弁護士コラム

兼業・副業の導入にあたっての注意点を労務問題に詳しい弁護士が解説!


副業・兼業の推進

現状、多くの企業で就業規則に「会社の許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」といった兼職禁止の条項が入っており、原則として兼業副業を認めない企業が多数です。

副業・兼業を認めていない企業は85.3%とのデータがあります((出典)中小企業庁委託事業「平成26年度兼業・副業に係る取組実態調査事業」)。

もっとも、裁判例の傾向としては、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に自由であり、企業において、それを制限することが許されるのは、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務などに反するような場合や企業の名誉・信用を損なう行為があるような場合に限られる傾向にあります。

社員現在政府が掲げている働き方改革においても、多様で柔軟な働き方を認め、国民が自分の未来を自ら作っていくことができる社会創りを目指しており、その一環として、副業・兼業を推進していく方向性を打ち出しています。

政府は、働き方改革実行計画において、労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業の普及促進を図ることを明言しています。

以下では、政府作成の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を踏まえて、兼業・副業の問題点について説明します。

 

 

副業・兼業の現行の法規制

現在の労基法上においては、副業・兼業の定義や禁止規定などは設けられていません。ただし、前述したように多くの企業で、副業・兼業を禁止する就業規則が置かれています。

本来的には、労働者には職業選択の自由(憲法22条1項)が認められており、また、労働時間以外は、労働者は何を使用と自由ですから、副業・兼業の禁止は、こうした労働者の自由を制限することになります。

マンナ運輸事件(京都地判平成24年7月13日)では、兼業の禁止について、以下のように判示しています。

(判旨の一部)
「労働者は,勤務時間以外の時間については,事業場の外で自由に利用することができるのであり,使用者は,労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを,原則として許されなければならない。
もっとも,労働者が兼業することによって,労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり,使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じることもあり得るから,このような場合においてのみ,例外的に就業規則をもって兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である」

トラックの画像マンナ運輸事件では、勤務時間以外に副業をすることは原則認めれるべきとした上で、兼業が原因で労務提供が疎かになったり、企業秘密が漏洩するなど企業秩序が乱されるような場合に限って、例外的に兼業を就業規則で禁止できると判示されています。

他の裁判例をみても、会社の職場秩序に影響をせず、会社の業務遂行に支障が出ていないのであれば、副業・兼業禁止規定には実質的には違反していないと判断している裁判例が多数です。

こうした裁判例を踏まえて、ガイドラインでは、副業・兼業を禁止あるいは一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものであるかどうかを精査した上で、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することを求めています。

 

 

労働時間通算の問題

副業・兼業に関わる法規制において、企業として最も注意しなければならないのは、副業・兼業した場合の労働者の労働時間です。労基法38条には、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。ここでいうところの「事業場を異にする場合」とは事業主が異なる場合も含まれます(昭和23年5月14日基発第769号)。

したがって、本業と副業のそれぞれの労働時間を合算した時間が当該労働者の労働時間ということになります。

例えば、本業で8時間労働した後に、アルバイトを3時間した場合、労働時間は11時間ということになりますので、8時間の法定労働時間を超えている3時間の部分については時間外労働となり、割増賃金を支払わなければなりません。

では、誰が割増賃金の負担をするのでしょうか。

行政通達では、後から契約した会社が割増賃金の支払い義務を負うこととされています(昭和23・10・14基収 2117 号)。後から契約する会社は、労働者がもともと就労している会社で何時間就労しているのかを把握した上で、労働契約をすることができるからです。36協定の締結義務も後から契約をした会社にあります。

したがって、雇用する際にすでに労働者が別の雇用主に雇用されている場合には、就労状況について十分に確認しておかなければ、思いがけず割増賃金を支払わなければならなくなる可能性もありますので、注意しなければなりません。

 

 

副業・兼業のメリット・デメリット

労働者のメリット・デメリット

メリット

●離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。
●本業の所得をもとに、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができ、モチベーションが上がる。
●所得が増加する。
●本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる

デメリット

●労働時間が長くなり、ワークライフバランスを保つことが難しくなる
●本業に影響・支障が出る可能性がある
●1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険等の適用がない場合がある。

上記のように労働者としては、副業・兼業をすることで、所得を増やし、自己実現を追求することができるなどのメリットがあります。

他方で、副業・兼業はあくまで本業あってのものであり、副業・兼業を行った結果、本業がままならず、全てが中途半端に終わり、逆に生活が苦しくなったり、自己実現が遠のいてしまっては本末転倒です。

したがって、あくまで本業ありきで、副業・兼業に充てる時間や労力を見極めてワークライフバランスを保つことを意識することが大切です。

 

企業のメリット・デメリット

メリット

●労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
●労働者の自立性・自主性を促すことができる。
●優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
●労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

デメリット

●労働者の総労働時間の把握や健康管理が難しくなる
●労働者の生産性が下がる可能性がある
●会社内の企業秘密が外部に漏洩する可能性がある
●競業避止義務違反の問題が生じる可能性がある。

会議上記のように、企業としては労働者が、自己実現を追及することでスキルアップしそのスキルを会社内で生かすことで、生産性の向上や新たな新事業の立ち上げなど、企業の可能性の幅が広がることが考えられます。

他方で、企業としては、企業の支配下以外で労働者が就労することになるので、労働時間の管理が難しくなります。また、副業・兼業をすれば、その分だけ労働時間が増えるので、本業における生産性が低下する可能性も否定できません。

副業・兼業を認めるにあたって、企業は、労働者の労働時間を正確に把握する工夫が必要になります。

メリット デメリット
 

 

