みなし残業とは?弁護士が違法となる事例を解説【チェックシート】

監修者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

みなし残業とは、みなし残業時間としてあらかじめ定めた時間分の残業代を、実際の残業時間に関係なく毎月支給する制度です。

みなし残業をめぐっては、誤解や違法な運用がされている事例も多く、トラブルに発展することも珍しくありません。

このページでは、みなし残業が有効となる要件や、メリット・デメリット、気をつけるべきポイントなどを、弁護士が解説しますので、みなし残業についての理解を深めていただければと思います。

みなし残業とは

みなし残業とは、実際の残業時間にかかわらず、所定の時間分の残業代を毎月支給することをいいます。

たとえば、ある会社がみなし残業の時間を「10時間」と設定した場合で、実際の残業時間が5時間だったとします。

この場合、10時間は残業をしたものと「みなし」ますので、会社は10時間分の残業代を支給しなければなりません。

 

みなし残業とは

 

「10時間までは残業をしても残業代が出ない」という受け止め方をされることもありますが、厳密にいえば、残業代が出ないのではなく、10時間分の残業代がすでに出ているため、10時間までは残業をしてもしなくても給料が変わらないということです。

このように、残業をしていない場合でも一定の残業代が支払われ、残業をしたのと同じことになるため、「みなし」残業と呼ばれています。

当然ながら、月の残業時間が10時間を超えた場合は、その超えた部分に対しては、残業代が支払われます

「みなし残業を採用しているので、何時間残業しても10時間とみなす」ということにはなりませんので、注意してください。

なお、残業には時間外労働、深夜労働、休日労働が考えられます。

この記事では、わかりやすさを優先し、特に定義づけしない限り、残業は時間外労働のことを意味しています(残業代は時間外割増賃金)。

 

「みなし残業」と「固定残業」との違い

みなし残業は、しばしば「固定残業」と呼ばれることもあります。

結論としては、これらは呼び方の違いだけであり、同じものを指しています

みなし残業制を採用した場合、実際の残業時間が規定の時間に満たない場合であっても、みなし残業時間分の残業代が支払われるため、固定額の残業代が支払われるという捉え方をして、「固定残業」と呼ぶことがあるのです。

 

「みなし残業」と「見込み残業」との違い

「見込み残業」という言葉もありますが、こちらもやはり意味は同じで、みなし残業の別の呼び方となります。

みなし残業制では、毎月発生するであろう残業時間を見込んでみなし残業時間として設定することから、見込み残業と呼ばれることもあるのです。

 

みなし残業には2種類ある

みなし残業には、みなし残業代の支給の仕方に応じて、2つの種類があります。

定額給制

定額給制とは、みなし残業代を基本給と合算し、いわば基本給に混ぜ込む形で支給する方法をいいます。

具体例 基本給25万円:残業代を含む

定額給制の場合、どこまでが通常の賃金でどこからが残業代なのかを明確にしておかないと、残業代が支払われていないように見えるという問題があります。上記の例の場合、基本給25万円に残業代が含まれているため、みなし残業制を採用していることがわかります。しかし、どこまでが通常の賃金でどこからが残業代なのかが明確になっていません。

このような場合、みなし残業と認められない可能性があるため注意してください。

適切な記載例についてはこちらをご参照ください。

 

定額手当制

定額手当制とは、みなし残業代を、基本給とは別に手当として支給する方法をいいます。

具体例 基本給20万円 営業手当5万円(残業代を含む。)

上記例のように、みなし残業手当といった名目のほか、営業手当のような形で支給する例もあります。しかし、上記例は、単に残業代を含むとしか記載されておらず、何時間分の残業代なのかが明確となっていません。

このような場合、みなし残業と認められない可能性があるため注意してください。

適切な記載例についてはこちらをご参照ください。

 

 

みなし残業が違法とならないための条件

みなし残業について、法律上に規定はありません。

このため、みなし残業という制度自体の有効性が争われたこともありますが、一定の条件をクリアできれば、みなし残業を採用すること自体に違法性はないと考えられています。

もっとも、みなし残業をめぐっては誤解も多く、違法な状態を招いているケースも少なくありません。

みなし残業制を適正に運用するためには、適法となる条件を正しく理解しておかねばならないのです。

これまでの裁判例では、みなし残業が適法となるためには、支給されている給料の内訳として、「通常の賃金と残業代相当部分が明確に区別されていなければならない」と繰り返し判断されています。

