人ひとりのライフスタイルに合わせた働き方を可能にし、ワーク・ライフ・バランスの実現につながります。
また、育児や介護と仕事の両立を支援することで、女性や高齢者など、これまで十分に活躍できていなかった人材の労働参加も促進されます。
さらに、多様な人材の活躍は、企業にとっても、新たな価値創造や生産性向上のきっかけとなることが期待されています。
働き方改革の3つの柱は、互いに補完し合う関係にあります。
これらの取り組みを総合的に推進することで、日本の労働環境を根本から変革し、持続可能な社会を実現することが、働き方改革が目指すところなのです。
働き方改革関連法による6つの変更点
働き方改革関連法の成立により、日本の労働法制は大きく変わりました。
多くの人にとって働きやすい環境となるよう、大小さまざまな制度改正がされています。
ここでは、働き方改革関連法によってもたらされた6つの主要な変更点について解説します。
①時間外労働の上限規制
従前は、36協定を結ぶことで、実質的に際限なく残業させることが可能でした。
ところが、労働基準法の改正により、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間と定められました。
特別な事情がある場合でも、年720時間、単月100時間未満(複数月平均80時間以内)を超えることはできません。
これにより、過労死ラインとされる月80時間を超える残業を防ぎ、労働者の健康確保が図られることになります。
②年次有給休暇の確実な取得
年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、使用者は年5日については、労働者ごとに与えることが義務付けられました。
これにより、有給休暇の取得率向上が図られています。
日本の有給休暇取得率は、50%程度と先進国の中でも低水準にとどまっています。
この制度の導入により、最低でも年5日の有給休暇が確実に取得されるようになりました。
企業は、有給休暇の取得状況を個別に管理し、取得が進んでいない従業員には、計画的に休暇を取得させる必要があります。
有給休暇についての解説は、以下のページをご覧ください。
③フレックスタイム制の拡充
フレックスタイム制の清算期間が、最大1か月から3か月に延長されました。
フレックスタイム制は、一定期間(清算期間)の総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で、各日の始業・終業時刻を自由に決められる制度です。
清算期間が3か月に延長されたことで、たとえば繁忙期に長く働き、閑散期に短く働くといった調整が可能になり、より効率的な働き方ができるようになりました。
④同一労働同一賃金の実現
正規・非正規という雇用形態の違いによる、不合理な待遇差が禁止されました。
正規か非正規かを問わず、仕事の内容が同じであれば賃金も同じとなるため、「同一労働同一賃金」と呼ばれています。
具体的には、基本給や賞与、各種手当など、あらゆる待遇について、職務内容や責任の程度などを考慮して、不合理な差を設けることが禁止されています。
これは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差があること自体を否定するものではありません。
ただし、待遇差がある場合は、なぜそのような差があるのか、理由を説明できる必要があります。
⑤勤務間インターバル制度の普及促進
これは、労働者の健康確保のため、1日の勤務終了後、次の勤務までに一定時間の休息時間(インターバル)を確保する制度です。
現在のところは、法的義務ではなく努力義務にとどまりますが、導入を促進するための支援策が設けられています。
勤務間インターバル制度は、欧州では広く普及している制度ですが、日本では導入が進んでいませんでした。
働き方改革により、勤務間インターバルが事業主の努力義務として位置づけられるとともに、導入を支援するための助成金制度が設けられました。
この制度の導入により、十分な休息時間が確保され、労働者の健康維持や過労防止、生産性向上につながることが期待されています。
⑥労働時間の客観的な把握
使用者に、従業員の労働時間を客観的に把握する義務が課されました。
これまで、労働時間の管理は、管理監督者や裁量労働制の適用者については義務付けられていませんでした。
働き方改革関連法により、全ての労働者について、客観的な方法による労働時間の把握が義務付けられました。
客観的な方法とは、タイムカードやICカード、パソコンのログなどによる記録などを指します。
これにより、長時間労働の実態が把握しやすくなり、適切な労務管理や健康管理が行いやすくなることが期待されています。
また、サービス残業の防止にもつながります。
働き方改革関連法によるこれらの6つの変更点は、日本の労働環境を大きく変える可能性を持っています。
ただし、法律の改正だけでなく、企業や労働者の意識改革も含めた総合的な取り組みが必要です。
他の企業はどうしてる?働き方改革の具体例
働き方改革は、多くの企業でさまざまな形で実践されています。
これから働き方改革を進めていこうという会社では、他社の取り組み状況が気になるところかと思います。
厚生労働省では、「働き方・休み方改善ポータルサイト」で、さまざまな会社の取り組みを紹介しています。
