就業規則とは?書き方や作成・変更の流れをわかりやすく解説

監修者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家


就業規則とは

就業規則とは、会社が定める労働条件や職場規律に関するルールのことで、従業員は原則として会社に所属している限り就業規則に従う必要があります。

会社にお勤めの方のほとんどに、この就業規則が適用され、これに従う必要があるわけですから、会社と関わりのあるすべての方にとって就業規則を理解することは非常に重要です。

今回は、そんな就業規則の内容や、作成・変更の流れなどについて、弁護士がわかりやすく解説します。

就業規則とは?

就業規則の意味

就業規則とは、従業員が会社で働くにあたっての条件やルールを定めた規則集のことです。

例えば、従業員の賃金や労働時間、休暇などの労働条件や、職場内での規律などを定めています。

職場でのルールを定め、会社と従業員がお互いにこれを守ることで従業員は安心して働くことができ、会社と従業員、または、従業員同士の無用のトラブルを防ぐことができるので、就業規則の役割は重要です。

そのため、労働基準法という法律において、一定の規模の会社では就業規則を作成することが義務付けられています。具体的には以下の通りです。

労働基準法第89条

(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
~~~
~~~
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

法律上、常時10人以上の労働者(従業員)を使用する会社は、必ず就業規則を作成しなければなりません。

そして、作成した就業規則は、労働基準監督署に届け出る必要があります。

 

就業規則の目的

続いて、就業規則の目的についても確認しておきましょう。

会社が就業規則を作成する目的には、大きく分けて以下の2つがあります。

 

①労働条件の明確化

賃金や労働時間などの労働条件を明確にすることで、従業員とのトラブルを防止します。

従業員側も、常に自分の労働条件を確認できるため、安心して働きやすくなります。

 

②職場規律の明確化

服務規律や懲戒処分などを定めることで、職場における規律を明確化します。

会社としては、これによって職場の秩序維持を図ることができます。

従業員側も、職場でのルールや禁止事項が明確になっていることで、働きやすくなります。(例えば、禁止事項が明確でない職場では、問題ないと思ってやったことについて後々罰せられてしまう、ということが生じてしまいます。)

 

就業規則の種類

「就業規則」という一つの名前のルールにまとまっていることもありますが、就業規則の内容が複数の規則に分散していることも多いです。(この場合、この規則集全体が法律上の「就業規則」になります。)

この場合、就業規則として複数の規則が定められることになり、会社によってその名称や種類は異なります。

一般的に、会社の「社内ルール」の内、人事部が所管している規則(の一部)が就業規則に該当しています。

このような複数の「就業規則」の内、特に代表的なものは以下です。

最上位の規則として①本則(「就業規則」の名称で制定されていることも多いです)があり、これを補う形で②以下の細目の規程が制定されることが多いです。

規則の種類

 

①本則

労働時間や賃金、服務規律など、基本的な労働条件や職場規律を定めたものです。

多くの方が「就業規則」と聞いて最初にイメージされるのがこの本則です。

会社によって、「就業規則」という名前で本則が定められている場合がありますが、これ以外にも法律上の就業規則に該当するもの(例えば、以下の②③など)があるので注意しましょう。

この本則に、特に重要な労働条件や基本的な定めが置かれていることが多く、より詳細な条件(例えば、賃金の細かい計算方法や退職金テーブルなど)については②以下の別規程で定められています。

 

②賃金規程

賃金の計算方法や支払方法、昇給など、賃金に関する事項を定めたものです。

本則の内容を補完して、詳細な賃金についての条件が定められています。

 

③退職金規程

退職金がある会社では、独立した退職金規定がある会社も多いです。

賃金規程と同じく、退職金についての細かい条件が定められており、本則を補完する関係にあります。

 

④懲戒規程

懲戒処分を受ける場合や、処分の種類及びその具体的な内容が定められます。

 

⑤育児・介護休業規程

育児休業や介護休業など、育児や介護に関する事項を定めたものです。

会社によっては、これらの規程を個別に作成せず、本則に含めている場合もあります。

 

