司法警察員とは?労働基準監督官が行う捜査内容・警察官との違い
司法警察員とは、様々な犯罪について捜査・逮捕・送検する職務を担っている警察官や労働基準監督官のことをいいます。
司法警察員には、2種類あり、
- 一般司法警察職員
- 特別司法警察職員
に分けられます。
一般司法警察職員は、警察庁及び都道府県警察の警察官のことです。
特別司法警察職員は、特別の事項について司法警察職員として捜査の職務を行う特定の行政庁の職員などのことです。
労働基準監督官は、特別司法警察職員として、労働基準法などの労働関係法令に違反する罪について、捜査・逮捕・送検する職務を担っています。
このページでは、司法警察員と労働基準監督官が担う特別司法警察職員の職務について詳しく解説します。
司法警察員とは?
司法警察職員とは、犯罪の捜査を行う担い手のことです。
日本で犯罪に関する法律としては、主に刑法がありますが、刑事的な手続のルールを定める刑事訴訟法という法律に、司法警察職員について記載があります。
具体的には、刑事訴訟法の189条2項に、「司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。」と定められています。
この規定から、犯罪が発覚した場合には、司法警察職員が犯人や証拠を捜査することになっていることがわかります。
司法警察員と司法巡査
司法巡査は、司法警察員を補助して個々の事実行為的な捜査を行うことができるにすぎません。
そのため、司法警察員には与えられているが、巡査には与えられていない権限があります。
なお、司法巡査といえども、被疑者や参考人の取り調べ等はなしえます。
司法警察員にのみ与えられている権限の例
※括弧内は刑訴法の根拠条項
- ① 各種令状請求権(199条2項・218条3項)
ただし、緊急逮捕の場合における逮捕状請求権を除く。 - ② 逮捕された被疑者を釈放又は送致する権限(203条・211条・216条)
- ③ 事件の送致・送付の権限(246条・242条・245条)
- ④ 告訴・告発・自首の受理権限(241条・245条)
- ⑤ 検察官の命により検視する権限(229条2項)
労働基準監督官は司法警察員であり、上記の権限が与えられていることになります。
一般司法警察職員と特別司法警察職員
警察庁及び都道府県警察の警察官を総称して、一般司法警察職員といいます(刑訴法189条)。
警察法の定めるところに従い、一般的な警察活動を責務としています(警察法2条・17条・30条・36条)。
一般司法警察職員以外の者で、特別の事項について司法警察職員として捜査の職務を行う特定の行政庁の職員等を総称して特別司法警察職員といいます。
この特定の行政庁の職員は、本来の職務を行うに際して犯罪を発見する機会が多く、その犯罪については、その職員の有する職務上の専門知識を活用した方が捜査の実効を期し得る場合が多いことから司法警察職員とされています。
労働基準監督官のほかに、例えば、海上保安官、自衛隊の警務官、麻薬取締官、皇宮護衛官などが該当します。
一般司法警察職員と警察官との違いはある?
一般司法警察職員と警察官とは、呼び方が違うだけで、特段の違いはありません。
一般司法警察職員とは、警察庁の警察官と各都道府県の警察官のことをいいます。
そのため、一般司法警察職員と警察官には違いはありません。
労働基準監督官の司法警察職員とは?職務・捜査内容
労働基準監督官は、労働関係法令違反の罪について、特別司法警察職員となります。
例えば、労働基準法は、「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う」と定めています(同法102条)。
その他、労働基準監督官が特別司法警察職員としての権限を有する労働関係法令は下図のものがあげられます。
特別司法警察職員の権限を有する主な法律
※括弧内は根拠条項
- ① 労働基準法(第102条)
- ② 労働安全衛生法(第92条)
- ③ 最低賃金法(第33条)
- ④ 賃金の支払の確保等に関する法律(第11条)
- ⑤ じん肺法(第43条)
- ⑥ 家内労働法(第31条)
- ⑦ 炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法(第14条)
- ⑧ 作業環境測定法(第40条)
労働基準監督官には、上図の法律に違反する罪については、自ら捜査、逮捕(現行犯逮捕・緊急逮捕・令状逮捕)、逮捕の際の令状によらない差押え・捜査・検証及び令状による差押え・捜査・検証等の権限があります。
また、事件を検察官に対して送致する(いわゆる送検)ことも行うことができます。
捜査内容
労働基準監督官は、司法警察職員として、上で挙げた労働法令の違反に関して捜査を行います。
例えば、
- 従業員に支払っている給料が最低賃金を下回っていないかどうか、企業の賃金台帳や給与明細、従業員の振込履歴などを調査
- 年に1回の健康診断を従業員に受けさせているかどうかを調査
- 労災隠しをしていないか、会社や現場に立入検査を行ったり、従業員や関係者の事情聴取を行う
- 長時間労働が原因で過労死などが発生していないか、会社からタイムカードや勤怠記録を押収したり、メールの履歴などを調査する
- 給料をきちんと違法な天引きなどをせずに従業員に支払っているか、給与明細を押収して、振込履歴や関係書類を確認する
といった捜査、調査を行ったりすることができます。
労働基準監督官の司法警察職員と検察官との関係
司法警察職員たる労働基準監督官は、労働関係法令に違反する犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査し、法律に特別の定めがある場合を除き、事件を検察官に送致しなければなりません(刑訴法189条2項・246条)。
検察官にも捜査権があり、司法警察職員との間の調整を図る必要があるため、検察官には司法警察職員に対する一定の指示権・指揮権が認められています。
司法警察職員は、この検察官の指示又は指揮に従わなければなりません。
そのため、労働基準監督官には、いわば2人の上司がいることとなります。
1人は日常業務を指揮命令する同じ機関(労基署など)の上司、もう一人は事件の担当検察官です。
まとめ
今回は、司法警察職員とはどのような人たちのことをいうのか、司法警察職員の種類について解説しました。
そして、特別司法警察職員である労働基準監督官が何の捜査をすることができるのか、主な捜査内容の例、検察官との関係についても解説しました。
労働基準監督官は、会社の労働法令違反について、警察官と同じように強制力をもって捜査することができるため、会社は労働基準監督官について、無視をしたり、不用意な対応をしたりしないよう注意しなければなりません。
労働基準監督署、労働基準監督官から書類が届いた、電話が入った、調査の知らせが届いたといった場合には、対応を誤らないよう、早めに労働問題に強い弁護士に相談するようにしましょう。
デイライト法律事務所では、労働問題に注力する労働事件チームの弁護士が、労働基準監督署の対応も含めて、企業の皆様からのご相談、ご依頼に対応しております。お気軽にご相談ください。