ここでは、実際に効果を上げている企業の具体的な取り組み事例を、3つ紹介します。
トヨタ自動車株式会社
自動車業界大手のトヨタ自動車は、仕事と育児及び介護との両立を含めた「柔軟な働き方への変革」を通じて、一人ひとりが生産性高く、能力を最大発揮し、いきいきと働ける職場の実現を目指しています。
在宅勤務制度の新設
FTL制度(Free Time and Location)として、裁量労働制やフレックスタイム勤務の社員を対象とした在宅勤務制度を導入しています。
勤務開始・終了時の上司への通知義務、スケジューラーへの業務入力、週1回の出社義務、深夜勤務の制限などのルールを設定しています。
年次有給休暇取得促進
年間平均取得日数は現業部門22日、管理部門19.5日です。
有給休暇の取得促進のため、3連休での取得(3Days Vacation)を推奨しています。
有給休暇の時効を3年(最大60日)としているため、長期の病気や介護に備えることができます。
育児との両立支援
交替制勤務職場では「常1直勤務制度」(6時半~15時の固定シフト、子が小4修了まで)を導入しています。
また、子の年齢に応じた勤務時間短縮制度も整備し、育児中の社員が所属職場で継続勤務できる環境を整えています。
伊藤忠商事株式会社
総合商社の伊藤忠商事は、同業他社と比べ、単体社員数が少ないことから、効率的な働き方を目指しています。
「厳しくとも働きがいのある会社」というメッセージを出しており、高い成果を出すことと働き方改革の両立を図っています。
朝型勤務制度の導入
2013年度に、朝型勤務制度を導入。
22:00~5:00の深夜勤務を「禁止」、20:00~22:00の勤務を「原則禁止」とし、必要な場合は翌日朝9:00前に出社して業務を行うこととしています。
早朝勤務(5:00~8:00)には深夜勤務と同等の割増賃金を支給し、7:50以前始業の場合は、8:00~9:00にも同様の割増率を適用しています。
また、8:00前始業の社員には無料で軽食を提供しています。
在宅勤務制度の導入
コロナ禍での経験を踏まえ、2022年度に正式に在宅勤務制度を導入。
全社員が週2回まで、理由を問わず自宅での勤務を可能としています。
週3日は出社とすることで、対面コミュニケーションを確保しつつ、半日出社・半日在宅という柔軟な働き方も可能としています。
働き方に関わらず、パフォーマンスで評価する方針を徹底しています。
社員の健康に着目した取組
2013年度から、会食を1次会までとし22時までの帰宅を推進する「110運動」を実施し、深夜飲酒の抑制が定着しています。
近年は睡眠に注目した調査を行い、睡眠不足の社員が一定数いることを可視化し、行動変容につながる施策にも取り組んでいます。
株式会社リコー
事務機器、光学機器メーカーであるリコーは、「一人ひとりがイキイキと働き、個人およびチームとして最大のパフォーマンスを発揮し、新たな価値を生み出し続けることができる働き方を実現する」ことを目指して、働き方改革に取り組んでいます。
リモートワークと対面のハイブリッドな働き方
コロナ禍以降、約3分の2の社員がリモートワーク中心となり、出社率は2023年度で30%程度です。
通勤時間削減などのメリットがある一方、コミュニケーション不足などの課題も生じたため、月2回の対面コミュニケーションを推奨するトライアルを実施しました。
部門ごとに業務内容が異なるため、チームごとに最適なハイブリッドワークを模索しています。
勤務間インターバル制度
社員の健康維持を目的に、2019年4月から試験導入し、2022年4月に正式導入しました。
管理職を含む全社員を対象に、11時間のインターバル時間を設定しています。
ショートワーク制度
2018年に導入したこの制度は、自己啓発、ボランティア、セカンドライフ準備、介護、育児、副業を理由に、短時間勤務や週4日勤務が可能です。
2023年度は26人が利用し、育児中やシニア社員の利用が多く、多様な人材の活躍に貢献しています。
特に、シニア社員は、週1日をセカンドライフのために活用するケースが多いです。
企業が働き方改革を成功させるポイント
働き方改革を成功させることができれば、従業員の仕事満足度が高まるだけでなく、企業価値の向上にもつながります。
働き方改革を成功させるためには、企業はいくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
ここでは、働き方改革を効果的に推進するための具体的な方策について、解説します。
就業規則を見直す
働き方改革を進める上で、重要な取り組みのひとつは、就業規則の見直しです。
就業規則は、労働条件や職場のルールを定めた重要な文書です。
働き方改革関連法の施行に伴い、多くの企業で改定が必要となっています。
たとえば、時間外労働の上限規制、年次有給休暇の取得義務化、フレックスタイム制の拡充などに対応するため、就業規則の労働時間や休日・休暇に関する規定を見直す必要があります。
また、同一労働同一賃金の原則に対応するため、正社員と非正規社員の待遇差に関する規定も見直す必要があるでしょう。
就業規則の見直しに際しては、単に法律に対応するだけでなく、自社の働き方改革の方針や目標を反映させることも重要です。