労働者

・スキルや経験を得てスキルアップが可能になる。

・自己実現を追及できる

・所得が増加する

・企業・転職の準備が行いやすくなる

・労働時間が長くなる

・本業に影響・支障が出る可能性がある

・雇用保険の適用がない可能性がある

 

 

企業

・労働者のスキルがアップする

・労働者の自立性・自主性を促すことになる

・人材の獲得・流出の防止

・新たな情報や人脈掲載ができ事業拡大につながる

・労働者の労働時間・健康の管理が難しくなる

・労働者の生産性が低下する可能性がある

・企業秘密が漏洩する可能性がある

・競業避止義務の問題が生じる可能性がある

 

 

副業・兼業を認めるにあたっての留意点

副業・兼業を認める範囲や手続きの検討

副業・兼業を認めるにあたっては、①どのような形態の副業・兼業を認めるのか、②副業・兼業を行う際の手続きはどうするのか、③副業・兼業の状況把握するための仕組みはどうするのか、④副業・兼業の内容を変更する場合の手続きはどうするのかといった事項を決定しなければなりません。

これらの事項については、業種や企業の規模、企業の内部的な事情などによって異なるので、副業・兼業を認めるにあたっては、自社の状況を十分踏まえて上記事項について決定しなければなりません。

 

副業・兼業先での労働時間の把握

前述したように、労働時間に関する規定の適用にあたっては、兼業・副業先での労働時間も通算されることになるので注意しなければなりません。副業・兼業をしている労働者については、副業・兼業先の労働時間について申告させて、正確な労働時間を把握する必要があります。

もっとも、個人事業主や委託契約・請負契約等により労基法上の労働者でない者として副業・兼業を行う場合、又は、労基法上の管理監督者として副業、兼業を行う場合には、労基法上の労働時間の規定は適用されません。

ただし、この場合においても、労働者が過労にならないよう自己申告によって労働時間を申告させるなどして、労働時間を把握し、長時間労働にならないよう留意すべきといえます。

 

労働者の健康管理

企業は、労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、労衛法66条等に基づき、健康診断等を実施しなければなりません。

一般健康診断は、常時使用する労働者(常時使用する短時間労働者を含まれます。)が実施対象となる。この、常時使用する短時間労働者は、以下の①、②のいずれをも満たす労働者です。

① 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること
② 1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間の3/4以上であること

②の判断にあたって、副業・兼業先の労働時間の通算はされません。もっとも、会社として副業・兼業を認め、実際に労働者が副業・兼業をしているのであれば、必要に応じて健康確保措置をすることをお勧めします。

 

秘密保持義務、競業避止義務の遵守

労働者に副業・兼業を認めた場合、会社の業務に関する秘密が漏洩する危険性があります。また、会社で培ったノウハウや情報を利用して会社と競合する営業を始める労働者が出てくるかもしれません。

したがって、労働者に副業・兼業を認めるにあたっては、会社の秘密情報を漏洩しないことや、会社と競業する副業・兼業は行わないことを誓約する書面を提出させることも検討すべきです。

 

 

労災保険の補償について

事業主は、副業・兼業をしているかどうかにかかわらず、労働者を一人でも雇用していれば、労災保険に加入する必要があります。

そこで、副業・兼業している労働者が、本業の就業先から副業・兼業の就業先に移動している最中に災害(交通事故など)に遭った場合、本業の会社と副業・兼業の会社のいずれの労災保険が利用できるのでしょうか。

結論としては、副業・兼業先の労災保険で処理することになります。

街中行政通達によれば、事業場間の移動は、当該移動の終点たる事業場において労務の提供を行うために行われる通勤であると考えられ、当該移動の間に起こった災害に関する保険関係の処理については、終点たる事業場の保険関係で行うものとされています(平成18年3月31日基発第0331042号)。

したがって、例えば、当該労働者が、本業A社で月25万円の賃金、副業・兼業B社で月5万円の賃金を得ている場合、当該労働者がA社とB社いずれも休業したとしても労災保険の休業補償で基礎とされる賃金はB社から支給されている5万円のみになります。

したがって、当該労働者は、労災保険からは休業補償として4万円(休業給付及び休業特別給付)しか受け取ることができません。

 

 

就業規則

厚生労働省が作成している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」において、下記のモデル就業規則が公表されてます。

(副業・兼業)
第〇条
労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事するこ
とができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④競業により、企業の利益を害する場合

モデル就業規則の第1項では、副業・兼業を会社として認めることが明示されています。

第2項は、副業・兼業を行う場合には、会社に届出をしなければならないことを規定しています。

届出の様式については、会社において作成した方がよいでしょう。あまり詳細に申告させることは、労働者の私生活に過度に干渉することになりますので避けるべきです。ただし、労働時間を正確に把握するためにも就業時間申告させることは必要です。

また、会社と競業する業務に就かれて、秘密情報が漏洩することも避けたいところですから、副業・兼業先の業務内容も把握しておきたいところです。

第3項は、労働者が副業・兼業を行う中で、①~④の事情が生じた場合には、副業・兼業を止めさせるか、あるいは制限することができることを規定しています。副業・兼業を開始後に、労働者の生産性が急激に低下したような場合に、それを放置しておくわけにはいきません。

また、会社の秘密情報が洩らされていたり、競業業務が行われ、会社の利益が損なわれるような場合には、速やかに副業・兼業を禁止あるいは制限しなければならないため、第3項のような規定が設けられています。

モデル就業規則は、あくまでモデルであって、全ての起業に一律にマッチするものではありません。副業・兼業を認めるにあたっては、自社の状況を十分に踏まえて規則を作成すべきです。

 

 


この記事を書いた人

弁護士 鈴木啓太

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