残業30時間はホワイトorブラック?弁護士が対処法を解説
残業30時間とは、法定労働時間や所定労働時間を超えた残業時間が月に30時間となる場合をいいます。
残業30時間の働き方はホワイトでしょうか?それともブラックでしょうか?
会社の求人票でも平均残業時間が30時間となっていることは少なくありませんが、残業30時間をどのように受け止めればいいのでしょうか。
結論としては、残業30時間は多くの場合に法律に違反していません。
もっとも、残業時間が毎月30時間に及ぶ場合には、通勤時間も考え合わせると、一日のほとんどの時間を仕事のために費やすことになりかねません。
日本の平均労働時間と比較しても、残業30時間は長時間労働の傾向が強いといえますので、ご自身の健康面などに注意することが必要です。
このページでは、残業30時間について、法律上の規制や、注意すべきポイント、対処法まで、労働問題に詳しい弁護士が解説しています。
ぜひご覧ください。
残業30時間はホワイトorブラック?
「残業30時間」の働き方について、詳しく見ていきましょう。
なお、ここでは、残業30時間について、「法定労働時間※を超えた残業時間が月に30時間」の場合を指して説明します。
会社によっては所定労働時間※を超えた時間を全て残業時間としている場合もあります。
会社ごとに「残業時間」が何を表現しているかが異なりますので、注意しましょう。
次に説明するとおり、労働基準法はこの時間を超えて残業させることを原則として禁止しています。
これに対し、所定労働時間とは、会社が従業員との間で定めた労働時間のことを意味します。
1日8時間の場合(法定労働時間と同じ)もあれば、1日7時間半(法定労働時間よりも短い)の場合もあります。
所定労働時間は会社ごとに異なるものであり、長時間労働が違法となるか否かは基本的には法定労働時間を基準に判断することとなります。
長時間労働の規制の内容
残業30時間が違法であれば、もちろんそれは「ブラック」ということになります。
そこで、まずは法律上の長時間労働の規制内容を見てみましょう。
上でも解説したとおり、原則として、法定労働時間(1日につき8時間、1週間につき40時間。休憩時間は除かれます)を超えて残業させることが禁止されています(労働基準法第32条)。
残業が認められるのは、例外という位置づけです。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
そこで、例外的に残業が認められる場合を見ていきましょう。
法定労働時間を超えて従業員に残業させるためには、事前に会社が従業員代表等と「36協定」という労使協定を締結(かつ、労働基準監督署へ届け出)する必要があります。
この36協定には具体的な残業時間の上限を定める必要がありますが、それにも限界があります。
具体的には、「1か月につき45時間、1年につき360時間」が残業の原則的な上限です(労働基準法第36条第3項、同条第4項)。
(時間外及び休日の労働)
第三十六条
③ 前項第四号の労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る。
④ 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。
引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
そして、多くの会社では36協定を締結していますので、月間45時間の上限に達していない「残業30時間」は、多くの場合に適法といえます。
残業30時間が適法である条件
以上で説明した法律上の規制内容を踏まえて、残業30時間が適法となるための条件をチェックリスト形式で整理しました。以下の通りです。
- 「残業30時間」が適法である条件 ※全ての条件を充足する必要がある
- 事前に36協定が締結されている
- 36協定で定めている残業上限時間が、月30時間以上
- 36協定で定めている残業上限時間が、月45時間以下
- 36協定を労働基準監督署に届出済み
日本の平均労働時間との比較
以上の通り、残業30時間は基本的に適法ではありますが、適法だからといって問題がないというわけではありません。
日本政府が公表している残業時間の平均は、2022年において1か月13.8時間※です。
※ただし、これは所定時間外労働の平均で、パートタイム従業員の方を除いた平均です。
※この数値は所定時間外労働ですので、「法定時間外労働」に換算すると、さらに平均残業時間は短くなると推測できます。
この平均と比較すると、残業30時間は平均の倍以上であり、長時間労働の傾向が強いといえそうです。
残業30時間は1日あたり何時間?