総額として誤りがなければそれで良いようにも思われますが、それを認めてしまうと、本来支払うべき残業代を支払ったかどうかがうやむやになってしまう危険があります。

そこで、残業代とそれ以外の賃金とが明確に判別できなければならないとされているのです。

判例上求められる明確な区別を実践する上では、就業規則、雇用契約書(または労働条件通知書)、給与明細等において、みなし残業の時間と残業代(時間外割増賃金の額)を明らかにしておくのがよいでしょう。

定額給制であれば、基本給の金額に添えて「基本給のうち、○円は、1か月○時間の時間外労働に対する時間外勤務手当とする。」のような記載があると、みなし残業代が明確に区別されているといえます。

金額だけでなく、それが何時間分に相当するのかも明記しましょう。

定額手当制であれば、基本給と混同するおそれはありませんが、「営業手当」のような一見してみなし残業手当なのかが不明な名目とすると、残業代が支払われていないとの誤解を招く可能性があります。

みなしであっても、残業代として支給しているのですから、「営業手当は、その全額を1か月○○時間の時間外勤務手当として支給する。」のような誤解のない名目で記載するのが望ましいといえます。

実際の判例や就業規則の記載例についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。

また、就業規則、雇用契約書(または労働条件通知書)に具体的にどのような記載をすべきは状況によって異なります。

例えば、就業規則にはみなし残業についての制度の大枠を示し、具体的なみなし残業代やみなし時間は個別の雇用契約書で示すという方法も考えられます。

そのため適切な方法については、労働問題に詳しい弁護士に相談されることをお勧めいたします。

 

 

このようなケースは要注意!

みなし残業制を適切に運用するためには、気をつけるべきポイントがいくつか存在します。

ここでは、代表的な項目をいくつか紹介します。

どれかひとつに該当したからといって、ただちに違法になるというものではありませんが、該当項目がある場合は違法と判断されるリスクがありますので、一度弁護士に相談されることをおすすめします。

 

検討チェックシート

就業規則にみなし残業制の規定がない

賃金の計算や支払いに関する事項は必ず就業規則に定めなければならず(労働基準法89条2号)、定めた就業規則は社内に備え付けるなどして従業員に周知しなければなりません(同法106条)。

みなし残業はまさに賃金の計算方法に関する事項ですので、就業規則への掲載が必要と考えられます。

就業規則にみなし残業についての規定がない場合、正式なルールではないと判断される可能性が高まりますので、みなし残業制を導入する場合は就業規則の整備が必須となります。

実際に就業規則を整備する際の規定例については、こちらをご覧ください。

 

雇用契約書等に明記されていない

賃金や労働時間などの労働条件については、就業規則に定めるだけでなく、雇い入れの際に書面により明示しなければなりません(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条4号)。

賃金等の労働条件を明示する書面としてよく用いられているのが、雇用契約書や労働条件通知書です。

これらの書面にみなし残業についての記載がない場合も、就業規則の場合と同様に無効の疑いが出てくることになります。

また、判例においても、補足意見ではありますが、みなし残業のような制度を採用するのであれば、そのことが雇用契約上明確にされていなければならないとしています。

参考判例:最判平成24年3月8日|最高裁ホームページ

ワンポイント:補足意見とは?
補足意見とは、多数意見に加わった裁判官がそれに付加して自己の意見を述べたものです。拘束力はありませんが、今後の裁判所の判断に影響するかもしれないため無視できないと考えられます。

雇用契約書の記載の仕方や上記判例の詳細については、こちらをご覧ください。

 

給与明細に記載がない

みなし残業制が適法であるための要件として、残業代とそれ以外の賃金が明確に区別されていることが必要でした。

このため、定額給制と定額手当制のいずれであっても、給与明細の上でみなし残業代の時間と金額について記載がないと、この区別の要件を満たしていないと判断されるおそれがあります

前記の補足意見は、雇用契約書への記載のほか、給与の支給時にもみなし残業代の時間と金額を明示すべきとしています。

このことからも、トラブルを防止するためには、給与明細においてみなし残業代がいくらで、それが残業の何時間分に相当するのかを明示した方が望ましい。

 

みなし残業時間が月45時間を超える

従業員に残業をさせるには、労働基準法36条に基づく協定(いわゆる36協定)の締結が必要ですが、仮に36協定が締結されていたとしても、月の残業時間は原則として45時間が上限となります(同条4項)。

