残業代の計算方法|割増率を月給時給別に徹底解説【計算ツール付】
残業代の計算は、基本的には「1時間あたりの賃金額」に「残業時間数」と「残業の種類に応じた割増率」を乗じて行います。
この「1時間あたりの賃金額」の出し方や「割増率」は、法律において細かく規定されています。
また、月給制、日給制、時給制などでも算出方法が異なります。
さらに、変形労働時間などの勤務状況によっても算出方法が異なるため、一般の方にはとてもわかりにくいです。
ここでは、労働法に注力する弁護士が残業代の計算方法をパターン別にわかりやすく解説しています。
最後まで読んでいただくことで、残業代の計算に関する疑問点が解消できると思います。
ぜひご参考にされてください。
目次
残業代計算の基本を理解しよう
残業代とは?
残業代とは、残業が行われた場合に発生する賃金のことを指します。
残業とは、所定労働時間外に働くことを言います。
所定労働時間というのは、会社が定めた本来の労働時間のことです。
具体例で説明しましょう。
始業時刻が9時、終業時刻が18時、休憩時間が12時〜13時の場合、所定動労時間は8時間となります。
世間一般では、このケースにおいて18時以降に働いた場合に「残業」と呼んでいます。
しかし、9時前に働いた場合や休憩時間に働いた場合も、会社は賃金を支払わなければなりません。
要するに、会社は本来予定している労働時間以外の時間に従業員を働かせた場合、その時間分の賃金を支払わなければならないのです。
そのため、このページでは終業時刻後だけでなく、始業時刻前や休憩時間の労働も含めて「残業」と呼ぶことにいたします。
残業代の計算式
残業代の基本的な計算式は次のとおりとなります。
「残業の種類に応じた割増率」については後ほどくわしく解説します。
残業代の計算ツール
このウェブサイトをご覧になられている方の中には、細かい計算式よりも残業代がいくらになるかを早く知りたいという方もいらっしゃるかと思います。
当事務所ではこのような方のために「残業代の計算ツール」をウェブサイトに掲載しております。
残業代の概算額を今すぐ知りたいという方は、この計算ツールをご活用ください。
残業代の計算方法【給与形態別】
残業代を正しく計算するためには、まず残業代の計算式を理解する必要があります。
残業代の基本的な計算式は次のとおりです。
1時間あたりの賃金額は、給与形態(月給、時給、日給、年俸制)によって計算方法が変わります。
以下、この項目について、くわしく解説します。
月給制の場合
月給制では、1時間あたりの賃金を算出したうえで残業代を計算します(労基則19条)。
月給の場合の残業代の計算式
月給を1か月の所定労働時間で割ったものが、1時間あたりの賃金額になります。
月給に含まれる手当と除外賃金
賃金は、通常、基本給+◯◯手当といった構成が多いです。
◯◯手当の中には、残業代の計算の基礎(残業の単価)から除外してよいものがあります。
この残業代の計算の基礎とならない賃金のことを、除外賃金といいます。
法律上定められている除外賃金は以下のとおりです(労基則21条)。
- ① 家族手当
- ② 通勤手当
- ③ 別居手当
- ④ 子女教育手当
- ⑤ 住居手当
- ⑥ 臨時に支払われた賃金
- ⑦ 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(ボーナスなど)
上記については、手当の名目でなく、実質的に判断されます。
残業代の「1時間あたりの賃金額」を算出する際は、上記の除外賃金を除いて計算します。
1か月の所定労働時間とは?