残業30時間の場合には、1日あたり何時間働いていることになるのでしょうか。
土日祝日がお休みの場合を考えると、勤務日は1か月あたり約20日です※。
※2023年を例にすると、土日祝日を除いた平日の日数は247日です。1か月あたりの平日数は、平均で247 ÷ 12(か月)= 20.5833 … ≒ 20日(小数点以下を切捨)です。
そのため、残業30時間の場合、1日当たりの残業時間は、30(時間)÷ 20(日)= 1.5時間です。
法定労働時間(1日あたり8時間)を超えて1.5時間働くことになると、1日あたり9.5時間働くことになります。
残業30時間の場合の生活
「残業30時間」つまり、1日あたり9.5時間働く日の一日を具体的にシミュレーションしてみましょう。
具体例
- Aさんは、B社で働いており、通勤時間は片道45分。
- B社の所定労働時間は7時間30分(始業9時、終業17時30分。昼休み1時間)。
- Aさんは、食事やお風呂にそれぞれ30分かかる。
- Aさんは、帰宅後に自宅で映画のDVD(2時間)を鑑賞するのが楽しみ。
時間 | 所要時間 | Aさんの行動 |
---|---|---|
7:00~7:15 | ― | 起床~朝食準備 |
7:15~7:45 | 30分 | 朝食を摂る |
7:45~8:15 | 30分 | 出社準備(着替えなど) |
8:15~9:00 | 45分 | 通勤(往路) |
9:00~12:00 | 3時間 | 勤務開始~午前勤務 |
12:00~13:00 | 1時間 | 昼休憩 |
13:00~17:30 | 4時間半 | 午後勤務~所定終業時刻 |
17:30~18:00 | 30分 | 残業(所定時間外、法定時間内) |
18:00~19:30 | 1時間半 | 残業(法定時間外) |
19:30~20:15 | 45分 | 通勤(帰路) |
20:15~20:30 | 15分 | 帰宅後、着替えなど |
20:30~21:00 | 30分 | 夕食を摂る |
21:00~21:30 | 30分 | 入浴 |
21:30~23:30 | 2時間 | 趣味の時間(映画のDVD鑑賞) |
23:30~24:00 | 30分 | 就寝準備(歯磨き、ストレッチなど) |
※青色部分が働いている時間
このシミュレーションでは、趣味の時間として映画DVD鑑賞に2時間を充てています。
しかし、それ以外では、食事や入浴などを除いて、プライベートでの自由な時間を取ることができていません。
また、睡眠時間についても、日本人の平均睡眠時間は約8時間※とされていますので、7時間というのは短めということになるでしょう。
参考資料:令和3年社会生活基本調査|総務省統計局
そして、もし家庭がある場合には、家族との団らんの時間を食事時間とは別に確保できることが望ましいでしょうから、趣味のための時間はより短くなるでしょう。
あるいは、通勤時間がドアツードアで45分よりも長い場合も珍しくありませんから、そのような方であればさらにプライベートの時間は短くなります。
このように、残業30時間の場合、仕事のある平日にはプライベートの時間はかなり短く、仕事中心の1日になることがわかります。
一時的に残業30時間が生じてしまうことは仕方ないかもしれませんが、慢性的にこの状況が続くと、体力的に或いは精神的に限界を超えてしまう可能性もありますので、注意が必要でしょう。
残業30時間の様々なリスク
残業30時間の場合に生じ得るリスクには、どんなものがあるでしょうか。
メンタル不調となるリスクはある?
残業30時間の場合にメンタル不調になるケースというのは、必ずしも多くはないといえます。
しかし、残業時間中の業務の大変さや、通勤時間の長さなど、一人一人の状況によって精神的な負担は大きく変動します。
そのため、残業30時間でも、その方の状況によってはメンタル不調に陥る危険がありますので、注意しましょう。
過労死のリスクはある?