たとえば、テレワークやフレックスタイム制、副業・兼業の容認など、柔軟な働き方を促進する規定を盛り込むことで、働き方改革を加速させることができます。
また、就業規則の改定プロセスでは、従業員の意見を取り入れることも大切です。
現場の実態や従業員のニーズを反映させることで、より実効性の高い就業規則となります。
就業規則の見直しについての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
雇用契約書を変更する
働き方改革に伴い、雇用契約書の見直しも重要な課題となります。
雇用契約書は、個々の労働者と会社との間の労働条件を具体的に定めた文書であり、就業規則の変更に合わせて見直す必要があります。
特に、パートタイマーや有期契約社員などの非正規社員の雇用契約書は、同一労働同一賃金の原則に対応するため、大幅な見直しが必要となる場合があります。
具体的には、基本給や各種手当、賞与、退職金などの待遇について、正社員との間に不合理な差がないか検証し、必要に応じて改定する必要があります。
また、柔軟な働き方を促進するため、テレワークやフレックスタイム制、裁量労働制などの、新たな働き方に対応した雇用契約書の整備も必要です。
たとえば、テレワークを導入する場合、勤務場所や労働時間の管理方法、通信費や電気代などの費用負担、情報セキュリティに関するルールなどを明記することが望ましいでしょう。
雇用契約書の変更に際しては、労働者の不利益変更とならないよう注意が必要です。
労働条件の不利益変更は、原則として労働者の同意が必要であり、同意なく一方的に変更することはできません。
そのため、変更の必要性や合理性を丁寧に説明し、労働者の理解を得ることが重要です。
雇用契約書の変更については、以下のページをご覧ください。
働き方改革の助成金を活用する
働き方改革を進める上で、国や自治体の助成金・補助金制度を活用することも効果的です。
厚生労働省をはじめとする関係省庁では、働き方改革に取り組む企業を支援するための、さまざまな助成金制度を設けています。
代表的な助成金としては、「働き方改革推進支援助成金」があります。
この助成金は、労働時間の短縮や年次有給休暇の取得促進、勤務間インターバル制度の導入などに取り組む中小企業を対象に、その経費の一部を助成するものです。
具体的には、就業規則の作成・変更費用、労務管理システムの導入費用、専門家によるコンサルティング費用などが対象となります。
また、「人材確保等支援助成金」も活用できます。
この助成金は、雇用管理制度(評価・処遇制度、研修制度、健康づくり制度など)の導入や、テレワークの導入、介護離職防止支援などに取り組む企業を支援するものです。
これらの助成金を活用することで、働き方改革に伴うコストを軽減し、より積極的な取り組みが可能になります。
助成金の申請には一定の要件があり、申請手続きが複雑な場合もあります。
事前に助成金の詳細を確認し、必要に応じて専門家に相談することをお勧めします。
業務プロセスの見直しと効率化
働き方改革を実効性あるものにするためには、業務プロセスの見直しと効率化が不可欠です。
長時間労働の是正や柔軟な働き方の実現のためには、単に制度を導入するだけでなく、業務そのものを効率化する必要があります。
たとえば、ペーパーレス化や、決裁プロセスの電子化、チャットツールやビデオ会議システムの導入などにより、業務の大幅な効率化を図ることができます。
また、定期的に業務プロセスを見直す機会を設け、継続的な改善を図ることも重要です。
働き方改革の現状
働き方改革が進められてから数年が経過し、日本の労働環境にはどのような変化が見られるのでしょうか。
ここでは、最新の統計データを基に、働き方改革の現状と課題について解説します。
労働時間の推移
厚生労働省の公表資料によると、日本の労働者の総実労働時間は緩やかな減少傾向にあります。
参考:人口構造、労働時間等について 年間総実労働時間の推移|厚生労働省ホームページ
ただし、この見方には注意を要します。
まず、総労働時間は平成の初期から一貫して減少傾向にあるため、働き方改革の成果とは必ずしも評価できない、という点があります。
次に、一般労働者の総労働時間はほとんど横ばいであり、総労働時間の減少は、労働時間の短いパートタイマーの増加によるものということができます。
労働時間の減少という点では、まだまだ課題が残っているといえそうです。
年次有給休暇の取得状況
令和4年の年次有給休暇の取得率は62.1パーセントで、前年より3.8ポイント上昇し、昭和59年以降過去最高となっています。
これは、年5日の年次有給休暇の取得義務化が、一定の効果を上げたものと考えられます。
ただし、政府目標は70パーセントであり、目標にはまだ遠い状況です。
この傾向を定着させ、さらなる消化率向上を目指していく必要があります。
勤務間インターバル制度の導入状況
勤務間インターバル制度について、「導入している」と回答した企業は、令和5年で6.0パーセントとなりました。
少しずつ導入は進んでいるものの、他方で、「導入を予定又は検討している」と答えた企業が減っています。
つまり、過去に導入を「検討している」と答えていた企業が、実際に導入を実施したものと考えることができるのです。
