休職制度は就業規則に必要?|メンタル対応と記載例も解説

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

休職制度は、就業規則に定めておくべき重要な規定です。

法律で義務づけられているわけではありませんが、従業員が病気やメンタル不調で長期間働けなくなったとき、企業がどのように対応するかを明文化しておかないと、復職や退職・解雇をめぐってトラブルが発生するおそれがあります。

特に、メンタルヘルス不調による休職対応では、「いつ復職できるのか」「復職後に再発したらどうするのか」といった判断が難しく、就業規則に基準を定めていないと、労使トラブルや法的リスクにつながるおそれがあります。

本記事では、休職制度を就業規則に定めるべき理由、記載する際のポイント、実務で使える文例やメンタル対応の注意点まで労働問題に注力した弁護士が詳しく解説します。

休職制度とは?就業規則に書く必要があるのか

「休職制度」とは?

休職制度とは、従業員が業務外の怪我や病気などの事情によって長期間会社を休まざるを得ない場合に、一定期間就労する義務を免除して休養を認める制度のことをいいます。

本来、欠勤が続けば解雇される事由となりますが、休職は合法的に欠勤を認めることになるので、休職制度は解雇猶予の目的を有していると説明できます。

 

休職制度は法律で定められている?

休職制度は、労働基準法などの労働関係の法律で定められているものではありません。

休職制度は、その制度自体を設けるかどうかは会社の自由です。

従業員へ復帰の道を残しておくかどうかは、会社の理念等によって異なるものと考えられるため、会社は諸事情を考慮して休職制度を設けるかを検討することになります。

ただし、会社が休職制度を設ける場合には、就業規則に記載する必要があります。

理由としては、休職制度は、「業務外の傷病扶助に関する定めをする場合」(労働基準法89条8号)、あるいは「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合」(労働基準法89条10号)に該当するため、就業規則の相対的記載事項に該当するためです。

参考:参考:労働基準法|e-Gov法令検索

休職制度は法律に定められていないため、就業規則の内容が当該会社での休職制度のルールとなります。

 

 

就業規則に記載すべき休職制度の内容|記載例付

休職に関する就業規則の記載では、少なくとも以下の内容を明確にしておくことが望まれます。

 

(休職に関する就業規則の記載事項の例)
  • 対象の社員の範囲
  • 休職の対象となる理由(私傷病・メンタル・自己都合など)
  • 休職の期間
  • 休職中の処遇
  • 復職の判断基準(資料の提出など)
  • 復職できない場合の退職に関する事項

これらを明記することで、判断の一貫性を保ち、トラブルを未然に防ぐ効果が期待できます。

以下、それぞれ内容を解説します。

 

対象の社員の範囲

どのような社員を対象に休職制度を設けるのかを記載します。

例としては、正社員のみを対象とする、試用期間の従業員は休職制度の対象外などの枠組みの設定が考えられます。

 

休職の対象となる理由(私傷病・メンタル・自己都合など)

休職の対象となる理由を記載します。

例えば、私傷病(プライベートでの怪我や病気)、メンタル疾患、留学や公務就任などの自己都合休職、起訴された場合の休職などです。

 

休職の期間

どの程度休職させるかについて、つまり休職期間を定めます。

休職期間は、在籍年数や休職の理由により、差異を設けることが一般的です。

 

休職中の処遇

休職中の処遇とは、代表的なものとしては休職中の賃金です。

ノーワーク・ノーペイの原則から、休職中の賃金は無給としても問題はありませんが、そのことを就業規則に明記しておく必要があります。

その他、休職期間中を勤続年数に含めるかなどの事項を記載することが考えられます。

 

復職の判断基準(資料の提出など)

どのような場合に復職することができるか等、復職の判断基準を記載します。

判断基準を記載するにあたっては、主治医や産業医の判断を考慮して決める旨や、復職前の業務を行える状況にまで回復していることに限定するか等を記載することになります。

復職にあたっては、主治医の診断書などの資料の提出も義務付けることが多いです。

 

復職できない場合の退職に関する事項

復職できない場合にどのような手続きで退職となるか等を記載します。

例えば、自然退職となるのか、解雇の手続きを踏んだ上で解雇することになるか等です。

 

就業規則における休職の記載例

就業規則における休職に関する記載例は、以下のとおりです。

(就業規則における休職の記載例)

第30条(休職)
会社は、試用期間を除く全従業員のうち、次の各号の1つに該当するときは、休職を命ずることがあるなお、第1号、第2号の場合、及び第4号の休職事由が業務外の傷病を原因とする場合には、その傷病が休職期間中の療養で治癒する蓋然性が高いものに限る。