1か月の所定労働時間は、通常、月によって異なります。
30日の月や31日の月もあれば、休日の日数も異なるからです。
この場合、1か月の所定労働時間は、次の計算式により算出します(労基法施行規則19条)。
1か月の所定労働時間 =(365日 – 1年間の所定休日日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12 (※うるう年は366日)
会社によって異なります。
例:多くの会社では、週休2日、祝祭日、年末年始休暇、夏季休暇などがありますが、その日数をすべて合計したものが1年間の所定休日日数となります。
会社によって異なります。
上記のとおり、始業時刻が9時、終業時刻が18時、休憩時間が12時〜13時の場合、所定動労時間は8時間となります。
以下、具体例を用いて1時間あたりの賃金額を算出します。
具体例:月給制の残業代計算
具体例
- 給与:基本給29万円 + 営業手当1万円 + 通勤手当1万円
- 年間の所定休日:125日
- 1日の所定労働時間:8時間
- 残業(法定外労働):2時間したとする
基本給29万円 + 営業手当1万円 = 30万円
※通勤手当の1万円は除外可能です。
(365日 − 125日) × 8時間 ÷ 12 = 160時間
30万円 ÷ 160時間 = 1875円
以上から、1875円が1時間あたりの賃金となります。
1875円 × 2(残業時間)× 1.25(法定外労働の割増率)≒ 4688円
以上から、残業代は4688円となります。
時給制の場合
時給制の場合「1時間あたりの賃金額」は、その時給のとおりとなります(労基則19条)。
時給制の残業代を計算式で算出します。
時給1,000円で1時間残業したとすると、残業代は以下の式で計算されます。
具体例
1,000円 × 1時間 × 1.25(時間外労働の割増率25%)= 1,250円
このように時給制は、最もシンプルに残業代を算出できます。
日給制の場合
日給制では、1時間あたりの賃金を算出したうえで残業代を計算します(労基則19条)。
所定労働時間が一定の場合
日給を1日の所定労働時間で割ったものが、1時間あたりの賃金額になります。
日によって所定労働時間数が異なるケース
日によって所定労働時間数が異なるケースでは、次の計算式で算出します。
日給を1週間における1日平均所定労働時間で割ったものが、1時間あたりの賃金額になります。
なお、1週間における1日平均所定労働時間数は、次の計算式で算出します。
それでは具体例を見てみましょう。
具体例:日給制の残業代計算
具体例
- 日給:1万円 ※月給の項目で説明した除外賃金を除いた後の金額
- 週5日勤務
- 所定労働時間:月曜日〜水曜日が8時間、木曜日6時間、金曜日5時間
※日によって所定労働時間数が異なるケース - 残業(法定外労働):2時間したとする
35時間(1週間の所定労働時間の合計)÷ 5日(1週間の所定労働日数)= 7時間
1万円(日給)÷ 7時間 ≒ 1429円(1時間あたりの賃金額)
※端数処理について
50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げます(昭63.3.14基発第150号)。
以上から、1429円が1時間あたりの賃金となります。
1429円 × 2(残業時間)× 1.25(法定外労働の割増率)≒ 3,573円
以上から、残業代は3,573円となります。
年俸制の場合
年俸制では、1時間あたりの賃金を算出したうえで残業代を計算します(労基則19条)。
年俸の場合の計算式
年俸額を年間所定労働時間で割ったものが、1時間あたりの賃金額になります。
年間所定労働時間は、次の計算式により算出します(労基法施行規則19条)。
それでは、具体例を見てみましょう。
具体例:年俸制の残業代計算
具体例
- 年俸額:500万円 ※月給の項目で説明した除外賃金を除いた後の金額
- 【365日の年】1年間の所定休日:125日
- 1日の所定労働時間:8時間
- 残業(法定外労働):2時間したとする
(365日 − 125日)× 8時間 = 1920時間
500万円 ÷ 1920時間 ≒ 2604円
以上から、2604円が1時間あたりの賃金となります。
2604円 × 2(残業時間)× 1.25(法定外労働の割増率)= 6510円
以上から、残業代は6,510円となります。
残業の種類に応じた割増率【一覧表】
上で解説したとおり、残業代は「1時間あたりの賃金額 × 残業時間数 × 残業の種類に応じた割増率」という式により計算します。
ここでは、この割増率について解説します。
従業員の健康維持のために、長時間の労働、深夜の労働、休日の労働については、できるだけこれを抑制しようという考え方があります。
このような考えのもと、法律では、長時間労働等については、通常の賃金に一定の割増率を乗じた金額を加算して支払わなければならないと定められています。