⑥その他

他にも、安全衛生規程、福利厚生(慶弔見舞金)規程、旅費規程、副業規程など、広く労働条件に関する細目規程が会社の実態に応じて制定されます。

 

就業規則を作成しなくても良い場合

労働基準法第89条では、「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」と定めています。

したがって、常時10人以上の従業員※を雇っている会社は、就業規則の作成義務があります。

一方、従業員が9人以下の会社であれば、就業規則を作成する義務はありません。簡単に表にまとめると、以下の通りです。

従業員数※ 就業規則作成義務
10人以上 あり
9人以下
(正確には、「常時10人以上の従業員がいる」場合以外)
なし

判断に悩みがちなポイントについて少し補足します。特に以下の点に注意しましょう。

  • 上ではわかりやすく「従業員」と書きましたが、これは法律上の「労働者」つまり、正社員だけでなく、アルバイトやパートタイマーなど、雇用形態に関わらず従業員を数えます。
  • 一時的に10人以上になるのではなく、普段から10人以上の人が働いている状態で初めて、「常時」ということになります。
  • 本社だけでなく、支店や工場など、それぞれの事業場ごとに数えます。
労働基準法第89条 第一文
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

なお、就業規則作成義務がある場合、作成するだけでは不十分です。作成した就業規則を労働基準監督署に届け出る必要がありますので注意しましょう。

 

 

就業規則のテンプレート

就業規則を作成する際、テンプレートを利用することは効率的ですが、注意すべき点もあります。

ここでは、モデル就業規則を中心に、テンプレート利用の注意点を解説します。

 

モデル就業規則とは

モデル就業規則とは、厚生労働省が公開している就業規則のテンプレートです。

労働基準法などの法令に準拠した内容となっており、以下の厚生労働省のサイトから誰でも無料でダウンロードできます。

前述の通り、就業規則は本則と複数の細目規定が定められることが多いですが、モデル就業規則はわかりやすさの観点から70条にわたる一つの規程になっています。そのため、細目を定める場合に比べてかなりシンプルな内容になっています。

引用:モデル就業規則について|厚生労働省

 

モデル就業規則を使用する場合の注意点

モデル就業規則は、政府主導で大変作り込まれていますので、非常に参考になります。

もっとも、あくまでもテンプレートで、すべての企業にフィットするわけではありません。

特に、モデル就業規則を使用する場合には、以下の点に注意する必要があります。

 

①会社にとって最適な内容になっていないことに注意する

モデル就業規則には、厚生労働省から日本経済界へのメッセージが色濃く反映されています。

その時々の政府の政策(副業解禁、労働力流動化など)が前提となっているため、必ずしもあなたの会社にとって最適なものとは限りません。

モデル就業規則を素直に丸呑みしてしまわず、政策的な意図が含まれていることを前提に読み解く必要がありますので注意しましょう。

 

②各社の業種・規模・労働条件に合わせた内容に修正する

そもそも、モデル就業規則は一般的な内容として作成されているため、会社ごとに異なる様々な事情は考慮されていません。例えば以下のような点がポイントです。

モデル就業規則は一般的な業種を想定して作成されています。そのため、特殊な業種の会社である場合、その業種特融に必要となるルールが不足している可能性が高いです。

また、モデル就業規則は中小企業を想定して作成されています。そのため、大企業の場合、規定が簡略化され過ぎている懸念があります。大企業の場合には細目を含めてより細かい定めを置く必要があるでしょう。

さらに、モデル就業規則はかなり柔軟な働き方を想定して作られていますが、会社特有の働き方や制度については追加で反映していく必要があります。

以上の通り、必ず、自社の業種や規模、労働条件などに合わせて修正するように注意しましょう。

 

③従業員側の意見を聞く

就業規則は、労働者の労働条件や職場環境に大きく影響します。

そのため、単にモデル就業規則の通り制定するとしても、労働者側(労働組合や従業員代表など)の意見を十分に聞きながら協議を経て内容を固める必要があることにも注意しましょう。

 

 

就業規則の記載事項

就業規則の記載事項は、法令で定められています。

具体的には、必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)、その制度を置く場合は就業規則に記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)、記載するか否かが自由な事項(任意記載事項)が決まっています。