裁判例でも、みなし残業時間を95時間とした事例について、上限を45時間としている法の趣旨を損なうものとして、45時間を超える部分について無効と判断したものがあります(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件 札幌高裁平成24年10月19日)。

みなし残業時間が実際の残業時間を上回るほど、会社は本来支給する必要のない残業代を余分に払っていることになるため、みなし残業時間は従業員の勤務実態に即して平均的に発生する程度の時間に設定されるのが通常です。

このため、45時間を超えるようなみなし残業時間が設定されるということは、法律の上限を超えた違法な残業が日常化しているおそれがあります。

みなし残業制を適正に運用していくためにも、みなし残業時間は45時間以下に設定しておくべきと言えます。

 

みなし残業時間を超えているのに残業代を払わない

みなし残業に関して非常によくある誤解のひとつが、「何時間残業しても、取り決めた時間分だけの残業代を支払えばよい」というものです。

「みなす」という言葉は、「本当は異なるものを、同じものとして取り扱う」といった意味合いがあります。

みなし残業とは、たとえばみなし残業時間を10時間に設定したとすると、実際の残業時間がこれを下回ったとしても、10時間の残業をしたとみなして、10時間分の残業代を支払うという制度です。

上記の誤解は、おそらくこれを反対の意味に捉え、「何時間残業しても、残業時間を10時間とみなせる」と解釈してしまっているのだと思われます。

みなし残業が違法でないのは、本来払われるべき残業代が全額払われていることに変わりはないからでした。

つまり、実態と異なる残業時間とみなせるのは、実際の時間よりも長い時間とみなして、従業員に不利益がない場合だけなのです。

定めた時間を超えて残業した場合は超過分の残業代を支払わなければなりませんので、この点は誤解のないように十分気をつけていただきたいと思います。

 

 

会社から見たみなし残業のメリットとデメリット

みなし残業については、会社側と従業員側の双方にとって、メリットとデメリットがあります。

みなし残業制を検討される際は、以下のメリットとデメリットを比較されるとよいでしょう。

 

会社にとってのメリット

無駄な残業の抑制

みなし残業制の下では、決して残業代が支払われないわけではないのですが、みなし残業時間の範囲内であれば、残業をしてもしなくても支給される給料は変わりません。

そうすると、従業員としては、残業をしても給料が変わらないのであれば効率よく仕事を片付けて早く帰ろうとするのではないでしょうか。

みなし残業制とすることで、残業代を稼ぐためにダラダラと長時間働く、いわゆる「生活残業」の抑止につながり、従業員のワークライフバランスが向上することが期待できるのです。

 

基本給が高く見える

みなし残業代を定額給制により支給した場合、より基本給が高く見えるというメリットがあります。

たとえば求人の際に、次のような2つの記載があるとします。

「月給20万円(残業代別途支給)」

「月給25万円(20時間分のみなし残業代5万円を含む)」

いかがでしょうか。

仮に前者の企業で20時間残業した場合に、残業代が5万円程度になるとすれば、両者は実質的には同程度の待遇といえます。

しかし求職者にとって給料は重大な関心事のひとつであり、給料が希望額以上であることを検索条件として求人を絞り込む、といった仕事の探し方をする人も多いものと思われます。

そうすると、実質的には同程度の待遇であっても、後者のような書き方をした方がより高待遇な求人に見え、求職者の目に留まる機会も増えることが期待できます

 

給与計算事務の簡素化

みなし残業制とすることのメリットのひとつに、給与計算事務の簡素化があるといわれています。

残業時間がみなし残業時間を下回っている従業員については、残業代を個別計算することなく、機械的に所定のみなし残業代を支給すればよいためです。

もっとも、このような処理は、会社が実際の残業時間以上分のみなし残業代を払っていることにより可能となっているため、個別に残業代を計算するための人件費と比較してどちらがより安価かという問題はあります。

また、みなし残業制を採用していても、みなし残業時間を超えて残業した従業員については個別に残業代を計算する必要があるため、どの程度のメリットがあるか、それぞれの会社でよく精査する必要があるでしょう。

 