下表はこの割増率を整理したものです。
残業の種類 | 残業の内容 | 割増率 |
---|---|---|
法定外労働 | 法定労働時間を超える場合 | 1.25倍 |
深夜労働 | 午後10時から午前5時までの間に働く場合 | 1.25倍 |
法定休日労働 | 法定休日に働く場合 | 1.35倍 |
法定外残業 + 深夜労働 | 法定労働時間を超え、かつ、深夜労働 | 1.5倍 |
法定休日労働 + 深夜労働 | 法定休日に働く場合で、かつ、深夜労働 | 1.6倍 |
60時間超え | 1ヶ月の法定外労働の合計が60時間を超えた場合 | 60時間を超えた部分は1.5倍 |
60時間超え + 深夜労働 | 1ヶ月の法定外労働の合計が60時間を超えた場合で、かつ、深夜労働 | 60時間を超えた部分は1.75倍 |
以下、残業の種類ごとに解説します。
法定外労働の割増率は1.25倍
法律は、労働時間の限度を、原則として、1日8時間以内とし、かつ、1週40時間以内としています(労基法32条)。
この労働時間のことを「法定労働時間」と呼びます。
「法定外労働時間」とは、この法定労働時間を超えた時間のことです。
例えば、1日9時間働いた場合、法定労働時間を1時間超過することとなるので、法定外労働時間は1時間です。
したがって、その1時間に対して、1.25倍の賃金を支払わなければなりません。
残業には、上述した法定外のほかに、法定内のものもあります。
この場合、原則は1.25倍にする必要はありません。
※例外:あまりない例ですが、就業規則等で法定内でも割増を定めている場合はその割増率が適用されます。
法定内労働は、所定労働時間が法定労働時間よりも短い会社の場合に発生します。
具体例
所定労働時間:始業9時から終業17時まで(休憩1時間)
勤務期間:この会社である従業員が9時から19時まで働いたとする。
上記の場合、所定労働時間は7時間であり、法定労働時間8時間まで(18時まで)は1.25倍する必要はありません。
具体的には次の賃金を支払います。
17時から18時までの労働:法定内労働 → 通常の賃金(1倍)を支払う
18時から19時までの労働:法定外労働 → 1.25倍した賃金を支払う
深夜労働の割増率は1.25倍
午後10時から翌朝5時の間の労働のことを深夜労働といいます。
この時間の労働については、1.25倍の賃金を支払わなければなりません(労基法32条)。
法定休日の割増率は1.35倍
法律は、休日について、原則として1週に1日以上与えなければならないとしています(労基法35条)。
この休日のことを「法定休日」とよびます。
例えば、ある週の月曜日から日曜日まで連続して働いた場合、その日曜日は法定休日労働に該当します。
したがって、その労働に対して、1.35倍の賃金を支払わなければなりません。
なお、4週4休制を採用することもできますが、その場合就業規則に4週4休制の採用と起算日を明記する必要があります(労基則12条の2)。
法定外労働+深夜労働の割増率は1.5倍
法定労働時間を超え、かつ、その時間が深夜の場合です。
例:17時から翌朝5時まで勤務した場合(休憩を21時〜22時まで1時間取得)
法定休日労働+深夜労働の割増率は1.6倍
法定休日に働き、かつ、その時間が深夜の場合です。
例:連続して7日間働き、その7日目の17時から翌朝5時まで勤務した場合(休憩を21時〜22時まで1時間取得)
※法定休日労働をさせた場合は、法定外労働に対する割増賃金は発生しません。(参考:平11.3.31基発168号)
60時間超えの割増率は1.5倍
1か月の法定外労働の合計が60時間を超えた場合、その60時間を超えた部分の割増率は1.5倍となります(労基法37条)。
法改正により、2023年4月1日以降、すべての企業においてこの割増率が適用されています。
60時間超え+深夜労働の割増率は1.75倍
1か月60時間を超える法定外労働と深夜労働が重なった場合、1.75倍の賃金を支払わなければなりません(労基則20条1項)。
休日労働については、基本的に時間外労働とは別の扱いです。
そのため月60時間を超えた後に休日労働が発生したとしても、深夜勤務さえなければ、通常の1.35倍の割増率となります。
残業代の計算方法【勤務状況別】
みなし残業(固定残業代)の計算方法
みなし残業とは、一定の残業時間に対して、あらかじめ定められた金額を支払うことをいいます。
みなし残業は、固定残業制とも呼ばれています。
例えば、「1か月10時間分の残業に対して5万円を支払う」などの場合です。
みなし残業は、残業代が固定されているため、そのみなし時間(上記の例だと10時間)を超えなければ、別に残業代を計算して支給する必要がありません。
みなし時間を超えれば、当然残業代を支払わなければなりません。
みなし残業は、毎月従業員の残業代を計算する必要がないなどのメリットがあるため導入している会社も多いです。
