会社が家族に精神疾患をバラしたら違法?弁護士がわかりやすく解説

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者


従業員の精神疾患(メンタルヘルス)に関する情報は、個人情報保護法上「要配慮個人情報」に該当し、特に慎重な対応が求められます。

たとえ本人のご家族であっても、事前の同意なくこうした情報を開示することは原則として認められていません。

対応を誤ると、個人情報保護法違反や不法行為責任を問われる可能性もあるため、企業には十分な配慮が必要です。

本記事では、企業が直面しがちなこのような場面について、弁護士がわかりやすく解説します。

メンタルヘルス(精神疾患)とは?

メンタルヘルス(精神疾患)とは

近年、従業員のメンタルメルスについて注目されるようになってきています。

様々なものが常時つながっているというインターネット時代において、従業員も社内、社外にネットワークを形成しています。

その中で、ストレスを感じてしまうことが増えていると考えられます。

経営者側も同様で、マインドフルネスという言葉が普及するに伴って、経営者がメンターをつけてメンタルケアをするということも出てきています。

ところで、メンタルヘルスに関する情報とは、そもそもどのようなものが考えられるでしょうか?

以下では、主なメンタルヘルスに関する情報を挙げてみます。

  • うつ病などの精神疾患(非器質性疾患)に罹患しているかどうか
  • 心療内科などの通院の有無、通院状況
  • 治療内容、投薬状況
  • 現在の症状
  • 過去にうつ病などの精神疾患に罹患したことがあるかどうか

まずは、今現在にうつ病などの精神疾患に罹患しているかどうかという情報が考えられます。

そして、精神疾患に罹患している場合には、心療内科や精神科での治療を受けているかどうか、受けているとすれば、どのような治療を受けているか、どの様な薬を服用しているかといった情報もメンタルヘルスに関する情報になります。

また、今は完治している場合でも、過去にうつ病などの精神疾患に罹患していたという情報もメンタルヘルスに関する情報として位置づけられます。

 

 

精神疾患に関する情報と個人情報保護法

こうしたメンタルヘルスに関する情報に関しては、個人情報保護法という法律が関係します。

すなわち、個人情報保護法では、新たに要配慮個人情報という情報を定義し、当該情報についての取扱いのルールを定めています。

要配慮個人情報とは
本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報

メンタルヘルスに関する情報は、病歴に関わる情報であることから、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。

したがって、本人の同意なしに取り扱うことは原則として認められていません。

会社は要配慮個人情報を取得するためには、その利用目的をできる限り特定しなければなりません(15条1項)。

社員のメンタルヘルスに関する情報は、適切な労務管理(就業時間、職務内容、異動の是非、休職の是非、解雇の必要性)のために用いるのが通常です。

会社は、こうした利用目的にそって個人情報を取り扱わなければなりません(16条1項)。

また、メンタルヘルスに関する情報を取得するに当たっては、原則として、あらかじめ本人の同意を得なければ取得してはならないことになっています(17条2項)。

したがって、メンタルヘルスに関する情報を取得するためには、社員から事前に同意を得ておくことが必要です。

参考:個人情報の保護に関する法律|e-GOV法令検索

 

 

精神疾患に関する情報の開示

そして、会社が取得した要配慮個人情報については、原則として、あらかじめ本人の同意を得なければ第三者に開示することができません(個人情報保護法23条)。

社員本人の家族といっても、本人以外の第三者です。

したがって、会社が取得しているメンタルヘルスに関する情報は、本人の同意を得なければ、家族に対して開示することも原則としてできないことになります。

個人情報保護法では、例外的に、「人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合で、本人の同意を得ることが困難な場合」(23条1項2号)には、本人の同意無しに個人情報を第三者に開示することが出来ると規定しています。

この例外にあたるのは、「当該社員から同意を得ることが困難な場合で、家族の協力を得なければ社員のメンタルヘルス疾患が悪化して自殺に至ったり、他者を傷つけたりする可能性が高い場合」に限定して考えるべきです。

そして、この例外の判断は慎重に行う必要があるので、事前に産業医の意見や、弁護士の意見を聞いて判断する必要があります。

参考:(安全管理措置)第二十三条|e-GOV法令検索

 

 

同意を得ずに情報を開示した場合のリスク

上述のとおり、会社がメンタルヘルスに関する情報を、社員の同意を得ずに開示することは、個人情報保護法23条に反する行為です。

会社が社員の家族を含む第三者に教えた場合、個人情報保護法違反として、行政処分の対象となったり、社員個人から会社に対して、不法行為責任を追及される可能性があります。

 

 

まとめ

このようにメンタルヘルスに関する情報は秘密性が高い情報として厳重に取り扱わなければなりません。

しかしながら、メンタル不調に陥っている社員に回復してもらうためには家族の協力も必ず必要になります。

そのため、社員のためにも家族にきちんと話して協力してもらうべきであるということを本人にしっかり説明して、同意を得られるように話してあげることが大切です。

メンタルヘルス対策について、詳しくは以下のページをご覧ください。

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