労基署の臨検とは?入るきっかけと対処法
労基署(労働基準監督署)の臨検とは、労働基準法をはじめとする各種労働法令が企業で遵守されるようにするために、労働基準監督官が事業場に強制的に立ち入り、事業主の事情聴取や書類の確認等を行うことです。
その種類としては、定期監督、申告監督、災害時監督、再監督の4つがあります。
このページでは、労基署の臨検が入るきっかけや種類、調査内容はどのようなものか、臨検の流れ、準備や対処法などについて弁護士が詳しく解説します。
目次
労基署の臨検とは?
労基署(労働基準監督署)の臨検とは、労働基準法をはじめとした各種労働法令が遵守されるよう、労働基準監督官が事業場に強制的に立ち入り、事業主の事情聴取や書類の確認等を行うことをいいます。
この臨検監督については、司法警察事務とともに労基署のうち、監督課の業務となっています。
労基署の臨検は抜き打ち?通知ありとの違い
労基署の臨検は、抜き打ちのときもあれば、事前に通知がされるときもあります。
そのため、どちらのケースもあり得るということになります。
事前に通知されるか、抜き打ちかは、調査の目的をどうすれば果たすことができるかによって労基署が判断しています。
事前に通知をしてしまうと関係する書類を破棄されたり、修正されたりする可能性がある場合、抜き打ちで行う必要があるため、臨検は抜き打ちでされることもあるでしょう。
他方で、関係者から事情聴取をしたいという場合には、抜き打ちで臨検を行うと聴取したい相手が不在ということも十分あり得るため、事前に通知されることの方が多いでしょう。
「抜き打ち」で来られると対応に困るということがほとんどでしょうが、労基署の臨検について、会社は基本的に応じなければなりませんので、注意しましょう。
労基署の臨検が入るきっかけ
労基署の臨検が入るきっかけとして、主には以下のようなものが考えられます。
労災の発生
労災が会社内で発生すると、会社は労基署に労災申請を行います。
労基署は労災が発生した場合、その原因を調査したり、会社に安全配慮義務違反がないかどうかチェックするために臨検を行うことがあります。
また、労基署は労災発生率というデータを業種毎に参考にしています。
そのため、労災の申請件数が多く、労災発生率が多いと判断されると、問題点がないかを確認するために臨検に入ることがあります。
従業員や関係者からの申告
会社で働いている従業員や関係者などから労基署に労働法令違反に関する事実が通報されることがあります。
この通報をきっかけにして、労基署が臨検に入ることも比較的あるといえます。
具体的な相談や申告があった以上、労基署としても調査の必要性が高いと判断する傾向にあります。
労基にチクったらバレる?
従業員側からすると労基署に通報したら自分がチクったことがバレるのではにないか?と思われる方もいるでしょう。
この点、バレる可能性はゼロとはいえません。
ただし、従業員が自分が申告したことは伏せて欲しいという希望を伝えておけば、労基署が積極的にそれを会社に伝えることは通常ありません。
臨検が入った会社が、状況から推測して誰かが労基署にチクったと判断する可能性はあります。
労基署の重点監督事項の調査
労基署はその年の重点目標を毎年定めています。
この重点目標の中で、特に監督すべき内容や業種を決めています。
この目標に基づいて、重点監督事項や業種を調査するために臨検に入ることがあります。
労基署の臨検の種類
労基署の臨検にはいくつかの種類があります。
それが
- 定期監督
- 申告監督
- 災害時監督
- 再監督
の4つです。
定期監督
定期監督は労基署が定期的に実施している調査になります。
先ほど紹介した年間計画などに基づいて実施されているため、特に問題が発生していない会社でも臨検が入ることもあります。
申告監督
申告監督は、従業員や関係者などから具体的な労働法令違反の疑われる事実が通報された場合になされるものです。
例えば、
- 給料が払われていない
- 有給休暇が取得できない
- 最低賃金を時給が下回っている
などといった相談が入った場合、申告監督がなされる可能性があります。
災害時監督
災害時監督は、労災事故が発生した場合に、その原因を調査し、会社に安全配慮義務違反がないか、事故が起こらないように再発防止策を取るよう促すために行われるものです。
特に
- 労災事故が多発している
- 従業員の死亡や重症となった労災事故が発生した
というケースでは、災害時監督が実施される可能性が高いでしょう。
再監督
再監督は、今までの3つの種類の臨検で、一度調査がなされた会社に、時間をおいて再度調査を行うためになされるものです。
是正勧告がなされて、会社から是正勧告書が提出されてしばらくして、本当に改善されたかをチェックするということがあり得ます。
すべての会社が再監督を受けるわけではないですが、このような再調査の可能性があることも十分に把握しおきましょう。
労基署の臨検の回数・頻度
労基署の臨検の回数としては、必ずしも1回とは限りません。
調査の状況によっては、何度か会社の事業所の調査があることもあり得ます。
また、一度調査が完了して是正勧告などが出された場合には、一定の期間をおいてから再監督がなされることがあります。