しかし、みなし残業は「本来支払うべき残業代が支払われない可能性がある」などの問題があるため、裁判例において認められる場合が限定されています。
そのため、みなし残業を導入している会社は注意が必要です。
変形労働時間制の残業の計算
変形労働時間制とは、一定の期間(1ヶ月単位【労基法32条の2】、1年単位【労基法32条の4】、1ヶ月単位【労基法32条の5】の3種類がある。)につき、一定の条件をクリアすれば、法定労働時間を超えて労働させることができる制度のことです。
また、変形労働時間制を採用している場合、法定労働時間を超えていても残業代を支払う必要がないケースがあるため注意が必要です。
変形労働時間制を採用している場合に、残業代が発生するケースについては、こちらで詳しく解説しています。
フレックスタイム制の残業代の計算
フレックスタイム制(労基法32条の3)とは、1日の労働時間の長さを固定せずに、1ヶ月などの単位期間(最大3ヶ月)の中で総労働時間を定めておき、労働者はその総労働時間の範囲で各労働日の労働時間を自分で決めるという制度です。
フレックスタイム制の下で、法定外残業(割増賃金が発生する)となるのは、清算期間内における実労働時間が、清算期間における法定労働時間を超えた場合です(通達昭和63・1・1基発1号、平成11・3・31基発168号)。
フレックスタイム制の「法定外残業の時間数」は、次のように計算します。
(1)清算期間が1ヶ月以内の場合
計算式
法定外残業の時間 = 清算期間における実労働時間数 − [週の法定労働時間の40時間 × (清算期間における暦日数 ÷ 7)]
(2)清算期間が1ヶ月を超え3ヶ月以内の場合
次の①と②の合計が法定外残業の時間数となります。
①清算期間を1ヶ月ごとに区分した各期間における実労働時間のうち、各期間を平均し、1週間あたり50時間を超えて労働させた時間を次の式により算出します。
計算式
(清算期間を1ヶ月ごとに区分した期間における実労働時間数)−[50 ×(清算期間を1ヶ月ごとに区分した期間における暦日数 ÷ 7)]
②清算期間における総労働時間のうち、当該清算期間の法定労働時間の総枠を超えて労働させた時間を算出します。
このとき、①で算出した法定外残業時間は除きます。
以下、(1)清算期間が1ヶ月以内の場合の具体例を紹介いたします。
具体例 清算期間が1ヶ月以内の場合
- 1時間あたりの賃金額が1600円(除外賃金を除く)
- 清算期間が30日間
- 清算期間における実労働時間数175時間
上記(1)の計算式に当てはめると、
175時間 −[40時間 ×(30日 ÷ 7)]= 3.6時間
以上より、3.6時間が法定外残業の時間数となります。
あとは、法定外残業の残業代の計算式に当てはめます。
1600円 × 3.6時間 × 1.25 = 7200円
以上から、このケースでの法定外残業の残業代は、7200円となります。
なお、フレックスタイム制の場合も、休日労働または深夜労働の割増賃金請求に関しては、使用者は、労基法37条の規定どおりに割増賃金の支払義務を負うことに注意が必要です。
裁量労働制の残業代の計算
裁量労働制とは、一定の業務の遂行方法や時間配分について労働者の裁量に委ね、労働時間については、あらかじめ定めた労働時間を労働したとみなす制度のことです。
裁量労働制は、対象業務によって、専門業務型裁量労働制(労基法38条の3)、企画業務型裁量労働制(労基法38条の4)があります。
裁量労働制(専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制どちらについても)では、あらかじめ定められた「みなし労働時間」分だけ労働したとみなされるため、実労働時間の多寡は問題になりません。
このことから、基本的に残業代は発生しません。
もっとも、裁量労働制の場合でも、以下の場合は残業代が発生します。
(1)みなし労働時間が法定労働時間を超えていた場合
例えば、1日のみなし労働時間が9時間とされていた場合、法定労働時間は1日8時間ですから、法定外残業として残業代が発生します。
この場合の「1時間あたりの賃金額」は、月額賃金を、当該月のみなし労働時間数で除して算出します。
また、割増率に関しては、あらかじめ法定労働時間を超えたみなし労働時間数を定めていることからすれば、125%ではなく、25%で足りると考えられています(100%部分は、元々の賃金に含まれていると考えられているということ)。
(2)深夜労働
裁量労働制の場合も、深夜労働の場合は、割増賃金が発生します。
割増率に関しては、25%です。
(3)休日労働
裁量労働制の場合も、休日労働の場合は、割増賃金が発生します。
割増率に関しては、135%です。
具体例 みなし労働時間が法定労働時間を超えていた場合の残業代の具体例
- 月給50万円(除外賃金を除く)
- みなし労働時間1日9時間
- 当該月のみなし労働時間が180時間
計算式は以下の通りとなります。
50万円 ÷ 180時間 ≒ 2778円
