使用停止命令とは?【弁護士解説】

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者


使用停止命令とは、労働災害を未然に防止するために、事業場の施設や機械について、その使用を禁止するものです。

是正勧告や行政指導と異なり、行政処分にあたります。

使用停止命令は主に、労働災害の多い建設業と製造業で出されています。

このページでは、使用停止処分とは何か、どんな種類の命令があるのかや労基署から使用停止命令が出されるまでの流れ、使用停止命令を無視・違反した場合のリスクなどについて弁護士が解説します。

使用停止命令とは

使用停止命令とは

使用停止命令とは、労働災害を未然に防止するために、事業場の施設や機械について、その使用を禁止するものです。

これは、是正勧告や指導と異なり、行政処分にあたります。

そして、労働者への危険が切迫していると認められる場合には、労基署は直ちに使用停止命令を発令することができることになっています。

具体的には、「作業の全部又は一部の停止、建設物等の全部又は一部の使用の停止又は変更その他労働災害を防止するため必要な事項を命ずることができる。」とされています(労働安全衛生法98条、99条)。

参考:労働安全衛生法|e-Gov法令検索

 

使用停止命令と使用中止命令・業務停止命令との違い

インターネットでは、「使用中止命令」と検索されていることもあるようですが、「使用停止命令」と同じものを指していると考えられます。

労基署が発令する命令は「使用停止命令」ですが、使用の停止は使用できないという意味では、使用中止と同じことではあります。

これに対し、「業務停止命令」は、行政機関が監督する企業に対し、その営業活動を停止するよう命令するものです。

金融庁の営業停止命令などがその例です。

使用中止命令との違いとしては、使用停止命令は、その設備や機械の使用を停止する命令であるのに対し、業務停止命令では、業務そのものが停止するという点で違いがあります。

 

使用停止命令は行政処分?どんな影響がある?

使用停止命令は、「命令」との言葉からもわかるとおり、労基署が企業に対して、設備や機械の使用を停止するという法律効果を発生させるものであるため、行政処分となります。

これに従わない場合、命令違反となり、罰則が科されます。

 

 

使用停止命令の現状

こうした使用停止命令の実際の発令状況ですが、平成27年は全国で5884件です。

発令された業種ですが、労働災害の多い、建設業や製造業がほとんどで、この2業種で全体の94.9%を占めています(下表)。

具体的には、定期検査を受けていないフォークリフトやクレーン車の使用について、検査を受けるまで禁止するといったケースがあります。

 

使用停止命令の発令状況(平成27年)

発令件数
全体 5884件
建設業 3671件(62.4%)
製造業 1910件(32.5%)

使用停止命令の件数については公表されているわけではないため、毎年の詳細を把握することはできませんが、令和3年に建設工事の調査で使用停止命令が出されたのが、違反の認められた135現場のうち13現場となっており、10%程度ですので、必ずしも多いとはいえません。

参考:令和3年度建設工事監督指導結果|厚生労働省青森労働局

 

 

使用停止命令の種類

使用停止命令には、停止になる対象から以下のようなものがあります。

  • 作業の全部又は一部の停止
  • 建設物等の全部又は一部の使用の停止又は変更
  • 機械の使用停止

 

作業の全部又は一部の停止

建築現場などの作業場で危険があると判断されると、作業の全部または一部を停止するよう命令が出ることがあります。

 

建設物等の全部又は一部の使用の停止又は変更

工場などの建設物の全部または一部の使用を停止するような命令がこれにあたります。

 

機械の使用停止

整備不良の機械などがある場合に、その機械を使用できないように命令することがあります。

 

 

労基署から使用停止命令が出されるまでの流れ

労基署から使用停止命令が出される流れとしては、次の通りとなります。

労基署から使用停止命令が出されるまでの流れ

 

①労基署による調査

使用停止命令が出される前に、労基署が会社の事務所や作業現場、工場などを調査することになります。

この調査には、労働者や関係者などの申告により行われる方法や労基署が重点調査対象として調査する方法などがあります。

 

②使用停止命令

①の調査の結果、労働者に危害が及ぶ危険性があり、急を要すると判断された場合には、調査のあと、その流れで使用停止命令が出される可能性があります。

使用停止命令は、下図のような書面により発令されます。

使用停止命令書

○年○月○日

(株)○○ 殿

○○労働基準監督

労働基準監督署長○○    印

貴事業場における下記の「命令の対象物件等」欄記載の物件等に関し、「違反法令」欄記載のとおり違反があるので労働基準法第96条の3、103条、労働安全衛生法第98条に基づき、それぞれ「命令の内容」欄及び「命令の期間又は期日」欄記載のとおり命令します。なお、この命令に違反した場合には送検手続をとることがあります。

番号 命令の対象物件 違反法令 命令の内容 命令の期間又は期日
1 フォークリフト 労働安全衛生規則第151条の21 フォークリフトの定期検査を行うこと ○年○月○日

1 上記命令について、当該違反が是正された場合には、その旨報告してください。なお、「番号」欄に□印を付した事項については、今後同種違反の繰り返しを防止するための点検責任者を事項ごとに指名し、確実に点検補修を行うよう措置して併せて報告してください。

2 この命令に不服がある場合には、この命令があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に厚生労働大臣○○労働局長○○労働基準監督署長に対して審査請求をすることができます(命令があった日から1年を経過した場合を除きます。)。

3 この命令に対する取消訴訟については、国を被告として(訴訟において国を代表するものは法務大臣になります。)、この命令があったことを知った日の翌日から起算して6か月以内に提起することができます(命令があった日から1年を経過した場合を除きます)。

4 この命令書は3年間保存してください。

受領年月日、受領者

○年○月○日 ○○ 印

 

 

使用停止命令が出される典型的なケース

使用停止命令が出されるケースとしては、主に以下のようなものが考えられます。

 

機械の整備不良

使用する機械が整備不良、必要な点検を行っていない場合には、その事実が判明すれば使用停止命令が出される可能性が高いといえます。

 

労災が発生した場合

すでに重大な労災が発生してしまった場合、二次被害やさらなる労災が発生することを防ぐために、原因が判明し、それが改善されるまで作業の全部や一部、建設物の使用停止命令が出されることがあります。

 

 

使用停止命令を無視・違反した場合のリスク

使用停止命令を無視・違反した場合には、以下のリスクがあります。

 

刑事罰

使用停止命令については、単なる指導ではなく法的な効果のある行政処分のため、使用停止命令を無視した場合には、刑罰が科される可能性があります。

具体的には6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(労働安全衛生法119条2号)。

 

企業名の公表

違反が悪質であると判断された場合には、労基署は企業名を公表するという可能性があります。

企業名が公表されれば、自社の従業員はもちろん、取引先からの評価が下がるリスクがあります。

 

 

まとめ

ここまで使用停止命令について解説してきました。

使用停止命令は、指導とは異なり行政処分ですので、使用停止命令を受けると従わなければならず、現場の作業が止まる、機械が使用できなくなるといった重大な影響が生じてしまいます。

そのため、日頃から機械の適切な整備、作業場の安全確保といった対応が必要です。

また、使用停止命令がでた場合には、慌てずに速やかに改善することが大切です。無視すると刑事罰や公表などのリスクも高まります。

労基署対応などお困りのことがあれば、労働問題に精通した弁護士に相談するようにしましょう。

デイライトでは、労働問題を重点的に取り扱う多数の弁護士がチームとして企業の皆様のご相談・ご依頼に対応しております。

あわせて読みたい
ご相談の流れ

 

 


#労基署対応


  

0120-783-645
365日24時間電話予約受付(フリーダイヤル)

WEB予約はこちら