そのため、回数としては1回以上となります。
再監督がいつ入るかについては、明確に定まっていないため、はっきりとしたことはいえません。
労基署の臨検の調査内容
労基署の臨検の調査内容としては、労働法令に違反がないかどうかという観点から以下のような項目がチェックされます。
労働条件に関する書類の確認
書類 | 確認内容 |
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労働者名簿 |
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賃金台帳 |
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就業規則 |
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労働条件通知書(雇用契約書) |
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時間外労働・休日労働に関する協定(36協定) |
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労働時間の実態調査
項目 | 確認内容 |
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タイムカード、出勤簿などの勤怠記録 |
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労働者へのヒアリング |
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安全衛生に関する調査
項目 | 確認内容 |
---|---|
安全衛生管理体制 |
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健康診断の実施状況 |
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作業環境 |
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労基署の臨検の流れ・現場での対応ポイント
労基署の臨検の流れ
臨検監督は一般的には、下図のような形で進みます。
①臨検に入る決定
まず、臨検のきっかけとして、定期監督の場合は、労基署の年間計画に基づいて、対象となる事業場を決定します。
また、申告監督の場合には、実際に就労する労働者からの申出、災害時監督の場合には、労災事故の発生がきっかけになります。
事業場の調査を決定した場合、次に労基署が事業場を訪問する日を決定します。
- 調査の予告がなされる場合には、労基署から事業場へ連絡が入り、いつ臨検に来るか、用意しておくべき書類などについて通知されます。
- 抜き打ちの場合には、何らの通知がなされずに、実際に臨検に入ることになります。
②実際に臨検に入る
そして、次の段階では実際に労基署が臨検に入り、事業場で関係者の事情聴取や賃金台帳や就業規則といった書類の確認、災害時監督の場合には、現場検証を行います。
こうした調査により、問題が発見されなければ、特に指導や勧告を受けることなく、労基署による調査は終了となります。
③是正勧告といった指導や送検
臨検の結果、調査により労働法令への違反が判明した場合には、通常は文書による指導、是正勧告が出されます。
悪質な事案については、指導や是正勧告を経ることなく、いきなり送検されるケースもあります。
④是正勧告への対応確認
労基署から指導や是正勧告が出されると、労基署はその後一定期間待った上で、事業場の改善状況を確認します。
会社から是正報告書を提出し、改善した内容を労基署が確認します。
ここで、違反状態が是正されていると判断できれば、調査は終了となります。
改善が見られない場合には、再度の勧告を行ったり、場合によっては改善の意向が見られないとして送検されることもあり得ます。
労基署の臨検が入る前に会社が準備すべきこと
事前に臨検が入ることが労基署から予告された場合には、臨検に労基署が入る前に会社として準備すべきことがあります。
それは、まず、「労基署からの予告書面をよく見ることです。」
この事前の書面を確認することで、
- 労基署が今回どのような目的で臨検に入るのか
- 労基署が準備しておくように指示している書類があるか
- そのほかで労基署が確認する可能性がある書類や資料は何か
をチェックすることができます。
この確認により、会社として調査前に確認しておくべき項目、準備しておくべき書類、臨検に対応する人を誰にするかなど、臨検への対応を具体的にイメージしていくことができます。
労基署の是正勧告|臨検後の会社の対処法
労基署の臨検により、是正勧告が出された場合には、会社はその後も対応することが必要です。
是正勧告が出された場合には、労基署から是正勧告書という書類が会社に交付されます。
この是正勧告書には、違反している内容、違反法令、改善期限が記載されています。
