セクハラ裁判の和解金相場は?高額和解したアデランスの判例
セクハラが争点となる裁判の和解金は、慰謝料額として30万円〜300万円程度となることが多いです。
損害賠償以外にも、セクハラが発生した場合、会社側は行政措置を受ける可能性もあります。
まずは弁護士に相談するなどの早期対応が重要です。
このページでは、セクハラの裁判の和解金の相場や、セクハラが発生したとき、会社が負う責任や、対応について解説していきます。
ぜひ参考になさってください。
目次
セクハラとは
セクハラとは、性的な言動により、相手に不快な思いをさせたり、不利益を与える行為のことです。
下記アデランスの事件では、上司だった男性従業員は、被害者女性に対し、「数字を達成できなかったら彼女になるか、研修もしくは転勤だ」と脅すなどしたうえ、無理やりキスをしようとする、体を触る等のセクハラを繰り返したとのことです。
これは、労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生ずるなど、その労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生ずる、いわゆる「環境型セクハラ」であるといえます。
アデランスのセクハラ裁判について
かつら製造・販売で有名なアデランスの元女性従業員が、上司だった男性従業員から繰り返しセクハラを受け、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、退職を余儀なくされたとして、会社に対して2700万円の損害賠償を求めていた裁判で、昨年、和解が成立していたことが分かりました。
和解内容は、
- ① 会社が、元女性従業員に対し、解決金1300万円を支払う(ただし、上司だった男性従業員が、その半額650万円を支払う)
- ② 会社は、元女性従業員の居住地に、上司だった男性従業員を転勤・出張させないよう努める
といったものだったとのことです。
セクハラが争点となる裁判における慰謝料額は、高くても200・300万円程度となることが多いことからして、今回の和解金額はかなり高額といえます。
報道によると、被害者女性は、警察に被害届を出そうとしましたが、会社幹部から止められ、精神的に不安定になり休職を余儀なくされた後、PTSDと診断されました。会社は、いったん女性を特別休職扱いとしましたが、その後給与の支払いを取りやめ、女性はその後退職したとのことです。
今回、これほど和解金額が高額となったのは、上司によるセクハラ行為が悪質であっただけではなく、セクハラ行為発覚後の会社の行動にも問題があったとの心証を裁判所が抱いた可能性があります。
セクハラが発生したとき、会社が負う責任
会社は、セクハラの被害者から責任を追及されたとき、以下のような責任を負うことになります。
①損害賠償責任
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
よって、勤務時間中や、勤務場所内でのハラスメントであれば、「職務を行うにつきなされた」(民法715条)として、会社も加害者と連帯して不法行為責任を負うことになります。
職場環境配慮義務・安全配慮義務違反の債務不履行責任
会社は、労働者が働きやすい職場環境となるよう配慮する義務や、労働者の安全に配慮する義務を、労働契約上負っていると解釈されるため、ハラスメントが発生した=当該義務違反があったとして、債務不履行責任を負う可能性が高いといえます。
②行政措置
行政による助言、指導、勧告、企業名公表、過料等の措置を受ける可能性があります。
セクハラが発生したとき、会社に生じる不利益
また、セクハラが発生した場合、会社には様々な不利益が生じ得ます。
組織効率の悪化
ハラスメント被害により、被害者のみならず周囲の従業員のモチベーションが低下し、能力の有効活用が阻害されることになります。
企業イメージの低下、採用・定着面でのダメージ
- 新聞、テレビなどの報道
- インターネット(SNSも含む)上の風評被害
業績悪化
ハラスメント被害が生ずることで、調査や対応等に労力を割く必要が生じ、業務の円滑な遂行が阻害されるおそれがあります。
金銭的なもの(休業損害、逸失利益、弁護士費用)
被害者がハラスメントによって心身の健康を害し休職を余儀なくされた場合、休業損害・逸失利益が生ずる可能性があります。また、アデランスの裁判のように、被害者から損害賠償請求を行われた場合、賠償金のみならず対応のための弁護士費用が発生することになります。
セクハラによる裁判の和解金の相場はいくら?
