うつ病社員が辞表を持ってきた場合、どう対応したらいいですか?

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家


経営者のイメージイラスト会社にうつ病の社員がいます。元気が無く、仕事でミスを繰り返す毎日ですが、今日突然辞表を持ってきました。

私たちは、これを受け取ってこの社員の雇用契約を終了して大丈夫でしょうか。

また、もし、今後その社員が辞表を撤回したいといってきた場合、これに応じなければならないでしょうか。

 

Answer

解説する弁護士のイメージイラストうつ病社員が持ってきた辞表を受け取って問題はありません

また、使用者が、うつ病社員の退職について承諾した後は、当該社員が辞表を撤回することはできませんので、会社はこれに応じる必要はありません。

まず、うつ病社員が辞表により退職を会社に申し入れてきた場合、大前提として当該社員の意思能力が必要になります。

意思能力とは、有効に意思表示をする能力であり、おおむね小学校卒業程度の判断能力があれば足りると考えられています。

しかし、意思能力がないと判断されるのはよっぽどの場合で、通常は、うつ病を患っているだけですぐに意思能力を欠くと判断される可能性は低いでしょう。

次に、辞表(退職願)の提出は、法的には、雇用契約の合意解約の申込みとしての性質を有します。

この申込みは、退職に関して合意が成立した後、すなわち使用者が辞表の提出に対して承諾したあとは、労働契約が合意により解約されますので、撤回することが出来なくなります。

仮に、承諾までの期間があらかじめ定められていたとしても、実務上は、使用者に不測の損害を与えるなど信義則に反すると認められるような特段の事情が無い限り、使用者が承諾の意思表示をなすまで労働者はこれを撤回することができるとされています。

最後に、使用者がどのような反応をしていれば合意解約を承諾したと判断されるかと疑問に思われた方もいらっしゃると思います。

これは個々の具体的な事情により判断されることになりますが、過去には、従業員が退職願を上司に提出し、それが会社代表者に手渡され、他方で会社所定の退職届が従業員に手渡された事案において、会社の承諾の意思表示を認めた裁判例もあります。

うつ病を患っている社員は、精神的に不安定になることも多く、突発的に退職願を提出しては、その撤回を主張するといった事態が起きることも十分考えられます。

 

 

うつ病社員が退職した後のトラブルの傾向

うつ病社員が退職した後に散見されるトラブルと対応方法について解説いたします。

不当解雇と主張される可能性

過重労働 イメー労働者の方から退職願を持ってきて、それを会社は受理しただけなのに、後日、「不当に解雇された」と会社に主張して、解雇撤回を求める事案が散見されます。

この場合、会社は、「解雇ではなく、自主退職であった」と反論することとなります。

また、仮に裁判となれば、会社としては、「解雇していない」ことの証明は不要ですが、「労働者からの退職申し入れによって雇用契約が終了したこと」を主張立証しなければならないでしょう。

なぜならば、雇用契約は継続的な契約であり、それが終了したのであれば、その終了を主張する側に立証責任があると考えられるからです。

ご質問のケースでは、労働者からの「退職願」があるため、それが、「労働者からの退職申し入れによって雇用契約が終了したこと」を裏付ける証拠になると思われます。

また、労働者の方からは「退職願を書くように強制された」などの虚偽の主張が出されることもあります。

しかし、強制の事実については、労働者側に主張立証責任があると考えられます。

したがって、そのような事実が存在しないのであれば、相手の主張が認められる可能性はありません。

未払い残業代等を請求される可能性

退職後に、在職中、サービス残業を強いられたとして、未払い残業代を請求されるケースもあります。

この場合、退職後であっても、未払い残業代があるのであれば、使用者はそれを支払う義務があります。

ただし、賃金の消滅時効は2年ですので、2年以上前の賃金については、時効を援用すれば、基本的には支払う必要はありません。

パワハラを主張される可能性

ポイントうつ病社員の場合、退職後にパワハラを理由として会社に対し、慰謝料を請求する事案も見受けられます。

パワハラが原因でうつ病となった場合は、慰謝料だけではなく、労災の問題や休業損害等の主張も考えられます。

この種の事案では「パワハラの有無・程度」が重要となります。

会社は組織である以上、上司が部下に対して、指導をしたり、叱咤激励したりするのは当然です。

そのため、指導等の範囲を超えた悪質な言動等の有無があったかが争点となりますが、通常の指導と明確に区別することは困難です。

また、パワハラがあったとしても、そのことと社員のうつ病との因果関係が争点となることが予想されます。

裁判となった場合、具体的なパワハラの内容について、それを主張する従業員が主張立証していくことなります。

会社は、その事実有無について調査し、反論していかなければならないため、会社の業務への支障が懸念されます。

メンタルヘルス問題は早期の解決が重要です。まずは当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。

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