女性の働き方改革|女性が働きやすい環境
日本では今、人口が急速に減少し、特に働く世代の人たちが年々少なくなっています。
このままでは、企業の成長はもちろん、日本全体の経済や社会基盤にも大きな影響を及ぼしかねません。
これからも持続的に成長し、豊かな社会を維持するためには、限られた人材をいかに活かすかがカギになります。
その中で注目されているのが、女性や高齢者の活躍推進、そしてAIを活用した業務効率化など、新しい時代に合った働き方の構築です。
とくに「女性の働き方」は、家庭や育児との両立が必要となるケースが多く、企業側の制度や文化の整備が重要なテーマとなっています。
本コラムでは、こうした時代の変化に対応しながら、「女性が活躍できる職場づくり」について、労務管理の視点から考えていきます。
目次
女性の働き方を支える「育児休業制度」の基本
女性にとって、最大の悩みは、出産・育児と仕事の両立です。
特に、乳幼児の監護は、昼夜を問わず、四六時中、子どもへの授乳や排泄物の処理をするなど大変です。
そのため、法律では、一定の要件のもとに、1歳未満の子を養育するための休業が認められています。(一定の条件を満たす場合、最長で2歳まで延長可能です。)
令和4年10月1日から育児・介護休業法が改正され、父親が子の出生後8週間以内に最大4週間の休業を取得できたり、分割取得(2回まで)も可能となり、
父親も母親も仕事と育児を両立しやすくなりました。
育児休業についての概要は以下のページをご覧ください。
使用者は、この育児休業法を十分に理解し、法律の定めに従って、労働者から申請があれば、育児休業を取得させなければなりません。
これは、当然のことですが、大企業、中小企業を問わず、育児休業を制限するなど、違法な労務管理が行われていることがしばしばあります。
まずはこの育児休業法を遵守することが最低限必要です。
法定を超えた育児休業
法定の育児休業は、あくまで最低限のものです。
実際に、女性が育児のストレスに悩まずに、十分に稼働するためには、法定の育児休業では到底たりません。
そこで、法定の育児休業を超えたサポートを行うことが企業には期待されています。
例えば、育児休業の期間は、原則として子が1歳未満の間です(保育所に入所できないなどの理由がある場合最長2年まで)。
しかし、子どもの発育状況によっては1年での職場復帰が難しいこともあります。
そこで、法令上の要件に該当しなくても、育児休業を1年半や2年間まで容易に認めるなどの取り組みも検討してはいいのではないかと思います(実際に、法令以上の育児休業期間を認めている先進的な企業も存在します。)。
【その他法定を超えた取り組みの例】
法定を超えた時短勤務(※)
法律上は、満3歳になる前の子供を育てている労働者が対象ですが、これを例えば小学校3年生までとするなど。
※時短勤務とは、就業時間を原則1日6時間とするものです。
子の看護休暇
法律上、小学校3年生修了までの子を養育する労働者は、1年に5日まで、病気・けがをした子の看護又は子に予防接種・健康診断を受けさせるため等に、休暇が取得できます。
この法令以上の取り組みの例としては、小学校6年生修了まで伸長するなどが考えられます。
企業は出産・育児を理由に不利な扱いをしてはいけない
企業が以下のような事由を理由に不利益に取り扱うことは違法です。
- 妊娠、出産 ・妊婦検診などの⺟性健康管理措置
- 産前・産後休業
- 軽易な業務への転換
- つわり、切迫流産などで仕事ができない、労働能率が低下した
- 育児時間
- 時間外労働、休日労働、深夜残業をしない子どもを持つ労働者
- 育児のための所定労働時間の短縮措置(短時間勤務)
- 子の看護休暇等
- 本人又は配偶者の妊娠・出産等を申し出たこと
など
不利益取扱いとは、解雇、雇止め、契約更新回数の引き下げ、降格、減給、賞与等における不利益な算定、不利益な配置変更、昇進・昇格の⼈事考課で不利益な評価を⾏うことなどをいいます。
また、事業主は、上司・同僚が職場において、妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とする就業環境を害する⾏為をすることがないよう防止措置を講じなければならなりません。
事業主は、労働者への周知・啓発、相談体制の整備等を積極的に実施することが求められます。
女性の働き方を支援する復職体制の整備
