諭旨解雇(諭旨免職・諭旨退職)とは?懲戒解雇との違いを解説

執筆者
弁護士 阿部尚平

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士

保有資格 / 弁護士

諭旨解雇(ゆしかいこ)とは、会社が従業員に退職届もしくは辞表の提出を勧告し、従業員にそれらの書面を提出させた上で解雇する処分のことをいいます。

似た言葉に諭旨免職や諭旨退職というものもありますが、基本的には同義と考えてよいです。

これに対し、諭旨解雇(諭旨免職・諭旨退職)と懲戒解雇は、退職金の支給の有無等の面で異なります。

ここでは、労働問題に注力する弁護士が諭旨解雇(諭旨免職・諭旨退職)の意味や懲戒解雇との違いのほか、注意点、メリットやデメリット等をわかりやすく解説しています。

諭旨解雇とは?

諭旨解雇の意味

諭旨解雇とは、会社が従業員に退職届もしくは辞表の提出を勧告し、従業員にそれらの書面を提出させた上で解雇する処分のことをいいます。

従業員が書面の提出に応じなければ懲戒解雇に処するという取り扱いとなることが多く、形式上は依願退職のような形となりますが、実際は紛れもなく懲戒処分の一種です。

諭旨解雇の読み方

諭旨解雇は、「ゆしかいこ」と読みます。

 

諭旨の意味

諭旨とは、趣旨や理由を諭(さと)し、告げることを意味します。

 

諭旨解雇と諭旨免職との違い

諭旨免職は、公務員に対する諭旨解雇と考えてよいでしょう。

諭旨免職の「諭旨」は諭旨解雇と同じであり、異なるのは「解雇」ではなく「免職」という表現です。

公務員では「解雇」という言葉は使わず、代わりに「免職」という言葉を使います(例:国家公務員法78条等)。

参考:国家公務員法|e-GOV法令検索

そのため諭旨解雇の対象が公務員の場合、諭旨免職と呼ばれるのです。

 

諭旨解雇と諭旨退職との違い

諭旨解雇と似たような用語として、諭旨退職というものもあります。

会社によっては諭旨解雇の規定はなく、諭旨退職の規定のみが就業規則に存在していることもあるかもしれません。

この2つの違いは、諭旨解雇が従業員に退職届や辞表を提出させた上で「解雇する」手続きとしている一方、諭旨退職はそのまま「退職扱いとする」手続きということになります。

このように取り扱いに若干の違いはありますが、実質的な効果はほとんど変わりませんので、特に違いを意識する必要はありません。

以上のように、諭旨解雇と諭旨免職・諭旨退職は同じような意味です。

このページでは、これらをまとめて諭旨解雇という言葉で表記します。

 

懲戒解雇との違い|処分の重さ

諭旨解雇は、従業員が退職届等を提出しなかった場合に懲戒解雇の手続きへ移行することが予定されているものになります。

そのため、懲戒解雇の次に重い懲戒処分であると認識されています。

諭旨解雇も懲戒解雇も従業員が離職するという点では同じです。

懲戒解雇と諭旨解雇の違いの1つとしては、退職金支給の取り扱いが挙げられます。

諭旨解雇の場合は、会社の退職金支給規定によっては通常の自己都合退職どおりに支給されることもあり得ます。

これに対し、懲戒解雇の場合、退職金は全部または一部の不支給とされることが一般的です。

項目 諭旨解雇 懲戒解雇
従業員の地位 喪失 喪失
退職金 あり なし(または一部のみ支給)

 

 

なぜ諭旨解雇に?諭旨解雇になる場合とは?

諭旨解雇は、従業員が退職届等を提出しなかった場合には懲戒解雇に移行することが予定されている懲戒処分ですから、懲戒解雇相当となるような事情が生じた場合に検討対象となります。

直ちに懲戒解雇とするのではなく諭旨解雇になるという場合は、従業員がこれまでどれだけ会社に貢献してきたか、どれほど反省の色が見られるかといった個別の事情によって、処分を軽減されたと捉えるべきでしょう。

 

 

諭旨解雇を行う際の流れ

諭旨解雇を行う際の流れ

 

問題行為の調査

従業員を諭旨解雇するという場合、まずはその理由として考えられる問題行為について、十分に調査を行い、証拠を収集しなければなりません。

不十分な調査や証拠に基づいて諭旨解雇を行なった場合、諭旨解雇が不当であると考えた従業員が裁判を起こした場合に、諭旨解雇が無効であると判断されてしまう危険性があります。