就業規則を作成する際は、これらの点に注意し、慎重に作成するようにしましょう。以下、それぞれ具体的に見ていきましょう。

 

絶対的必要記載事項

絶対的必要記載事項とは、労働基準法で定められた、就業規則に必ず記載しなければならない事項です。具体的には、以下の事項が該当します。

  • 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  • 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

これらについて記載事項ごとにポイントをまとめましたのでご覧ください。

分類 記載事項 ポイント説明
労働時間
休日
休暇関係
始業及び終業の時刻 当該事業場における所定労働時間の開始時刻と終業時刻。例えば、「1日8時間」というような規定では違反となる。また、始業等の繰り上げや繰り下げが行われる場合はその旨を記載する。
休憩時間 休憩時間の長さ、与え方(一斉に与えるか、交替で与えるか等)について具体的に規定する。また、休憩時間の繰り上げや繰り下げが行われる場合はその旨を記載する。
休日 休日の日数、与え方(1週1回、または1週の特定日(例えば「日曜日」)等)、休日の振替・代休等の制度がある場合はその旨記載する。
休暇 労基法上の年次有給休暇、産前産後の休暇、生理日の休暇、育児・介護休業法に基づく休暇、労基法37条3項の休暇(代替休暇)、事業場が任意に定める特別休暇(年末年始休暇、夏季休暇、慶弔休暇等)等
就業時転換に関する事項 労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合は、交替期日や交替順序に関する事項。
賃金関係 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定・計算 賃金額ではなく、学歴、資格、経験年数等の賃金の決定要素、又は賃金体系をいう。
賃金の支払方法 月給制、日給制、出来高払い制等の支払いの方法をいう。
賃金の締切り及び支払の時期 例えば、月給制の場合は「月末締めの翌月20日払い」など。
昇給 昇給期間、昇給率、その他昇給の条件等をいう。
退職関係 退職に関する事項(解雇事由を含む。) ここでいう「退職」とは解雇を含めて労働契約が終了するすべての場合をいう。したがって、任意退職、定年退職、契約期間満了による退職、解雇等、労働者が身分を失うすべての場合に関する事項を記載する。

これらの事項は、労働者の権利や義務に関わる重要な事項であるため、必ず記載しなければなりません。

 

相対的必要記載事項

相対的必要記載事項とは、制度を設ける場合に記載しなければならない事項です。具体的には、以下の事項が該当します。

  • 退職手当の定めをする場合、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  • 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合、これに関する事項
  • 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合、これに関する事項
  • 安全及び衛生に関する定めをする場合、これに関する事項
  • 職業訓練に関する定めをする場合、これに関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合、これに関する事項
  • 表彰及び制裁の定めをする場合、その種類及び程度に関する事項
  • 上記の他に当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合、これに関する事項

それぞれの記載事項について、ポイントを以下の通り表でまとめましたのでご確認ください。

記載事項 ポイント説明
退職手当 退職手当制度は、必ず設けなければならないものではなく、制度があれば、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項を記載する。
例えば、勤続年数、退職事由等の退職手当額決定のための要素、算定方法、一時金で支払うのか年金で支払うか等の支払い方法をいう。
臨時の賃金
最低賃金額
臨時の賃金等の制度があれば、その支給条件、支給額の計算方法、支払期日等を明確に記載する。
食費、作業用品、
その他の負担
「その他」の負担とは、社宅費、共済組合費等をいう。これらを負担させる場合はその金額を記載する。
安全
衛生
「安全及び衛生に関する事項」とは、労働安全衛生法等に規定されている事項のうち、当該事業場において特に必要な事項の細目、法令に規定されていない事項であっても、当該事業場の安全衛生上必要なもの等をいう。
職業訓練 職業訓練の種類、内容、期間、訓練を受けることができる資格、訓練中の労働者に特別の権利義務を設定する場合にはそれに関する事項、訓練終了者に対して特別の処遇をする場合にはそれに関する事項を記載する。
災害補償
業務外の傷病扶助
災害補償及び業務外の負傷や病気の扶助に関する事項を記載する。
表彰及び制裁 表彰については、その種類及び程度に関する事項を記載する。
制裁については、懲戒処分の事由・種類・程度・手続等を記載する。なお、制裁は法令に違反するもののほか、公序良俗に反するようなものは認められない。

