計画年休とは?有休との違いや違法にならないための注意点
計画年休とは、従業員の年次有給休暇について、会社が計画的に取得させる制度のことをいいます。
日本の労働環境は、上司や同僚の目を気にして休暇が取得しにくいといわれています。
そこで、有給取得を促すために、あらかじめ計画的に、職場でいっせいに、またはグループ別の交代で休暇を使用する制度として、この計画年休があります。
ここでは、計画年休のルールについて解説していきます。
ぜひ参考になさってください。
目次
計画年休とは?
計画年休とは、従業員の年次有給休暇について、会社が計画的に取得させる制度のことをいいます。
有給休暇は、本来、従業員が自由に使用する日を決めることができますが、後述する一定の条件のもとに、会社が有給休暇の使用日を定めることができるのが計画年休です。
計画年休と有給休暇の違い
計画年休は、有給休暇を会社が一定の条件のもとに強制的に使用してもらうという点で、あくまで有給休暇の一種です。
計画年休で使用された休暇は、その日数分について、「有給休暇を消費した」という扱いになります。
計画年休のメリット
計画年休のメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
有給休暇の消化率をあげることができる
計画年休を導入することにより、一定の日数は自動的に有給休暇を消化させることができることから、有給休暇の消化率を上げることができます。
特に、現在の法律では、有給休暇が10日以上付与される従業員については、年5日は必ず有給休暇を消化させなければいけないので(労働基準法39条7項)、計画年休はこの義務を果たすための有効な手段です。
従業員にリフレッシュしてもらう機会が増える
計画的に有給休暇を消化してもらうことで、従業員のリフレッシュの機会が増えることになります。
会社にとっても、長時間労働で疲弊している従業員よりも、しっかり休養をしてもらった従業員に働いてもらう方が業務成果などが向上する可能性が高まります。
会社が従業員の有給休暇消化日についてあらかじめ予測できる
計画年休は、有給休暇の消化日をあらかじめ計画するため、会社は従業員の消化日を予測することができ、業務のスケジュールが立てやすくなります。
計画年休のデメリット
手続きを行う必要性
計画年休には、後述するとおり、労使協定の締結が必要になります。
不満に思う従業員もいる
適法に実施された計画年休でも、計画年休について不満に思う従業員もいることが予想されます。
すなわち、計画年休がなければ有給休暇の取得時季を全て自分で決められるはずが、それができないことへの従業員の不満です。
突発的な業務の必要性に対応しにくくなる
例えば、ある部署である時期に一斉に計画年休を定めていた場合に、突発的に業務の必要性が生じた時に、柔軟な対応が難しくなります。
計画年休が違法にならないように注意すること
労使協定の締結が必要
計画年休を導入する場合には、会社は、事業場の過半数労働者を組織する労働組合または過半数労働者を代表する者との書面による労使協定を締結しなければなりません(労働基準法39条6項)。
労使協定には以下のような事項を定めます。
- 対象者
- 有給休暇の消化日
- 対象日数
- その他、変更の手続き等
なお、労使協定は必ずしも毎年締結する必要はありませんが、労使協定の有効期間や労使協定の内容から、締結の見直しが必要な場合もありますので、その点は注意が必要です。
また、計画年休の労使協定は、労働基準監督署に届出は不要です。
加えて、休暇に関する事項であるため、計画年休については就業規則に記載が必要となります。
最低でも5日は従業員に自由に使わせなければならない
計画年休は、従業員の全ての有給休暇について計画できるわけではなく、5日を超える部分のみです。
すなわち、最低でも5日の有給休暇は従業員に自由に使わせなければならず、計画年休の対象外としなければなりません。
計画年休の場合にも有給5日消化義務があることに注意
計画年休を導入しても、年5日の有給消化義務を免れることはできません。
例えば、計画年休の対象日数を年3日に設定した場合、残りの2日は計画年休とは別に従業員に消化してもらう必要があります。
計画年休付与前に有給休暇を消化してしまった従業員への対処法
計画年休付与前に有給休暇を消化してしまった従業員への対処法については、以下のようなものが考えられます。
欠勤扱いとして賃金から欠勤控除する
計画年休に使用できる有給休暇がないとして、従業員に出勤はさせないが、賃金については欠勤控除するということが考えられます。
これ自体は違法なものではありませんが、従業員の不満は溜まりやすいというのがデメリットです。
