セクハラとは?今後の対処法を事例別に解説|チェックシート付

執筆者
弁護士 木曽賢也

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

セクハラとは、セクシュアルハラスメントの略で、職場において行われる相手方の気持ちを無視した性的な発言や性的な行動をいいます

セクハラは世間一般でよく使われる言葉ですが、実はその意味合いなどは簡単なものではありません。

そこで、本記事では、労働問題を多く扱う弁護士がセクハラについて解説していきます。

立場ごとの対処法も解説しておりますので、セクハラで気になられている方はぜひご覧ください。

この記事でわかること

  • セクハラの意味
  • 違法なセクハラにあたるかどうかのチェックシート
  • セクハラにあたる発言や行動
  • セクハラへの正しい対処法(被害者側・加害者側・会社)

セクハラの定義とは?

セクハラの意味

セクハラとは、セクシュアルハラスメントの略で、職場において行われる相手方の気持ちを無視した性的な発言や性的な行動をいいます(執筆者の定義)。

セクハラは、何らかの法律で厳密に定義されているわけではありません。

もっとも、セクハラに関連する条文として、男女雇用機会均等法(正式には、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」)第11条1項があります。

男女雇用機会均等法第11条1項
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

引用元:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律|e−Gov法令検索

また、セクハラの定義などについては、厚生労働省の以下の指針が参考になります。

参考:事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき 措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)【令和2年6月1日 適用】 |厚生労働省

なお、厚生労働省の上記指針では、セクハラについて、

  • 職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(対価型セクシュアルハラスメント)
  • 当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの(環境型セクシュアルハラスメント)

と定義されていますが、少しわかりにくい側面もあるかと思いますので、執筆者はセクハラを冒頭の定義で表現させていただきました。

以下、執筆者の定義を前提に用語の説明をいたします。

 

職場

「職場」には、従業員の方が実際に働いている場所(会社・事業所)はもちろんのこと、働いている場所と同視できるような場所も含まれると考えられています。

例えば、職場には以下のような場所も含まれます。

【 職場に該当する例 】

  • 出張先
  • 取引先の事業所
  • 顧客の自宅
  • 業務で移動中の車内
  • 参加が強制的な飲み会の会場

 

相手方

ここでいう「相手方」は、従業員(労働者)を指します。

従業員には、正社員、契約社員、パートタイマー、派遣労働者などが含まれます。

また、相手方は、男女(男→女、女→男)という異性だけでなく、同性(男→男、女→女)も対象となります。

 

性的な発言や性的な行動

性的な発言や性的な行動の具体例は、以下のようなものです。

【 性的な発言 】

  • 性的な内容の情報を他人に言いふらす
  • 性的な体験談を聞く
  • 自分の性体験を話す
  • 食事やデートへ何度も誘う

【 性的な行動 】

  • 仕事と関係なく体に触る
  • 無理やり性行為をしようとする
  • 性的な画像や動画を見せる

 

セクハラの種類

セクハラの種類については、上記の厚生労働省の指針のとおり、大きく分けて、

  • 職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(対価型セクシュアルハラスメント)
  • 当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの(環境型セクシュアルハラスメント)

の2種類があります。

具体例 対価型セクシュアルハラスメントの例

  • 上司の男性が部下の女性に対してキスを要求したが、断られたため、部下の女性の給料を減給した。
  • 上司の女性が部下の男性に対して、「男のくせにそんな弱々しい態度をとるな!」と言い放ち、部下の男性が会社のセクハラ窓口に相談したところ、部下の男性を解雇した。

具体例 環境型セクシュアルハラスメントの例

  • 上司の男性が部下の女性に対して、業務上必要がないにもかかわらず、足を触り続けたため、女性が仕事に集中できなくなった。
  • 上司の女性が部下の男性の過去の性体験を会社の飲み会で何度も言いふらして、部下の男性が職場に行きにくくなった。

 

 

どこからがセクハラ?事例で解説

ある行為がセクハラにあたり違法となるかどうかは、結局は個別事案の内容によるので、定型化することは難しいです。

もっとも、違法となるセクハラにあたるかどうかについては、下記のセクハラチェックシートを参考にされてください。

セクハラチェックシート

以上のチェックシートの質問に対して、複数チェックがつく場合は、行為者の行為が違法となるセクハラに該当する可能性があります

 

