労働基準監督官の権限と業務はどのようなものですか?
事業所に立ち入り、労基法などの労働関係法令に違反していないかを調査し、法違反があった場合は使用者を逮捕・捜索・送検するなどの権限を有しています。
労働基準監督官とは
労働基準監督官とは、労働基準関係法令に基づいてあらゆる職場に立ち入り、法に定める基準を事業主に守らせることにより、労働条件の確保・向上、働く人の安全や健康の確保を図り、また、労働災害に遭われた人に対する労災補償の業務を行うことを任務とする厚生労働省の専門職員(国家公務員)をいいます。
この労働基準監督官になるためには、原則として、労働基準監督官試験に合格しなければなりません(労基法99条、労働基準監督機関令1条)。
労働基準監督官に任用されると、配置先は、労働基準主管局(厚生労働省の内部部局として置かれる局で労働条件及び労働者の保護に関する事務を所掌するものをいいます。)、都道府県労働局及び全国の労基署となります(労基法97条1項)。
労働基準監督官の行政上の職務権限
労基署が第一線の監督機関であることから、そこに配置される労働基準監督官の権限は重要となります。労働基準監督官の職務権限は、労基法をはじめとした労働関係法令に定められています。
労働基準監督官の行政上の職務権限のうち、特に重要なものについては以下のとおりです。
労基法上の権限
労基法は、労働基準監督官は「事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる」と規定し(同法101条1項)、労働基準監督官の立ち入り調査に法的な根拠を与えています。
「臨検」という用語から、監督官による立ち入り調査は「臨検」ないし「臨検監督」などと呼ばれています。
「帳簿及び書類」とは、労働者名簿(労基法107条)、賃金台帳(労基法108条)及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を指します。
これらの書類について、使用者には3年間の保存義務があり(労基法109条)、労働基準監督官から提出を求められた場合は提出しなければなりません。
行政解釈によると、これらは磁気ディスクによる保存も認められています(平成7年3月10日基収94号、平成8年6月27日基発411号)。
なお、労働基準監督官は臨検の際、身分証明書を携帯しなければなりません(労基法101条2項)。
安衛法上の権限
労働安全衛生法にも労働基準監督官の立ち入り調査の根拠となる規定があります。
労働基準監督官は、「事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し、若しくは作業環境測定を行い、又は検査に必要な限度において無償で製品、原材料若しくは器具を収去することができる」と規定されています(安衛法第91条第1項)。
また、同法は、医師の資格を有する労働基準監督官につては、「就業を禁止すべき伝染性の疾病にかかった疑いのある労働者の検診を行なうことができる」と規定しています(同条2項)。
これらはあくまで行政上の権限であり、犯罪捜査の場合は刑事訴訟法上の手続を踏むことが必要となります。
労働基準監督官の司法警察員としての権限
労働基準監督官は、上記の行政上の職務権限のほか、司法警察員としての職務権限を有しています。
司法警察員とは、刑事事件の捜査に関して、警察官のような職務を行う行政庁の職員をいいます(司法警察職員について、くわしくは下図を参照してください。)。
【司法警察員にのみ与えられている権限の例】
※括弧内は刑訴法の根拠条項
①各種令状請求権(199条2項・218条3項)
ただし、緊急逮捕の場合における逮捕状請求権を除く。
②逮捕された被疑者を釈放又は送致する権限(203条・211条・216条)
③事件の送致・送付の権限(246条・242条・245条)
④告訴・告発・自首の受理権限(241条・245条)
⑤検察官の命により検視する権限(229条2項)
労働基準監督官は、警察官ではありませんが、労働関係法令違反等の罪に関しては刑事訴訟法に規定する司法警察員としての職務を行うことができるのです。
したがって、労働基準監督官には、逮捕(現行犯逮捕・緊急逮捕・令状逮捕)、逮捕の際の令状によらない差押え・捜査・検証及び令状による差押え・捜査・検証等の権限があります。
また、労働基準監督官は、事件を検察官に対して送致する(いわゆる送検)ことも行っています。
このように労働基準監督官は、所定の労働関係法令違反に関して強制捜査を行えるという強力な権限を有しています。
なお、税務調査を行う税務署の税務職員の場合、強制捜査の権限を持っていません。
したがって、税務調査の税務職員よりも労働基準監督官の方が強力な権限を有しているといえます(税務調査の場合も質問検査を拒否等した場合に罰則はありますが、あくまで任意調査です。)。
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