「導入予定はなく、検討もしていない」と答えた企業は8割前後で横ばいとなっており、導入が順調に進んでいるとはいえない状況です。
さらに、勤務間インターバル制度を知らなかった企業が2割程度存在しており、まずは制度の周知を図っていく必要がありそうです。
働き方改革の相談窓口
働き方改革を進める上で、疑問や課題が生じた場合、どこに相談すればよいのでしょうか。
ここでは、働き方改革に関する主な相談窓口をご紹介します。
働き方改革推進支援センター
働き方改革推進支援センターは、厚生労働省が全国に設置している無料の相談窓口です。
中小企業や小規模事業者が、働き方改革を進める上でのさまざまな課題について、社会保険労務士などの専門家が相談に応じています。
同センターは、労働時間管理や賃金制度等の見直し、助成金の活用など、働き方改革に関するさまざまな相談に対応しています。
また、専門家が直接企業を訪問し、就業規則の見直しや賃金制度の設計、業務改善などについてアドバイスする「訪問支援」も行っています。
さらに、労務管理や業務効率化に役立つセミナーや出張相談会も定期的に開催しており、最新の法改正情報や具体的な対応策について学ぶことができます。
働き方改革推進支援センターは全国47都道府県に設置されており、地域の実情に詳しい専門家が対応しているため、きめ細かな支援を受けることができます。
働き方改革に関する悩みがある企業は、ぜひ活用を検討してみてください。
労働問題に強い弁護士
働き方改革を進める上で、法的な観点からのアドバイスが必要な場合は、労働問題に強い弁護士に相談することも有効です。
特に、以下のような場面では、弁護士のサポートが役立ちます。
まず、就業規則や雇用契約書の作成・変更を行う際の法的アドバイスです。
働き方改革関連法に対応した就業規則や雇用契約書を整備する際には、法的な知識が必要となります。
弁護士は、法律に則りつつも、企業の実情に合わせた規則や契約書の作成をサポートしてくれます。
次に、同一労働同一賃金への対応に関するアドバイスも重要です。
正社員と非正規社員の待遇差が不合理ではないかを検証する際には、法的な観点からの判断が求められます。
弁護士は、裁判例や法律の解釈を踏まえた、具体的なアドバイスを提供してくれます。
また、労働紛争が発生した場合の対応も弁護士の重要な役割です。
たとえば、残業代請求や不当解雇、ハラスメント問題など、労働関係の紛争が発生した場合、弁護士は、交渉や調停、訴訟などを通じて企業の利益を守ります。
さらに、労働基準監督署の調査や労働審判への対応なども、弁護士のサポートがあると心強いでしょう。
弁護士を選ぶ際は、労働法に関する専門知識や実績を持っているか、企業の実情に理解があるか、といった点を確認することが重要です。
労働問題における弁護士選びの重要性については、以下のページをご覧ください。
働き方改革についてのQ&A
働き方改革で残業はどうなる?

原則として月45時間・年360時間が上限であり、特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(複数月平均80時間以内)を超えることはできません。
企業は、労働時間を客観的に把握し、適切に管理する必要があります。
また、従業員の健康確保のため、勤務間インターバル制度の導入も推奨されています。
残業時間の上限規制についての詳細は、以下のページをご覧ください。
働き方改革で医師はどうなる?

また、看護師や他の医療スタッフへの業務分担(タスクシフティング)、電子カルテやオンライン診療などのICT(情報通信技術)を活用することで、負担軽減が期待されています。
医師の労働問題についての詳細は、以下のページをご覧ください。
働き方改革で教員はどうなる?

しかし、教員の長時間労働も社会問題化しており、文部科学省は、時間外在校等時間の上限を、原則月45時間・年360時間とする目安を示しています。
また、各自治体では、業務の効率化やICT活用、部活動の地域移行などの取り組みを進めています。
教員のなり手を確保するためにも、今後も負担軽減の取り組みが進められていくと思われます。
まとめ
この記事では、働き方改革について、その意味や目的、具体的な変更点、企業の取り組み事例などを解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 働き方改革は、長時間労働の是正、非正規雇用の処遇改善、多様で柔軟な働き方の実現を3つの柱とする。
- 働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制、年次有給休暇の取得義務化、同一労働同一賃金などが法制化された。
- 就業規則や雇用契約書の見直し、業務プロセスの効率化などに取り組むことで、働き方改革を推進できる。
- 働き方改革の推進には、働き方改革推進支援センターや労働問題に強い弁護士などの専門家の支援を活用するとよい。
当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。
Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。
労働問題でお困りの際は、当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。