  1. ① 業務外の傷病により欠勤し、欠勤開始日より2ヵ月経過しても、その傷病が治癒しないとき。なお、治癒とは、従来の業務を健康時と同様に通常業務遂行できる程度に回復することを
    意味する。
  2. ② 業務外の傷病により通常の労務提供ができず、又その回復に一定の期間を要するとき。
  3. ③ 業務命令により他社に出向したとき。
  4. ④ その他前各号に準ずる事由があり、会社が休職させる必要があると認めたとき。

 

第31条(休職期間)
休職期間は、休職事由を考慮のうえ、次の期間を限度として会社が定める。

  1. ① 前条第1号、第2号の事由による場合
    勤続満3ヶ月以上勤続満5年未満の者 6ヵ月
    勤続満5年以上10年未満の者 1年
    勤続満10年以上の者 1年6ヵ月
  2. ② 同第3号による場合 出向期間
  3. ③ 同第4号による場合 会社が定めた期間

 

第32条(休職期間中の取扱い)

1. 休職期間中の給与は、無給とする。
2. 休職期間は、原則として勤続年数に算入しない。ただし、第30条第3号(出向の場合)の休職事由による場合、勤続年数に算入する。

 

第33条(休職期間満了時の手続等)
1. 休職期間満了までに休職事由が消滅しない場合、当然退職とする。
2. 従業員は第30条第1号及び同2号の休職事由が消滅したとして復職を申し出る場合、又は同4号の休職事由が業務外の傷病を原因とするものであって、当該休職事由が消滅したとして復職を申し出る場合には、医師の治癒証明書 (診断書)を提出しなければならない。なお、治癒とは、第30条第1号後段に規定する意味と同一とする。
3. 前項による診断書の提出に際して、会社が診断書を作成した医師に対する面談のうえの事情聴取を求めた場合、従業員は、その実現に協力しなければならない。
4. 第2項の診断書が提出された場合でも、会社は会社の指定する医師への受診を命ずることがある。会社は、従業員が正当な理由なくこれを拒否した場合、第2項の診断書を休職事由が消滅したか否かの判断材料として採用しないことがある。

 

 

メンタル不調による休職|就業規則に盛り込むべき注意点

以下では、メンタル不調による休職に関して、就業規則に盛り込んだ方が良い記載について触れます。

就業規則に盛り込むべき記載内容

 

病状報告義務

メンタルヘルス問題を抱える従業員が休職している期間、会社が当該従業員の病状を把握することは困難なことが多いです。

会社にとって、休職者の復職時期は、他の従業員の補充の必要性などを判断するために重要な情報です。

そのため、休職者には、休職期間中の病状報告義務を明示しておきましょう。

 

休職させるかどうかや復職にあたり、会社の調査に協力すべきことを明示しましょう

会社が休職させるか否か、復職させるか否かを判断するにあたり、特に休職者が持参する診断書等は重要な資料となります。

しかし、従業員が持参した資料だけでは、その判断が十分にできない場面も少なくありません。

もっとも、従業員の健康問題もプライバシーの中核となる事柄ですので、当該従業員の許可なく情報収集することはできません。

そこで、会社は、医師や家族等関係者への調査に関し、従業員に協力義務があることを就業規則に記載しておくことが重要です。

 

会社の指定医の受診や産業医の面接を義務付ける

復職するかどうかの判断にあたって、主治医の見解に疑問を持つこともあるでしょう。

そのような場合に備え、会社の指定医の受診や産業医の面接を義務付けることを就業規則に明記しておくことが考えられます。

 

リハビリ出勤制度

リハビリ出勤(試し出勤などともいいます)とは、復職できるか判断するにあたって、短時間の勤務や簡易な業務をしてもらうことをいいます。

リハビリ出勤制度があることによって、実際の業務の様子などを会社が確認できるため、非常に有効な手段です。

なお、リハビリ出勤制度を設ける場合、リハビリ出勤制度中の労働条件等も個別に定める対策などが必要となります。

この点に関連して、休職中は無給としている場合にも、リハビリ出勤中は最低賃金の支払義務があると判断した裁判例(名古屋高判平成30年6月26日判タ1462号40頁)もありますので、会社は賃金の支払いについて注意が必要です。

 

 

まとめ

休職制度を正しく適切に運用するためには、就業規則の整備が不可欠です。

この点について、就業規則は様々なリスクや事象を想定し、かつ裁判例等の法的知識を意識しながら作成していく必要があります。

このように休職制度やメンタル不調者対策をする上では、専門家の力を借りるのが一番会社にとって良いです。

メンタル不調者対策をお考えの会社の方は、労働関係に強い弁護士に相談されることをオススメします。

 

 





  

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