残業30時間であれば、過労死につながるような重大な病気の原因になることは多くないといえるでしょう。
しかし、残業30時間の場合も、上でシミュレーションした通り、仕事中心の生活になりますから、仕事の内容や通勤時間の長さなど、その方の状況によっては過労死につながるような病気の原因になる可能性も否定できません。
従業員側の対処法
以上の通り、残業30時間にはリスクがあります。
では、このような状態を解消するために、どうすればいいでしょうか。
長時間残業への、従業員の対処法をご紹介します。
仕事の効率化を検討する
まず、自身の業務の効率化を検討してみましょう。
近年は、技術の進歩により、PC上のアプリケーションも大変便利になっていますし、業務効率化を手助けするサービスも世の中に増えています。
また、「業務効率化」「時短」「ライフハック」といったテーマで、業務効率化のアイデアをまとめた書籍も販売されています。
業務を効率化すれば、残業時間が減るだけでなく、会社での評価も高まりますのでぜひ前向きに検討してみましょう。
仕事の断捨離を検討する
業務の断捨離も有効です。
筆者の経験上、仕事というのは簡単に増えていきますが、他方で、それを減らすということには焦点が当たりにくいです。
もし、前任者が始めた仕事を、何となく惰性で続けてしまっているということがあれば、「本当にこの仕事をしなければならないのか」「残業をしてまでこの仕事を続ける意味があるのか」を考えてみることをおすすめします。
もし、断捨離の余地がありそうであれば、上司に相談してみましょう。(上司も、部下から相談されないと、部下の業務の断捨離にまでは思いが至らないことも多いです。)
適切な残業代を請求する
適切な残業代を会社に請求することも有効です。
会社によっては、従業員に適切な残業代を支給せず、いわゆるサービス残業を黙認している場合があります。
サービス残業は、記録に残らない残業ですから、会社としても削減しようがありません。
また、残業代を支払う必要もありませんから、会社としては削減するモチベーションがないこともあります。
そこで、そのような会社では、適切な残業代の請求を行って、会社に現状の問題点を意識させることも有効です。
ただし、会社とのトラブルに発展する可能性もありますから、検討の際には、弁護士に相談するなどして慎重に対応することをお勧めします。
きついときは医療機関を受診
上で説明しました通り、残業30時間の場合でも、身体的・精神的な不調の原因になる可能性があります。
もし、残業による負担がきついと感じた場合には、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
残業時間を削減するためにも体力・精神力が必要になりますから、体が弱っているときには無理をせず、まずは医療機関を受診することを優先してください。
専門家への相談
自分だけでは状況を改善できそうにない場合には、専門家に相談することも重要です。
弁護士や社会保険労務士に相談し、第三者の立場からアドバイスをもらうことが冷静な対応につながります。
弁護士などの協力者に相談すれば、自分では思いつかなかった有効な対応策をアドバイスしてくれるかもしれません。
また、望めば代わりに会社と交渉してくれたり、自分の代わりに行動してくれますから、心理的にも大変安心できると思います。
会社側の対処法
会社としては、長時間残業に対してどのように対処すればよいでしょうか。
36協定を締結して残業30時間超えを適法にする
そもそも、36協定を締結していない場合には、残業30時間が法律違反となります。
法律違反になると、罰則を受ける可能性があるだけでなく、不名誉な形で会社名が公表されてしまうなど、大きな不利益を受けかねません。
そこで、会社としては何より、36協定を締結して残業30時間を適法にすることが必要となります。
不必要な労働時間の削減
不必要と思われる労働時間を削減することが長時間労働対策の基本です。
不必要な労働時間を削減するための方法は様々考えられますが、例えば「残業の許可制の導入」や「評価方法の改訂」がよく見られる方法です。。
残業の許可制の導入