行為者の行為が性的なものに関わることである

セクハラの定義は、職場において行われる相手方の気持ちを無視した性的な発言や性的な行動というものでした。

この定義から、行為者の行為が性的なものであることが前提です。

 

行為者は、相手方と比較して同等以上の地位(上司など)である

セクハラは上下関係などが背景にあって行われやすいものであります。

そのため、行為者と相手方の立場も考慮するべきです。

行為者が、相手方よりも立場が上であればある程、セクハラになりやすいです。

また、会社の中で同じくらいの立場であっても、状況次第ではセクハラになります。

 

行為者の行為が、何度も行われている

行為の内容にもよりますが、基本的に同じような行為を何度も繰り返すとセクハラになりやすいです。

何度も行われていなくても一発でアウトになるセクハラは、例えば、無理やり性行為をするなどです。

 

相手方は、行為者の行為に対して拒否をしている

セクハラについては、相手方の反応も考えなければなりません。

相手方が明確に拒否している場合は、相手方の気持ちを無視したものと言いやすいので、セクハラに該当する可能性があります。

ただし、一見拒否していないように見えても、実は相手方は嫌がっているケースもあります

このように、その場の雰囲気などからはっきりと拒否できない場合もあるので、拒否しているかどうかを判断する際は慎重にならなければなりません。

 

裁判例からみるセクハラ

では、上記にチェックシートを使って、実際にセクハラであると認定された裁判例を見ていきましょう。

判例 東京セクシュアルハラスメント広告代理店事件〜東京地裁平成8年12月25日労判707号20頁

【 事案 】
原告である女性に対して、男性の被告は長期間にわたり強引かつ執拗に肉体関係を求めた結果、不法行為にあたるとして損害賠償請求をした事案

【 判決 】
被告のセクハラ行為を認め、被告と被告会社150万円の慰謝料の支払義務を認めた。

上記、裁判例の事実関係について、セクハラチェックシートを使って検討をします。

□行為者の行為が性的なものに関わることである
  • 被告は、原告の顔を両手で押さえてキスをし、パジャマの内側に左手を入れて乳房を触り、さらに下半身の方にも手を入れ、性器に触ろうとした。
  • 被告は、「ドライブに行こう。」や、「ホテルに行こう。」などと原告を誘った。
  • その他にも、原告が被告に業務報告に行くたびに食事に誘ったりしていた。

身体に触れる行為は、典型的な性的なものです。

また、仕事と関係のないドライブや、肉体関係を求めホテルに誘う行為、食事に誘う行為も男女交際を求めるような発言であり性的なものといえるため、この項目はチェックがつきます。

 

□行為者は、相手方と比較して同等以上の地位(上司など)である
  • 原告は、会社で営業部主任やシステム部主任として勤務していた。
  • 被告は、会社で会長という役職があり、原告の直属の上司だった。

被告は、原告の上司という関係であるため、この項目はチェックがつきます。

 

□行為者の行為が、何度も行われている
  • 原告が被告に業務報告に行くたびに食事に誘ったりしていた。

一度ではなく複数回行われているため、この項目はチェックがつきます。

 

□相手方は、行為者の行為に対して拒否をしている
  • 原告は、被告にドライブに誘われた際、検査のために病院に行くことを理由に断った。
  • 原告は、被告から「ホテルに行こう。」と誘われた際、「6時までに帰らないと、ストーブに入れる灯油が買えなくなってしまう。」と言って断った。

原告の誘いに対して、被告は断って拒否の姿勢を示しているため、この項目はチェックがつきます。

 

総括

以上のとおり、チェックシートの全てに該当するため、この裁判例の事案はセクハラど真ん中のものであったといえます。

セクハラチェックシートは、全てにチェックがつかないと違法なセクハラといえないわけではないですが、チェックが多ければ多いほど、違法なセクハラと言いやすいです。

社内のセクハラ発生状況を確認するためのアンケートの書式について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

セクハラに該当し得る発言内容

以下の発言については、セクハラに該当する可能性があります。

【 セクハラに該当し得る発言内容 】

  • ◯◯ちゃん可愛いからデート行こうよ
  • 今日の服装、なんかエロいね
  • 彼氏とエッチしてるの?
  • 俺のことタイプかな?
  • ◯◯ちゃんって社内で不倫しまくっているらしいぜ
  • あいつ、おじさんのくせに
  • 男なのに女々しいよね
  • あの年齢で結婚もしていないなんて
  • ◯◯ちゃんはセクシー系の顔だね