 

任意記載事項

上記の他に、就業規則には、自社の経営の考え方(企業理念等)、就業規則の目的、労働能率の維持・向上に関する事項、法令に定められている事項の確認規定等について、記載することがあります。

任意記載事項とは、このように、会社が任意に記載できる事項です。具体的には、例えば以下の事項が該当します。

記載事項 ポイント説明
企業の理念や行動指針 企業の理念や行動指針を記載することで、従業員の意識統一を図ることができます。
服務規律 服務規律を具体的に定めることで、秩序ある職場環境を維持することができます。
福利厚生に関する事項 福利厚生制度を具体的に定めることで、従業員のモチベーション向上を図ることができます。

 

 

就業規則が必要となる場面

続いて、具体的にどのような場面で就業規則が必要とされるのか?つまり、どのような場面で参照されたり、問題解決に役立つのかを紹介します。

例えば、以下のようなケースで就業規則が役立ちます。

 

会社側

  • 働く時間や休憩時間に関して、従業員と会社とでトラブルが起きた時
  • 従業員を採用する場面において、労働条件や禁止事項を説明するとき
  • 従業員がトラブルを起こした場合の、ルール違反の有無および処分の検討時
  • 従業員の手当ての計算時
  • 従業員を解雇することを検討するとき
  • 外部の団体から提出を求められるとき(一部の助成金や補助金を受ける場合など)

 

従業員側

  • 従業員が副業申請や休暇申請などを行うとき
  • 自身の給与や残業代が適切に支給されているかを確認するとき
  • 退職などの手続きを知りたいとき(特に、退職前の事前告知期間を調べるとき)

 

 

就業規則のメリットとデメリット

次に、就業規則を作成することによって、会社と従業員のそれぞれにどのようなメリットとデメリットがあるのかを、改めて詳しく見ていきましょう。

 

会社にとってのメリット

まずは、会社が就業規則を作成することによって得られるメリットについて見ていきましょう。

 

働く上でのルールが明確になり、無用なトラブルを防止できる

就業規則に、働く時間、休憩時間、給料、休暇、服務規律などが明確に定められていることで、従業員はどのように働けば良いのかが理解しやすくなります。これにより、従業員間の認識のずれや、会社との誤解によるトラブルを未然に防ぐことができます。

例えば、残業代の計算方法や有給休暇の申請手続きなどが明確になっていれば、従業員からの不満や問い合わせを減らすことができます。

 

従業員の行動規範を示し、組織の秩序を維持できる

就業規則に服務規律を定めることで、従業員が会社で守るべきルールや禁止事項が明確になります。これにより、従業員の不正行為や問題行動を抑制し、会社の秩序を維持することができます。

また、ハラスメント防止に関する規定を設けることで、従業員が安心して働ける環境づくりにもつながります。

 

会社の理念や方針を従業員に浸透させ、一体感を醸成できる

就業規則に会社の経営理念や、従業員に求める行動規範などを盛り込むことで、従業員は会社の目指す方向性を理解し、共感することができます。これにより、従業員のモチベーション向上や、会社へのロイヤリティを高める効果が期待できます。

 

会社にとってのデメリット

一方で、会社が就業規則を作成することには、以下のようなデメリットも考えられます。

 

作成や変更に手間とコストがかかる

専門的な知識が必要となるため、社内で作成する場合は担当者の負担が大きくなります。弁護士や社会保険労務士などの専門家に依頼する場合は、費用が発生します。法律改正や社会情勢の変化に合わせて就業規則を変更する場合にも、同様の手間とコストがかかります。

 

一度作成すると、従業員に不利な変更は容易ではない

労働基準法により、従業員の意見を聞くなどの手続きを経て、合理的な理由がない限り、一方的に会社が不利になるように変更することはできません。そのため、作成時には将来的な事業の変化や法改正に対応できるように、慎重に検討する必要があります。

