賃金台帳とは?給与明細との違いや労基署が見るポイントを解説
「賃金台帳(ちんぎんだいちょう)」とは、使用者(会社)が事業場ごとに、賃金支払いのたびに各労働者ごとに作成・記入しなければならない帳簿です。
これは労働基準法で義務づけられており、会社にはこの賃金台帳を作成し、5年間保存しておく義務があります。
もしこれを怠ると、労働基準法違反として、労働基準監督署(労基署)から是正指導や行政処分を受けるおそれもあります。
また、「給与明細」との違いが分かりにくいという声も多く聞かれます。
賃金台帳は会社が保管するための内部帳簿であるのに対し、給与明細は従業員に交付する書類であり、それぞれの目的や扱い方には明確な違いがあります。
この記事では、賃金台帳の定義や法律上の義務、給与明細との違いや、賃金台帳の正しい作成・保存の方法、さらに労基署が実際にチェックするポイントまでを、労働問題にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。
労務管理に不安を感じている事業者の方はもちろん、自分の労働記録がきちんと管理されているか気になる労働者の方にも、きっと役立つ内容です。ぜひ最後までお読みください。
目次
賃金台帳とは?法律上の意味と役割
賃金台帳の定義と法的根拠
賃金台帳とは、使用者が事業場ごとに賃金支払の都度遅滞なく各労働者ごとに調整しなければならないと定められている台帳です
賃金台帳の法的根拠は、労働基準法です。
賃金台帳には何を記載する必要があるの?
賃金台帳には、次に掲げる事項を記入しなければなりません(労基法108条・労基則54条)。
- ① 氏名
- ② 性別
- ③ 賃金計算期間:日々雇い入れられる者(1か月を超えて引き続き使用される者を除く)は記入する必要がない。
- ④ 労働日数
- ⑤ 労働時間数
- ⑥ 時間外労働時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
- ⑦ 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額:通貨以外のもので支払わる賃金がある場合には、その評価総額
- ⑧ 法令及び労使協定に基づいて、賃金の一部を控除した場合には、その額
賃金台帳と給与明細の違いとは?
賃金台帳と似ているものとして、給与明細があります。
給与明細とは、給与の内訳等が記載されたもので、会社から従業員に対して通知されるものです。
これに対し、法律上、賃金台帳は会社で保存が義務付けられた書類であり、従業員のために通知されるものではありません。
賃金台帳の書き方とは?記載項目や作成の注意点
賃金台帳には、上で解説したとおり、①氏名、②性別、③賃金計算期間等の所定の事項を記載します。
賃金台帳の記載例のサンプル
下図は、賃金台帳の記載例です。
賃金台帳(エクセル)はこちらから無料でダウンロードできます。
賃金台帳の保存期間は何年?保管方法と注意点
賃金台帳は5年間の保存義務
会社は賃金台帳を5年間保存しておかなければなりません(同法109条)。
なお、この5年間の起算点は、原則として「最後の記入をした日」となります(労基則56条2号)。
ただし、賃金の支払期日が「最後の記入をした日」より遅い場合には、賃金の支払期日が起算日となります(同)。
具体例 賃金の支払い:月末締め・翌月20日支払いのケース2025年7月の賃金台帳に、同月末日に記入(入力)した場合、2025年8月20日が起算日となります。
したがって、2030年8月19日まで保存しなければなりません(民法143条2項)。
参考:民法|eーGOV法令検索
保存しないとどうなる?罰則は?
会社は、賃金台帳を作成・記入し、5年間保存しておかなければ、労働基準法違反となります。
賃金台帳の違反の場合は30万円以下の罰金が法定刑となっています(労基法120条1号)。
賃金台帳の保存方法の注意点
近年はペーパーレス化が進んでいることから、賃金台帳をパソコン等で作成し、電子データとして保存する企業が増えています。
このような場合、賃金台帳をわざわざ紙で出力して保存しなければならないのかが労働基準法上明らかではないため問題となります。
これについては、行政解釈(通達)があり、次の①及び②のいずれをも満たす場合には、労働基準法の要件を満たすものとして取り扱うとされています(平成7年3月10日基収第94号)。
- ① 電子機器を用いて磁気ディスク、磁気テープ、光ディスク等により調製された賃金台帳に法定必要記載事項を具備し、かつ、事業場ごとにそれぞれ賃金台帳を画面に表示し、及び印字するための装置を備えつける等の措置を講ずること。
- ② 労働基準監督官の臨検時等、貸金台帳の閲覧、提出等が必要とされる場合に、直ちに必要事項が明らかにされ、かつ、写しを提出し得るシステムとなっていること。
労働基準監督署が賃金台帳で見るポイントとは?
労働基準監督署が調査に入るのは、残業代が支払われていないなど、従業員からの通報をきっかけとすることが多いです。
中小企業においては、賃金台帳が適切に作成されていないというケースが多いです。
したがって、労働基準監督署が調査に入ると、賃金台帳の提出を求められることが予想されます。
その際に、賃金台帳を作成していなければ、作成するように指導されます。
また、賃金台帳が作成されていても、上で解説した記載事項の不備があると、適切に作成するように指摘されます。
賃金台帳に関するよくあるQ&A
ここでは、賃金台帳についてのよくあるご質問を紹介します。
賃金台帳がない会社はどうなりますか?

そして、賃金台帳の作成義務違反は、30万円以下の罰金となります(労基法120条1号)。
また、賃金台帳が整備されていないと、後々賃金の支払いの有無などをめぐって従業員との間でトラブルとなることがあります。
したがって、賃金台帳は整備されるようにしてください。
賃金台帳はアルバイトにも必要?

賃金台帳は、正社員などに限定されず、アルバイト、パート、非正規雇用の従業員なども対象となるため注意しましょう。
給与明細しか出していない場合はどうなる?
従業員に渡すものとしては給与明細でよく、賃金台帳を渡す必要はありません。
しかし、賃金台帳は整備しておく必要があります。
賃金台帳を従業員が請求できるの?

ただ、従業員が賃金台帳を請求する理由にしだいでは、会社は拒否すべきではありません。
また、従業員から請求されなくても、会社が積極的に開示すべきケースもあります。
例えば、従業員が「未払賃金がある」と主張しているケースにおいては、基本的に賃金台帳の開示は不要です。
会社として、給与明細や送金記録等で賃金の支払いについて説明できるためです。
他方で、従業員が「賃金で不当な差別を受けた」と主張しているケースでは、会社は賃金台帳を示すことで、他の従業員との賃金を比較できます。
もっとも、賃金台帳には他の従業員の氏名等も記載されています。
賃金の額はプライバシー性が高いため、氏名をマスキングするなどして故人を特定できないようにする必要があります。
まとめ
以上、賃金台帳について、意味、作成方法、保存の注意点などを解説しましたが、いかがだったでしょうか。
賃金台帳は、労働基準法で義務づけられており、会社はこの賃金台帳を作成し、5年間保存しておく義務があります。
賃金台帳に不備があると、労働基準法違反として、労働基準監督署から是正指導や行政処分を受けるおそれがあるため注意しましょう。
賃金台帳の整備やその他労務問題については、労働問題に詳しい弁護士への相談をお勧めいたします。
当事務所には労働問題に注力する弁護士で構成される労働事件チームがあり、賃金台帳等でお困りの方を強力にサポートしています。
賃金台帳等の労務問題については、当事務所までお気軽にご相談ください。