特別休暇として休暇日扱いとする
会社が恩恵的に特別休暇を与えて、賃金の欠勤控除を回避するという方法です。
この方法のデメリットは、他の社員との公平性が保ちにくいということが挙げられます。
次に付与される有給休暇を前倒しで使用する
次に付与される予定である有給休暇から前倒しで使用することが考えられます。
この方法の場合には、次に付与される有給休暇の使用日の自由を奪うものですので、従業員から同意を取り付けるべきでしょう。
従業員と話し合い、希望者には出勤させる
従業員の中には、欠勤控除されたくないと考える方もいらっしゃると思います。
そのため、従業員の希望を聞き、自ら出勤を希望される方がいた場合には、出勤日として取り扱うということも可能です。
計画年休付与前に有給休暇を消化してしまった従業員への対処法について、結局どの方法が望ましいか悩むかもしれません。
従業員目線だけで考えるのであれば、特別休暇として休暇日扱いとするのが一番良いでしょう。
他方で、会社目線の場合には、執筆者の見解では、以下の対処法が良いと考えます。
すなわち、選択肢として①欠勤控除、②次に付与される有給休暇の前倒し使用、③出勤の3つを用意し、当該従業員にどの選択肢を希望するか意見を聞いて決めるということです。
この方法は、法律上問題なく、かつ従業員の意見を尊重しているという点でマネジメント上も優れていると考えられます。
なお、可能であれば、労使協定や就業規則に計画年休付与前に有給休暇を消化してしまった場合の対処法を記載しておくと、迷わず対処でき、従業員にも予測可能性を与えることができるためおすすめです。
計画年休の導入方法
計画年休を導入するためには、労使協定が必要です。
すなわち、使用者は、事業場の過半数労働者を組織する労働組合または過半数労働者を代表する者との書面による協定により年休を与える時季についての定めをすることで、計画年休を導入できます。この労使協定については労基署への届出は不要です。
労働者の同意や就業規則の定めが必要か?
計画年休制度をめぐる重要な解釈問題は、計画年休を定める労使協定に、労働者に対する拘束力が認められるかどうかです。
すなわち、時間外労働に関する労使協定は、免罰的効果しかないと解されており、労働者に時間外労働が認められるためには、労働者の同意や就業規則の規定など労働契約上の根拠が必要であると考えられています。計画年休協定も同様に考えられるかどうかが問題となるのです。
この問題について、法解釈としては、労働者の同意や就業規則の定めは不要と考えます。
計画年休制度は、従業員に計画的に年休を取得させるということを目的とする制度であることに鑑みると、個々の労働者の同意がないかぎり労使協定に拘束力がないというのでは、この制度の意味が大幅に失われるものとなります。
また、年休権は、労働契約を根拠として成立するものではなく、労基法に基づいて成立するものである以上、労基法が年休の取得方法について独自の方法(労使協定による強制的付与)を定めることもできるはずです。
【参考判例:三菱重工業長崎造船所事件 福岡高判平成6年3月24日】
なお、裁判例においても、会社と過半数組合との間で締結された書面による協定で、年休の時季指定が集団的統一的に特定された場合、「その日数について個々の労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権は、ともに当然に排除され、その効果は当該協定により適用対象とされた事業場の全労働者に及ぶと解すべきである」と判示されています。
計画年休の付与方式
計画年休の付与方式としては、次の3つがあるとされています(昭和63年1月1日基発1号)。
- ① 事業場全体での一斉付与方式
- ② 班(グループ)別の交替制付与方式
- ③ 年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式
導入に当たっては、上記の方法の中から、会社の実態に応じた方法を選択することになります。
①事業場全体での一斉付与方式
事業場全体を一斉に休業させる方式です。
閑散期がはっきりしていて、事業場全体を休みにしても差し支えない場合に、このような方式を採用することが考えられます。
②班(グループ)別の交替制付与方式
事業場全体を休みにすることが難しい場合に、一定の班(グループ、部署等)に分けて、交替で休みにする方法です。
③年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式
個人別で計画年休とする日にちを定める方式です。