育児休業を取得した従業員は、職場復帰しにくいなどと感じることが多々あります。
そこで、職場復帰をサポートするために、次のような取り組みが考えられます。
社内SNSの利用
会社によっては、社内で従業員交流サイトを独自に構築しているケースがあります。
また、きちんとしたサイトを構築しなくても、 Facebookのグループ機能や、DiscordなどのSNSを利用すれば、社員が気軽に投稿できる掲示板を作成することが可能です。
オリエンテーション
出産・育児休業を取得した社員に復職時のオリエンテーションを実施し、育児をしながら勤務する上でのポイントを紹介したり、グループ内のロールモデルを紹介したりする取り組みもあります。
女性が働きやすい職場環境の整備
時間単位の有給休暇
育児休業は、基本的には無給であること(ノーワーク・ノーペイの原則。雇用保険の給付はあります。)、取得には上記に上げた一定の要件が必要であること等の理由により、子育てを行っている女性には十分な制度とはいえません。
平成22年に施行された、時間単位の有給休暇制度を利用する方法が考えられます。
これは、年次有給休暇を時間単位で付与できるという制度です。
これまでも、半日単位の有給休暇は可能でしたが、より柔軟に有給休暇を取得しやすくなります。
例えば、子どもを病院に連れていくため、午前9時から午前10時までの2時間を有給休暇で取得するなどです。
より子どもを持つ女性が働きやすくなる制度といえます。
また、子育て女性にかぎらず、年次有給休暇の消化を推進するというメリットもあります。
企業内保育所の設置
現在、日本でも働く女性を積極的に企業が採用していく動きがありますが、その中でも子育て中の女性にとって保育問題は大変な課題のひとつです。
近年では、政府による助成金の支給等の施策により、企業内で保育所をつくる取組みが広がっています。
助成金を利用することで、経営的には赤字とならずに、企業価値を高める効果が期待できます。
なお、制度や助成金の内容について、くわしくは当事務所までご相談ください。
男女差のない労働条件(昇進、給与、転勤)
雇用機会均等法は、配置(業務の配分及び権限の付与を含む)・昇進・降格・教育訓練、一定範囲の福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新について、性別を理由とする差別を禁止しています。
女性役員等の積極登用
雇用機会均等法が定める男女差別の禁止は当然守らなければなりませんが、近年では、女性がもつ能力を重視し、役員や幹部社員への積極的な登用を行なう企業が見られます。
また、これらの先進的な企業では、優秀な女性社員が素晴らしい業績を出しています。
しかし、多くの企業では、女性の力は軽視されがちです。
企業は、「女性に重要な仕事はまかせられない」という、日本的な固定観念は捨てて、女性社員の能力を客観的に判断すべきです。
むしろ、男性よりも、創造力、リーダーシップ、マネジメント能力等に優れた女性社員はたくさんいます。
このような社員を採用、育成して、積極的に幹部等へ登用することはその企業の成長に寄与するはずです。
そのために、女性社員の意識改革や、キャリア開発支援プログラム、キャリア相談室の設置などは有用です。
その他の取り組み
その他、企業独自での取り組みの例をご紹介します。
- ベビーシッター利用料補助(チケット制)
- パート社員のステップアップ選択制度の運用
- 終業時刻にチャイムを鳴らして帰宅を促す。
- 子連れ出勤の許容
- 在宅勤務制度の導入(週 1回など。取得事由を育児に限定するなど。)
- 社内にママ友の会など、子育て世代の交流の場をつくる
女性活躍推進に向けた経営トップの役割
上記のとおり、女性が働きやすい、活躍できる労務管理について、様々な施策を紹介しました。
しかし、最も大切なことは、経営トップの自覚です。
女性の力を活用することが、自社のみならず、日本社会にとってプラスになること、また、その社員の人生を幸福にできることを他のどの社員よりも深く自覚しなければなりません。
そして、経営トップは、会社として、女性が働きやすい、活躍できる職場を目指すことを全社員に周知徹底すべきです。
また、そのための具体的な取り組みについて、経営戦略等のアクション・プランに落とし込み、確実に実行していくことが大切です。