そのため、会社は違反している内容を確認し、どのように改善すれば、違反状態が解消できるのかを検討し、実際に改善策の実施を行います。
そして、改善が完了した時点で、改善報告書という書類を作成し、労基署へ提出します。
この改善報告書を是正勧告書に記載された改善期限までに提出しなければなりません。
このように、労基署の臨検は入って終わりではなく、その後の対応も必要になるので注意が必要です。
労基署の臨検を弁護士に相談するメリット
労基署による臨検は、企業にとって大きなプレッシャーとなる出来事です。
突然の調査に慌てて不適切な対応をしてしまうと、是正勧告にとどまらず、最悪の場合、送検に至るリスクも伴います。
このような事態を避け、企業へのダメージを最小限に抑えるために、労働問題に詳しい弁護士へ相談することには、メリットがあります。
具体的には、以下のような点が挙げられます。
①臨検当日の冷静かつ的確な対応が可能になる
突然、労基署の監督官が来訪すると、経営者や担当者は動揺し、冷静な判断が難しくなりがちです。
弁護士が臨検に立ち会うことで、監督官とのやり取りの窓口となり、精神的な負担を大幅に軽減できます。
法的な観点から、調査の目的や範囲を正確に把握し、不当に広範な調査や権限を逸脱した要求に対しては、適切に意見を述べることができます。
また、弁護士が立ち会うことで、担当者が慣れない調査に事実と異なる説明をしてしまったり、不用意な発言をしてしまったりするリスクを防ぎます。
弁護士は、どのような質問に、どこまで回答すべきかを的確に助言し、企業にとって不利益な状況が生まれるのを未然に防ぎます。
②事前の準備で、当日慌てずに済む
臨検は、定期監督のように事前予告がある場合と、申告監督のように予告なしで行われる場合があります。
いずれの場合でも、弁護士に相談することで、事前に備えをすることができます。
想定される指摘事項の洗い出し
企業の就業規則や勤怠管理、賃金台帳などを弁護士が法的な観点からレビューし、労基署から指摘されやすい問題点を事前に洗い出します。
書類の準備と整理
臨検で提示を求められる可能性の高い書類(労働者名簿、賃金台帳、タイムカード、36協定など)をリストアップし、不備がないかを確認・整理しておくことで、当日スムーズに提示できます。
③是正勧告・指導票への的確な対応で、問題を早期に解決できる
臨検の結果、何らかの法違反が認められると「是正勧告書」が、改善が望ましい事項については「指導票」が交付されます。
これらへの対応を誤ると、問題が長期化・深刻化する恐れがあります。
是正勧告には、指定された期日までに「是正報告書」を提出する必要があります。
弁護士は、指摘された問題点を根本的に解決するための具体的な改善策を助言し、法的に不備のない報告書作成をサポートします。
単なるその場しのぎではない、実効性のある改善策を講じることで、再度の臨検や問題を未然に防ぎます。
是正勧告の内容が、企業の経営実態に照らして直ちに実行するのが困難な場合もあります。
そのような際に、弁護士が代理人として労基署と交渉し、現実的な改善計画やスケジュールについて協議しながら対応することも可能です。
④刑事事件化(送検)のリスクを最小限に抑える
悪質な法令違反や、度重なる是正勧告に従わない場合などには、労基署は労働基準法違反事件として捜査を行い、検察庁へ送検(刑事事件化)することがあります。
弁護士に早期に相談し、指導に従って真摯に改善を進める姿勢を示すことで、刑事事件化という最悪の事態を回避できる可能性があります。
弁護士は、どの点が重大なリスクにつながるかを正確に判断し、優先順位をつけて対応策を講じることができます。
⑤根本的な労務管理体制の見直しにつながる
臨検は、自社の労務管理上の問題点を洗い出す絶好の機会と捉えることもできます。
そのため、弁護士の助言のもと、就業規則の改定、労働時間管理方法の見直し、賃金制度の再設計など、企業の成長とコンプライアンスを両立させる、より強固な労務管理体制を構築するきっかけになります。
これにより、従業員との間の労務トラブルを未然に防ぎ、働きがいのある職場環境を実現することで、企業の持続的な発展に繋がります。
労基署の臨検についてよくある相談Q&A
臨検は拒否できますか?

労基署には労働法令に関して、警察官と同じように調査・捜査権限が法律上認められており、臨検を拒否しようとすれば、強制力を用いて調査されることになります。
そのため、臨検を拒否することはできません。
ただし、事前に臨検が予告されて、その日は都合が悪いなどがあれば、事前に相談をして日程変更を求めるといったことはあり得るでしょう。
まとめ
今回は労基署の臨検について解説してきました。
労基署の臨検は、決して軽視できるものではありません。
問題が発生してから対処するのではなく、日頃から弁護士のような専門家と連携し、健全な労務管理体制を構築しておくことが、企業にとって最善のリスクマネジメントといえるでしょう。
労基署の臨検への対応にお困りの企業は、労働問題に強い弁護士に相談することが大切です。
デイライトでは、労基署の臨検対応も含めて、労働問題を数多く取り扱う多くの弁護士がチームとして対応しています。