 

セクハラに該当し得る行動

以下の行動については、セクハラに該当する可能性があります。

【 セクハラに該当し得る行動 】

  • 体に必要以上に触る
  • メールで「〇〇君としか仕事したくない♡」と送信する
  • 体の一部を見つめ続ける
  • 女性のヌード写真のポスターを職場に貼る
  • いきなりキスをする
  • 食事やデートにしつこく誘う

セクハラの事例について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

セクハラが法律に違反する場合

セクハラをしたからといって直ちに法律に違反するわけではありません。

やはり、セクハラの「内容」によって法律に違反しているかどうか決まります

セクハラの内容次第で、以下のような民事、刑事の法律に違反する可能性があります。

民事
加害者:不法行為責任(民法709条)

会社:債務不履行責任(民法415条1項)、使用者責任(民法715条)

参考:民法|e−Gov法令検索

→ 民事責任が認められれば、加害者や会社は、被害者に対して賠償義務(一定のお金を払わなければならないこと)を負う可能性があります。

 

刑事

強制わいせつ(刑法176条)、強制性交等罪(刑法177条)

参考:刑法|e−Gov法令検索

→ 刑事責任が認められれば、加害者は懲役刑となる可能性があります。

 

 

セクハラの正しい対処方法

セクハラが起きた場合、それぞれの立場によって対応方法が異なります。

ここでは、被害者側、加害者側、会社という3つの立場ごとに対応方法を解説します。

 

被害者側の対処方法

相手方に素直な自分の気持ちを伝える

相手方の立場によってはものすごく勇気のいることかもしれませんが、やはり相手方の行為に対して、しっかりと自分の気持ちを伝えることが重要です。

嫌であるものは嫌であると伝えることにより、相手方にそれ以上同じような行為をさせないことが必要です。

 

証拠を確保する

事実関係を明確にするために、証拠はしっかり確保しましょう。

セクハラは密室で行われることも多く、「言った、言わない」、「やった、やってない」の水掛け論になることも多くあります

証拠の例としては、録音、メール、防犯カメラ、同僚の証言などが考えられます。

客観的な証拠がない場合は、最低限、相手方にやられた内容などをノートや携帯のメモ等に記載して記録に残しておきましょう。

 

上司に相談する

セクハラを受けた場合、セクハラをしている相手方以外の信頼できる上司に報告、相談をして指示を仰ぎましょう。

 

セクハラの相談窓口に相談する

会社の内部や外部にセクハラの相談窓口が設置されている場合は、その相談窓口に被害の状況を申告することも対処法の1つです。

セクハラの相談窓口は、まさにセクハラが起きたような場合に機能するものであるので、ためらわずに相談してみましょう

 

従業員側(労働者側)を多く扱う弁護士に相談する

従業員側(労働者側)を多く扱う弁護士に相談し、今後の方針等のアドバイスを受けることも考えられます。

場合によっては、慰謝料などの金銭を相手方や会社に請求できる場合があります

なお、弁護士は、労働問題について、従業員側(労働者側)を得意としている弁護士と会社側を得意としている弁護士に分かれることが多いです。

したがって、セクハラの被害者であれば、従業員側(労働者側)を得意とする弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

加害者側の対処方法

セクハラ発言・行為をやめる

加害者は、自らセクハラ発言・行為を認識した時点ですぐにその発言・行為をやめるようにしましょう。

すぐにセクハラをやめれば、キズが浅く済む可能性があります。

 

反省して被害者に謝罪する

まずは自分の行動を見つめ直し、何がいけなかったかを分析し、反省することが必要です。

その上で、被害者に対して謝罪をし、誠実な対応を心掛けてください。

特に、事実関係で嘘をつく、言い訳をするなどは、被害者にとても悪い印象を持たせることになりますので注意してください。

 

上司等に報告する

上司等に正直にセクハラをしてしまったことを報告し、今後の対応を検討してもらってください。

事情聴取等にはしっかりと応じ、会社になるべく迷惑を掛けないよう誠意をみせましょう。

 