従業員が自分の判断で自由に残業できる職場では、従業員がマイペースに仕事をしてしまい、あるいは、残業代目当てでの残業も増えてしまい、残業時間が長期化しがちです。
そこで、会社が、必要な残業か否かを判断し、できるだけ従業員に早帰りさせる仕組み作りが重要です。
具体的には、残業の許可制を導入することが考えられます。
上司の許可を得ないと残業ができない制度を導入することで、必要性の低い残業を減らすことができます。
ただし、上司や部下にとっては、残業の度に許可を出す/許可を貰う必要があるため手間がかかりますから、それがかえって残業に繋がってしまう可能性もあります。
そのような心配があれば、まずは、「1日の労働時間が10時間を超える場合には許可が必要」といった限定的な許可制を取ることも考えられます。
評価方法の改訂
仮に、従業員が努力して業務効率化を図って残業を減らしたとしても、会社がそのことを評価しないとすれば、そのような努力をする従業員は報われません。
そうなると、多くの従業員は、マイペースに仕事をして残業代をもらう働き方に落ち着いてしまいがちです。
そこで、人事評価の方法を見直すことが非常に重要です。
具体的には、長時間労働をしている従業員を評価するのではなく、生産性の高い従業員を評価するように切り替えるのがよいでしょう。
なお、会社が評価制度を変更しても、それが末端で正しく運用されないことは珍しくありません。
そこで、絵に描いた餅にならないよう、制度改訂の理由や目的を従業員全体に説明し、理解を得ることが重要です。
就業規則や雇用契約書等の見直し
就業規則や雇用契約書は、会社と従業員との間の取り決めです。
これらを見直すことが、長時間残業を改善するための有効な手段になる場合があります。
具体的には、以下のような見直しが考えられます。
有給休暇制度を工夫して、休暇取得を促す
有給休暇の取得が進めば、従業員が働く日が少なくなるので、残業時間も少なくなりやすいです。
そこで、連続5日間の有給休暇を取得した場合に5万円の奨励金を支給する、或いは、年間で必ず10日の有休休暇を取ることを義務付ける等、従業員の有給休暇取得を促進・強制するような制度設計が考えられます。
従業員1人1人の仕事の内容を明確化する
残業が多くなってしまう理由の一つとして、従業員それぞれの仕事の範囲が曖昧であることが考えられます。
そこで、従業員それぞれの担当業務を、ある程度具体的に雇用契約書などに定めてしまうということが考えられます。
担当業務の明確化の方法はいろいろと考えられますが、明確にしつつ柔軟性(変更可能性)をもたせるように注意しましょう。
就業規則や雇用契約は、一旦定めてしまうと、容易には不利益変更ができない等の問題があります。
また、就業規則は、会社の憲法に相当する重要規程なので、頻繁に改正するのが難しいです。
そこで、当事務所では、顧問先企業に対して就業規則ではなく、できるだけ組織図等に担当業務を明記することを推奨しています。
企業側の労働専門弁護士に相談
残業問題は、一歩間違えれば法律違反になったり、従業員を危険にさらしてしまい、会社に損害を及ぼしかねません。
そこで、長時間残業を改善したいとお考えの場合には、できるだけ早い段階から労働専門の弁護士に相談し、アドバイスを求めることを強くお勧めします。
なお、労働専門の弁護士は、企業側と従業員側に分かれていますので、会社であれば企業側の労働専門弁護士へ相談することが重要です。
デイライト法律事務所では、企業側の労働専門弁護士も複数在籍していますので、どのような会社に対しても適切なアドバイス、対応が可能です。
まとめ
このページでは、「残業30時間」の場合について、幅広く解説してきました。
適法ではあるものの「残業30時間」は長時間労働の傾向が強いため、ぜひ改善を検討して健全な働き方を目指しましょう。
会社にとっても、それが長期的な利益につながるはずです。
もっとも、残業については、法律の複雑な規制が絡み合うため、専門家の手を借りずに対処するのは容易ではありません。
そこで、弁護士などの専門家に早期に相談し、慎重な対応を心がけることが重要です。
デイライト法律事務所では、長時間残業への対策など、労務管理に関するご相談についても、トップクラスのサービスを提供しています。
ぜひ、お気軽にご相談ください。