会社にとってのデメリット

余分な残業代

みなし残業制を採用する大きなデメリットは、残業代を余分に払うことになる点です。

みなし残業制を採用した場合、全従業員が所定の時間を超える残業をしない限り、会社は本来は支払い不要な残業代を支払うことになります

みなし残業制によって残業代が抑制できるというのは誤解によるところも多く、無駄な残業の抑止となることは期待できるものの、みなし残業代の支給が発生するため、劇的に残業代を削減することは難しいと考えられます。

もちろん、従業員によりよい待遇を提供するという意味で、経済的にはデメリットになり得ることを理解した上で導入するのであれば問題はありません。

また、従業員の勤務実態を分析し、多くの従業員が毎月超えるであろう程度の時間数を設定することができれば、余分な支出を最小限に抑えることができるでしょう。

 

運用を誤るリスク

大切な点なので繰り返しお伝えしますが、みなし残業制は、「残業をしていなくてもしたとみなす制度」であり、その逆、すなわち「実際にした残業をしていないものとみなす制度」ではありません

この点を誤解し、「みなし残業制だから」といって一定額以上の残業代を支払わないといった事例がとても多いです。

従業員がみなし残業時間を超過して残業を行ったのであれば、会社は当然その超過分について別途残業代を支払わなければなりません。

また、みなし残業の時間と残業代を明示し、就業規則を整備するといった対応が必要となり、このあたりが不十分な場合、違法とされることもあります。

みなし残業制は適正に運用するために留意すべき点が多く、運用を誤るリスクがある点がデメリットといえます。

 

求職者に警戒される可能性

みなし残業代を含めて「月給」として提示することで、給与が高く見えるメリットがあるとご説明しましたが、これには反対の側面もあります。

求職者の中には、みなし残業制の会社というだけで、いわゆる「ブラック企業」ではないかと警戒する人も存在します

会社にとっては、残業代を個別に計算し実際に残業した分の残業代を支給する方が安上がりなのに、あえてみなし残業制を採用しているのは、なにか裏があるのではないかと考えてしまうわけです。

ひとつには、一部の会社がみなし残業制を口実にして残業代を支払わないという実態を求職者の方でも承知しており、「みなし残業」という言葉自体に悪いイメージを持ってしまっているということがあります。

また、たとえ適切に運用されていたとしても、みなし残業時間として提示する時間があまりに長いと、「毎月少なくともそのくらいの時間は残業しなければならない」と捉えられる場合もあります。

ミスマッチによる早期離職を防ぐという観点からは、実際に長時間の残業が常態化しているようであれば、あらかじめそれを明示することも悪いことではありませんが、人材獲得の点でみなし残業制がマイナスに働くこともある点は認識しておいた方がよいでしょう。

▼会社から見たみなし残業のメリットとデメリットのまとめ

メリット デメリット
  • 無駄な残業の抑制
  • 基本給が高く見える
  • 給与支払い事務の簡素化
  • 余分な残業代の発生
  • 運用を誤るリスク
  • 求職者に警戒される可能性

 

 

従業員から見たみなし残業のメリットとデメリット

従業員にとってのメリット

残業の有無にかかわらず、みなし残業代が支給される

みなし残業制が採用された場合の従業員側のメリットは、残業の有無にかかわらず一定のみなし残業代が支給される点です。

みなし残業制でない会社では実際の残業時間分しか残業代は支給されませんが、みなし残業が採用されていれば、実際の残業時間がみなし残業時間を下回った場合であっても、みなし残業時間分の残業代がきっちり支給されます。

残業をしなくても所定の残業代がもらえるということですから、毎月の給与額が残業の有無によって左右されずに安定するというメリットがあります。

残業をせずに早く帰ろうという意識付けにもなりますし、ワークライフバランスの改善も期待できるでしょう。

 

従業員にとってのデメリット

長時間労働の可能性がある

みなし残業制は、個別に残業代を計算した場合と比べて、従業員にとって基本的には得となる制度です。

みなし残業制を採用した場合、少なくともみなし残業時間として設定した時間分の残業をしてもらわないと、会社としては「払いすぎ」ということになります。

みなし残業時間として設定された時間が長ければ長いほど、会社としては払いすぎのリスクが高まるため、実際の勤務実態はそれを超えるほどの長時間労働となっている、という推測が成り立ちます。

無駄な残業をしないという意識づけになればよいのですが、「みなし残業代が支給されているのだから少なくともその分は残業しなくてはいけない」といったプレッシャーを感じてしまうと、逆に残業を断りづらくなることも考えられます