 

従業員にとってのメリット

次に、従業員が就業規則があることによって得られるメリットについて見ていきましょう。

 

働く上でのルールが明確になり、安心して働くことができる

働く時間、休憩時間、給料、休暇などのルールが明確に定められていることで、従業員は安心して働くことができます。疑問や不安を感じることなく、仕事に集中できる環境が整います。

 

会社との間でトラブルが起きた際に、自分の権利を守ることができる

労働条件や待遇などについて会社とトラブルが起きた場合、就業規則は自分の権利を守るための重要な根拠となります。例えば、不当な解雇や残業代の未払いなどがあった場合に、就業規則に基づいて会社に主張することができます。

 

会社の制度や福利厚生を知り、安心して長く働くことができる

給料や休暇に関するルールだけでなく、育児休業制度や介護休業制度、慶弔休暇制度などの福利厚生制度についても定められている場合があり、これらの制度を知ることで、従業員は安心して長く働くことができます。

 

従業員にとってのデメリット

従業員にとって、就業規則があることによるデメリットは、あまり多くありません。
強いて挙げるとすれば、以下のような点が考えられます。

 

会社のルールに縛られ、柔軟な働き方が制限される場合がある

就業規則は、働く上でのルールを定めるものなので、従業員はこれらのルールを守る必要があります。場合によっては、自分の希望する働き方やライフスタイルと合わないルールもあるかもしれません。

 

内容が複雑で理解しにくい場合があり、確認を怠ると不利益を被る可能性がある

法律用語なども使われている場合があり、内容が複雑で理解しにくいと感じる人もいるかもしれません。内容を十分に理解せずにいると、いざという時に自分の権利を主張できなかったり、会社のルールに違反して不利益を被ったりする可能性があります。

 

 

就業規則の作成・変更の流れ

ここでは就業規則を新たに作成する場合と、既存の就業規則を変更する場合の共通する流れについて、具体的なステップを見ていきましょう。

就業規則の作成と変更は、法律で定められた手続きに沿って、会社と従業員双方の意見を反映させながら進めることが重要です。

 

就業規則の作成・変更の基本的な流れ

就業規則の作成と変更は、基本的に以下の手順で進められます。変更の場合も、必要に応じて現状分析から始めるなど、同様の流れを辿ります。

流れ

それぞれのステップについて、詳しく見ていきましょう。

 

1. 基本方針の決定

就業規則を新たに作成する場合、または大幅な変更を行う場合は、まず会社の現状をしっかりと分析し、どのような就業規則が必要なのか、基本的な方針を決定します。

  • 会社の規模や業種
  • 従業員の構成(正社員、アルバイト、パートタイマーなどの割合)
  • 現在の労働時間や休暇の状況
  • 給与体系
  • 過去に発生した労務トラブルの事例
  • 会社の経営理念や将来のビジョン
  • 適用される法律や判例

これらの要素を考慮しながら、どのようなルールを定めるべきかを検討します。

変更の場合は、既存の就業規則の課題点や、変更の目的(法律改正への対応、制度変更など)を明確にしましょう。

 

2. 就業規則案の作成

上で検討した基本方針に基づいて、早速、就業規則の具体的な案を作成してみましょう。

まず、就業規則に必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、会社で定める場合は記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)を網羅的に記載します。

インターネット上にある就業規則のテンプレートなどを参考にしながら、自社の状況に合わせて修正していくと効率的です。(インターネットに落ちているテンプレートは玉石混交ですので、弁護士が監修している、できるだけ新しいテンプレートを利用するのがお勧めです。)

そして、テンプレートをそのまま使用するのではなく、必ず自社の実態に合わせた内容にすることが重要です。
合わせて読みたい

具体的な就業規則のテンプレートについてはこちらをご確認ください。

 

3. 就業規則の意見書の取得(従業員からの意見聴取)

