うつ病社員が休職中に旅行。会社は注意できる?【弁護士が解説】


掲載日:2017年7月4日|最終更新日:2020年3月16日

 

うつ病の場合、身体に明確な異常があるわけではないため、休職期間に旅行や趣味に興じている社員がいることもあります。

この場合、会社としては、懲戒処分や解雇処分を検討するという衝動にかられますが、治療の観点で全く効果がないとまではいえないため、処分を課すことは難しく注意が必要です。

 

会社にうつ病で私傷病休職中の社員がいます。

この社員が休職中、海外旅行に行ったり、競馬に行ったりして、楽しく毎日を過ごしていることが分かりました。

そのことが判明するきっかけとなったのは本人が書いたブログで、これを見つけた同僚は、休職した社員に対する不満を募らせています。

会社としては、周りの社員の士気にもかかわりますので、休職中の社員の行動に対し懲戒処分を下したり、できれば解雇したいと思っています。

会社がこの社員に何らかの懲戒処分をくだすことは可能でしょうか?

 

Answer

社員が休職中に海外旅行に行ったことを理由に、会社がその社員に懲戒処分や解雇処分を下すことは難しいです。

したがって、まずは社員と休職中の過ごし方について相談したり、少なくともブログで掲載したりすることを控えるよう要請するといった方法を検討しましょう。

 

私傷病休職とは

傷ついた心社員ががんや脳卒中といった、会社の業務とは関係のないプライベートでけがや病気をして入院を余儀なくされた場合、仕事ができなくなります。

このとき、就労が一時的に不能となってしまいます。

そこで、この就労不能の期間について、休職という制度を設けて、会社で管理することがあります。

こうした業務外のけがや病気による休業のことを私傷病休職といいます。

最近の私傷病休職では、先ほどのがんや脳卒中といったものに限られず、いわゆるメンタル不調を理由とした休職者が増えてきています。

うつ病や自律神経失調症、適応障害などです。

休職については、就業規則で整備をしておく必要があります。

具体的には、勤続何年以上の社員に休職を認めるのか、休職を認めるとしてどの程度の期間を休職期間とするのかといった点を定めておく必要があります。

また、休職期間中の給与は無給であるという点もトラブルを防ぐために規定しておかなければなりません。

社員は傷病手当金などを活用することになります。

 

 

休職期間中の過ごし方

休職制度については、私傷病により働くことが困難(就労不能)な社員をただちに解雇せずに体調の回復に専念してもらい、一定期間が経過したら復職してもらうという目的があります。

つまり、社員側にメリットのある制度です。

そうすると、休職をした社員としては、治療に専念することは当然ということになります。

このように考えると、設例の事案のように、休職をして仕事を休んでいるにもかかわらず、旅行に行くというのは言語道断で許されないという考え方も出てきます。

実際、真面目に働いている社員からすれば、「あいつは何をしているんだ」という思いが出るのも致し方ないところかもしれません。

 

 

休職期間中の旅行

無断欠勤がんや脳卒中といった器質的な疾患の場合、医療機関での治療が必要なため、通常は入院したり、少なくとも自宅で安静ということが多いでしょう。

しかし、うつ病などの非器質性の疾患の場合、身体には明確な異常がないため、入院しなければならないケースはそれほど多くありません。

そうすると、旅行に行ったり、外出して遊んでいたりということも可能なわけです。

休職期間中の過ごし方については、就業規則で「社員は、休職期間中、治療に専念し、私傷病の回復に努めなければならない」と規定しているケースが多いでしょう。

そうすると、休職中の旅行がこの就業規則の規定に違反しているのではないかが問題となってきます。

 

 

懲戒処分の是非

この点、企業としては、設例のように、就業規則の規定違反を理由に懲戒処分を課したい、あるいは、当該従業員を解雇したいと考える可能性があります。

しかしながら、設例のような海外旅行や競馬それ自体が、倫理に違反する行為とまではいえないと考えられます。

うつ病の患者にとって、一日中家に引きこもっていることが治療といえるのかがそもそも疑問ですし、かえって外に出て過ごすことのほうが、回復が早くなる可能性もあるからです。

したがって、設例の場合に、企業が懲戒処分や解雇を行うことはできないと考えられます。

 

 

裁判例

休職中の行動に関する裁判例としては、マガジンハウス事件(東京地裁H20年3月10日)があります。

判例 マガジンハウス事件(東京地裁H20年3月10日)

この事案で、東京地裁は、「被告(会社)は、他にも、原告(社員)が私傷病欠勤期間中に、オートバイで頻繁に外出していたこと、ゲームセンターや場外馬券売場に出かけていたこと、飲酒や会合への出席を行っていたこと、宿泊を伴う旅行をしていたこと、SMプレイに興じるなどしていたことを療養専念義務に反する行為であると主張するが、うつ病や不安障害といった病気の性質上、健常人と同様の日常生活を送ることは不可能ではないばかりか、これが療養に資することもあると考えられていることは広く知られていることや、原告が、連日のように飲酒やSMプレイを行い、これが原告のうつ病や不安障害に影響を及ぼしたとまで認めるに足りる証拠もないことからすれば、原告の上記行動を特段問題視することはできないというほかない。」と判断しています。

なお、この裁判では、社員がそもそも配転命令を拒否し、旅行などの他にブログで会社の批判を続け、週に1回組合活動として会社に出向いており、主治医もそうした行動について反対していたといった事情を踏まえ、解雇は有効としています。

 

 

まとめ

このように、休職期間中に旅行に行っている、競馬をしているといった事情でただちに懲戒処分や解雇の処分を下すことは困難です。

しかし、他方で、真面目に働いている従業員の声も無視することはできません。

海外旅行や競馬が常識的な範囲を超え繰り返されており、うつ病を治療している様子が全く無いという場合には、会社としても当該社員を放置しておくわけにはいきません。

このような場合には、会社が当該社員に対し、治療に専念するよう指導することも十分に考えられます。

ところで、海外旅行に行けるということは、それまでにパスポートを取得したり、ツアーに申し込んだり、複雑な手続を済ませたということになります。

これを1人でやり遂げたのであれば、そもそも症状が治癒し、通常業務に復帰できる可能性もあります。

したがって、当該社員に対し産業医などの受診をすすめ、復職の可否について再度判断を仰ぐことも検討すべきでしょう。

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