無断欠勤のように一見して問題行動が明らかな場合であっても、他の従業員への事情聴取(ヒアリング)等を行なっておくことが望ましいでしょう。

また、事情聴取の内容については、記録して保存しておくべきです。

こうすることで、後々裁判等になった場合、会社が適切に事情聴取を行なっていたことを証明することが可能となります。

なお、当事務所では事情聴取書のサンプル・雛形をホームページ上に公開しており、無料で閲覧・ダウンロードが可能です。

ぜひ、ご参考にされてください。

 

懲戒事由の検討

諭旨解雇は、懲戒処分の一種ですから、就業規則に諭旨解雇を行うことが出来るという規定が無ければ行うことが出来ません。

また、従業員を懲戒する場合には、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」であると認められない場合は、当該懲戒が無効となってしまいます(労働契約法第15条)

参考:労働契約法|e-Gov法令検索

そのため、問題行為が明らかになった後は、まず、就業規則に諭旨解雇を行うことが出来るという規定があるかを確認し、その問題行動が当該規定に当てはまるかということを検討することになります。

調査・証拠収集の結果、問題行動が当該規定に該当すると判断できる場合には、次の手続きに移ります。

弁明の機会の付与

諭旨解雇は、懲戒解雇の次に重い懲戒処分であり、場合によっては懲戒処分への移行もありうるものですから、従業員に弁明の機会を与えることが必要です。

弁明の機会というのは、わかりやすくいうと、本人の言い分を聞くということです。

弁明の機会を与えないまま解雇とした場合、諭旨解雇が無効と判断される可能性がありますから、注意が必要です。

後々、トラブルとなる可能性もあるため、弁明の機会を与えたことについて、出来る限り記録に残すようにしましょう。

記録の残し方としては、上記の事情聴取書を活用されると良いでしょう。

この書式には本人の署名押印欄があるので、後日、本人が発言した内容を証明することが可能となります。

従業員が弁明しない場合はどうなる?

なお、従業員が何も弁明をしない、弁明の機会を与えたのに出頭しなかった等の事情があったとしても、諭旨解雇を行う手続きとしては、弁明の機会を与えていれば問題はありません。

 

懲罰委員会による処分決定

問題行動の内容を調査し、本人の言い分を確認した後は、具体的な処分の内容を検討します。

この際、就業規則上、懲罰委員会を設置するようになっている企業はそのとおり、懲罰委員会を組織して検討してください。

懲罰委員会は必ずしも必要な機関ではありません。

そのため、就業規則に懲罰委員会について記載していない企業は、人事権を持つ方や監督者等が処分内容を検討することになります。

一般的に、諭旨解雇は本来懲戒処分相当の悪質な行為が行われていることが前提となります。

しかし、懲戒処分と異なるのは、本人が反省しているなどの軽減を考慮していい事情が加わる点です。

また、懲戒処分は企業の秩序を保つための制度です。

したがって、「諭旨解雇に軽減した場合、他の社員へ悪影響がないか」などの事情も考慮した方がいいでしょう。

また、後々裁判等になった場合のリスクに備える必要もあります。

すなわち、諭旨解雇等の重大な処分をする際には、その判断が恣意的に行われたものではないことを記録として残しておくことが重要となります。

そのため、議事録を作成し、保存しておくべきです。

当事務所では、議事録のサンプル・雛形をホームページ上に公開しており、無料で閲覧・ダウンロードが可能です。

ぜひ、ご参考にされてください。

 

懲戒処分通知書の交付

弁明の機会を与えた後、諭旨解雇とすることが決定した場合には問題行為を行なった従業員に対して、懲戒処分通知書を作成して交付します。

諭旨解雇は、従業員に退職届を提出させた上で解雇を行うものですから、懲戒処分通知書には退職届の提出期限を記載するようにしましょう。

期限までに退職届を提出しない場合に懲戒解雇を予定している場合にはそのことも記載します。

ただし、懲戒解雇を予定しているという記載をもって解雇予告となるわけではなく、懲戒解雇とすることが決定したら改めて正式な解雇通知書を作成して通知を行うことが必要になる点に注意してください。

当事務所では、諭旨解雇通知書サンプル・雛形をホームページ上に公開しており、無料で閲覧・ダウンロードが可能です。

ぜひ、ご参考にされてください。

 

