年棒制のボーナス部分を割増賃金の算定基礎から除外できますか?


労働時間・賃金についてよくある相談Q&A

質問 経営者年俸制にしていても残業代の支払いは必要でしょうか?また、残業代を支払う必要がある場合、ボーナス部分を割増賃金の算定基礎から除外することができますか?

 

Answer

弁護士森内公彦イラスト年俸制であることをもって時間外労働等の割増賃金の支払い義務を免れることはできません。また、年俸が確定している場合、ボーナス部分を割増賃金の算定基礎から除外することはできません。

 

問題の背景

年俸制とは、賃金の支払額を年単位で決める制度をいいます。

賃金の支払額の単位としては、他に時間単位の時給制、日単位の日給制、月単位の月給制があります。

年俸制は、元々はプロスポーツ選手等の報酬の支払形態の一種として見られるものでした。その選手の前年の実績等を考慮して、1年間の報酬を交渉ないし話合いで決定するというものです。

ところが、近年、成果主義の導入等を背景に、一般企業でも、労働者の賃金に年俸制を採用するケースが増えています。

上司が部下である労働者の前年の実績を評価して1年間の賃金を決めるようなケースです。

なお、一般の企業が年俸制を採用する場合、労働基準法が「賃金は毎月1回以上一定期日を定めて支払わなければならない」と規定しているため、年俸額を12か月で分割し、毎月支払われるのが通常です。

年俸制は、成果主義的性質を有するため、使用者としては、労働時間(量)に対してではなく、成果(質)に対して、定額の年俸(給与)を支払っていると認識していることが多くあります。

そこで、年俸制の労働者が時間外労働、休日労働、深夜労働(以下「時間外労働等」といいます。)を行った場合、使用者に対して、割増賃金の支払いを求め、紛争へと発展する場合があります。

 

 

年俸制と割増賃金

解説する弁護士のイメージイラスト年俸制の場合に割増賃金が発生しないというのは完全な誤解です。

年俸制とは、前記のとおり、賃金の額を年単位で決定するという意味しか持たず、それ自体に時間外労働等の割増賃金を免れさせる効果はありません。

もっとも、年俸制が採用されているケースは、労働者の専門性が高い傾向にあります。

そのため、管理監督者に該当したり、裁量労働制の要件を満たす場合には、時間外労働と休日労働についての割増賃金の支払い義務を免れることがありますが、これは年俸制の採否と直接的には関係ありません。

雇用契約の際、年俸に時間外労働等の割増賃金を含むものとして契約を締結するケースもあります。

しかし、このような場合でも、固定残業代制が有効となる要件(通常の労働時間の賃金部分と割増賃金相当部分とが明確に区分されていることなど)を満たさなければ、時間外労働等の割増賃金を支払わなければなりません。

面談のイメージ画像年俸制社員の割増賃金が問題となった事案として、創栄コンサルタント事件があります。

この事案は、会社が3か月の試用期間後に正社員とするに際し、年俸制として、時間外労働割増賃金、諸手当、賞与を含め年俸300万円、毎月25万円を支給するとしていたケースです。

この事案で、裁判所は、「年俸制を採用することによって、直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくともよいということにはならないし、そもそも使用者と労働者との間に、基本給に時間外割増賃金等を含むとの合意があり、使用者が本来の基本給部分と時間外割増賃金等とを特に区別することなくこれらを一体として支払っていても、労働基準法37条の趣旨は、割増賃金の支払を確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにあるから、基本給に含まれる割増賃金部分が結果において法定の額を下回らない場合においては、これを同法に違反するとまでいうことはできないが、割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は、同法同条に違反するものとして、無効と解するのが相当である。」と判示して、時間外割増賃金等の支払いを命じました(大阪地判平成14年5月17日労判828号14頁)。

 

ビジネスマンなお、高額の報酬を得ている自己管理型労働者についての事案として、モルガン・スタンレー・ジャパン事件があります(東京地判平成17年10月19日労判905号5頁)。

この事案は、外資系金融機関においてプロフェッショナル社員として勤務していた労働者が、割増賃金等を請求したケースです。

この事案は、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金相当部分とが明確に区分されてはいませんでしたが、裁判所は、年間基本給の約2200万円に時間外勤務手当が含まれているとの有効な合意があるとして、労働者の請求を退けました。

この事案は、特殊なケースなので、通常の年俸制の事案には該当しないと解されています。

 

 

年俸制とボーナスの関係

年俸制の場合に、ボーナスが時間外等の割増賃金の算定基礎から除外できるかが問題となります。

労働基準法及び労働基準法施行規則において、割増賃金の基礎から除外できるとされているものは下図のとおりです(労基法37条5項、労基則21条)。

除外賃金

手当てイメージ①家族手当

②通勤手当

③その他厚生労働省令で定める賃金

【厚生労働省令:労働基準法施行規則】

ィ 別居手当

ロ 子女教育手当

ハ 住宅手当

二 臨時に支払われた賃金

ホ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

ボーナスは、通常、上記ホの「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当すると解されます。

しかし、確定年俸制の場合、1年間の賃金額が確定していて(例えば600万円)、その一部をボーナス月に多く配分するに過ぎません(例えば、毎月40万円に加え、6月と12月に60万円を支給するなど。)。

このような場合、通常のボーナスとは異なるため、算定基礎賃金からの除外は認められません(昭和22年9月13日基発17号)。

これに対して、年俸制でもボーナス(額は当初確定していない)に成果を反映させる調整型年俸の場合、算定基礎賃金からの除外が認められます

固定残業代の対策については、労働問題に詳しい専門家にご相談ください。

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