セクハラ裁判の和解金の相場は、30万円〜300万円程度が相場であると考えられます。
セクハラ裁判の和解金は、判決になった場合の見通しを前提に、被害者の感情や会社側の支払い意思などを考慮して決められます。
和解金を決めるにあたっての要素としては、以下のようなものが挙げられます。
- セクハラの内容
- 回数や頻度
- 被害者への影響(欠勤回数、休職期間、退職の有無など)
- 会社のセクハラが起きた後の対応
セクハラの内容が軽微で、回数や期間も多くない場合には、30万〜100万円が相場だと考えられます。
セクハラによる裁判の和解金が高額になるケース
セクハラ事案の裁判での和解金が高額となるケースでは、以下のような事象が挙げられます。
セクハラの内容
身体接触があるなど、刑法上の罪に該当する行為が行われた場合には高額になりやすいです。
回数や頻度
回数が数十回程度に及んだり、期間も年単位であった場合などに高額となる可能性があります。
被害者への影響(欠勤回数、休職期間、退職の有無など)
被害者が、セクハラによって通院をして、欠勤や休職などを長期間強いられた場合は、高額となるケースもあるでしょう。
また、退職を余儀なくされた場合も高額化しやすい要素といえます。
会社のセクハラが起きた後の対応
例えば、会社がセクハラの事実を認識していたにもかかわらず放置していた場合や、明らかに加害者が非難されるべきケースで被害者側に責任を転嫁するなどの対応がされた場合には、高額化する可能性があります。
セクハラで訴えられたときの対処法
会社がセクハラで訴えられた場合の対処法としては、以下のようなものが挙げられます。
弁護士に相談し一緒に対応方法を検討する
セクハラで訴えられた場合の最も適切な対応は、早期に弁護士に相談し、対応方法を協議することです。
弁護士への相談が早ければ早いほど、解決も早まる可能性が高いです。
また、会社の損失も最小限に抑えられる可能性もあります。
関係者への聞き取りを行う
事実関係の精査のため、関係者への聞き取りを行う必要があります。
聞き取る対象者は、加害者、被害者や加害者の上司、目撃者、ハラスメント窓口担当者などです。
証拠の検討
被害者の訴えるセクハラの事実があるかどうかについて、関係する証拠を洗い出し、その内容を検討します。
セクハラ事案での考えられる証拠としては、メール、文書、録音、動画、業務日報などです。
会社が取り組むべきセクハラ対策ー予防と早期対応ー
会社が責任を問われることを防ぐために、事前にセクハラ対策をしておく必要があります。
以下では、会社が取り組むべきセクハラ対策をご紹介します。
外部相談窓口を設置しておく
セクハラ相談窓口を設置することは、中小企業でも義務化されています。
セクハラ相談窓口は会社内部でも設置が可能ですが、内部だと相談しにくいなどのデメリットがあります。
そのため、弁護士など、セクハラ相談窓口を外部に設置することを検討すべきです。
社内ルールの徹底
セクハラが起きにくい環境作りの一環として、セクハラに関する社内ルールを作成し、そのルールを徹底させる必要があります。
社内ルールの徹底としては、社内研修を行ったり、各種会議でルールの確認を行うなどが考えられます。
弁護士に相談する
セクハラ対策は、会社の規模や理念に基づいて、柔軟かつ実効性のあるものを行う必要があります。
専門的な知識も不可欠であることから、弁護士に相談して適切な対策を行うようにしましょう。
まとめ
セクハラ裁判で和解金が高額になるケースは少ない印象です。
そのため、裁判所から高額な和解金の提示があった場合には、その金額の根拠について、被害者側も会社側も理解する必要があります。
また、まだ労働審判や裁判に移行していないケースでは、セクハラ裁判の和解金の相場を意識しつつ、事案に応じて交渉段階の解決案を検討する必要があります。
事案の内容や証拠状況をしっかり検討しなければ最適解が見つかりません。
最適解を見つけるためにも、まずはセクハラ問題に詳しい弁護士にご相談されることをおすすめいたします。