各種手続

諭旨解雇をした後は、従業員が失業保険を受給できるようにするための離職票の発行など、各種手続きを行うことになります。

必要な手続きとしては、以下のようなものが挙げられます。

  1. ① 離職票の発行申請等、失業保険を受給できるようにするための手続き
  2. ② 社会保険からの脱退に関する手続き
  3. ③ 源泉徴収票の交付
  4. ④ 住民税の特別徴収を停止する手続き
  5. ⑤ 解雇理由証明書の交付(従業員からの請求があった場合)

 

 

 

諭旨解雇を行う際の注意点

諭旨解雇は懲戒解雇に次ぐ重い処分です。

そのため、既に説明したとおり、諭旨解雇相当の事案であるかの検討はしっかりと行わなければなりません。

また、従業員に退職届を書いてもらう以上、なぜ諭旨解雇となったのかをしっかりと説明して納得してもらわなければなりません。

特に、懲戒解雇相当の事案であるのであると判断している場合には、温情による処分であることを説明しなければ、従業員に会社の意図が伝わらない可能性があります。

このような注意を怠ると、労働組合による団体交渉や不当解雇の訴えが起きてしまい、懲戒解雇を避けた意味が無くなってしまいます。

 

 

諭旨解雇になったらどんな影響がある?

転職で発覚することはある?

履歴書に職歴を記載する場合には、退社や退職という記載のみに留めることは可能です。

賞罰の記載欄がある履歴書であったとしても、諭旨解雇の事実を記載することが法的に義務付けられているわけではありません。

しかし、例えば面接等において、退職理由を聞かれた場合には、労働者は使用者に対して真実を述べるべきでしょう(下記参考判例参照)。

判例 最一小判平成3年9月19日

最高裁は、従業員の告知義務に関して、「雇用関係の締結に先立って、労働力評価に直接関わる事項だけでなく、企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲で申告を求めることができ、使用者からそれらの事項を尋ねられた労働者は信義則上、真実を告知する義務を負う」と判示しました。

また、諭旨解雇となったことを偽って入社した場合、その事実が発覚すれば経歴詐称として懲戒処分の対象となるでしょう。

転職の際に質問をされなければ積極的に話す必要はありませんが、場合によっては発覚するおそれがあることを想定しておかなければなりません。

 

退職金は減額になる?

諭旨解雇とした従業員への退職金の取り扱いについては、会社の退職金支給規定を確認する必要があります。

懲戒解雇の場合には、退職金は不支給もしくは一部減額となっている一方で、諭旨解雇の場合には自己都合退職と同じ取り扱いとなっている会社もあります。

そのような場合には退職金支給規定のとおりに退職金を支払ってもらうことが出来ます。

他方、退職金支給規定において、諭旨解雇も懲戒解雇と同様に退職金の不支給もしくは一部減額の対象となっている場合には退職金が減額となる可能性もあります。

もっとも、諭旨解雇であるというだけでは退職金が不支給もしくは一部減額となることはありません。

退職金を不支給もしくは一部減額とすることが認められるのは、それまでの勤続の功を抹消または減殺するほどの著しい背信行為があった場合に限られます(東京地方裁判所令和3年6月2日等)。

 

失業保険はもらえる?いつから?

失業保険の給付には7日間の待機期間がありますが、待機期間後直ちに失業保険をもらえるかどうかは、退職理由によって異なります。

会社都合退職の場合は、待機期間が終われば失業保険をもらうことが出来ますが、自己都合退職の場合にはそこから更に給付制限を受けることになります(雇用保険法第33条1項)。

参考:雇用保険法 | e-Gov法令検索

従業員を解雇する場合、基本的には会社都合扱いとなりますが、諭旨解雇のように、自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇の場合には、自己都合退職扱いとなってしまいます。

近年では自己都合退職の場合の給付制限期間は2か月とされるようになりましたが、自己の責めに帰すべき重大な理由による退職の場合にはこれまでどおり給付制限の期間は3か月となります。

そのため、諭旨解雇となった場合には基本的に3か月と7日間が経過しなければ失業保険を受け取ることは出来ないということになります。

参照:Q&A労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)|厚生労働省

参照:失業等給付を受給される皆さまへ|労働局

 

 