事業場全体だけでなく班単位での一斉休暇も難しい会社の場合には、この個人別付与方式が適しているといえます。
実際の労使協定(年次有給休暇の計画的付与に関する協定書)の記載例について以下からどうぞ。
就業規則に規定する場合の記載例
もっとも、厚生労働省は、計画年休を定める場合、就業規則で定めることを前提としているようです。
また、解釈上見解が分かれるところでもありますので、トラブル防止の観点からは、就業規則で規定しておく方が望ましいでしょう。
その場合、以下のような記載を参考とされてください。
第○○条(計画年休)
会社は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においては、その労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては、労働者の過半数を代表する者と労働基準法第39条第6項に定められる労使協定を締結し、第○○条で定める年次有給休暇のうち5日を超える部分については、その労使協定の定めるところにより計画的に付与するものとする。
計画年休の活用例
計画年休は、さまざまな時季に活用できます。
以下、一例をご紹介します。
夏季、年末年始に年次有給休暇を計画的に付与し、大型連休とする場合
例えば、夏季休暇(8月13日から8月15日)や年末年始休暇(12月31日から翌年1月3日)を特別休暇としている会社が、これに有給休暇を付加する形で指定する場合、次のような協定が考えられます。
「年次有給休暇のうち4日分については、次の日に与えるものとする。8月11日、8月12日、12月29日、12月30日」
上記の場合、従業員は、特別休暇や土日と合わせると、夏季は8月9日から8月17日まで、年末年始は12月27日から1月4日まで、それぞれ9連休となります。
そして、労使協定で計画年休日として指定された日数分(上記の例では4日分)、労働者が休暇日として自由に指定できる日数は消滅します。
なお、上記は、従業員にいっせいに休暇を取得させる例ですが、例えば、ある従業員については、8月18日と8月19日、1月5日、1月6日と指定することで、交代制で休暇を取得させることも可能です。
アニバーサリー(メモリアル)休暇制度を設ける場合
有給休暇の計画的付与を活用して「アニバーサリー休暇」と「多目的休暇」を設けることも考えられます。
例えば、「年次有給休暇のうち、6日分については、次のとおり与えるものとする。
アニバーサリー休暇として、誕生日、結婚記念日等を含む連続3日間。多目的休暇として、従業員個人が自由に設定する連続3日間。」
閑散期に年次有給休暇の計画的付与日を設け、休暇の取得を促進する場合
例えば、1月と2月が閑散期の場合、次のような協定が考えられます。
「年次有給休暇のうち4日分については、次の日に与えるものとする。
1月の第2、第4金曜日、2月の第2、第4金曜日」
上記のような労使協定で有給休暇日とされた日については、特別の事情が認められる場合を除き、労働者個人がその日に休暇を取る意思のあるなしにかかわらず、休暇日とされます。
なお、裁判例上は、計画年休協定には、「計画年休を与える時季及びその具体的な日数を明確に規定しなければならない。」とし、この要件を満たさない計画年休協定を無効としたものがあります(全日本空輸事件・大阪地判平成10年9月30日)。
しかし、学説上は、計画的に付与する日数とその特定方法(時期・手続など)のみを定めることでも適法とする見解が有力です。
計画年休についてよくあるQA
計画年休は勝手に決められますか?

労使協定を締結する過程で労働組合もしくは従業員代表と計画年休の内容等について話し合いが行われる必要があります。
労使協定を締結するにあたって、計画年休の消化日や対象日数などを定めることになるため、会社が全て自由に指定できるものでもありません。
計画年休は義務化されましたか?

計画年休の導入を義務付ける法律はありませんので、導入するかどうかは会社の自由となります。
計画年休を従業員が拒否することは可能?

もっとも、従業員が自由に使用できる有給休暇を年5日残さない場合は、違法な計画年休の指定として拒否することは可能です。
まとめ
計画年休をうまく活用できれば、会社や従業員にとって非常に有用な制度といえます。
特に、有給休暇の消化率が低く、その打開策を見つけられていない会社では、一度計画年休導入の検討をしてみるべきだと思います。
もっとも、上記のとおり、計画年休にはいくつかの注意点がありますし、会社の実情に合わせた運用も必要です。
計画年休の導入を検討されている会社は、労働分野を多く扱う弁護士に相談してみてください。