もちろん、労働時間が短いことが一概にいいとは言い切れず、収入やスキルをアップさせる観点から長時間働きたいという方もいらっしゃることでしょう。

それはそれでひとつの価値観として尊重されるべきですし、分かった上で入社するのであれば、問題はないといえます。

しかし一般論として、日本人は勤勉で働き過ぎの傾向があるといわれることもありますので、体を壊さないよう、健康管理に特に留意する必要があるでしょう。

 

基本給が低い可能性

みなし残業制の会社では、基本給が低く設定されている可能性があります。

つまり、一般的な給料の相場に加えてみなし残業代が支給されるのではなく、みなし残業代を足し込んでやっと給料の相場に達するような金額設定となっている可能性があるのです。

もちろん、すべての会社がそうというわけではなく、あくまでそのような例もあるということですが、みなし残業制により実際の賃金が分かりづらくなりますので、納得できる給料が支給されるのか、よく検討する必要があるでしょう。

 

違法に運用されている可能性

みなし残業制は、適切に運用されている限りにおいては、実際の残業時間よりも多く残業代を受け取れる可能性がある点で、従業員にとって損はない制度です。

しかしご説明したとおり、みなし残業制であることを口実に、実際の残業時間にかかわらず所定のみなし残業代しか支給しないという違法な運用がされていることもあります

みなし残業制を採用していない会社においても残業代を支払わない違法なケースもあるため、みなし残業制に特有の問題ではないという見方もあるかもしれませんが、そのような危険性があることを頭の隅に置いておいてもよいでしょう。

このあたりの実態は入社してみないと分かりづらいところではありますが、面接の際などにみなし残業制を導入している趣旨について質問してみるといいかもしれません。

▼従業員から見たみなし残業のメリットとデメリットのまとめ

メリット デメリット
  • 残業の有無にかかわらず、みなし残業代が支給される
  • 長時間労働の可能性
  • 基本給が低い可能性
  • 違法に運用されている可能性

 

 

みなし残業代の正しい計算方法

みなし残業代の設定

「みなし残業代の金額」と「みなし時間」をどのようにすればよいかというご質問が多いです。

これらの設定にあたっては、以下の点に注意するとよいでしょう。

  • 本来の時間外割増賃金以上の金額で設定する
  • みなし時間は45時間を超えないように設定する

具体例で示しましょう。

具体例 基本給月額20万円・月所定労働時間を170時間

この会社がみなし時間(時間外労働)を10時間に設定したい場合の計算例上記ケースの1時間あたりの時間外割増賃金は1471円となります。
20万円 ÷ 170時間 ✕ 1.25 ≒ 1471円

みなし時間(時間外労働)を10時間に設定したい場合、みなし残業代を1471円 ✕ 10時間以上に設定します。
すなわち、1万4710円以上です。

例えば、以下のような設定が考えられます。

【定額給制の場合】
基本給月額21万5000円(内1万5000円を10時間分の時間外割増賃金として支払う。)

【定額手当制の場合】
基本給月額20万円 営業手当1万5000円(全額を10時間分の時間外割増賃金として支払う。)

 

みなし時間を超えた場合の残業代の計算方法

みなし時間を超えて労働した場合、その超えた時間については別途残業代を支払わなければなりません

基本的には通常の残業代の計算方法と同じですが、みなし残業代部分については基礎賃金から外して計算可能と考えられます。

つまり、上記例の場合、基本給月額20万円を基礎賃金として計算します。

なお、残業代の計算方法について、くわしい解説は次のページをご覧ください。

 

 

会社側のポイント

要件が厳しく無効となるリスクがある

みなし残業が適法であるためには、残業代とそれ以外の賃金とが明確に区別されている必要があるため、求人や給与明細の表記に注意しなければなりません。

また、賃金に関する事項として、就業規則や雇用契約書への記載も必要と判断される可能性があります。

さらに、みなし残業時間の設定も、違法な水準とならないよう気をつけなければなりませんでした。

このように、みなし残業制は従業員の残業代を受け取る権利が害されることのないよう、厳格なルールが定められています。

これらのルールが一部でも守られていなかった場合、みなし残業制は無効と判断されるおそれがあります

そうなると、実際の残業時間に基づく残業代を改めて支給するということにもなりかねませんので、会社にとってはリスクをはらんだ制度といえるかもしれません。

 

