弁護士コラム

同一労働同一賃金について最高裁が初判断—労働問題を専門とする弁護士が判決内容を解説!


さる6月1日に、有期契約社員と無期契約社員との不合理な待遇を禁止している労働契約法20条に関して争われていた裁判について、最高裁が判決を出しました。

労働契約法20条は同一労働同一賃金に関わる条項として、現在関心の高い条文ですが、最高裁はこうした社会的な注目が集まっていることも踏まえて、初めて判断をくだすという決断をしたのです。以下では、最高裁の判決内容について、労働問題を専門とする弁護士が解説をします。

弁護士西村裕一

長澤運輸事件

運転手6月1日に最高裁は2件の事件について同日に判決を出しましたが、その一つである長澤運輸事件は、従業員数66人の運送会社において、昭和55年から平成5年までに入社した従業員が60歳で定年し、その後に定年後再雇用労働者として勤務を継続していました。

この定年後再雇用の労働条件としては、職務内容と勤務場所は定年前の正社員のときと同じで、雇用契約上は、転勤もあり得るという内容でした。

しかしながら、正社員のときの給与額と定年後再雇用の給与額に相違があったため(正社員と定年後再雇用の給与面の相違は、下図を参照。)、定年後再雇用労働者となった複数の従業員が会社に対して、正社員と同等の賃金を請求したというものです。

正社員と定年後再雇用労働者の違い

定年前 定年後
基本給 12万7700円 12万5000円
職務給・能率給 あり(7万6952円~8万2952円)
(3.1~4.6%)
なし
ただし歩合給あり(7~12%)
精勤手当 あり(5000円) なし
役付手当 あり なし
住宅手当 あり なし
無事故手当 5000円 5000円
家族手当 あり(最大1万5000円) なし
超過手当 あり あり
通勤手当 上限4万円 上限4万円
賞与 あり なし
調整手当 なし あり(2万円)

上記の違いに関して、第1審の東京地裁は、まず、定年後再雇用の場合でも再雇用契約が有期契約である以上、労働契約法20条の適用があることを明確にしました。

その上で、
「有期契約労働者の職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が無期契約労働者と同一であるにもかかわらず、労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について、有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れないものというべきである。」
という規範を立てた上で、本件では、正社員と定年後再雇用労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度は同じであり、勤務場所や勤務の内容を変更することがあるという点も同じであり、運送業務という職務内容に照らし、定年前後においてその職務遂行能力について有意な差は生じないと認定して、給与格差は不合理な差異として労働契約法20条に違反すると結論づけました。

しかしながら、控訴審の東京高裁は、以下のように判断して、給与格差は不合理な差異には当たらないとして、労働者側の請求を棄却しました。

すなわち、東京高裁は、
「労働契約法20条は、有期労働契約者と無期労働契約者との間の労働条件の相違が不合理と認められるか否かの考慮要素として、①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲のほか、③その他の事情を掲げており、その他の事情として考慮すべきことについて、上記①及び②を例示するほかに特段の制限を設けていないから、労働条件の相違が不合理であるか否かについては,上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解される。」
として、東京地裁とは異なる判断基準を立てました。

その上で、
「従業員が定年退職後も引き続いて雇用されるに当たり、その賃金が引き下げられるのが通例であることは、公知の事実であるといって差し支えない。」、
「定年後の継続雇用制度は、法的には、それまでの雇用関係を消滅させて、退職金を支給した上で、新規の雇用契約を締結するものであることを考慮すると、定年後継続雇用者の賃金を定年時より引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない。」
と言及し、
「控訴人(会社)は、被控訴人ら(労働者)を含めた定年後再雇用者の賃金について、定年前の79パーセント程度になるように設計しており、・・・控訴人の属する規模の企業の平均の減額率をかなり下回っている。このことと、控訴人は、本業である運輸業については、収支が大幅な赤字となっていると推認できることを併せ考慮すると、年収ベースで2割前後賃金が減額になっていることが直ちに不合理であるとは認められない。」
と判断しました。

このように東京地裁と東京高裁で結論が真逆になっていたものについて、最高裁が判断をしました。

最高裁の判断

最高裁は、この事件については、精勤手当と超過手当(時間外手当)に関してのみ東京高裁の判断を覆して、労働契約法20条に違反すると判断しました。

最高裁は、労働契約法20条に関して、
「労働者の賃金に関する労働条件は、労働者の職務内容及び変更範囲により一義的に定まるものではなく、使用者は、雇用及び人事に関する経営判断の観点から、労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討するものである」
として、有期契約社員と無期契約社員の待遇差が不合理といえるかどうかは、職務内容並びに当該職務の内容及び配置変更の範囲に関連する事情に限定せず、その他の事情も考慮して決定するという判断枠組みを設定しました。

その上で、
「使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合、当該者を長期間雇用することは通常予定されておら」ず、定年後再雇用者は「一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されて」おり、「定年退職後に再雇用される有期労働契約者の賃金体系の在り方を検討するに当たって、その基礎になる」
としています。