作成した就業規則案について、従業員から意見を聴取する手続きが必要です。

これは、就業規則の内容について、従業員の理解と協力を得るために法律で義務付けられている重要なプロセスになります。

具体的には、会社の従業員の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合に、労働組合がない場合は従業員の過半数を代表する者に対して、就業規則案を提示し、意見を求めましょう(労働基準法第90条)。

この意見聴取の結果、従業員から提出された意見は「意見書」として書面に残されます。この意見書は、次の労働基準監督署への届出の際に添付する必要があります。

意見書の形式に決まったものはありませんが、一般的には、就業規則案または変更案の内容、それに対する意見、意見を提出した労働組合または従業員代表の署名または記名押印、意見を提出した日付などが記載されます。

なお、意見書の内容は、必ずしも会社の意見と一致する必要はありません。従業員側の意見をそのまま記載して提出することが重要です。

労働基準法第90条第1項
(作成の手続)
第九十条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

 

4. 就業規則案の検討・修正

従業員から提出された意見書の内容を踏まえ、就業規則案を再度検討し、必要に応じて修正を行います。

従業員の意見を真摯に受け止め、可能な範囲で反映させることで、より実効性のある就業規則を作成することができます。
ただし、従業員の意見が必ずしも採用されるわけではありません。(従業員の意見を聞くというプロセス自体に意味がある、ということです。)

会社は、従業員の意見を踏まえつつ、最終的な就業規則の内容を決定する権利を有しています。

 

5. 労働基準監督署への届出(就業規則の届出)

最終的な就業規則案が完成したら、従業員から提出された意見書を添付して、所轄の労働基準監督署に届け出ます(労働基準法第89条)。

この届出は、法律で義務付けられている手続きであり、これを行わないと罰則が科せられる可能性があります。

届出の方法は、原則として管轄の労働基準監督署に持参するか、郵送で行います。近年では、電子申請が可能な場合もありますので、事前に確認しておくと良いでしょう。

届出の際には、就業規則の原本と会社控えの2部、そして従業員からの意見書を忘れずに提出しましょう。受付印を押印された会社控えは、大切に保管してください。

 

6. 従業員への周知

就業規則を労働基準監督署に届け出た後は、速やかにその内容を従業員に周知する必要があります(労働基準法第106条)。
周知の方法としては、

  • 事業所の見やすい場所に掲示する
  • 書面を交付する
  • 電子データを共有サーバーに保存し、従業員がいつでも閲覧できるようにする

などがあります。いずれの方法にせよ、重要なことは、すべての従業員が就業規則の内容を容易に確認できる状態にしておくことです。

労働基準法第106条

(法令等の周知義務)
第百六条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、~~を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。

  • ② 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。

引用:労働基準法|e-Gov法令検索

 

 

就業規則のポイント

次に、実際に就業規則を作成する上で、特に重要なポイントを改めて見ていきましょう。

 

明確でわかりやすい表現を心がける

専門用語や難しい言葉は避け、平易な言葉で、誰にでもわかりやすいように記述することを心がけましょう。

曖昧な表現は避け、具体的な数値や期間などを明記することで、解釈の余地をなくし、トラブルを未然に防ぐことができます。

 

会社の規模や業種、実態に合った内容にする

テンプレートをそのまま使うのではなく、自社の状況をしっかりと分析し、必要なルールを過不足なく盛り込むようにしましょう。

IT企業と製造業などの業種の違いや、正社員中心の会社とアルバイトが多い会社の実態の違いなどを踏まえて、それぞれに適した内容にする必要があります。

 

労働時間、休憩、休日に関する規定は具体的に

始業時刻と終業時刻、休憩時間、休日の種類、週休何日制、変形労働時間制の有無、時間外労働や休日労働に関するルール、年次有給休暇の取得条件や申請方法などを具体的に記載しましょう。

 

賃金に関する規定は詳細に

基本給、各種手当の支給条件や金額、賃金の計算方法、支払い方法と時期、昇給、賞与、退職金などについて、明確に定めましょう。

 

服務規律は具体的に、かつ実現可能な範囲でなぜ労働問題は弁護士に相談すべきか?弁護士選びの重要性

遅刻、早退、欠勤、会社の備品の使用、情報セキュリティ、ハラスメントの禁止、副業など、会社の秩序を維持し、円滑な業務遂行に必要なルールを具体的に定めましょう。

ただし、実現不可能なルールは避けるようにしてください。

 