未払い残業代が高額化する傾向がある

みなし残業制が無効となると、みなし残業制を採用していなかった場合よりも未払い残業代が高額化するというリスクがあります。

すなわち、残業代を計算する際、給与月額に当該のみなし残業代を含むことになるため、残業代を計算する未払い賃金が大幅に増額します

具体例で示しましょう。

具体例 月所定労働時間を170時間、残業時間を1440時間(3年間)

【定額給制を採用していた場合】
基本給25万円(うち5万円の残業代を含む。)
上記の場合で、みなし残業代が無効と判断された場合の残業代
25万円 ÷ 170時間 ✕ 1.25 ✕ 1440時間 ≒ 264万6720円【定額給制を採用していなかった場合】
20万円 ÷ 170時間 ✕ 1.25 ✕ 1440時間 ≒ 211万8240円

※法定利息等を除く

上記のとおり、みなし残業制を採用していた場合、採用していなかった場合より、未払い賃金が大幅に増加します。

会社としては、適切に残業代を払っていたつもりが、既払いと認められず、かつ、金額も高額化するため二重の負担と言えるでしょう。

 

みなし残業を採用する場合は専門家に相談

このように、みなし残業は適法に運用するための要件が非常に厳しい上、仮に不適切だった場合に高額の未払い残業代を請求される可能性がある、リスクの高い手法といえます。

しかし、みなし残業制にはメリットがあることも事実ですので、もし導入をお考えであれば、一度労働問題に詳しい弁護士にご相談されるとよいでしょう。

十分に検討することなく始めてしまって、後から無効ということになると、多額の未払い残業代の支払いが発生するおそれがあります

そのような事態を回避するためにも、みなし残業を導入する際は、労働問題に精通した弁護士の助言の下で進めるのがよいでしょう。

労働問題における弁護士の選びの重要性については、こちらをご覧ください。

 

従業員側のポイント

就業規則を確認

みなし残業は賃金に関する事項ですので、就業規則に規定がないと違法の可能性があります

「みなし残業手当」や「固定残業代」など、呼び方は会社によって異なる可能性がありますが、そのような記載があるかチェックしてみてください。

このような規定がない場合は違法の疑いがありますし、仮に規定があったとしても、規定自体が不適切であったり、規定が守られていなかったりという可能性もあります。

みなし残業に納得がいかない場合は、まずは就業規則を確認されるとよいでしょう

 

雇用契約書等を確認

賃金に関する事項は、就業規則に記載するほか、従業員に対し書面で明らかにすべきと考えられています。

このため、みなし残業制の会社では、雇用契約書や労働条件通知書といった名目の書類に、みなし残業についての記載があると思われます。

そのため、雇用契約書等の記載がどうなっているかチェックしましょう。

 

労働者側の弁護士へ相談

みなし残業時間を超過した分の残業代が支払われないとか、違法かどうか分からないが不当に感じているといった場合は、労働者側の弁護士に相談するとよいでしょう。

労働事件は高い専門性が求められる分野であり、みなし残業の有効性を判断するのは、労働問題についての十分な知識と経験が必要です

また、労働事件は企業側と労働者側では視点が異なってきますので、労働者側の事件を多く手掛ける弁護士を選ぶことが重要です。

労働問題における弁護士の選びの重要性については、こちらをご覧ください。

 

 

まとめ

このページでは、みなし残業が有効となる要件や、メリット・デメリット、気をつけるべきポイントなどを解説しました。

最後にもう一度、記事の要点を整理します。

  • みなし残業とは、実際の残業時間にかかわらず所定の時間分の残業代を毎月支給する制度をいう。
  • みなし残業が有効となるためには、残業代とそれ以外の賃金が明確に区分されていることを要し、就業規則のほか雇用契約書や給料明細などにも明記した方が望ましい。
  • みなし残業制の下でも、従業員がみなし残業時間を超えて残業した場合は、超過時間分の残業代を別途支給する必要がある。
  • みなし残業にはメリットとデメリットがあるため、導入の際にはこれらを比較してメリットが上回るかを判断する必要がある。
  • みなし残業に疑問があるときは、会社側も従業員側も、労働問題に強い弁護士に相談することが有効である。

当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。

Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。

解雇問題については、当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。

この記事が、労働問題にお悩みの企業にとってお役に立てれば幸いです。

 

 




  

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