被害者と示談をする

刑事責任を負うような悪質なセクハラのケースでは、早期に被害者と示談をして解決を目指すべきです。

場合によっては、多額の示談金を用意しなければならないこともあります。

強制わいせつの示談について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

警察に自首をする

刑事責任を負うような悪質なセクハラのケースでは、警察に自首をすることも検討すべきです。

自首をすれば、刑が軽くなる可能性があります。

自首について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

会社の対処方法

就業規則等の内容を確認する

まずは、冷静に対処すべく、会社の就業規則等に定められているセクハラに関する規程を確認します。

特に、調査の実施方法等がどのように定められているかは、しっかり把握されてください。

セクハラの就業規則の条項例について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

適切な調査を素早く実施する

被害者からセクハラの申告があった場合、事実関係等を素早く調査して確認する必要があります

なお、被害者のプライバシーに配慮するため、調査の前に被害者にどの人物(加害者、加害者の上司、目撃者、関係者等)まで聴取してよいか必ず確認しましょう。

どのような事情聴取をすればよいかについて、詳しくはこちらをご覧ください。

あわせて読みたい
ハラスメント事情聴取書

 

人事異動・懲戒処分等を検討する

セクハラの事実が認められる場合、場合によっては被害者と加害者の距離を置くために人事異動などを検討すべきです。

人事異動は、勤務地を異動させる転勤、所属部署を異動させる配置転換などが考えられます。

人事異動について、詳しくはこちらをご覧ください。

また、加害者に適正な措置をすべく、出勤停止や減給処分などの懲戒処分も検討しましょう

ただし、懲戒処分は、場合によっては無効なものになる可能性がありますので、検討は慎重に行いましょう。

セクハラの懲戒処分について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

防止方法をセクハラにくわしい弁護士へ相談する

会社としては、セクハラ事案を認識した場合、再発防止に努めなければなりません。

防止方法として考えられるのは、

  • セクハラアンケートの実施
  • 社内文書・社内一斉メールなどでセクハラに関する会社の方針の周知すること
  • セクハラに関する社内研修の実施

などが挙げられます。

もっとも、セクハラ防止方法は、その会社の状況に合った適切な方法を実施しなければ意味がありません

セクハラ防止方法については、専門家である弁護士に一度ご相談される方が望ましいです。

セクハラ防止方法を弁護士に相談することについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

外部相談窓口を弁護士に依頼する

セクハラの相談窓口が社内の担当者であれば、被害者が言いにくいこともあるかと思います。

中立公正な窓口とするためにも、相談窓口を外部の弁護士に委託するという手段もあります

外部相談窓口を弁護士に依頼するメリットについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

セクハラの相談窓口や支援団体の紹介

以下は、セクハラについての相談窓口や支援団体の一覧表です。

相談窓口 内容
会社のセクハラ相談窓口 会社に設置されているセクハラの相談窓口
弁護士 外部の相談窓口としての弁護士、従業員側を扱っている弁護士等
労働基準監督署 各地域に設置されている行政機関である労働基準監督署の総合労働相談コーナー
※詳しくは、こちらをご覧ください
労働局(雇用環境・均等部(室)) 各地域に設置されている行政機関である労働局(雇用環境・均等部(室))
※詳しくは、こちらをご覧ください
女性の人権ホットライン 法務省管轄で法務局職員又は人権擁護委員が相談を受ける、相談者は女性を対象
※詳しくは、こちらをご覧ください
みんなの人権110番 法務省管轄で法務局職員又は人権擁護委員が相談を受ける
※詳しくは、こちらをご覧ください

セクハラの相談窓口等について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

まとめ

  • セクハラとは、セクシュアルハラスメントの略で、職場において行われる相手方の気持ちを無視した性的な発言や性的な行動をいう。
  • セクハラチェックシートに複数該当すれば、違法なセクハラとなる可能性がある。
  • セクハラをした場合、加害者は民事責任や刑事責任、会社は民事責任を負う可能性がある。
  • セクハラの被害者の対処法としては、相手方に素直な自分の気持ちを伝える、証拠を確保する等が考えられる。
  • セクハラの加害者の対処法としては、セクハラ発言・行為をやめる、反省して被害者に謝罪する等が考えられる。
  • セクハラの会社の対処法としては、就業規則等の内容を確認する、適切な調査を素早く実施する等が考えられる。

 

 




  

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