諭旨解雇のメリット・デメリット

企業側

メリット

諭旨解雇は、懲戒解雇と異なり、従業員に退職届を提出してもらうことで雇用契約を終了とする形を取ります。

また、直ちに懲戒解雇としないという意味では温情のある処分という見方も出来ます。

そのため、後から従業員が解雇を無効であると争ってくるリスクを減らすことが出来るというメリットがあるといえるでしょう。

デメリット

①訴訟リスク

他方、従業員に退職届を出してもらうという形を取るとはいえ、諭旨解雇も懲戒処分ということに変わりはありません。

そのため、諭旨解雇相当ではない事案において、従業員に懲戒解雇をチラつかせて退職届を書かせるような方法で諭旨解雇を進めた場合、訴訟において解雇が無効とされるリスクがあることには変わりありません。

この点は懲戒解雇と同じくデメリットになります。

②社内秩序への悪影響

諭旨解雇は、本来懲戒解雇相当の悪質な行為を行った従業員に対して、温情によって、処分を軽減するものです。

したがって、従業員の規律の維持に悪影響を与える可能性があります。

特に、セクハラなどの被害者がいる非違行為の場合、会社が懲戒解雇ではなく諭旨解雇を選択すると、被害者である従業員や周囲の従業員が不信感を抱く可能性もあります。

 

従業員側

メリット

諭旨解雇を告げられた場合、ほとんどのケースでは懲戒解雇となってもおかしくない状態です。

もちろん諭旨解雇も重い処分には変わりありませんが、最悪の処分を避けられるという点ではメリットといえるでしょう。

デメリット

他方、諭旨解雇であっても、退職金が減額されたり、失業保険をもらえるタイミングが遅くなったり、再就職に影響があったりという影響は出ます。

このような影響は懲戒解雇と変わりないデメリットであるといえます。

以上の説明を分かりやすくするため、図にまとめておきます。

メリット デメリット
会社側 訴訟リスクを下げられる 解雇規制があることは変わらない
社内秩序への悪影響
従業員側 懲戒解雇を避けられる 再就職や失業保険に一定の影響が出る可能性あり

 

 

諭旨解雇の判例

諭旨解雇が無効とされた事例(東京地方裁判所平成27年12月15日)

鉄道会社に勤務していた労働者が、同社の運行する路線で勤務時間外に痴漢を行なったことを理由に下された諭旨解雇の有効性が争われた裁判例があります。

私生活上の非行であっても懲戒対象となる可能性はもちろんあります。

しかしながら、この事例では、痴漢の中でも悪質性が比較的低いものであり、報道等による鉄道会社への悪影響もなかったことや懲戒処分決定に至る判断基準や手続きが不適切ないし不十分であったこと等を挙げて、諭旨解雇という処分は重すぎるという判断が下されています。

このように従業員が勤務時間外に犯罪行為を行った場合であっても、企業への悪影響の程度が低かったり、懲戒処分を決める流れに不備があったりすると、諭旨解雇が無効であると判断されることもあり得ます。

諭旨解雇が無効とされた場合には、会社は解雇した従業員の雇用を継続しなければならないだけでなく、諭旨解雇の時点から判決に至るまでの給与を支払うことになってしまいます。

個別の事案に応じて重すぎる処分とならないよう、慎重な検討の上で諭旨解雇を行わなければならないことが分かるのではないでしょうか。

 

 

諭旨解雇についてのQ&A

諭旨解雇を拒否したらどうなる?

諭旨解雇を拒否した場合、懲戒解雇(公務員は懲戒免職)されるリスクがあります。

もちろん、懲戒解雇は懲戒処分の中で極刑にあたるものであり、よほどの理由がないとできません。

正当な理由がなく懲戒解雇を行うと、当該処分は無効となる可能性もあります。

しかし、諭旨解雇を行う事案は、そもそも懲戒解雇相当と判断されている状況です。

そのため、諭旨解雇を拒否した場合、会社から懲戒解雇される可能性があると考えるべきでしょう。

 

 

まとめ

以上のとおり、諭旨解雇は懲戒解雇の次に重い処分ですから、従業員への不利益が大きい重大な処分になります。

会社としては、従業員の問題行為を把握し、諭旨解雇を行うことを検討した場合には、関係者への聞き取り等の調査を行い、証拠を集め、諭旨解雇相当の事案であるか否かを慎重に検討しなければなりません。

諭旨解雇を行うことが出来るかどうかの判断に悩まれた場合や、従業員から諭旨解雇が無効であると争われている場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 




  

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