懲戒に関する規定は慎重に

懲戒処分の種類と程度、懲戒事由、懲戒の手続きなどを明確に記載する必要があります。

ただし、どんな懲戒処分を記載してもいいというわけではないので注意してください。

客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合にのみ行うようにしましょう。

 

解雇に関する規定は法律に沿って

解雇事由や手続き、解雇予告期間や解雇予告手当など、法律で定められた手続きを遵守する必要があります。

解雇は従業員の生活に大きな影響を与えるため、慎重に行う必要があります。

 

労働問題にくわしい弁護士に相談する

就業規則の作成や見直しを行う際には、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

最新の法律や判例を踏まえ、会社の状況やニーズに合った適切な就業規則を作成するサポートをしてくれます。

 

 

就業規則についてのQ&A

最後に、就業規則に関して、よくある質問とその回答をQ&A形式でご紹介します。

就業規則について、さらに理解を深めていきましょう。

 

 就業規則はどこで閲覧できますか?

会社は、作成した就業規則を従業員がいつでも見られるようにしておく義務があります。

事業所の掲示、書面交付、電子データ共有など、様々な方法で閲覧できることが多いです。

 

就業規則は必須ですか?

「常時10人以上の労働者を使用する事業場」についてのみ、作成と届け出が義務付けられています。

ただし、義務がない場合でも、作成することには多くのメリットがあります。

 

就業規則は勝手に変更できますか?

原則として、勝手に会社が就業規則を変更することはできません。

従業員に不利になるように変更する場合は、従業員の意見を聴く手続きが必要です。また、変更内容も合理的なものでなければなりません。

 

アルバイトにも就業規則は適用されますか?

正社員だけでなく、アルバイト、パートタイマー、契約社員など、すべての労働者に適用されます。

ただし、雇用形態によって適用される内容が異なる場合があります。

 

 就業規則に違反したらどうなりますか?

就業規則の服務規律に違反した場合、その内容や程度に応じて、会社から注意、指導、減給、出勤停止、解雇などの懲戒処分を受ける可能性があります。

 

 就業規則と労働契約は何が違うのですか?

労働契約は会社と従業員の間で個別に結ばれる契約で、個々の労働条件が定められます。

就業規則は会社が作成し、すべての従業員に適用されるルールブックで、会社全体の基本的な労働条件や就業に関するルールが定められます。

就業規則も、法律によって労働契約を構成することが定められています。ただし、個別の労働契約で別の合意があればそちらが優先します。(労働契約法第7条)

労働契約法第7条
第七条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

引用:労働契約法|e-Gov法令検索

 

 

まとめ

今回の記事では、就業規則について、その意味や目的、記載事項、必要となる場面、メリットとデメリット、作成・変更の流れ、重要なポイント、そしてよくある質問とその回答について、幅広く解説してきました。

就業規則は、会社で働くすべての人にとって、羅針盤のような存在です。働く上でのルールや、困った時の頼りになる情報が詰まっています。

一方、会社にとっては、組織運営の基盤となり、従業員との信頼関係を築くための重要なツールです。

だからこそ、就業規則を作成したり、変更する場合には慎重にする必要があります。

法律でも記載事項や手続きについて複数のルールがありますし、それを守るだけでなく、会社にとって最適なルールを作る必要があるからです。

その場合、ぜひこの記事の内容がお役に立てば幸いです。

就業規則を作成したり、修正したりする場合には、ぜひ労働問題に詳しい弁護士へ相談されることをお勧めします。

デイライト法律事務所では労働問題を中心に取り扱う労働事件チームという専門チームがあり、労働問題に詳しい弁護士が企業の皆様を強力にサポートしています。

LINEや電話相談を活用した全国対応も行っていますので、押印でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

あわせて読みたい
ご相談の流れ

 

 


#就業規則・労使協定


  

0120-783-645
365日24時間電話予約受付(フリーダイヤル)

WEB予約はこちら