弁護士コラム

長時間労働を是正!残業の許可制について

執筆者
弁護士 鈴木啓太

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

長時間労働のリスク

社員ワークライフバランスが重視される現代においては、労働者の生産性を上げ、労働時間を短縮することは、企業が今後発展していくためにも必要なことです。

長時間労働が、これだけ社会問題化した我が国においては、もはや長時間労働問題は重大な経営リスクと言っても過言ではありません。

残業代請求のリスク

長時間労働のリスクは様々ありますが、よく問題となる事項として未払残業代問題があります。

適切な形で残業代が支払われていれば発生しない問題ではありますが、大手企業でも残業代の未払いが報じられるなど、問題の根は深いといえます。

長時間労働が常態化しているような場合には、1000万円を超えるような残業代が請求される可能性もあります。

また、2020年4月からは、残業代の消滅時効の期間が2年から3年となりました。

さらに5年に時効期間が延長される可能性もあります。

したがって、今後、残業代請求の金額は高額化することが見込まれます。

突然、従業員から多額の未払残業代を請求される可能性があり、中小企業では経営危機に陥る可能性すらありえます。

 

過労死・過労自殺リスク

刑事と民事また、長時間労働を継続したことによって、労働者が過労死あるいは過労自殺した場合、企業は社会的責任はもちろんのこと刑事上、民事上でも責任を負う可能性があります。

企業は、労働者に対して、安全配慮義務を負っています。

安全配慮義務とは、簡単に言えば、会社が、労働者の生命や身体の安全や健康が害されないよう配慮しなければならに義務です。

安全配慮義務について、詳しくはこちらをご覧ください。

会社が、労働者に対して、長時間労働を行わせている、あるいは黙認しているような場合で、結果として労働者が過労死や過労自殺してしまった場合には、安全配慮義務違反として民事上の責任を問われる場合があるのです。

その賠償金は数千万円から数億円に上ることもあります。

労働者が、過労死や過労自殺した場合には、マスコミによる報道で社会に周知され、いわゆるブラック企業のレッテルを張られることになります。

そうなれば、優秀な人材から就職を敬遠され、取引先の信用も失い、ひいては国民の信用も失うことになりますから、企業にとっては、死活問題となります。

ここで、過労自殺に関する判例をご紹介します。

判例 電通事件(最高二判平成12年3月24日民集54巻3号1155頁 労判779号13頁)

事案の概要

労働者Xは、平成2年4月1日に会社Yに入社した。会社Yでは、従業員が長時間にわたり残業を行うことが恒常的に見られ、三六協定上の各労働日の残業時間又は各月の合計残業時間の上限を超える残業時間を申告する者も相当数存在していた。

労働者Xは、徹夜を含めた長時間労働が続き、うつ病に罹患し、不可解な言動をするようになったが、上司はXに休息を与える等の措置をとらなかった。

労働者Xは平成3年8月に会社業のイベントの後に自殺をした。

判旨の概要

「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。」

と判示した上で、労働者Xの上司は、労働者Xが恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びそれにより健康状態が悪化していることを認識していたにもかかわらず、その負担を軽減させる措置を講じなかったことに過失があるとして、会社に民事上の責任がることを明確にしました。

なお、この事件での1億6800万円を会社が遺族に支払うことで和解が成立したようです。

このように、現代では長時間労働の放置は、企業にとって致命傷となりかねません。

各企業は、再度自社の労働時間の状況を確認し、必要に応じて、労働時間削減に向けた取り組みを実施すべきです。

以下では、労働時間削減に向けた取り組みとして残業の許可制についてご紹介します。


 

残業の許可制

残業の原因の一つとして、従業員が緊急性・必要性に乏しい仕事を長々と続けていることが考えられます。

中には、残業代を得たいがために残業している従業員もいるかもしれませんが、仕事の優先順位が分かっておらず、緊急性も必要性もない仕事を勘違いして残業してしまっている従業員もいます。

こうした残業を防ぐ方策として、残業を許可制にする方法があります。

残業をする場合には、残業時間や、行う業務内容とその業務をしなければならない理由を記載させ、従業員に残業を行う前に提出させるのです。

そうすれば、本当に残業しなければならない業務であるのか事前に上司が確認することができ、仮に、不要な業務であれば、残業させなければよいのです。

さらに、残業・休日勤務届(労働時間関連書式はこちらをご参照ください。)を提出させることで、どの部署で、どのよう理由で残業が発生しているのか会社全体で見通せることになり、時間外労働削減のために、どこから手を付けるべきなのか優先順位を明確にすることができます。

原則として残業はできないという意識を従業員に意識づけすることができれば、所定労働時間内で業務を終了させなければならないというインセンティブにつながり、従業員の生産性の向上にもつながります。

また、無駄な残業を減らすことができ、残業代の削減にもなります。

下記は、残業許可制の就業規則の一例です。

残業許可制の就業規則の例

1 会社は、業務の都合により、第〇条の所定労働時間を超えて労働させることがある。

2 従業員が、時間外労働をする場合には、事前に所属長に業務の内容及びその必要性を記載した書面を提出し、許可を得なければならない。従業員が、会社の許可なく時間外労働を行った場合、当該業務の実施に該当する部分の通常賃金及び割増賃金は支払わない。

残業残業の許可制を実施するにあたっては、上記のような就業規則の規定は必要ですが、規定を作成するだけでは不十分です。

実際に、許可がなければ、残業は絶対に許さないという姿勢で臨まなければなりません。

会社に無許可で残業をしている状況を黙認しているような状況があれば、黙示の業務指示があったとして、残業代の発生が認められる可能性があるからです。

この点、神代学園ミューズ音楽院事件(東京高裁平成17年3月30日労判905号72頁)では、残業禁止命令が発せられた以降の残業に対する残業代の支払いの可否が争われました。

この事案では、会社が従業員に対し、朝礼などの機会や中間管理職を通じる等して、繰り返し残業を禁止する旨の業務命令を発し、残務がある場合には役職者に引き継ぐことを命じるなど、残業の禁止命令を徹底して行っていたため、この命令に反して行われた残業代については支払う義務はないと判断されています。

なぜ残業代を請求されたら弁護士に依頼すべきか?はこちらをご覧ください。

 

 




  

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