2778円 × 1時間 × 0.25 ≒ 695円
以上から、このケースの1日あたりの法定外残業の残業代としては695円となります。
引用元:e-Gov|労働基準法38条
管理職の残業の計算
管理職の方は、法律上の「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」(労基法41条2号、略称として管理監督者と呼ばれている。)にあたれば、法定外残業及び法定休日労働の残業代は発生しません。
一般的に、管理職といえば、係長、課長、部長などを思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、労基法上の「管理監督者」は、判例上、厳格に解釈されています。
そして、実際に管理監督者に該当するケースは少ないため、未払い残業代を請求されると支払い義務が認められるリスクがあります。
また、管理職の方が、法律上の管理監督者にあたるとしても、深夜労働の割増賃金は基本的に発生します。
以下、具体例を見てみましょう。
具体例 管理職の深夜労働の割増賃金
- 1時間あたりの賃金額3000円
- ある日の実労働が14時〜23時まで(実労働時間9時間)
この場合は、深夜労働分(22時〜23時の1時間)の割増賃金しか発生しませんので、以下の計算式により算出します。
3000円 × 1時間 × 0.25 = 750円
このケースでは、1時間分の深夜労働の割増賃金は750円となります。
残業代の計算の実務で迷いやすいポイントと注意点
ここでは、残業代の計算についてのポイントと注意点を解説します。
残業代の計算は1分単位が原則?
残業代の計算において、15分や30分単位で切り捨てるように指示を出されている企業が見受けられます。
残業代の計算は、原則として、1分単位で支払わなければならないため、注意しましょう。
なお、行政解釈ですが、例外として、次の処理は認められています(昭和63年3月14日基発第150号)。
- 1か月分の残業時間を合計し、30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる。
- 1時間あたりの賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨てて50銭以上を1円に切り上げる。
36協定を結ばないと違法になる?
労働基準法第36条は、法定労働時間を超えて従業員に残業をしてもらう場合には、会社側と労働者側で協定を締結しなければならないことを定めています。
この協定のことを36協定といいます。
36協定を締結せずに残業をさせると、違法となります。
違反した場合の法定刑は「6ヶ月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金」です。
残業代の時効(3年)と未払い請求リスク
時間労働のリスクは様々ありますが、よく問題となる事項として未払残業代問題があります。
長時間労働が常態化しているような場合には、1000万円を超えるような残業代が請求される可能性もあります。
残業代の消滅時効は3年です。
突然、従業員から多額の未払残業代を請求される可能性があり、中小企業では経営危機に陥る可能性すらありえます。
残業代を適切に支払っているかの判断は難しい
残業代を適切に支払うためには、残業代の計算に関する法令の的確な理解と、従業員の残業時間の正確な把握という2つの要素が関係してきます。
特に、次の4つのいずれかに該当する会社は、注意が必要です。
- ① 固定残業制を採用している会社
- ② 年俸制を採用していて残業代を払っていない
- ③ 中間管理職を「管理監督者」として残業代を払っていない
- ④ 従業員なのに業務委託契約を締結している
上の4つのうち、①と②は「残業代込み」として、③と④は「残業代を支払う必要がない」と認識している会社が多いです。
しかし、筆者の経験上、多くの会社が法令を誤解しています。
すなわち、高額な未払い残業代が発生している可能性があります。
上記は一例であり、残業代全般について、正しく判断するには専門知識と経験が必要です。
したがって、残業代については、労働問題に強い弁護士に相談されることを強くおすすめします。
従業員から残業代を請求されたときの対処方法
従業員の方から残業代を請求されたときの対処方法については、以下のページで詳しく解説しているので、ご参照ください。
まとめ
以上のとおり、残業代の計算は、残業の種類や勤務形態によって異なり、複雑なものです。
また、残業代は計算式だけを理解しておけばよいというものではありません。
例えば、実労働時間をどのように認定するか、残業代の基礎となる賃金はどれか(除外賃金の問題)など、様々な考慮要素を加味しなければなりません。
残業代の計算等でお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