そして、単に有期契約社員と無期契約社員との
「賃金の総額を比べるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である」
と述べています。

こうした一般論を規範として立てた上で、精勤手当については、その趣旨が「従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるものであ」り、これは有期契約社員と無期契約社員とでは違いがないはずであるから、無期契約社員だけに支給することは労働契約法20条に違反すると判断しました。

そして、時間外手当については、精勤手当も含めて基礎賃金額を算出するため、精勤手当を有期契約社員に支給していないことを違法としたことに伴って、時間外手当額も変動するため、この部分も違法としました。

他方で、有期契約社員には無期契約社員と違って、能率給や職務給が支給されていない点については、①定年前の基本給よりも定年後の基本給の方が高いこと、②無期契約社員の能率給よりも2倍から3倍近い係数で歩合給を支払うように設定していること、③労働組合と団体交渉をして基本給を長澤運輸が引き上げていたことを事実認定して、労働契約法20条には違反しないと結論づけました。

 

ハマキョウレックス事件

トラックこの事件は、長澤運輸事件と異なり、定年後再雇用というわけではなく、有期契約社員と無期契約社員である正社員との待遇格差が労働契約法20条に違反するとして争われたものです。

控訴審である大阪高裁は、一審の判断を一部変更しつつも、給与項目のうち一部について不合理な格差であると結論づけました。具体的な差異と裁判所の判断は下図のとおりです。

正社員と有期雇用労働者との差異の内容と大阪高裁の判断

項目 正社員 有期雇用 一審 控訴審
基本給 月給制 時給制 ○(合法)
無事故手当 1万円 なし ×(違法)
作業手当 1万円 なし ×
給食手当 3500円 なし ×
通勤手当 距離に応じて最大5万円 3000円 ×
住宅手当 2万円 なし
皆勤手当 1万円 なし
家族手当 あり なし 判断せず
定期昇給 原則あり なし 判断せず
賞与 あり なし 判断せず
退職金 なし なし 判断せず

一審と控訴審で判断が異なった無事故手当について、大阪高裁は、
「優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得といった目的は、正社員の人材活用の仕組みとは直接の関連性を有するものではなく、むしろ、正社員のドライバー及び契約社員のドライバーの両者に対して要請されるべきものである。そうすると、正社員のドライバーに対してのみ無事故手当月額1万円を支給し、契約社員のドライバーに対しては同手当を支給しないことは、期間の定めがあることを理由とする相違であり、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たると認めるのが相当である。」
と判断しました。

こうした大阪高裁の判断に対して、会社側が上告したのが本件です。

最高裁の判断

最高裁は、長澤運輸事件と同様にまず、労働契約法20条の趣旨について言及しています。

具体的には、
同条は、有期契約労働者については、無期労働契約を締結している労働者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである
と述べています。

その上で、住宅手当については、正社員は転居に伴う配点が予定されており、多額の支出が伴う可能性がある一方で有期契約社員については就業場所の変更が予定されていないという違いがあり、この違いがある以上、労働契約法20条には違反しないと判断しました。

他方で、皆勤手当については、「運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであ」り、これは契約社員と正社員で差異が生じるわけではないため、正社員にのみ皆勤手当を支給するのは違法と結論づけました。

また、無事故手当については、「優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得を目的として支給されるものであると解される」が、これは契約社員と正社員で違いを生じないとして、無事故手当についても契約社員に支給しないのは労働契約法20条に違反すると判断しています。

作業手当についても契約社員と正社員で職務の内容に違いがない以上、違法とし、給食手当についても勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に対して支給することがその趣旨にかなうものであり、契約社員も勤務時間中に食事を取ることがある以上、支給しないのは不合理としました。

最高裁の判断(判決で言及がある部分)

項目 正社員 有期雇用 最高裁
無事故手当 1万円 なし ×
作業手当 1万円 なし ×
給食手当 3500円 なし ×
通勤手当 距離に応じて最大5万円 3000円 ×
住宅手当 2万円 なし
皆勤手当 1万円 なし ×

今回の2件の最高裁の判決に共通する事項としては、支給されている各手当の趣旨を検討し、その趣旨により正社員と有期契約社員との格差を説明することができるかという視点で検討しています。労働契約法20条については、現在国会で審議されている働き方改革関連法案にも引き継がれています。

したがって、今回の最高裁判決は、働き方改革関連法案の目玉とされている「同一労働同一賃金」に関しても大きな影響を与えるものです。同一労働同一賃金については、各企業によって対応が異なってくるため、専門家である弁護士に相談した上で賃金制度の見直しを進めるべきです。

デイライト法律事務所ロゴデイライト法律事務所では、労働問題については使用者側のご相談を専門的に取り扱っており、100社を超える顧問先の企業様をサポートさせていただいております。同一労働同一賃金に関して、ご不明な点がある企業の皆様は是非お気軽にデイライト法律事務所の弁護士にご相談ください。

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