協調性がない社員をクビ(解雇)できる?弁護士が解説

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者



協調性がないだけでは、原則クビ(解雇)にはできません。

仕事においてトラブルやチームの乱れに悩む会社も多く、「協調性がない社員をクビにしたい」と考えることもあるでしょう。

しかし、「空気が読めない」「周囲とうまくやれない」といった理由だけでは、法律上、正当な解雇理由とは認められないのが原則です。

労働契約法では、解雇には客観的な理由と社会通念上の相当性が必要とされ、そのハードルは決して低くありません。

つまり、「仕事で協調性がないから」というだけで一方的に解雇するのは、法的リスクが高い対応といえます。

本記事では、実際の裁判例や実務のポイントを交えて、労働問題に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。

協調性がない社員の解雇が認められた裁判例

事例

この判決は、鞄の製造等を業とする小規模会社(以下「X社」とします。)が、協調性がないことを理由として、営業部の正社員である従業員(以下「Y氏」とします。)を普通解雇した事例です。

Y氏は、他の正社員やパート職員に対し命令口調で怒鳴ったり、叱責するなどの行為を繰り返していたほか、出勤時に他の従業員に挨拶をしないなどの問題行動がみられました。

これに対し、X社は再三にわたりY氏の言動等を改めるよう注意を行い、言動等が改まらない場合には会社を辞めてもらう旨警告していました。

それにもかかわらず、Y氏は言動等を改めず、相変わらず他の従業員を大声で怒鳴るなどの行為を繰り返しました。

そこで、X社は、「協調性がなく、注意及び指導しても改善の見込みがないと認められるとき」、「会社の社員としての適格性がないと判断されるとき」という就業規則所定の普通解雇事由に該当するとして、Y氏を解雇しました。

この事例は、第一審と控訴審(本判決)とで判断が分かれており、第一審は解雇を無効と判断し、控訴審は解雇を有効と判断しました。

 

判決(東京高判平成28年11月24日判決)

本判決は、

  1. ① Y氏の言動等は「単に職場の良好な人間関係を損なうという域を超えて、職場環境を著しく悪化させ、X社の業務にも支障を及ぼすものである」から、就業規則所定の解雇事由に該当すること
  2. ② Y氏を雇用し続ければX社の業務に重大な打撃を与えるというX社の判断も首肯できること
  3. ③ X社は小規模会社であり、Y氏を配転することは事実上困難であって、解雇に代わる有効な手段がないこと
  4. ④ X社が再三にわたって注意、警告してきたにもかかわらず、Y氏が反省して態度を改めなかったこと

などを理由に、Y氏の普通解雇は有効であると判断しました。

 

判決のポイント

この判決では、「協調性のなさ」が解雇理由として認められるには、

単に職場の人間関係を悪くする程度ではなく、職場環境を著しく悪化させ、会社の業務に支障を及ぼすレベルに達していることが必要だとされています。

従業員Y氏が他の社員を退職に追い込むような言動を繰り返していたことが、職場への深刻な悪影響として評価され、解雇が有効と判断されました。

また、裁判所は解雇の相当性について、以下のような点も総合的に考慮しています。

  • 問題行動が継続していたかどうか
  • 配置転換など、他の手段で対応できたか
  • 意や指導を事前に行っていたかどうか

 

 

協調性のない従業員を解雇する前に企業が取るべき対応とは?

以上みてきた判決のポイントからすると、「協調性のなさ」を理由として従業員を解雇するためのハードルは高いといえるでしょう。

したがって、協調性のない従業員に退職してもらいたい場合には、いきなり解雇を通告するのではなく、退職勧奨を行い、自主退職を促す方がリスクは低いといえます。

退職勧奨をしても自主退職しない場合には、解雇をせざるを得なくなりますが、その場合には以下のようなことに注意を払っておく必要があります。

従業員を解雇する前に企業が取るべき対応

 

就業規則に「協調性の欠如」が解雇事由となることを明記しておく

就業ルール明確化のために就業規則を作成するのはもちろんのことですが、普通解雇事由については、就業規則の絶対的必要記載事項とされています(労働基準法89条3号)。

この普通解雇事由の一つとして、協調性欠如を明記しておく必要があります。

例えば、「協調性を欠き、他の従業員の業務遂行に悪影響を及ぼすとき」などです。

 

配置転換が可能な場合は、異動による対応を先に検討する

ある程度規模の大きい会社の場合は、配置転換などを行って、一旦様子をみてみる方が、リスクは少ないといえます。

もっとも、配置転換を先行させなければ必ず解雇が無効となるというわけではありません。

本判決の事例のように、小規模会社で事務所が一つしかないような場合は、配置転換が困難であるため、配置転換を先行させない解雇も有効であると判断される可能性があります。

 

問題行動があれば、その都度注意・指導を行い、記録として書面を残す

本判決の第一審では、解雇無効との判断がされていますが、その大きな理由として、Y氏以外の従業員の供述の信用性が認めらなかった点が挙げられます。

つまり、Y氏がどのような問題発言・問題行動をしていたかについて、書面などの証拠がなく、従業員の供述だけであったことから、その真偽を裏付けることができないと判断されたのです。

このような事態を防ぐためには、注意書、指導書、指導記録票などに問題発言・行動の内容や注意・指導の内容を記録し、書面化しておく必要があります。

これらの書式は弊所のホームページにも掲載しておりますので、以下のページをご覧ください。

場合によっては、注意・指導の際のやり取りを録音しておくことも検討する必要があります。

 

 

まとめ

解雇や退職勧奨を行うには法的判断が伴います。したがって、労働問題に強い弁護士に相談しながら進めていくことが大切です。

お困りのことがあれば、弊所までご相談ください。

 

 


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